パナマ経済(2022年10月報)
令和4年11月14日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
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主な出来事
●金融活動作業部会(GAFI)はパナマに対して2023年2月までに行動計画を完了するよう要請
●2023年1月までの燃料補助金額累計320百万ドル
●ミネラ・パナマ社は、銅生産に係るロイアリティを含む政府との新契約に関するあらゆる問題について交渉を継続
●2022年度のパナマ運河の通航実績(速報値)
1.経済全般、見通し等
(1)金融活動作業部会(GAFI)はパナマに対して2023年2月までに行動計画を完了するよう要請21日、2022年第3回GAFI定期総会(本年最終)が開かれ、クマール総裁は、「パナマは15項目からなる行動計画のうち3つが未達成であり、2023年2月までに未達成の課題を迅速に完了するよう強く要請する」と懸念を述べた。GAFI総会では、パナマがマネーロンダリングおよびテロ資金供与防止体制の違反に対応する効果的、公平的かつ抑制的な制裁を確保する上で前進しており、現状の残る課題として以下3点を指摘している。
ア 最終受益者に関する検証済かつ最新情報の政府当局での適切な管理
イ オフショア法人の活動を監視する効果的メカニズムを確立し、名義貸しなどの悪用を防ぐ具体的対策の実行
ウ オフショア企業の脱税やマネーロンダリングの調査および訴追能力を示す
(2)EU、パナマを税務ブラックリストに登録
4日、欧州連合(EU)は、税務ブラックリストの定期更新(半年おき)に際し、同リスト内の税務非協力国(全12カ国)にパナマを登録した。EUは、「パナマがEU当局の情報交換に関する要請に対して、“広く遵守している”という評価が得られておらず、GAFIのグレイリストからも削除されていない。」と説明した。
10日、非金融機関監督庁(SSNF)は、GAFIグレイリスト脱却のための「非金融規制事業者向け最終受益者登録ガイド」を発表した。パナマでは2018年4月から最終受益者登録システムが段階的に実施されており、現在は第二段階「実証」の最終盤であり、規制対象法人及び国内利用者・代理人が利用しやすいものとするために、いくつかの修正が加えられている。カリソSSNF長官は、「最終受益者登録システムの導入及び運用スケジュールは順調に進んでおり、現在の登録進捗率は13%(大企業中心)であるが、来年には100%登録完了を予定している」と述べた。来年には中小企業、個人利用者への説明会などが実施予定されている。
(3)新規ローン支出額がパンデミック前のペースに回復
パナマ銀行監督庁によると、2022年6月及び7月のパナマ国内の新規ローン支出額はそれぞれ2,581百万ドル、2,431百万ドルで、パンデミック前の2019年の月平均支出額2,193百万ドルを上回ったと発表した。カスティージョ銀行監督庁長官は、「2022年7月には国内で抗議活動が発生したが、政府や金融機関、商業部門の貸し付けは好調であり、全体としてはポジティブな結果に驚いた。また、修正ローンポートフォリオ及び回収不能ローンも順調に減少しており、修正ローンの概念を廃止し一般ローンに組み込むことを検討する。他方で、修正ローンポートフォリオのなかには回収不能ローンが含まれており、慎重に対応しながら計画を策定する。」と述べた。なお、2022年8月末時点で、修正ローンポートフォリオは3,412百万ドル、そのうち、回収不能ローンは993百万ドルであった。
(4)フィッチ・レーティングスは、パナマの投資適格格付けの「BBB-」、アウトルックを「安定的」と発表
4日、米国投資格付会社フィッチ・レーティングス(以下、フィッチ)社は、パナマのソブリン格付けを「BBB-」、アウトルックを「安定的」とし、同国の投資適正格付けを維持した。フィッチ社は、「パナマの高い経済成長率(2022年GDP 9%予想に上方修正)と比較的低いインフレ率を特徴とする力強いマクロ経済と国民一人あたりの所得の高さに基づいており、国家の地政学的利点とパナマ運河という資産に支えられている。債務残高対GDP比は、景気回復と財政赤字減少により、2021年63.7%から2022年61.8%へと徐々に低下する。他方で、2023年半ばの米国の穏やかな景気後退と世界経済の悪化により、2023年のGDPは4.5%としている(前回予想5%から下降修正)。」と述べている。
