パナマ経済(2025年7月月報)

令和7年9月1日
在パナマ日本国大使館
担当:小竹書記官
                                                             
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主な出来事
●パナマが資金洗浄高リスク国リストから除外される
●コロン・フリーゾーンの拡大計画が発表される
●パナマの水産物輸出が過去最高水準
●運河庁(ACP)は2026年にコロサル港とテルフェルス港の入札を計画
●マースク社のパナマへの投資が拡大
 

1 経済全般、見通し、経済指標等

(1)パナマが欧州連合(EU)の資金洗浄高リスク国リストから除外される
 パナマ政府は、2025年7月9日の欧州議会で行われた投票で、EUのグレーリストから除外されたと発表した。パナマは2023年10月に、マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)のリストからは除外されていたが、EUのグレーリストからは除外されていなかった。
 ムリーノ大統領は、真剣な努力が認められたもので、引き続き努力し、世界におけるパナマの良好な評判を維持していく必要があると述べた。また、マルティネス=アチャ外相は、パナマは主要国と肩を並べ、多様な分野で発展を遂げる国の一つになりたいと考えており、グレーリスト脱却により投資環境は魅力的になるが、他国の投資誘致との競争は引き続き必要だと述べた。
 ムリーノ大統領は2024年7月1日に大統領に就任した後、外交チームを通じて国際キャンペーンを展開し、差別的なリストへの反対と国際イメージへの影響について海外に発信してきた。また、パナマをリストに残した国に対し、パナマの公共プロジェクトの入札に参加させないなどの報復措置を繰り返し表明していた。さらに、パナマ政府は一連の法的規制と政策改革を実施した。その結果、スペイン、イタリア、ギリシャに加え、ベルギー、オランダ、ドイツ、フランスなどがパナマの支援国となった。
 経済財務省(MEF)によると、グレーリストから除外されたことにより、パナマの金融および物流センターの競争力が高まり、EU諸国との輸出入や金融および商業取引が円滑になり、企業の投資意欲が高まることが期待される。また、国際的な資金調達へのアクセスが容易になり、さまざまなグローバルプレーヤーとの資金協力チャネルが拡大され、さらに、関係強化を目指しているメルコスール加盟国との取引が活発になり、欧州と中南米カリブ地域を結ぶハブとしての役割の重要性が増す。
 経済学者であるフランシスコ・ブスタマンテ氏は、この進展により、パナマは信頼できるパートナーとしての地位を再構築し、金融システムの中で必要な資金流動が強化され、より多くの投資とより良質な雇用が促進されることを期待していると述べた。
 また、タバレ・アルバラシーニ世界コンプライアンス協会(WCA)パナマ支部会長は、この目標の達成は、公的部門と民間部門の両方で、FATFの基準に準拠した規制枠組みの整備に取り組み、持続的な機関強化プロセスを行ったことが評価されたことを示すものだと述べた。
 さらに、キャサリン・カルドーゼ・コンプライアンス担当者協会会長は、EUの決定は透明性へのコミットメントを強化し、資金洗浄、テロ資金供与、大量破壊兵器の拡散防止のための国内制度を強化するため、公的部門と民間部門が年々取り組んできた共同の努力であると述べた。
(2)増税なしで支出を抑制し、歳入を増やす
 チャップマン経済財務大臣は2025年の経済成長率は4%となると予想を示し、ボカス・デル・トロ等での抗議行動やチキータ社の事業閉鎖などの影響にもかかわらず、従来の予想を維持した。同大臣は財政の安定化、増税なしでの歳入の増加、AIを活用した税収システムの近代化などの取り組みを強調した。財政改善策の成果として、税収の13%増、合法的な請求書発行を奨励するための財政宝くじの導入などが挙げられる。
 2026年の予算(歳出)は債務返済により増加する予想だが、政府は赤字をGDP比4%未満に削減することを目指している。同大臣は、データに基づく評価を重視し、当面の税制改革や補助金削減は否定し、鉱業再開に関しては、経済的利益と環境問題の両方を認識し、透明性と国民への意見聴取の重要性を強調した。
(3)ムーディーズは信用格付け「Baa3」を維持、バークレイは成長予想を下方修正
 米国の大手格付け機関ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、パナマのソブリン信用格付けを「Baa3」に据え置き、継続的な財政課題から投資適格格付けを維持し、見通しをネガティブとした。しかし、継続的な経済成長と、堅調なサービス業中心の経済、通貨リスクのない良好な債務構造、回復基調にあるパナマ運河からの安定した収入などは評価されている。年金改革や19億ドルの予算削減は、構造的な課題に対処する政治的意志を示している。
 一方で、イギリスの大手金融機関バークレイズ社は、政治の緊張、抗議行動、財政リスクを理由に、2025年の同国の成長予測を4.8%から3.8%に引き下げた。この下方修正は、年金改革や米国との安全保障協力問題、一連の抗議活動などを要因としたもの。財政リスクも高まっており、赤字補填のための債務発行は94億ドルと予測されている。政府は19億ドルの予算削減を承認したが、同社は、過大な歳入見通しや、法的・環境的な障害による鉱業再開交渉の遅延が、投資家の信頼とパナマの投資適格信用格付けを脅かすと警告している。
 

