パナマ経済(2025年8月月報)

令和7年10月1日

在パナマ日本国大使館
担当:小竹書記官
                                                             
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FAX:507-263-6019

 
主な出来事
●2026年度政府予算として過去最高の349億ドルを要求
●パナマの国家リスクが40%低下
●パナマ運河の2026年度会計年度予算が承認される
●プエルト・アルムエジェス港の再生に向けた投資
 

1 経済全般、見通し、経済指標等

(1)IMFが指摘するパナマ経済の重要ポイント
 IMFは、ドノソ銅山の閉鎖による急激な経済縮小(GDP成長率が2023年の7.3%から2024年に2.9%に低下)の後、パナマ経済が回復基調にあると報告した。2025年には4.5%に回復すると見込まれ、その原動力はサービス業の回復とパナマ運河の正常化である。インフレ率はわずかにマイナスで安定している。一方で、財政赤字はGDP比3.9%から7.4%に急拡大した。IMFは政府の支出削減計画を支持しつつも、年金改革、銀行規制の強化、マネーロンダリング対策の必要性を強調している。構造的課題は依然として残っており、不平等や農村部の教育・インフラ格差、改革の遅れや世界的な政策の不確実性がリスク要因であると指摘している。
(2)パナマに対する米国の関税措置の二面性
 米国が90カ国以上に課した関税引き上げは、パナマの貿易収支に相反する2つの影響を与えている。パナマは10%の関税対象となったが、アジア諸国に課された税率よりは低く、米国バイヤーがコスト上昇に備えて在庫を増やしたことで水産物輸出が急増するなど、一時的にパナマの輸出に追い風となった。一方で、高関税の影響を受けたアジアの生産者がパナマやラテンアメリカを新たな輸出先として狙い、競争が激化するリスクがあると警戒する国内生産者もいる。アナリストは、パナマが水産物、コーヒー、紙、木材、加工食品の輸出拡大の機会を有すると見ており、全体的には比較的低い関税の恩恵が大きいと予想している。
(3)チャップマン経済財務大臣、2026年度予算案を議会で説明
 チャップマン経済財務大臣は、2026年度予算として過去最高の349億ドルを提示した。このうち111億ドルはインフラと社会プログラムへの投資に充てられる。59億ドルは教育に充てられるが、同大臣はGDPの7%を自動的に教育に割り当てるという法律に疑問を呈した。また、財政赤字の削減についえ、すでに4,888人の公務員を削減したと説明した。政府が地下鉄3号線や第4橋梁などのプロジェクトを推進する一方、一部の議員からは農業、住宅、大学への大幅な予算削減案を批判した。
(4)パナマの国家リスクが40%低下、国際金融市場へのアクセス改善
 経済財務省(MEF)は、パナマの (国際金融条件)が改善し、債務発行時のリスクプレミアムが330ベーシスポイント超から200ベーシスポイントに低下したと発表した。これは2年ぶりの低水準で、40%の減少となる。これは政府の財政安定化努力に対する投資家の信頼を反映し、国際市場における同国の信頼性を強化するものである。
 資金調達コストの低下により、パナマは学校、病院、道路、水道プロジェクトにより多くの資源を投入できるようになる。チャップマン経済財務大臣は、パナマが金融市場における評判を回復しつつある、政府の財政安定化と経済強化への取り組みに対する投資家の信頼回復を反映していると強調した。
 

