Ⅱ パナマ運河の現況
1. 運河の構造
パナマ運河は、大西洋と太平洋を繋ぐ全長約80km、最小水路幅192mの閘門式運河である。運河中央に位置するガツン湖(人造湖)の湖面の高さ(海抜26m)が海面の高さと異なるため、運河を通航する船舶は、閘門により3段階にわたり湖面の高さまで上げられて湖を航行の後、また閘門により3段階にわたり海面の高さまで下ろされることになる。大西洋側運河入り口にガトゥン閘門、太平洋側運河入り口にミラフローレス閘門とペドロミゲール閘門が設けられている。各閘室は長さ1,000ft(約305m)、幅110ft(約33.5m)、水深41.5ft(約12.6m)であるため、この閘室に収容可能な船舶のみが運河を通航することが可能である。パナマ運河を通航できる最大船型はパナマックスと呼ばれている。
|
閘室 |
通航可能船舶 |
長さ |
1,000ft (305m) |
965ft (294m) |
幅 |
110ft (33.5m) |
106ft (32.3m) |
深さ |
41.5ft (12.6m) |
39.5ft (12.0m) |
2. 運河の通航状況
(1)概況
現在、1日約37隻の船舶が、パナマ運河経由で世界の海上輸送貨物の約4%(重量ベース)を輸送している。年間では、約2億トンの貨物が、約1万4千隻の船舶により運河を経由して輸送されている。
運河を経由する貨物の発着地別の利用国順位は、米国、中国、チリ、日本、コロンビアの順で、日本は2008年度にチリに抜かれて第4位である。また、運河を経由する航路(海上輸送ルート)としては、アジア-米国東岸航路が、通航船舶トン数、輸送貨物トン数ともに約35%のシェアを占めて第1位である。
(2)通航船舶の隻数、トン数及び船種別通航隻数
2013年度(2012年10月1日~2013年9月30日)にパナマ運河を通航した船舶は13,660隻で、前年度に比べて884隻減少したが、このうちパナマックス船は7,035隻で前年度に比べて206隻減少した。また、通航船舶トン数(純トン(注1):PC/UMS(注2))は、3億2,012万トンで前年度比1,308トン減少した。
年度 |
通航隻数 |
うちパナマックス船 |
通航船舶トン数 |
||||
|
前年度比 |
|
前年度比 |
シェア |
(純トン:PC/UMS) |
前年度比 |
|
1999 |
14,336 |
4,198 |
29.3% |
227,557,595 |
|||
2009 |
13,653 |
-4.76% |
4,359 |
3.84% |
31.9% |
229,905,189 |
1.03% |
2001 |
13,492 |
-1.18% |
4,424 |
1.49% |
32.8% |
231,169,337 |
0.55% |
2002 |
13,183 |
-2.29% |
4,565 |
3.19% |
34.6% |
234,914,761 |
1.62% |
2003 |
13,154 |
-0.22% |
4,737 |
3.77% |
36.0% |
242,456,555 |
3.21% |
2004 |
14,035 |
6.70% |
5,329 |
12.50% |
38.0% |
266,671,222 |
9.99% |
2005 |
14,011 |
-0.17% |
5,633 |
5.70% |
40.2% |
279,002,627 |
4.62% |
2006 |
14,194 |
1.31% |
6,078 |
7.90% |
42.8% |
297,595,481 |
6.66% |
2007 |
14,721 |
3.71% |
6,230 |
2.50% |
42.3% |
312,651,255 |
5.06% |
2008 |
14,702 |
-0.13% |
6,087 |
-2.30% |
41.4% |
309,291,845 |
-1.07% |
2009 |
14,342 |
-2.45% |
6,014 |
-1.20% |
41.9% |
298,833,937 |
-3.38% |
2010 |
14,230 |
-0.78% |
6,231 |
3.61% |
43.8% |
300,394,277 |
0.52% |
2011 |
14,684 |
3.19% |
6,918 |
11.03% |
47.1% |
321,845,065 |
7.14% |
2012 |
14,544 |
