パナマ経済(2021年9月報)

令和3年10月13日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●GDPは2021年第2四半期に対前年同期比40.4%増で好転
●月次経済活動指数(IMAE)は外出制限緩和を受け2021年7月に前月比28.47%増加
●Cable&Wireless Panamaは、Claro Panamaの買収を発表
●パナマ運河庁の2022年会計年度予算案が国会承認された。予算額は4,215.4百万ドル。
 

1.経済全般、見通し等

(1)GDPは2021年第2四半期に対前年同期比40.4%増で好転
パナマ会計検査院によると、2021年第2四半期の国内総生産(GDP)は9,124.9百万ドルであり、2020年同時期比40.4%増、2,627.8百万ドル増加し、2021年上半期累計では、国内総生産は前年同期比110.0%となった。他方で、パンデミック前(2019年)で第2四半期の比較では、同期比13.3%減、1,395.1百万ドル減少であり、パンデミック前の水準に到達していない。2021年第2四半期は、政府の移動制限緩和または撤廃が、経済活動回復プロセスを後押しした。
 
(2)パナマ政府の歳入は2021年度から回復基調
パナマ国家歳入局によると、2021年1月から2021年8月までのパナマ政府の歳入は、合計3,655.6百万ドル(予算比23.4%増、693.4百万ドル増)と報告した。パンデミック前の2019年度同期比16%減、696.7百万ドル減であるものの、経済活動の回復傾向が鮮明になっている。内訳は、歳入の75%にあたる2,743.7百万ドルが税収(前年比115.6%)で、主に個人及び企業に対する所得税納付が伸びた。他方で、消費税(Itbms)に対する課税は、399.1百万ドル(前年同期比95.8%)で、納税者の消費回復が十分でないことを示された。
 
(3)EUの税務非協力国リストのブラックリストに、パナマは継続して掲載される
欧州連合(EU)は、パナマを税務問題の非協力国のブラックリストに継続して載せることを決定した。パナマ政府はブラックリストからの削除を求めていたが、EUは「外国源泉所得免税制度を廃止または修正するというコミットメントを欠いている」と述べ、パナマにある法人または個人の外国での所得に対する課税について改善を求めている。
 
(4)政府補助金は今年度2,964.4百万ドルに達する
経済財務省(MEF)によると、パンデミック前の前々年度(2019年度)の政府補助金は総額16億9,560万ドルであったが、昨年度(2020年)は対前年67%増の総額2,848.6百万ドル、今年度は2,964.4百万ドルに達すると予測されている。2020年度、2021年度の大幅な増加は、Panama Solidario Programを通じた公衆衛生、経済対策への補助金支給によるもので、今年度の予測では1,258百万ドル(2019年度からの増額分にほぼ相当)が見込まれている。支給手段は、952百万ドルはデジタルバウチャーによる支給、1,240百万ドルは物理的な(金銭的な)支給、182百万ドルは食糧による支給となっている。現在、MEFは2022年度の補助金支出の見直しを行い、現時点で2,049.3百万ドル(2021年度比▲920百万ドル)に削減される見込み。
 

2.経済指標

(1)月次経済活動指数(IMAE)は外出制限緩和を受け2021年7月に前月比28.47%増加
国家統計センサス局(INEC)によると、7月の月次経済活動指数は4ヶ月連続で前年同月を上回り、前月比28.47%増加した。2021年1月からの7カ月間の前年同期比でも10.01%増加しており、直近2カ月の外出制限措置の緩和により経済活動が再開したことが示された。好調だった業界が、鉱山採掘、建設(セメント、生コン製造含)、輸送(パナマ運河通峡料含)、商業、電気通信事業である。一方、依然として、低調なのが、ホテルやレストラン、不動産、金融仲介などとなっている。
 
(2)コロナ禍による保険会社の保険金支払は、111百万ドル。一方で保険金の支払いは減少傾向
パンデミック発生(2020年3月)以降、パナマの保険会社は111百万ドル以上を保険金として支払った。そのうち、71百万ドルは生命保険(個人および団体)、39百万ドル以上は緊急入院、集中治療を行った医療機関に主に支払われた。他方で、政府のワクチン接種が徐々に進み、人口あたりの死亡者および重篤患者の減少が確認されており、保険会社の支払金は減少傾向である。
 
(3)マネーロンダリングに関する「ワーストカントリーランキング」で、110カ国のうちパナマ29位
9月13日、非営利団体バーゼル研究所が発表したマネーロンダリングとテロ資金供与リスクに関する報告によると、対象国110カ国のうち、パナマはワースト29位であり、中リスク国として位置づけられた(ハイチがワースト1位、欧州のアンドラ公国が最高位)。同報告はGAFIの調査と連動しており、パナマは金融の透明性確保など15項目が課題となっている。
 