2 通商、貿易、国際経済関連

(1)コロン・フリーゾーンの拡大計画
 ルイーザ・ナポリターノ・コロン自由貿易地区総支配人は、2024年にコロンで新たに241社の企業が設立されたと説明し、さらに同フリーゾーンを拡大・再活性化する計画を発表した。拡大計画は今年10月に着工される予定で、4本の計画を柱としている。
 1つ目は、未使用の土地約250ヘクタールの整地と物流施設の建設によるフリーゾーンの拡大。2つ目はコンセッション契約期間の上限を設定するなど、契約内容の見直し。3つ目は労働開発省(MiTrabajo)や高等専門技術研究所(ITSE)との提携による雇用促進のための研修実施。そして4つ目はフリーゾーンでの管理に必要な手続きの承迅速化である。
 ルイーザ氏によると、本計画により、建設段階で2,625人の雇用創出が見込まれ、完成後も運営業務により2,100人の雇用が生み出させると想定される。現在、コロン・フリーゾーンでは約14,000人の労働者が働いており、そのうち70%がコロン県出身であるが、拡大計画により、コロンでの雇用がさらに増えると予想される。
(2)チキータ(Chiquita)の撤退が失業率に影響
 Chiquita Panama LLC社と Ilara Holding INC社は、パナマの労働法に基づき、経済的な理由により、労働開発省(MiTrabajo)の認可を受けて、2025年7月18日付で、正当な理由のない職務放棄として1,189人の現役従業員を解雇し、同社のパナマにおける従業員は全員解雇されたことになった。解雇された労働者は15,000人に達し、現在9.5%となっているパナマの失業率はさらなる上昇が予想される。同社の運営再開の可能性はまだ目処が立っていない。また専門家らは、ドノソ銅山の操業停止もあいまって、外国からパナマへの投資意欲が減退することを懸念している。
(3)パナマの水産物輸出が過去最高水準
 パナマの水産物輸出は2025年5月時点で92.1百万ドルという過去最高を記録した。これは2024年同期比36.9%の増加となり、水産物が同国最大の輸出産業となり、総輸出の21.1%を占めた。主な輸出先は台湾(49.6%)、米国(30.3%)、中米合計(11.1%)となっている。主要な輸送手段は海上輸送(64.6%)で、PSAパナマ国際ターミナルが最大のシェア(37.4%)を占めた。
 

