パナマ経済(2025年4月月報)
令和7年6月19日
在パナマ日本国大使館
担当:小竹書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
担当:小竹書記官
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主な出来事
●IMFがパナマの成長予測を上方修正
●パナマへの観光客、前年同期比12%増加
●コロン・フリーゾーン、貿易摩擦の打撃を受ける
●会計検査院、PPCのコンセッション契約の損失を非難
●マースク社の子会社、パナマ運河鉄道会社の買収を発表
1 経済全般、見通し、経済指標等
(1)IMFがパナマの成長予測を上方修正国際通貨基金(IMF)は4月の報告書で、パナマの予測インフレ率がラテンアメリカで最も低い-0.5%であることなどから、同国の2025年における経済成長率予測を2024年10月に発表した3%から4%に引き上げた。ラテンアメリカ地域の成長率が2%にとどまると予想される中、パナマの回復力は際立っている。IMFはまた、ラテンアメリカ全体の経済成長についても触れ、アルゼンチンが成長率でリードする一方、メキシコ、ハイチ、ベネズエラは経済と貿易の課題により経済縮小が予想されるとしている。
(2)パナマの経済活動指数の回復は遅れ気味か
ムリーノ大統領は、2025年2月のパナマの月次経済活動指数(IMAE)は前年比4.6%増となったものの、完全な景気回復にはまだ不十分であると述べた。同大統領は、経済状況に対する国民の不満を認めた上で、雇用創出と成長の原動力は政府ではなく民間投資でなければならないと強調した。一方で同大統領は、道路、学校、水道設備、保健所など、2025年にすでに予算として承認されている33件のインフラ整備プロジェクトについては前倒しで実施し、早急に入札を実施し、新たなカントリー・ブランドを通じて観光を促進すると説明した。
(3)コロン・フリーゾーン、トランプと中国の貿易摩擦の打撃を受ける
米国と中国による貿易戦争はコロン・フリーゾーン(ZLC)にも影響を与え、特に中国からの貨物流入を減少させ、第1四半期の貿易総額は15.1%減少した。一方で、米国での不確実性を回避するため、米国にある物流拠点をZLCへ移行すること検討する企業もいる。ムリーノ政権は、インフラの改善、国際プロモーション、外国人向けの新しいビザ制度、コロン空港付近の107ヘクタールに及ぶ開発など、物流機能を強化する計画などに取り組んでいる。
2 通商、貿易、国際経済関連
(1)鉱山会社、パナマ政府の対応を評価ムリーノ大統領は、操業停止中のドノソ銅山に関し、同銅山はパナマとその国民に属すると主張し、国家主権を確保するパートナーシップを形成する可能性を認めた。この提案は、銅山再開協議を待つファースト・クォンタム社から評価された。また、政府がプロジェクトの監査を開始し、関係企業との協議準備を進めていることを明らかにした。一方で環境保護団体は、採掘再開の試みであるとし、過去に意見判決を出した最高裁判所の判決や市民の反対に違反すると警告した。ファースト・クォンタム社は現在、パナマ政府に対する総額200億ドルを超える国際仲裁請求を一時停止しているが、合意に至らなければ仲裁手続きを再開する可能性がある。
(2)パナマ、天然ガスを求めて地質調査を実施
フアン・ウリオラ・エネルギー庁長官によると、政府が主導しているバイオエタノール混合プログラムは、5月に最終合意する予定である。当地主要紙ラ・エストレージャとラジオ局ラディオ・パナマが主催したフォーラムで、ウリオラ長官は、砂糖生産者と燃料輸入業者の双方が、燃料混合率を10%とする案を検討していると述べた。二酸化炭素排出量を削減し、パナマのカーボン・ネガティブを維持することを目的としたこのプログラムは、2026年に実施される予定である。ムリーノ大統領は以前、この計画を発表し、5年間で3万人以上の雇用を創出し、4億ドルの投資を呼び込み、地方経済を活性化し、輸入化石燃料への依存を減らすと説明していた。
(3)パナマへの観光客、前年同期比12%増加
パンデミックから5年が経過し、中米とカリブ海諸国の観光業は明暗が分かれている。ドミニカ共和国が1月に110万人の観光客を記録し、ホテル稼働率は83%で首位に立つ一方、コスタリカは通貨高と欧米からの便数減少が原因で5ヶ月連続の減少に直面している。パナマは、1月の観光客数が22万人を超え、前年同期比12.2%増加となった。年間の観光客数は310万人と予測されている。一方で、パナマ市以外への観光誘致など、依然として課題は残っており、最近ではボカス・デル・トロ県などで行われている抗議活動による観光業への影響が懸念される。