(4)民間企業の仕事の49%がパンデミックで姿を消す
パナマの民間調査会社は、「2021年度にパナマの企業の30.2%が雇用を減らし、52%が雇用を維持し、17.8%が雇用を増やす。パンデミック前に民間部門にあった仕事の49%が消滅し、既存の仕事の12%が中断された」とする調査結果を示した。2021年5月までに9,000社の企業が倒産し、全国労働者15%にあたる289,000人が失業した。年間平均45,000人の雇用を生む経済(2014年-2019年度平均)を仮定すると、失業者補填に約6年以上かかる計算。産業別で影響が大きかったインフォーマルセクターの失業率は、商業分野 50%、ホテル・バー・レストラン 74%、ロジスティクス部門 69%、建設部門 45%である。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)Cable&Wireless Panamaは、Claro Panamaの買収を発表
9月16日、多国籍企業Liberty Globalの子会社であるCable&Wirelessが、Claro Panamaを約200百万ドルで買収したことが発表された(政府許可:2018年6月5日)。今後は、同社とTigoの2強を中心に市場が活性化されるとみられる。同社は5Gの回線整備に、今後数年間で500百万ドルを投資予定。公共サービス局報告によると、パナマ携帯電話市場は年間で480百万ドル規模とされ、約516万3000回線がアクティブ回線である。Claro Panamaが現在所有する70万回線は全て買収先に統合される。
 
(2)AES Corporationが、AESコロンの100%所有者へ
9月14日、米国企業のAES Corporationは、Inversiones Bahía社が保有するAESコロン株式を取得し、AESコロンを100%子会社化した。AES Corporationは、1999年からパナマで事業展開し、中米初の液化天然ガス(LNG)ベースの発電所とLNG受入ターミナル建設に1,150百万ドルの投資し、27か月の建設期間で2018年8月に完成した。現在は、容量381MWのLNG発電所及び180,000立方メートルの貯蔵タンクおよびLNG再ガス化システムで構成される。現在、AESコロンとGeneradorade Gatúnに進められているプラントは、発電容量は、1,000メガワット以上(国家需要50%相当)であり、2024年に稼働予定。
 
(3)パナマ地峡鉄道の50%株式所有者であるカンザスシティサウザン(KCS)が買収される
9月17日、パナマ地峡鉄道の50%株式保有者であるKCSは、カナダ企業のカナダ太平洋鉄道(CP)による買収提案受け入れを発表した。1998年2月17日、パナマ地峡鉄道会社は2048年までの営業権を獲得し、パナマ運河と平行に建設された80kmの鉄道に沿って、コンテナ貨物輸送と旅客輸送の運行を開始した。運行当初の初期投資(8,000万ドル)はKCSによって実施された。CPによる買収は、総額272億ドル規模で、買収後にカナダ、米国、メキシコ 約32,000キロメートルを鉄道網で結ぶ。
 
(4)ミネラパナマは上半期の売上高は、1,683百万ドル(前年同期比115.6%)
カナダ企業ファーストクアレンタム社の子会社であるミネラパナマ社は、2021年第2四半期(4月~6月)で903百万ドルを売り上げた。内訳は、782百万ドルが銅、101百万ドルが金、残りの20百万ドルが銀のそれぞれ販売及び輸出である。第1四半期を含め、上半期で1,683百万ドルの売上高(前年同期比115.6%)であった。また、コブレパナマ銅山は今年の上半期に163,728トン(前年同期比110%)の銅を産出した。鉱物の積み出し港であるプエルトリンコン港からの輸出先は、60% 中国、残り40% 日本・韓国、フィリピン、インド、スペイン、ドイツである。
 
(5)コロンフリーゾーンの貿易収支は2021年度上期に回復傾向
コロンフリーゾーンは、2021年6月に1,510百万ドル(前月比107%)の貿易収支(輸入+再輸出)を記録し、パンデミック前(2019年度)の水準には達していないものの着実に回復傾向。再輸出品目・輸出先は、医薬品、電子機器、携帯電話、衣料品で、“コスタリカ(204百万ドル)”、“ベネズエラ(144百万ドル)”、“グアテマラ(132百万ドル)”が上位。輸入は、中国、米国、メキシコ、香港、ドイツ、フランスの順である。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマ運河庁2022年会計年度予算案の国会承認
 9月29日、パナマ運河庁の2022年会計年度予算案(2021年10月~2022年9月)が国会で承認された。2022年度予算は4,215.4百万ドルで、うち国庫納付額は2,497百万ドルであり、いずれも2021年度予算に比して大きく増加している。
 
