パナマ経済(2025年9月月報)

令和7年10月15日
在パナマ日本国大使館
担当:小竹書記官
                                                             
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●ムリーノ大統領、日本企業に運河プロジェクト説明会を実施
●ムリーノ大統領、日本船舶オーナーにセミナーを実施
●フランスがパナマ・ダビッド鉄道建設計画に関心
●社会保険庁(CSS)が2026年度予算発表
 

1 経済全般、見通し、経済指標等

(1)パナマ経済の外債依存と雇用構造の変化
 国立統計調査研究所(INEC)の報告によると、2012~2024年に増加した公務員は教育や保健関係の省庁に集中した。給与もこれらの分野で民間を上回る伸びを示し、2019~2024年の新規公務員1万9409人のうち、42%が教育関係、26%が行政・防衛関係、13%が保健関係、10%が水道・廃棄物管理関係に配属された。地方の高所得層(月収800ドル以上)の多くが公務員であり、民間企業で800ドル以上を得る者は31%のみである。この偏りは信用制度や投資誘導に影響し、国家雇用が民間より優遇される構造を固定化している。
 2019~2024年に外債は約280億ドル増えた一方、民間投資は46億ドル減少した。鉱業活動の停止や外国直接投資の縮小も影響し、輸出は80%減少し、雇用も7万人減少した。観光業は2023年8月~2024年10月に2,269人の正規雇用を生んだが、平均給与は668ドルと低水準である。物流業も2014~2024年に2万人の雇用を創出したが、同時に1,784人の正規雇用が失われた。今後の鍵はドノソ銅山の対応と投資家信頼の回復にある。
 (2)社会保険庁(CSS)の2026年度予算
 CSSが発表した2026年度総予算は81億200万ドルとなり、2025年比で11%の増加となる。内訳は、年金および医療給付に対して30億2900万ドル、運営費23億2500万、金融投資24億6200万、物理的投資3億500万であり、病院や診療所の建設・近代化も含まれている。
 予算のうち78億3500万ドルは国家拠出金および労使拠出金から賄われるが、2億8600ドルが不足しており、準備金から補填される見込みである。国家からの拠出金は10億ドル近くに達する見通しである。
 年金支出は2026年に6.1%増加し、1億7500万ドルの増加となる。これは新規退職者の増加によるものである。CSSは人件費の最適化を進めており、2026年には5.9%の削減を予定している。新規雇用は行わず、既存職員の効率的配置を重視する方針である。
 CSSは年金のみならず、医療、労災、投資も管理している。年金基金の運用においては、持続可能な収益を確保する必要があるとし、長期的視野に基づいた責任ある投資が求められている。
 CSSは「Mi Caja Digital」や「Mi Retiro Seguro」などのデジタルツールを導入し、加入者が自身の拠出状況を確認したり、退職計画を立てたりできるようにしている。現在72万2千人が登録しており、今後150万人の現役加入者への普及を目指している。
 