-0.95% |
7,241 |
4.67% |
49.8% |
333,203,414 |
3.53% |
2013 |
13,660 |
-6.08% |
7,035 |
-2.84% |
51.5% |
320,123,472 |
-3.93% |
(3)運河通過貨物量
運河を通航した船舶の積載貨物量は、2億988万トン(ロングトン(注))で前年度比3.8%減少した。船種別では、ドライバルカー、タンカー、コンテナ船の順だった。
ロングトン:貨物の質量の単位(ヤード・ポンド法)。1ton = 2,240£(約1,016kg)。
(4)運河通過貨物の発着地によるパナマ運河利用国順位
運河通過貨物の発着地別による運河利用国の順位は、米国、中国、チリ、日本、コロンビアの順で、日本は、2008年度にチリに抜かれて第4位に後退した。
(5)運河通航船舶の航路
運河経由の海上輸送ルート別では、アジア/米国東岸航路が全体の35.3%を占めている。
3. 運河の通航料金
(1)概要
現在のパナマ運河の通航料金は、コンテナ船とそれ以外の船舶とで体系が異なる。コンテナ船は積載可能なコンテナの個数(TEU(注3))に応じて、それ以外の船舶は貨物を積載出来る容積(純トン)に応じて料金が徴収される。
また、通航料金以外にも、タグボートや牽引機関車等による運河通航支援サービスの料金や、特定日の通航予約システム(ブッキング・システム)の利用料金等が利用する船舶のサイズ等に応じて徴収される。
(2)コンテナ船
従来、コンテナ船も他の船舶と同様に、貨物を積載出来る容積(純トン)を基本にして料金を徴収されていたが、2005年5月1日より、コンテナの積載個数による料金体系に改定された。コンテナ船ではないが、デッキ上にコンテナを積載している船舶(セミコンテナ船)に対しては、「コンテナ船以外の船舶」に対する純トン数による料金に、デッキ上に積載されているコンテナに対する料金が加算されることになった。従来の純トン数による料金体系では、船舶のデッキ上に積載されたコンテナの容積を通航料金に適切に反映できなかったことが変更の理由である。
2005年5月1日の料金体系の改訂では、同時に、料金単価の値上げも実施された(注4)(注5)。また、2007年5月1日以降、パナマ運河拡張計画の実現を理由に、2009年までの値上げが実施された。
|
|
|
|
|
(1TEU当たり) |
|
2005.5.1.~ |
2006.5.1.~ |
2007.5.1.~ |
2008.5.1.~ |
2009.5.1.~ |
コンテナ積載有り |
US$42.00 |
US$49.00 |
US$54.00 |
US$63.00 |
US$72.00 |
コンテナ積載無し |
US$33.60 |
US$39.20 |
US$43.20 |
US$50.40 |
US$57.60 |
1TEU = 1,360ft3 ・・・(1), 1t (net ton) = 100ft3・・・(2). (1)と(2)より1TEU = 13.6t
$2.5/t × 13.6t/TEU = $34/TEU・・・(3). (3)と改定料金($42/TEU)との差は、$8/TEU。
さらに、2010年4月、パナマ運河庁(ACP)は、パナマ運河庁の実施するサービスに対する適正な対価を理由として、パナマ運河の通航にかかる新料金を発表した。新料金では、船舶に実際に積んでいるコンテナ(実入り)個数も考慮した料金体系となっており、2011年1月より適用された。
船舶の種類 |
積載状態 |
通航料 |
||
コンテナ船 |
積荷あり |
2011年1月~ |
船舶のコンテナ取扱容量 |
$74(/TEU) |
コンテナ(実入)の個数 |
$8(/TEU) |
|||
積荷なし |
$65.6(/TEU) |
(3)コンテナ船以外の船舶
運河返還前の1998年1月1日から2002年9月30日まで適用されていた料金単価は、2002年10月1日から8%値上げ、2003年7月1日からはさらに4.5%値上げされることが、2002年8月21日に閣議決定されたが、2007年4月26日にはさらに、2009年までの3年間で26%から34%値上げすることが決定された。2010年4月には、コンテナ船と同様に新料金を発表され、2011年1月(但し冷凍船のみ4月)から新料金が適用された。2012年4月には更なる値上計画(当初案)(値上げ時期は、2012年7月及び2013年7月とされていた)が発表された。2012年6月27日、値上げ時期が2012年10月及び2013年10月へ変更され、その後、2012年10月及び2013年10月には計画どおり通航料値上げが実施された。