(2)パナマ運河庁の今後10年の投資見通し
パナマ運河庁(ACP)は、10年間で様々なプロジェクトへの投資に合計約29,000百万ドルを割り当てる。割当には、政府への権利金の支払いや国庫納付として、10年で21,500百万ドルを見込む。残りの7,500百万ドルが純投資で、その内訳として、2,200百万ドルが第三閘門等の建設実施にかかわる債務返済、2,400百万ドルが施設、機器修繕、インフラ設備移設、統合などである。そして、1,000百万ドルがカーボンニュートラルやデジタライゼーションに関わる投資で、具体的には、ACPは、運河流域周辺の環境保護地域を拡大し、二酸化炭素(CO2)排出量オフセットの目的で、8,000ヘクタールの取得を要請すると同時に、電気自動車やハイブリット型のタグボート、運航システム機器への投資を進める。最後に、1,900百万ドルは水資源プロジェクトであり、バスケス長官は「運河運用エリア内に追加貯蔵施設を含め、今後24~30カ月以内に設計に目途をつけ、2028年の稼働に向け段階的な建設を進める。」と述べた。
 
(3)パナマ運河庁(ACP)のCovid-19感染状況
パナマ運河庁の全就業者9,000人以上のうち、2021年8月までの累積感染者数は1,777人で、21人が死亡している。9月10日にはコロン市の運河設備管理及び保守部門25名が集団感染し、同日時点で治療中の感染者が74名となったと報告した。
 
(4)世界最大の船籍船保有国 パナマ
国際海事データベースIHS Marketによると、パナマの船籍船の総数は、8,617隻(2021年8月最新値)であり、合計2億3,590万GRT(登録総トン数)である。船種で最も多いのは、ばら積み船であり、同種の一般種の世界全体に占める割合は22% 総数は2,725隻、1億1,210万GRT(登録総トン数)である。そして、パナマは、2021年1月から8月までに218隻の新造船を追加した。
 
(5)PCCP開発の契約打ち切り
 パナマ海事庁(AMP)の理事会は、中国のシャンハイ・ゴージャス社の投資によって行われていたPCCP(Panama Colon Container Port)の開発に係る契約の打ち切りを承認した。本件は593.9百万ドルの投資が行われることとなっていたが、6月のパナマ会計検査院の監査によると142百万ドルしか投資が行われていなかった。
 

5.インフラ関連

(1)メトロ3号線事業の本格着工
 10月5日、メトロ公社は、メトロ3号線事業について高架部分の杭打ち工事の開始により本格着工したことを発表した。本事業は、円借款を通じた支援としては中南米で過去最大規模の2,810.71億円の協力を行うものであり、モノレールおよび関係システムは日立製作所と三菱商事が実施する。
 
(2)トクメン空港新旅客ターミナル建設の契約打ち切り
 9月28日、トクメン空港公社はトクメン空港の新旅客ターミナル建設にかかりオデブレヒト社との契約の打ち切りを発表した。同公社は、当該契約については数次の契約変更を経て9月30日を履行期限としていたが、期限内の完工が困難な状況にあったことから、契約を打ち切ったとしている。一方で、オデブレヒト社は、この遅れはコロナの影響に伴う資機材調達の遅れ等に起因するもの、また必要な資金の調達が支払われていなかったとして同公社の決定を不当と主張している。
 
(3)Corredor de las playas(ビーチ回廊)の第一区間建設の第三者への譲渡
 FCC(西)は公共事業省(MOP)に対して、Corredor de las playas(ビーチ回廊)の第一区間の建設について、第三者に譲渡する意向を示した。本事業は、el consorcio de las playas(FCC社とCisco社のコンソーシアム)が受注により工事が開始していたが、その後、本事業に係る用地等の補償に大幅な金額を要することが判明したため、MOPは事業を大幅に縮小する見直しを行っていた。現在、MOPは同工事を引き継ぐ企業を検討中である。
 
(4)「ターンキー方式」プロジェクト案件の入札
 公共事業省は、国内全域の道路のリハビリ・拡張等にかかり、26件の「ターンキー方式」プロジェクトの実施(合計1,162百万ドル)に向けて取り組んでいる。この「ターンキー」方式は、工事請負企業側の自己資金で事業を開始するとともに特定の進捗が確認された段階ではじめて実施機関が建設費を支払うものであり、コロナの影響で財政が苦しいパナマ政府としては予算支出のタイミングを後ろ倒しにすることが可能になるとともに公共事業実施による経済を再活性化が期待できる。「ターンキー方式」プロジェクト26件のうち、9月末時点で5件が契約済み、13件が入札プロセス中にある。
 
(5)バルボア造船所のコンセッション契約の締結
 パナマ海事庁とAstilleros Puerto de Balboa社は、バルボア造船所のリハビリ、開発および管理を含む20年間のコンセッション契約を締結した。この契約では、企業側は20年間で固定料金として14.4百万円(毎月6万ドル)をパナマ政府に支払うとともに、リハビリのために20百万ドルの投資を行うこととされている。また、企業側は同契約内容を遵守している場合に限り契約満了の1年前に延長を要求が可能となっている。