(5)国際通貨基金(IMF)は、パナマ経済の経済成長率(GDP)予測を7%に下方修正
11日、IMFはパナマの2022年度GDP予測を7.5%(2022年4月)から7%、2023年予測を4.5%から4%とする下方修正を発表した。先日のフィッチレーティングの2022年GDP9%の引き上げとは対象的な発表である。IMFは、その引き下げの理由として、Covid-19の影響が限定的になりつつあるなかでも、ロシアのウクライナ侵攻に起因する世界情勢の不安定化、米国経済の景気後退が見通されるなかで、パナマも例外でなく経済発展に対する悲観論が強まっているとしている。
(6)ムーディーズが高水準の政府支出を問題視
25日、米国格付け会社ムーディーズはパナマのソブリン格付を「Baa2」に据え置き、アウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。ムーディーズは、社会保障基金(CSS)の年金制度IVMの資金需要、公務員の給与引き上げ、補助金の3点における政府支出の増加による大きな財政圧力を問題視している。
(7)米州開発銀行(IDB)はパナマに150百万ドルを融資し、2023年の一般国家予算を支援
20日、経済財務省(MEF)は、米州開発銀行(IDB)からSORF(Secured Overnight Funding Rate)参照レートで総額150百万ドルを契約発行日から20年間の融資を受けたことを発表した。アレクサンダー経済財務大臣は、「当該融資は2023年の一般国家予算の補填に使用される予定であり、外部からの融資ニーズは実質的にすべて完了した。」と述べた。なお、同日に国会の第三読会は2023年度の一般国家予算27,579.4百万ドル(前年期首予算比8%増)を承認している。
2.経済指標
(1)2023年1月までの燃料補助金額累計320百万ドル18日、政府は2022年10月18日から2023年1月15日の燃料価格凍結(1ガロン3.25ドル上限)を発表し、当該燃料補助金の追加予算として、200百ドルを計上した。これまでの2022年7月18日から10月18日までの3カ月間に120百万ドルの補助金が拠出されたことから、燃料補助金は1月までに320百万ドルに達する。
(2)食品、ホテル、レストランセクターの価格の上昇がCPIを押し上げる
国立統計センサス局(INEC)によると、9月の消費者物価指数(CPI)は、食料品、非アルコール飲料、ホテル、レストラン の上昇により、前年同期比1.9%上昇となった。CPI上昇率上位の内訳としては、レストラン及びホテル 前年比5.0%増、食品及び非アルコール飲料 4.4%増、教育 2.5%増、雑貨及びサービス 2.2%増、住宅・水道・電気・ガス 2.0%増となった。同月の中米地域他国は、コスタリカ8.7%増、ニカラグア 11.5%増、ホンジュラス 10%増、エルサルバドル 7.5%増、グアテマラ 9%増、ベリーズ 7.3%増であり、パナマは、政府施策により比較的穏やかな上昇となっている。
(3)9月の基礎的食料品バスケットは13.94ドル増加
消費者保護・公正取引庁(ACODECO)の調査によると、9月の基礎的食料品バスケットの平均価格(スーパーマーケット対象)は、283.91ドルであり、前月比 +13.94ドルの上昇となった。パナマ経済学者のエストラーダ氏によると、「9月は原油価格の上昇に伴い、消費する製品の多くが値上がりした。その背景には製品価格上昇に対する世界的なインフレ圧力があった。」と述べた。
(4)月間経済活動指数(IMAE)は8月までに10.94%の伸びを記録
国立統計センサス局(INEC)によると、8月の月間経済活動(IMAE)は、前年同月比12.75%増加となった。また、2022年1月~8月までの同指標の累積では、前年同時期と比較して10.94%の増加となった。建設業は民間設備投資の再開によりセメントや生コンなどの投入量が増加して堅調であり、コロン・フリーゾーンでの商取引や港湾システムでのコンテナの動きも好調であった。他方で、火力発電やアルコール飲料の工業生産、牛乳・バナナ、スイカ、パイナップルの生産が振るわず、マイナスとなった。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)ミネラ・パナマ社は、銅生産に係るロイアリティを含む政府との新契約に関するあらゆる問題について交渉を継続ミネラ・パナマ社は、本年1月にコルティソ大統領が発表していた交渉妥結に係る新契約について、政府との新契約書作成は“進行中”であり、契約交渉は事実上継続していると述べた。理由としては、国際市場で銅の価格が大幅に下落する一方で、投入コストが世界的に上昇していることを考慮する必要が生じたためである。政府側もモンティージャ貿易産業省副大臣が、鉱物採掘の為のロイアリティ割合など全ての問題は“分析中”であると述べている。