1998年1月1日から2002年9月30日まで適用されていた料金単価
|
積み荷あり |
積み荷無し |
|
運河通航料金(1トン当たり) |
US$2.57 |
US$2.04 |
注)船の種類、トン数にかかわらず、積み荷ありと無しの2種類のみの料金単価を設定していた。
2003年7月1日から2007年6月30日まで(冷凍貨物船と旅客船は2007年9月30日まで)
船の種類 |
最初の10,000トンに対して |
次の10,000トンに対して |
残りのトン数に対して |
|||
|
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
一般貨物船 |
US$2.96 |
US$2.35 |
US$2.90 |
US$2.30 |
US$2.85 |
US$2.26 |
2007年7月1日から(冷凍貨物船と旅客船は2007年10月1日から)
船の種類 |
最初の10,000トンに対して |
次の10,000トンに対して |
残りのトン数に対して |
|||
|
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
一般貨物船 |
US$3.26 |
US$2.59 |
US$3.19 |
US$2.53 |
US$3.14 |
US$2.49 |
2008年5月1日から(冷凍貨物船と旅客船は2008年10月1日から)
船の種類 |
最初の10,000トンに対して |
次の10,000トンに対して |
残りのトン数に対して |
|||
|
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
一般貨物船 |
US$3.63 |
US$2.88 |
US$3.56 |
US$2.82 |
US$3.50 |
US$2.77 |
2009年5月1日から(冷凍貨物船と旅客船は2009年10月1日から)
船の種類 |
最初の10,000トンに対して |
次の10,000トンに対して |
残りのトン数に対して |
|||
|
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
一般貨物船 |
US$3.90 |
US$3.10 |
US$3.82 |
US$3.03 |
US$3.76 |
US$2.98 |
2011年1月1日から(冷凍貨物船は2011年4月1日から)
船の種類 |
最初の10,000トンに対して |
次の10,000トンに対して |
残りのトン数に対して |
|||
|
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
一般貨物船 |
US$4.41 |
US$3.53 |
US$4.32 |
US$3.46 |
US$4.25 |
US$3.40 |
冷凍貨物船 |
US$4.29 |
US$3.43 |
US$4.20 |
US$3.36 |
US$4.12 |
US$3.30 |
バルク船 |
US$4.38 |
US$3.50 |
US$4.23 |
US$3.38 |
US$4.16 |
US$3.33 |
タンカー船 |
US$4.46 |
US$3.57 |
US$4.39 |
US$3.51 |
US$4.31 |
US$3.45 |
自動車船 |
US$4.33 |
US$3.46 |
US$4.24 |
US$3.39 |
US$4.17 |
US$3.34 |
旅客船 |
US$4.42 |
US$3.54 |
US$4.33 |
US$3.46 |
US$4.26 |
US$3.41 |
その他船 |
US$4.61 |
US$3.69 |
US$4.52 |
US$3.62 |
US$4.45 |
US$3.56 |
2012年10月1日から
船の種類 |
最初の10,000トンに対して |
次の10,000トンに対して |
残りのトン数に対して |
|||
|
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
一般貨物船 |
US$4.74 |
US$3.79 |
US$4.64 |
US$3.72 |
US$4.57 |
US$3.66 |
(冷凍貨物船) |