2 通商、貿易、国際経済関連

(1)パナマでの乗継客へ10ドル課税か
 パナマの空港が乗継客1人につき10ドルを課す法案がパナマ国会に提出された。成立すれば、パナマの航空競争力が低下する可能性がある。乗継客に追加料金を課すことで、他国の空港と比べて不利となり、航空会社や旅行者の流入が減少する可能性が高い。2024年の乗客1,920万人のうち7割超が乗継客であった。空港の収益や雇用はこの乗継客に大きく依存している。
 中南米地域の他の主要空港(ボゴタ、リマ、メキシコシティなど)は、乗継客に追加料金を課しておらず、これにより、乗継客の流入が増え、観光や新規路線の誘致に成功している。中南米の主要空港で乗継客に課税しているのはサンパウロ(2.49ドル)のみだが、同空港は乗継の中心ではない。2024年に中南米で最も利用客が多かったボゴタ(年間4,580万人の乗客が利用)は追加料金を課しておらず。リマも、かつて課されていた乗継客向けの空港使用料を廃止している。国際路線網を拡大しているドミニカ共和国やメキシコでも追加料金はない。
 乗継客は免税店や飲食での消費に加え、航空会社の各種使用料を通じ空港収益を支えている。また、航空会社は着陸料、駐機料、搭乗橋使用料などを支払っており、これらの収益は空港のインフラ維持や安全対策、サービス向上に充てられている。乗継客の存在が欧州や南米への直行便の維持にも貢献している。
 トクメン国際空港総支配人は「課税されれば競争力を即座に失う」と警告している。乗継客は常に最も便利で経済的な選択肢を求めており、課税されれば他空港へ流れる可能性が高い。
(2)モルト貿易産業大臣がドノソ銅山の監査について言及
 9月6日、モルト貿易産業大臣は、現在環境省がパナマ・コントロール・サービス社に約54万ドルで包括的独立監査を委託しており、約3~5か月で監査が完了すると説明した。また、その結果が今後の意思決定の基盤となると述べた。さらに、同大臣は、透明性を確保しつつ、これまで実施してきた全過程を段階的に国民に公表し続けると強調した。
 鉱業活動、特にドノソ銅山の再開可能性は、訪日中のムリーノ大統領が日本貿易振興機構(ジェトロ)で投資家・実業家向けに演説した際にも話題となった。また、パナマ鉱業会議所(Camipa)などの経済団体は、雇用創出と国内経済活性化におけるドノソ銅山の重要性を強調している。
(3)フランスとパナマ・ダビッド鉄道建設計画の開発に関する意向表明に署名
 パナマとフランスは、パナマ・ダビッド鉄道建設計画の開発に関する意向表明に署名した。マルティネス=アチャ外相の立ち会いのもと、パナマ側はファールップ鉄道事務局長、フランス側はデ・アモリン在パナマ仏大使が署名した。
 本合意は、パナマの鉄道システムの開発と近代化に向けた将来のプロジェクトの基礎を築き、接続性と持続可能な輸送を改善するものである。また、パナマ・メトロに車両を供給しているアルストムなどのフランス企業とのより緊密な協力を強化することを目指している。技術的な分野では、フランス国家鉄道局が、プロジェクトの形成、開発、設計、実現可能性調査において、必要に応じて支援を行う。
 