(2)2022年1月~8月の輸出額は2,467百万ドル
貿易産業省貿易情報室(INTELCOM)は、2022年1月~8月の輸出額は2,467百万ドルであり、前年比16.8%増で、その内訳は、銅1,888百万ドル(対前年16.4%増)、銅以外578.9万ドル(対前年18%増、2019年比19%増)であると発表した。銅は主要な買い手である、中国、日本、韓国が輸出先TOP3である。銅以外では、バナナ、チーク、パーム油、未精製糖、魚油、パイナップル、エビが主要品目であり、米国が最大の輸出先である。なお、同期間の輸出量の93%が海上輸送で、銅を除くとこの数字は70%になる。(銅の積み出し港はプエルト・リンコン港である。)
(3)2022年8月の新車販売台数は前年比3.8%増
会計検査院の発表によると、今年1~8月の自動車新車販売台数は26,370台、前年同期比+6.6%となり、内訳としてSUVが48%を占めている。単月では、全国規模で発生したデモの影響で7月は前年比10.8%と一時的な減少となったものの、8月は、3,362台(前年比3.8%増)であった。パナマ自動車販売店協会(ADAP)のバティノビッチ会長は、「7月に記録した台数落ち込みは、一般道路やパンアメリカンハイウェイの封鎖により、国内の一部地域で車両及びスペアパーツが不足した為、パナマ中部地方やチリキ県でパナマ市内よりもより大きな影響があったが、8月に入り既に状況は改善している。他方で、新車の需要は依然として増加している一方で、世界の自動車製造工場では、マイクロチップや半導体の不足により、生産スピードを上げることができず、各自動車販売者が消費者の需要を完全に満たすだけの在庫がない。」と説明した。なお、ADAPは年間41,000~42,000台規模になると予測している。(2019年47,000台、2020年24,091台)
(4)トクメン空港公社は2022年度の国に対する「無配」を発表
1日、トクメン空港公社は同社発行株式の100%を保有するパナマ政府に対しての「無配」を発表した。アラブ・トクメン空港公社総裁は、「トクメン空港公社は2022年予算時に、5百万ドルの配当を予定していたが、同社の現在の財務状況を踏まえると配当できる状況にない。2020年~2021年では総額1,855百万ドル規模の社債(2036年と2048年にそれぞれ満期を迎える2銘柄)を発行しており、今年度迄はコロナ禍で毀損した財務の立て直しと社債返済に向けての財政健全化を優先したい。他方で、2023年度には9百万ドルの国への配当が予定されている。」と述べた。
(5)パナマは鋳造用スクラップを30.8百万ドル輸出
貿易産業省貿易情報局(Intelcom)によると、パナマは、鋳造用の鉄くずや廃棄物をタイ、バングラデシュ、コロンビアなどリサイクルの受け皿になる各国に輸出しており、2022年8月時点で、30.8百万ドルに達する。また、パナマ税関庁によれば、毎月約150百トンがパナマから輸出されている。パナマ市内をはじめ国内全土でリサイクル業者が「鉄くず買取」の宣伝車を巡回させる光景が見られる(現在の鉄くず買い取り価格は、1ポンドあたり5~9セント)。輸出先では、鉄くずや廃棄物をまとめて工業炉で溶かし、鉄及び合金を取り出した上で、建築構造物、自動車、機械などの製造に使用される。
4.パナマ運河、海事関連