2 通商、貿易、国際経済関連

(1)協力覚書の署名
 ブラジルに外遊中のムリーノ大統領は、チキータ社との間でボカス・デル・トロ県でのバナナ農園再開に向けて協力する覚書を締結した。操業再開の目途は2026年2月までとされている。
 覚書に基づき、チキータ社は操業再開の第一段階で約3,000人、第二段階でさらに2,000人を雇用する予定である。加えて、同社は約5,000ヘクタールの農地の再活性化および輸出再開に向けて、3,000万ドルの投資を行う見込みである。覚書には、政府と企業が共同で技術委員会を設置し、合意事項の履行状況を継続的に監視する体制を整えることが盛り込まれている。
 署名式にはムリーノ大統領が立ち会い、投資、生産、雇用創出のために尽力すると述べた上で、国民に向けてボカス・デル・トロ県のために取り組む姿勢を示した。政府側はモルト貿易産業大臣およびリナレス農業開発大臣が署名した。チキータ社側はカルロス・ロペス・フローレス社長が署名し、持続可能で効率的な新たな操業モデルの開始を表明した。
 モルト貿易産業大臣は、問題の原因は特定の労働組合にあるとし、同組合の行動により6,500人の雇用が失われたと指摘した。政府は企業の操業再開に向けて支援を継続する方針である。また、同貿易産業大臣は、操業再開が地域の雇用と経済の安定に寄与すると述べ、パナマの投資環境への信頼回復につながると強調し、企業に対して安全で透明性のある労働環境を保証する姿勢を示した。
 2024年4月28日から始まったストライキにより、チキータ社は操業を停止し、5月22日時点で7,500万ドルの損失が発生した。輸出できなかったバナナは270万箱以上にのぼり、損失額は1億1,000万ドルを超える可能性がある。
 (2)乳製品が危機:輸入が生産を脅かし消費者を混乱させる
 パナマの乳業は深刻な危機に直面している。2024年の米国産乳製品の輸入が1億ドルを超え、関税保護にもかかわらず国内生産を圧迫している。パナマの乳業業界のリーダーらは、関税をほぼゼロまで段階的に引き下げるパナマ・米国貿易促進協定(TPC)を批判し、乳製品の生産者・加工業者が壊滅的な状況に陥っていると表現している。また、輸入データの不透明性、消費者保護の執行力不足などを問題視している。関係者は包括的な国家酪農政策、厳格な表示規則、消費者教育、政府の強力な支援を求め、地元生産者を保護し公正な競争を確保するよう訴えている。
(3)エクアドルの次なるFTA交渉対象国はパナマか
 パナマが欧州の租税回避地リストから除外されたことを受け、エクアドル政府は、新たな租税協定として、パナマと自由貿易協定(FTA)締結先に考えていることを明らかにした。現在明らかになっている案は、サービス取引に対する課税を37%から25%に引き下げることが検討されて。ムリーノ大統領とエクアドルのダニエル・ノボア大統領は、協力を強化し貿易を促進し、パナマの目標であるOECD加盟を推進する広範な取り組みの一環として位置付けた。
 

3 パナマ運河、海事、インフラ関係

(1)パナマ運河の2026年度会計年度予算が承認される
 パナマ政府は、運河庁(ACP)の2026年度(2026年10月1日~2027年9月30日まで)の予算、52億7,200万ドルを承認した。予算には、インディオ川プロジェクトによる水資源持続可能性や、事業多角化(ガスパイプライン・プロジェクト、港湾ターミナル整備、物流回廊)、労働力開発などが含まれる。インディオ川プロジェクトは多くの国民の飲料水を確保し、運河の今後50年の運営を保証する事業だと位置づけられた。国庫納付金は2025年度比14.5%増の31億9,000万ドルを見込んでいる。さらに2億9,110万ドルが社会保障制度に拠出される。
(2)ケーブルカープロジェクトが進行
 パナマ~サン・ミゲリートを結ぶケーブルカープロジェクトは、公共交通アクセスが限られた地域における主要な大量輸送ソリューションとして期待されている。本プロジェクトは事前資格審査を完了し、入札段階へ移行し、最終的な資金調達条件をメトロ公社が経済財務省(MEF)と調整している。第一期工事では、トリホス・カルテル地区のサンタ・マルタ駅からバルボア駅までの6.6km、6駅を整備する。初期輸送能力は1時間あたり片方向2,800人で、本格稼働時は3,600人へ増加する。初期導入車両は210台で、最終段階では270台に増加する。各車両定員10~12人となる。シンクウェンテナリオ駅は地下鉄2号線と接続し都市全体の移動性を向上させる。将来の拡張では1号線及び北部地域との連結が計画されている。
(3)プエルト・アルムエジェス港の再生に向けた投資
 かつてバナナ生産に依存していたチリキ県のプエルト・アルムエレスは、2,130万ドルを投じ、35ヘクタールの多目的港湾プロジェクトによる再活性化を目指している。このプロジェクトはパーム油の輸出と、中米における戦略的物流ハブとしての機能を目指している。8月15日、現地を視察したムリーノ大統領は、建設および初期運営段階で2,000人の雇用を創出する、さらにパナマ・ダビット鉄道と連携し、地域統合が強化され貨物効率が向上すると強調した。
(4)パナマ、国際水路機関(IHO)条約加盟へ
 パナマ海事庁(AMP)は、国会においてパナマが国際水路機関(IHO)条約への加盟を承認する法案が承認されたと発表した。AMP港湾・補助海事産業局長は、パナマのIHOへの正式加盟は、海上安全、持続可能な開発、水路測量業務の近代化に対する我々の取り組みを強化する戦略的ステップであり、加盟により、国際的な技術協力にアクセスし、海図作成能力を向上させ、パナマが国際的な意思決定に積極的に参加することが可能となると述べた。
(6)バルバドス港湾との協力覚書に署名
 パナマ海事庁は、バルバドス港湾との港湾分野の協力覚書に署名した。本協力は、ブリッジタウン港とパナマ海事庁が管理する港湾の戦略的位置を踏まえ、両国の戦略的関係を強化し、それぞれの地域における貿易拠点として振興すること
 

パナマ主要経済指標(月次ベース)2025年8月