(4)トクメン空港、利用客が順調に増加
2025年第1四半期におけるトクメン国際空港の旅客数は4,963、689人に達し、前年同期比8%増となった。同空港の1日平均利用者数は、2つのターミナルを合わせて55、000人となっている。航空輸送量は7%増の39,801便で、貨物輸送量も前年同期比で12%増となった。トクメン空港には現在、民間航空会社12社と貨物航空会社16社が就航している。
(5)マースク社、クリーン・エネルギーへの投資戦略を説明
ロドリゲス・マースク社エネルギー・トランスポーテーション執行役は、パナマの物流事業について、大洋間の距離が約85kmと短く、パナマ運河を有し、さらに港湾インフラが発達しているという利点を強調した。また、パナマではクリーン・エネルギーへの投資機会が拡大しており、これは物流事業における重要な差別化要因となり得ると説明した。
具体的には、LNG燃料や電気自動車への移行がロジスティクスにおいて最も重要な差別化要因のひとつとなり、パナマは国土が狭く、標高差が少ないことから、電気トラックに適した環境だと指摘した。他国の事例として、チリで85台の電気トラックを導入し成功している物流業者の例や、ウルグアイにおけるクリーン・エネルギー事業への税制優遇制度の成功事例を紹介した。
一方で、水素による輸送の可能性については懸念を示し、電気トラックはすでにディーゼル車と比較してもコスト競争力があるのに対し、水素が法外に高価であるため、現状では水素による輸送より電気トラック輸送を優先すべきだと説明した。
(6)BASF社が蓄電池の必要性を強調
ニコラス・カラスコ・BASF社エネルギー・ストレージ部門担当は、太陽光や風力のような再生可能エネルギー源は断続的であるため、継続的な電力供給を確保するためには効率的なエネルギー貯蔵が必要となると指摘し、蓄電池の必要性を訴えた。ドイツのグローバル企業である同社は、日本ガイシ社と共同開発したナトリウム・硫黄電池(NAS)を主力に、農業、医療、産業機械など様々な分野で重要な役割を果たしている。
NASは20年以上の歴史があり、全世界で800MW以上の設置実績がある。また、NASは20フィートコンテナで配送されるため、輸送や設置が容易である。さらに、原材料は硫黄とナトリウムで、資源は豊富にありコストも安定している。これらの材料は再生利用も可能である。
同氏は、電気自動車や再生可能エネルギーの普及が進み、送電網に負荷がかかる中、余剰発電量を貯蔵し、必要に応じて放出するなど調整必要となると説明し、NASの導入により、送電網の不可を軽減することができると強調した。
3 パナマ運河、海事、インフラ関係
(1)米国と中国の貿易摩擦の影響を受けるパナマ運河と港湾事業バスケス運河庁(ACP)長官は、中国の商船や貨物に何らかの課徴金が適用されれば、世界の海上輸送に影響を及ぼす可能性があると指摘した。米国の追加関税の発表を受けて、4月までは駆け込み需要としてコンテナ船や完成車輸送船(RoRo船)の運河通航が増えたが、LNG輸送船は影響が出始めている。中国はすでに米国のLNG購入を停止した。さらに、追加関税により中国から米国への輸出が減少すれば、コンテナ船の輸送が減少するリスクがある。
一方で一部の企業は北米の在庫をパナマのフリーゾーンに移す検討を進めており、パナマの物流にとってはチャンスでもある。モルトー貿易産業相は、輸出先の多角化を検討する良い機会だと述べ、北米ではなく、EUやアジアなどの市場開拓を積極的進めていくべきだと強調した。
(2)PSA社、CKハチソン社の株式20%を売却へ
米中関係の懸念から港湾部門の力学が変化する中、シンガポールを拠点とするPSAインターナショナル社は、同社が保有するCKハチソン社の株式20%の売却を検討している。CKハチソン社は、パナマのバルボア港やクリストバル港を含む港湾事業の資産売却について、ブラックロック社と交渉中である。PSA社はシンガポールの政府系ファンド、テマセク社が全額出資する会社で、45カ国で70のターミナルを管理している。
(3)会計検査院、PPCのコンセッション契約の損失を非難
パナマのフローレス会計検査院長は、パナマ港湾会社(PPC)の利権がパナマ史上最大の財政損失である可能性があると非難した。同氏は、2002年に延長された契約がPPCを優遇し、納税義務の免除を認めていたため、24年間で12億ドル以上の損失を被ったことを会計監査で明らかにした。また同氏は、他の港湾コンセッション契約も監査される予定だと述べ、2010年以来、コンテナ取扱料の更新を怠ってきた海事庁を批判した。