3 パナマ運河、海事、インフラ関係

(1)ACPは2026年にコロサル港とテルフェルス港の入札を計画
 ホセ・ラモン・イカサ運河担当大臣は、長年待望されていたコロサル港とテルフェルス港のプロジェクトの入札プロセスが12ヶ月以内に開始される可能性があり、コロサル港は2026年半ばまでに着工する可能性があることを発表した。同大臣は、ペルー、メキシコ、コロンビアなどの地域隣国が大規模な港湾プロジェクトを推進していると指摘し、パナマの港湾インフラ拡張の緊急性を強調し、コロサル港は特に優先順位が高いと付け加えた。
 レネ・ゴメス・パナマ海運協会(Panama Maritime Chamber)ダイレクターは、同業界が雇用とGDPに大きく貢献している点を指摘しつつ、この投資がなければパナマの競争力は低下すると警告し、直ちに入札を実施するよう求めた。
(2)マースク社によるパナマへの投資が拡大
 デンマークの大手海運会社マースク社は、海運業だけでは競争力を維持できないとし、陸運・空運を合わせた複合サービスを拡大させている。同社はラテンアメリカ、北米、アジアを結ぶ集中型物流センターとして2万平方メートルの広さを誇る新物流センターをパナマで開設した。同施設はマースク社のグローバル物流ネットワークに統合されており、海運、陸上、航空のトータルサービスを提供する。また、在庫をリアルタイムで確認できる倉庫管理システムを備え、顧客システムとの統合にも対応している。
 同施設は太平洋沿岸のバルボア港とPSAの両港に接続し、トクメン国際空港やパナマ運河鉄道にも近い。さらに、保税地区であるパナマ・パシフィコに位置するため、同施設で事業を行う企業は、税制優遇措置、簡素化された通関手続きなどのメリットを享受できる。さらに、この施設では、ラベル付け、再梱包、品質管理、返品管理などの付加価値サービスも提供する。
 同社のジョン・カーマイケル・中米アンデス・カリブ海地域担当セールスディレクターは「パナマは単なる通過点ではなく、出発点。この施設により、顧客はパナマを輸送、流通、成長の戦略的ハブとして利用できる。パナマ・パシフィコを利用することで、企業は在庫を1か所に集約し、通関手続きを簡素化し、複数の市場にサービスを提供することができ、別々の倉庫を管理するという複雑な作業が不要になる。同施設は、企業がラテンアメリカで成長するために必要なスピード、柔軟性、コスト効率を提供する」と説明した。
 同社の傘下にあるAPMターミナルズはパナマ運河鉄道の買収を発表しており、本投資が加わることで、同社はパナマの物流業界でさらに存在感を高める。
 さらに同社は、子会社であるマースク・エア・カーゴ社を通じて、パナマ発着の定期航空便を就航させた。中南米カリブ地域における航空貨物需要の増加に対応し、コロンビアの花、チリのサーモン、ブラジルの製紙、および各EC企業や小売企業の小包を週2便で輸送する。同社によると、機材はアジアで飽和している航空機を転用し、パナマに運ばれた海上貨物の一部を、航空便として他国へ配送する需要もある。航空機のデータベース、Planespotterによると、マースク・エア・カーゴの保有機は全体で22機ある。
(3)パナマ港湾運営権を巡り各社が関心
 香港を拠点とするCK Hutchison社のバルボア港とクリストバル港を含む港湾管理権を米国ブラックロック社率いるコンソーシアムに譲渡する取引について、中国政府は強く反対し、中国の大手海運会社COSCO社のコンソーシアム参入を求めている。ブラックロック社とそのパートナーであるスイスの大手海運会社MSC社は、COSCO社の参加に前向きではあるが、パナマ運河周辺の港湾運営における中国の影響力が残る点については、これまで懸念を表明してきたドナルド・トランプ米大統領との緊張を激化させる可能性がある。
 また、フランスの大手海運会社CMA CGMは運河地帯の港湾とグローバルターミナルの戦略的重要性を強調し、新たに運営権取得に関心を示している。
(4)メトロ3号線のモノレール車両がパナマに全て到着
 メトロ公社は、メトロ3号線のモノレール車両について、全26編成がパナマに到着したと発表した。同事業のモノレール車両には、日本の技術が採用されている。

 

パナマ主要経済指標(月次ベース)2025年7月