パナマ経済(2020年11月報)
令和2年12月10日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事担当:田中書記官
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●第2四半期のGDP成長率は▲38.4%、上半期では▲18.9%となった。また、S&Pは、パナマの格付けをBBB+からBBBへ格下げした。
●上半期のパナマへの海外直接投資は1,429百万ドルで、昨年同期比25.4%減少となった。
●11月初旬に中米を通過したハリケーン・エタはパナマ西部の農作物、特に主食である米の生産や国内輸送ルートの寸断など甚大な被害を及ぼした。
1.経済全般、見通し等
(1)GDP成長率(第2四半期▲38.4%、上半期▲18.9%)会計検査院が発表したパナマの第2四半期(4月-6月)のGDP成長率は▲38.4%、同時に上半期(1月-6月)の同成長率は▲18.9%となった。主な中南米諸国の第2四半期GDP成長率は、ペルー▲30.2%、メキシコ▲18.7%、コロンビア▲15.7%、チリ▲14.5%、コスタリカ▲8.6%で、パナマのマイナス幅は周辺国と比較しても大きく、相対的にパンデミックによる打撃を大きく受けているとみられる。特に、第2四半期GDPにおいて大きな影響を受けたセクターは、建設(前年同期比▲92%)、ホテル(同▲79%)、個人サービス(同▲76%)、鉱業(同▲53%)、不動産(同▲51%)。この結果を受けて、今年のパナマのGDP成長率は▲15%~▲16%まで落ち込むと予想されている。
(2)財政赤字42億ドル(9月末)、政府債務残高357億ドル(10月末)
経済財務省が発表した9月末時点の財政赤字は4,214百万ドルとなり、昨年同期比で赤字額が1,549百万ドル増加した。要因として、歳入が6,164百万ドルで昨年同期比1,882百万ドル減少した。主な理由はパンデミックの影響により経済活動が停止され、税収(法人税・所得税・消費税など)が予算比で3-4割減少したため。歳出では、運営支出が人件費の増加により8,309百万ドルで昨年同期比378百万ドル増加したものの、資本支出がインフラ投資の抑制により2,068百万ドルで昨年同期比710百万ドル減少した。結果、歳出総額は10,378百万ドルで、昨年同期比332百万ドル減少した。10月末時点の政府債務残高は、35,746百万ドルで前年同期比7,104百万ドル増加した。引き続き、パナマ政府は投資抑制、運用コストの削減に取り組んでいる。
(3)国道公社による400百万ドルの資金調達
11月18日、国道公社(ENA)は、パンデミックによる移動・外出制限が原因で高速道路使用料収入が激減しており年間収入が約4割減少することを受けて、国内とルクセンブルグの証券取引所を通じて400百万ドルの資金調達を実施したと発表した。幹事金融機関は、バンコ・ヘネラルとバンク・オブ・アメリカ。調達条件は、金利4%、償還期限2048年。調達資金のうち、340百ドルは2011年と2014年に実施した高速道路事業(コレド・スルの接続工事とコレド・ノルテのトクメン空港までの拡張工事)の際に発行した公社債(金利5.25%と6%、償還期限2024年と2025年)のリファイナンス、残りの60百万ドルは新規道路事業への投資に使われる。政府はENAによる資金調達を総額700百万ドルまで承認しており、今後、新たに300百万ドルまでの資金調達が可能となっている。
(4)ハリケーン・エタ(ETA)による被害
11月初旬に中米を通過したハリケーン・エタ(ETA)による豪雨でパナマ西部の農作物や交通網に甚大な被害が発生した。チリキ県やボカスデルトロ県では農作物の輸送ルートが土砂崩れなどで寸断された結果、パナマ市内への農作物の供給が一時的に停止した。公共事業省は道路や住宅地に押し寄せた土砂を除去するため180台以上の建機を投入した。農作物の被害総額は11百万ドルと見積もられており、特に主食の米への被害が大きく作付面積のうち987ヘクタールが被害を受けた。政府は2020年と2021年の予算から2021年3月末を期限とした災害予備金1億ドルの拠出を閣議決定した。