3 パナマ運河、海事、インフラ関係

(1)ムリーノ大統領が日系企業向けに運河関係プロジェクトの説明会を開催
 ムリーノ大統領は9月3日、日本のエネルギー関係企業30社以上が参加したセミナーで、運河沿いのガスパイプライン開発・建設プロセスの開始を発表し、この事業がパナマ国内で実施される最大規模のインフラ投資の一つとなり、経済成長と雇用創出に直接的な影響を与えると説明した。予測によれば、パイプライン建設中は6,500人以上の雇用を創出し、稼働段階では約9,600人の雇用を創出する見込みである。
 またムリーノ大統領は、ガスパイプラインは、パナマが世界経済における重要国であり続けるための戦略的コミットメントであり、パナマ国民の発展を促進し、パナマ運河の持続可能性と競争力を保証するものだと述べ、建設期間中に年間5億9,000万ドル、運営段階では年間27億ドルの経済的付加価値が生み出され、パナマ経済を大幅に強化すると強調した。
 さらに、バスケス運河庁長官は、パナマ運河理事会が既に透明性と競争性を備えたコンセッション事業者選定プロセス開始をしたと発表し、このプロセスには、関心を持つ企業の事前資格審査段階、選定企業との協議段階、そして2026年第4四半期に予定されている最終的な契約授与段階が含まれると説明した。このパイプラインは、パナマ運河庁が収益多様化戦略の一環として推進する新たなエネルギー回廊における最初の主要プロジェクトであり、このロードマップには、コロサルとテルフェルスに貨物積み替えターミナルを備えた複合物流ハブの開発、ならびに新たな輸送・貯蔵インフラの整備が含まれる。
(2)ムリーノ大統領が船舶オーナー向けにセミナーを開催
 9月4日、ムリーノ大統領はパナマ船籍の利用促進に向け、日本の船舶オーナー向けにセミナーを実施した。このセミナーには関東の船舶オーナー関係者40名以上の関係が参加した。
 同セミナーで、ムリーノ大統領は、日本の船舶オーナーの約7割がパナマ船籍を利用しており、日本の船舶総トン数の41%に相当すると説明し、安全・効率・環境対策の国際基準に基づく新指針に基づき、手続き・サービスの完全デジタル化により、パナマ船籍が「未来の船籍」として台頭するだろうと述べた。
 同セミナーには、ルイス・ロケベルト・パナマ海事庁(AMP)長官とアルヌルフォ・フランコ同庁商船局長も出席。ロケベルト長官は、20世紀初頭に運河建設と並行して創設されたパナマ船籍は、パナマを船籍登録の世界的基準とし、海事史に画期をもたらしたと強調した。
 フランコ局長によると、2025年8月25日パナマ船籍登録隻数は8,821隻で、総登録トン数(GRT)は2億4,150万トンで構成されており、世界の船籍の約14%を占めている。
 また同局長は、ムリーノ大統領政権下で策定・実行された、高リスク船舶の登録抹消政策や船舶登録の厳格な検査などの新戦略により、パナマ船籍の事故は減少しており、新造船のパナマ船籍登録は前年度比13%増加していると述べた。
 さらに同局長は、パナマ船籍は他国船籍とは異なり、経済特区やパナマ運河、銀行システムなど、パナマ政府が船籍と合わせて包括的に管理しているため、一体化したサービスを提供できると強調した。(当館注:パナマ船籍に対抗するリベリア船籍は、民間企業がサービスを提供しているため、その点がパナマ船籍と大きく異なる。)
 (3)プエルト・アルムエジェス港の再開発計画
 プエルト・アルムエジェス港は、かつてバナナ輸出の拠点として栄えたが、2003年の産業衰退により地域経済は低迷していた。現在、パナマ海事庁(AMP)は、当初の漁港計画を見直し、同港を物流、観光、商業に対応する多目的港として再整備する方針を打ち出している。本計画は、プエルト・アルムエジェス港の潜在能力を再認識した上で、より堅固で戦略的なインフラ整備を目指すものである。
 第一段階では、約2,130万米ドルを投じ、全長260メートルの桟橋や貨物保管・輸送設備を整備する。これにより、これまでの小型漁船しか接岸できなかった同港は、3万~4万トン級の船舶の受け入れが可能になる。港の建設により、既に200人以上の雇用が創出されており、そのうち83パーセントは地元住民である。これは、長年の人口流出と失業問題に苦しんできた地域にとって、大きな希望である。
 今後、35~40ヘクタールの拡張が予定されており、港の機能強化と地域経済への波及効果が期待されている。また、物流の効率化を図るため、パナマ・ダビッド鉄道建設計画との連携が進められている。この計画では、パナマとコスタリカ間の鉄道システムを相互接続し、直接プエルト・アルムエジェス港への支線連結案も検討されている。これにより、内陸部と港湾を結ぶ統合的な物流ネットワークが形成される見通しである。
 中米域内のカボタージュ(沿岸輸送)制度の導入も視野に入れられており、港を起点とした産業団地の形成や、地元船主の育成、専門人材の確保が進められている。大豆加工工場や冷蔵施設の建設も計画されており、現在コスタリカ経由で輸出しているパーム油生産企業などが、新港の利用に関心を示している。これにより、港は単なる物流拠点にとどまらず、地域経済の中核としての役割を担うことが期待されている。
(4)海運業の脱炭素化に向けた国家計画を策定
 パナマは、国際海事機関の指針に基づき、海運業の脱炭素化に向けた国家計画の策定を進めている。海運庁の代行管理者アレクサンダー・デ・グラシア氏は、EUが任命したコンサルタント、アーサー・ジェームズ氏との会合において、今後5か月以内に行動計画の草案を作成し、速やかに実行に移す方針を示した。
 この計画は国家海事戦略に統合される予定であり、代替燃料分野への国際投資を促進するための規制枠組みと環境整備を目指している。EUの外部コンサルタントは、技術支援が脱炭素化への道筋を構築する上で不可欠であると強調し、現状の診断と基礎データの整備を通じて、必要な施策と方向性を明確にする意義を説明した。
 海運業の脱炭素化とは、船舶や港湾業務における化石燃料使用によって発生する二酸化炭素(CO2)やその他の温室効果ガスの排出を段階的に削減・除去することを指す。海運庁は、国際海事機関加盟国であり世界最大の船舶登録国であるパナマが、2050年までに国際海運における温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという2023年採択の目標を達成する責任があると強調した。
(4)パナマ海事庁(AMP)と韓国・釜山港湾公社が港湾分野の協力覚書に署名
 パナマ海事庁(AMP)は、釜山港湾公社(BPA)との間で、海事・港湾分野に関する覚書を署名した。署名は、韓国を訪問中のマルティネス=アチャ外相の立会いで行われた。覚書は、脱炭素化、港湾のデジタル化、港湾管理の効率化と持続可能性向上を優先分野としており、知識・経験・優良事例の交換を目的としている。
(5)メトロ3号線のトンネル工事進捗
 ムリーノ大統領は定例会見で、工事開始から1年が経過したメトロ3号線のトンネル掘削機「パナマ」が、工事最深部であるパナマ運河の平均海面下65メートルを超え、ファルファン地区とアルブルック地区を結ぶための上昇を開始したと発表した。

パナマ主要経済指標(2025年9月)