US$4.29 |
US$3.43 |
US$4.20 |
US$3.36 |
US$4.12 |
US$3.30 |
バルク船 |
US$4.71 |
US$3.76 |
US$4.55 |
US$3.63 |
US$4.47 |
US$3.58 |
タンカー |
US$4.68 |
US$3.75 |
US$4.61 |
US$3.69 |
US$4.53 |
US$3.62 |
ケミカルタンカー |
US$4.82 |
US$3.86 |
US$4.74 |
US$3.79 |
US$4.65 |
US$3.73 |
LPG |
US$4.75 |
US$3.84 |
US$4.68 |
US$3.77 |
US$4.59 |
US$3.71 |
自動車船/RORO船 |
US$4.40 |
US$3.52 |
US$4.31 |
US$3.45 |
US$4.24 |
US$3.40 |
(旅客船) |
US$4.42 |
US$3.54 |
US$4.33 |
US$3.46 |
US$4.26 |
US$3.41 |
その他船 |
US$4.96 |
US$3.97 |
US$4.86 |
US$3.89 |
US$4.78 |
US$3.83 |
注)(冷凍貨物船)、(旅客船)の値上げは保留
2013年10月1日から
船の種類 |
最初の10,000トンに対して |
次の10,000トンに対して |
残りのトン数に対して |
|||
|
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
積み荷あり |
積み荷無し |
一般貨物船 |
US$5.10 |
US$4.07 |
US$4.99 |
US$4.00 |
US$4.91 |
US$3.93 |
(冷凍貨物船) |
US$4.29 |
US$3.43 |
US$4.20 |
US$3.36 |
US$4.12 |
US$3.30 |
バルク船 |
US$5.06 |
US$4.04 |
US$4.89 |
US$3.90 |
US$4.81 |
US$3.85 |
タンカー |
US$4.92 |
US$3.94 |
US$4.84 |
US$3.87 |
US$4.75 |
US$3.80 |
ケミカルタンカー |
US$5.06 |
US$4.05 |
US$4.98 |
US$3.98 |
US$4.89 |
US$3.91 |
LPG |
US$4.99 |
US$4.07 |
US$4.91 |
US$4.00 |
US$4.82 |
US$3.93 |
(自動車船/RORO船) |
US$4.40 |
US$3.52 |
US$4.31 |
US$3.45 |
US$4.24 |
US$3.40 |
(旅客船) |
US$4.42 |
US$3.54 |
US$4.33 |
US$3.46 |
US$4.26 |
US$3.41 |
その他船 |
US$5.33 |
US$4.27 |
US$5.22 |
US$4.18 |
US$5.14 |
US$4.12 |
注)(冷凍貨物船)、(自動車船/RORO船)、(旅客船)の値上げは保留
4. 運河の収支
(1)概況
1999年12月31日の運河返還以降、通航料金の値上げと通航量の増大により、運河の通航料金収入は、2001年度の5億7,951万ドルから、2013年度には18億4,968万ドルに達しており、12年間で約3.2倍になっている。
(2)国庫納付額
パナマ運河庁は、同庁設置法により、会計年度(10月1日~9月30日)毎に、運河を通航した船舶のトン数に応じた金額(「トン税」と呼ばれている。)と同庁が受ける公共サービスに対する料金、さらに剰余金を国庫に納めなければならない。このトン税、公共サービス料金及び剰余金を合わせた2013年度の国庫納付額は9億8,177万ドルで、2001年度との比較で4.6倍になっている。
1999年12月31日の運河返還から2013年度までの13年9か月間で、パナマ運河庁が国庫に納付した金額は85.9億ドルに達し、1914年から1999年まので米国統治時代(約86年間)にパナマ政府に納付された金額18.8億ドルの4.6倍となっている。
注)2000年度は2000年1月から9月までの9ヶ月間。
3)2013年度の収支実績
2013年度の収入実績は24億1,129万ドルで、その他事業収入の好調により前年度を僅かに上回り過去最高を記録したが、運河通航収入は対前年度比1.1%減少した。