(5)トクメン空港公社売上が大幅減少
今年のトクメン空港公社の売上は昨年比で67%減少すると予想されており、毎年、政府へ支払われてきた配当金(25~50百万ドル)が今年はなくなる。トクメン空港公社は運営に必要な資金を確保するため、債権者(パナマ国立銀行、パナマ貯蓄銀行、バニスモ、シティバンク)に対して100百万ドルの追加資金を要請した。10月12日の空港再開後も発着飛行機や空港利用客は通常よりも少なく、パンデミック前の今年3月時点でトクメン空港に乗り入れていた航空会社は20社あったが、現在は13社にとどまる。年末までにLaser Airline社とConviasa社(ともにベネズエラの航空会社)、またAir Europe社がパナマ運航を再開する予定。トクメン空港は、地域のハブ空港としての競争力を高めるために、2016年にターミナル拡張を含む2036年までのマスタープランを発表していたが、パンデミックに伴い見直しが示唆されている。
2.経済指標
(1)10月の新車販売実績2,892台パナマ自動車販売者協会ADAPが発表した10月の新車販売実績は2,892台だった。昨年10月はパナマ・モーターショーの効果もあり販売台数は6,018台だったが、今年は展示場での開催はなく昨年比で販売台数が大幅に落ち込んでいる一方、パンデミックの影響で5月には月間販売台数が百台以下まで落ち込んだが、6月から反転して、その後は右肩上がりで増加している。新車販売市場はまだまだ回復途上であるが、ADAP予想の今年の販売台数は22,000台と当初予想よりも5,000台程上振れしている。
(2)パナマ格付け(S&P、Fitch、Moody’s)
1月24日、S&Pは、パナマの格付けをBBB+からBBBへ格下げした。見通しは「安定」としている。パンデミックの影響による債務増加と、それに伴う利息の支払い増加により財務状況が悪化していることが格下げ理由のひとつ。今年は、年間の歳入見通し9,200百万ドルに対して利息の支払いが1,550百万ドルで、歳入に対する割合が16.8%に達し、昨年の約10%と比較して大幅に増加する見込み。S&Pの分析によれば、同割合が2019年の水準(10%)に戻るのは、2023年になると予想している。同時にパナマ経済は立ち直りが早く、2021年のGDP成長率は7%、その後、数年間は平均で5%の成長が見込めると予想している。また、現在、パナマが抱えている課題として年金改革を挙げている。他社によるパナマの格付けは、Fitch社がBBB(ネガティブ)、Moody’s社がBaa1(ネガティブ)。
(3)海外送金額の減少
貿易産業省の発表によると、1月から9月までのパナマから海外への送金額は257百万ドルで昨年同期の450百万ドルから42.9%減少した。また、海外からパナマへの送金額は、176百万ドルで昨年の204百万ドルから13.7%減少した。近年は、コロンビア、ニカラグア、ドミニカ共和国からの出稼ぎ労働者の給料が上がり、パナマから海外への送金額が増加していたが、今年はパンデミックの影響による失業等で送金額が大幅に減少している。また、海外からパナマへ送金している主な国は、米国、コロンビア、エクアドル、スペイン、ペルーである。世界銀行はパンデミックの影響により今年の全世界の送金額は昨年比で20%程減ると予想している。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)中米経済統合銀行によるパナマ向け融資400百万ドル11月28日、中米経済統合銀行はパナマ向け総額400百万ドルの融資を承認したとの報道があった。本融資はパンデミックに対する緊急的な経済補償対策に使用される。このうち150百万ドルは電子クーポンによる給付金プログラム、250百万ドルは開発政策運用プログラムに充てられる。融資条件は、償還期間20年間(5年間のグレースピリオドあり)、年利2.74%と報道されている。
(2)上半期の海外直接投資1,429百万ドル