(4)マースク社の子会社、パナマ運河鉄道会社の買収を発表
大手海運会社マースク社の子会社であるAPM Terminals(APMT)は、パナマ運河鉄道会社(Panama Canala Railway Compnay、PCRC)をCanadian Pacific社とLanco Group社から買収したと発表した。パナマ運河鉄道会社は、パナマ運河に隣接する76kmの単線鉄道を運営しており、主に大西洋と太平洋の間のコンテナ貨物輸送に従事している。2024年のPCRCの収益は7,700万米ドルであった。
APMTのCEOであるケイス氏は、「パナマ運河鉄道は、当社(APMT)の中核サービスである複合一貫輸送に合致し、この地域における魅力的なインフラ投資である。同社(PCRC)はその卓越したオペレーションで高く評価されており、当社(APMT)がサービスを提供する世界の海運顧客に、より幅広いサービスを提供する重要な機会を提供するだろう。」と述べた。
(5)ウリオラ・エネルギー庁長官、エネルギー政策を説明
フアン・マヌエル・ウリオラ・エネルギー庁長官は、ProPanama(輸出投資促進庁)の講演会で、化石燃料への依存を減らし、エネルギー効率の改善やクリーン・エネルギー事業への投資誘致を積極的に進めていると説明し、大規模な再生可能エネルギープロジェクト、特に太陽光発電、風力発電、水力発電を開発するため、官民パートナーシップ(PPP)を推進すると述べた。
また、最も野心的なプロジェクトのひとつとして、パナマとコロンビアを結ぶ送電線を挙げ、エネルギー貿易と効率性を強化し、中米のエネルギーハブとなり、地域の持続可能性を促進するという戦略を紹介した。
さらに電気自動車の促進についても触れ、電気自動車の導入を促進するための免税措置や、充電ステーションへの補助金、電気バスや地下鉄を含む公共交通機関の電化拡大を検討していると明らかにした。
(6)パナマ・ダビッド鉄道建設計画:英国との協議
大統領府鉄道事務局は、本年1月にパナマと英国の間で署名された覚書に基づく二国間作業部会の活動として、英国大使館、英国輸出金融公社(UKEF)、およびAECOM(当館注:往電第113号参照)と会合を開催し、UKEFは、2段階の資金調達案を提案した。まず、EPSG(Early Project Services Guarantee)として調査、エンジニアリング、環境影響、ストラクチャリングのための初期資金の提供を台1段階とし、バイヤーズ・クレジット・ファシリティによる建設段階の最大85%をカバーする商業クレジットを第2段階とした。
また、英国は、AECOM、ARUP、Siemens、日立、CAF、Mott MacDonaldなどのグローバル企業の支援による、設計、建設、設備の提供から運用、保守に至るプロジェクトのライフサイクル全体をサポートする計画を共有した。この協力体制は、次回の作業部会や運用段階の基礎を築き、地域に影響を与える近代的で持続可能なインフラ開発に対するパナマの取り組みを再確認し、国際的な企業との技術面および資金面での協力の新たな可能性を開くものである。
(7)パナマ海事庁とドミニカ共和国港湾局が協力覚書に署名
11日、パナマ海事庁(AMP)とドミニカ共和国港湾局(APORDOM)は、米国フロリダ州マイアミで開催されたSeatrade Cruise Global International trade fair(クルーズ国際見本市)において、協力覚書(MOU)に署名した。署名は、ルイス・ロケベルトAMP長官とジャン・ルイス・ロドリゲスAPORDOMエグゼグティブ・ダイレクターによって行われた。
本覚書は、港湾管理、物流、港湾運営における技術的発展とベストプラクティスの共有を促進することを目的としている。本協力により、両機関はサービスの質を向上させ、共同研修プログラムを開発し、港湾部門における戦略的な情報を共有するための技術ワーキンググループの設置が可能となる。また、本覚書は、パナマが海事分野における世界的なベンチマークとしての地位と、国際海事機関(IMO)のカテゴリーAメンバーとしての重要な役割を果たしていることを強調するものであり、両国の関係における画期的な出来事である。
本合意は、国連2030アジェンダの持続可能な開発目標17に沿ったものであり、両機関における海上輸送と地域経済の持続可能な発展への取り組みを強化するものであり、パナマとドミニカ共和国との協力は、港湾開発、地域統合、より効率的で近代的かつ強靭な海事部門への取り組みである。
パナマ主要経済指標(月次ベース)2025年4月