(1)2022年度のパナマ運河の通航実績(速報値)パナマ運河庁(ACP)は、2022年度のパナマ運河通航実績(速報値)を発表した。同発表によると、通航船舶トン数は518百万トン(当初予算想定に比して18百万トン減、対前年度比2百万トン増)、通航隻数は14,132隻(対前年度比:894隻増)であった。通航船舶トン数は、当初予算見込みに届かなかった一方で、2022年度通航料収入は3,028百万ドルと当初予算の想定を上回った(当初予算に比して60百万ドル増)。ACP速報値では、2022年度のLNG船セグメントの通航トン数は、41百万トン(対前年度比33%減)、通航隻数が374隻(対前年度比30%減)となっている。バスケス長官によると、「パナマ運河の通航トン数減少は、今年2月のロシアのウクライナ侵攻に伴い、液化天然ガス(LNG)プラントがある米国東岸でLNGを積んだ船が、これまでのアジア向け(通峡を要する)からヨーロッパ向けに流れてしまった為である。」と述べた。
(2)今期クルーズシーズンにおけるクルーズ船の国内ターミナルへの寄港予定
今期クルーズシーズン(2022年10月~2023年5月)においては、10月中旬時点で256回のクルーズ船の寄港が予定されている。このなかで、ロイヤルカリビアン、カーニバルクルーズ、MSCクルーズ、ノルウェージャンクルーズ、セレブリティクルーズの各社のクルーズ船の寄港が予定されている。
その幕開けとして、16日にMSC Divina号がコロンの2000港(ドス・ミル・ターミナル)に寄港したところである。
クルーズシーズンにおいては、観光客の観光消費のみならず雇用創出という点でも経済活性化が期待される。
チェン・コロン商工会議所会頭は、「クルーズ船観光客の1人当たり平均消費額は100~150ドルになることから、毎月500千ドル~1百万ドルの経済効果が期待できる。」と述べた。
(3)パナマ海事庁と南アフリカ海事安全庁との海事分野協定の締結
パナマ海事庁は、南アフリカのダーバンで開催されたIMO世界海事デーの際に、南アフリカ海事安全庁(SAMSA)との間で「船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約(STCW)の規則I/10の訓練及び証明に関する相互承認に係る機関間協定」を締結した。これにより、両国は自国の海事免状をもって相手国籍の船舶への乗船が許されることとなることから、パナマにとってはパナマ人船員の外国籍船への乗船が促進することとなる。
(4)PCCPのコンセッション契約に係る法律の変更の承認
24日、国会は、コロン(マルガリータ島)のPCCP(パナマ・コロン・コンテナ・ポート)のコンセッション契約に係る法律改定を承認した。今回の法律改定は、PCCPにおいては2013年1月に定められた当初の法律に基づき20年間の契約期間を設けて中国企業と契約していたが、同国企業の契約不履行を理由に契約を打ち切るとともにMSC社が引き継ぐこととなったことから行われたものである。この改定により、MSC(スイス)社とのコンセッション契約期間は2022年を起算とする20年間(2042年まで)になるとともに、契約内容の履行が認められれば10年間の自動延長が可能となる。また、パナマ政府は今回の契約により、MSC社から20年間で1,510百万ドルの固定費を受け取ることとなる。
5.インフラ関連
(1)アメリカ橋およびセンテナリオ橋の補修事業公共事業省(MOP)は、アメリカ橋およびセンテナリオ橋の補修事業について、それぞれ近く入札公示を行うと発表した。これにより、両橋は2023年前半には補修作業が開始する見込みである。
アメリカ橋は、1962年に整備された全長1,654mの橋梁であり、今年4月、サボンヘMOP大臣は、整備から60周年を迎える本橋梁につき速やかに補修を行いたいと述べた。
他方、センテナリオ橋は、2005年に整備された全長1,052mの橋梁であり、アメリカ橋に比して補修の緊急性こそ低いものの、補修が必要とされている。
(2)国内初のPPP事業の事前資格審査の再評価
国内初の官民パートナーシップ事業(PPP)となるパンアメリカンハイウェイの道路補修並びに維持管理契約の事前資格審査について、入札評価委員会は、申請のあった12カ国(中国、スペイン、メキシコ等)15社(単一企業およびコンソーシアム)全ての者に対して事前資格審査を通過させる評価を行ったが、公共事業省は参加企業側からの申し立て(一部の企業は、入札要件を満たしていない者が事前資格審査を通過しているという申し立てを行っていた。)を受け、当該評価結果を無効にすると発表した。これに伴い、入札評価委員会は、改めて各者からの事前資格審査申請書の評価を行うこととなる。
- 主要経済指標(2022年10月)(Excel)
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