上半期のパナマへの海外直接投資(FDI)は、1,429百万ドルで昨年の1,915百万ドルから25.4%減少した。パナマは中米へのFDIのうち約半分を占める同地域のリーダーであり、パナマ政府は海外からの投資を積極的に呼び込む政策を実施してきた。今年8月には製造業企業誘致政策としてEMMA法(2020年8月31日付け法令第159号)を制定した。また、同政策の先駆けとして、2007年から多国籍企業本部制度(SEM制度)を実施しており、今年も新たに10のSEM適用会社が承認された。これまでに約160のSEM適用会社が誕生し、約1,100百万ドルの投資と7千人以上の雇用を創出している。
(3)世界経済フォーラムのメンバーにパナマ国立銀行を選出
パナマ国立銀行は、コロナ危機を扱う2021年のダボス会議”The Great Reset”に参加する世界経済フォーラムのメンバーに、中米カリブ地域から唯一選出された。同メンバーは、世界銀行、英国銀行、ヒューレットパッカード、アマゾン、アリババ、JPモルガン、マイクロソフトなど。
4.パナマ運河、海事関連
(1)パナマ運河庁の組織刷新パナマ運河庁は、水資源プロジェクト(投資額約2,000百万ドル)の実行に向けて組織の刷新を発表した。新たな組織は6月の理事会で承認され10月1日から始動している。その中でJose Reyes氏が水資源プロジェクト部長を務める。また、運河庁は今回のパンデミックでデジタル技術、AI、ビッグデータが運河の発展的な戦略に欠かせないことが証明されたとして、デジタル変換局が新設された(局長は未定)。また、マンパワーの72%、人件費予算の77%を占めていたビジネス通航局の名称が変更され、オペレーション局となったが、引き続きイリア・マロッタ副長官が同局長を兼任する。
(2)10月のパナマ運河通航隻数1,122隻
9月から10月にかけて、パナマ運河では濃霧により船舶の通航が滞ったこと、また米国に上陸したハリケーンの影響で米国出港が遅れた船舶がパナマ運河へ集中したことで、事前に通航予約をしていなかった船舶の通航が大幅に遅れる事態となった。通常、運河を通航する船舶の70%、特にネオパナマックスは85%の船舶が事前に通航予約をするが、同事態により10月中旬には125隻が列になり通航待ちが発生した。10月の運河通航隻数は1,122隻となり、昨年同月から112隻減少したが、徐々にパンデミック前の隻数水準まで回復している。パナマ運河庁は、世界の海上物流を支えるため、衛生管理を徹底しながら運営を続けていくと宣言した。
(3)パナマ海事庁の収入と国庫納付額
パナマ海事庁は、船籍ビジネスや港のコンセッション収入を通じて、1月から10月までの間に107百万ドルの収入があり、このうち78百万ドルを国庫納付すると発表した。1998年に設立された海事庁は、これまで総収入2,434百万ドルのうち、1,549百万ドルを国庫納付している。
(4)新たな造船所の開発計画
11月24日、パナマ海事庁のアラウス長官は、2020年度の海事会議で、海運業界の需要を満たすべく国内で最大5つの造船所の開発の可能性について示唆した。また、同長官は、当地は物流の要衝であるにも関わらずこれまで造船所の開発に積極的でなかったが、これらの開発は、更なる海運セクターの発展のみならず新たな雇用が期待されると言及した。
5.インフラ関連
(1)メトロ3号線事業の着工時期11月17日、コルティソ大統領は、Conep(全国民間企業審議会)ビジネスフォーラムのなかで、本事業の建設は2021年の第1/四半期に開始する必要があると述べた。本事業は、10月29日に契約調印がなされたところであり、着工に向けて準備が進められている。
(2)メトロ3号線事業の環境管理計画の照査
11月24日、メトロ公社は、メトロ3号線事業の建設における環境管理計画の実施に係る照査を実施した。本件は、環境省が実施機関であるメトロ公社に求める本事業の建設における環境管理の実施を照査(第3者の立場から確認)するものであり、参考価格は366,000ドルで、履行期間は約5年間となる。
(3)マタスニージョ川の衛生事業
パナマ衛生プログラムは、パナマ市を流れるマタスニージョ川の衛生事業として設計、建設の発注に向けた準備を進めていると発表した。マタスニージョ川はパナマ市で最も汚染された河川として環境対策が求められている。
- 主要経済指標(2020年11月)(Excel)
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