パナマ経済(2025年3月月報)

令和7年5月26日
在パナマ日本国大使館
担当:小竹書記官
                                                                                                                
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主な出来事
●2024年の経済成長率は2.9%
●米国ファンド、ブラックロック社、ハチソン・ポーツ社の買収を発表
●米国関税の影響を懸念
●Expocomer出展企業の15%が中国企業
 

1 経済全般、見通し、経済指標等

(1)2024年の経済成長率は2.9%
 パナマの2024年の経済成長率はわずか2.9%に留まり、2022年の10.8%、2023年の7.4%から大きく失速した。失業率は9.5%に上昇し、失業者は5万人増加し、非正規雇用率も増加した。ドノソ銅山の操業停止を受け、鉱業部門が大きく後退したほか、建設業も減速した。専門家は、同国経済にとって失業が最大の懸念事項であると主張し、投資の強化、経済の多様化、法的安定性、輸出拡大、技術革新、公共支出の効率化を促進する政策を求めている。
(2)ムーディーズ、パナマの財政悪化と信用リスクを警告
 ムーディーズは、財政赤字の悪化と2024年の債務増加により、パナマの財政危機が著しく高まっていると警告し、同機関はBaa3の格付けをネガティブな見通しで維持した。同機関は、2024年の財政赤字がGDPの7.4%に達し、歳入と徴税収が大幅に減少したことを懸念し、信用悪化を食い止めるためには財政再建と政策改革が極めて重要であると強調している。しかし、ムリーノ大統領政権は、与党の過半数割れやパナマ運河をめぐる米国との緊張などの課題に直面しており、さらに、ドノソ銅山に関する訴訟が続き、不確実性が増している。
(3)パナマの経済的自由度が上昇、課題も残る
 パナマは2025年の経済自由度指数で65.5ポイントを獲得し、中程度の自由経済に分類される世界第56位となった。一定の進展は見られるものの、さらに経済自由度を改善するためには、法の支配、透明性、効率性を強化する必要があるという課題がある。評価対象となった184カ国の中で、パナマはチリ、ウルグアイ、コスタリカ、ペルーなどに次いでアメリカ大陸で10位、ラテンアメリカで5位にランクされている。パナマの最高得点は租税負担(86.9)と貿易の自由(78.6)であり、最も弱い分野は司法の効率性(37.0)であった。
 

2 通商、貿易、国際経済関連

(1)メルコスールの枠組みでブラジルと調整
 パナマはメルコスールの枠組みの中でブラジルと部分的な貿易協定を締結しようとしているが、パナマは現在ブラジルのタックスヘイブン(租税回避地)に指定されており、ブラジルはパナマへの支払いに高い源泉徴収税を課しているため、貿易協定の交渉は容易ではない。この問題に対処するため、パナマはブラジル側に二重課税を回避するための条約の改正を求めている。
(2)米国関税の影響を懸念
 米国は依然としてパナマ最大の輸出先であるが、米国への輸出品に関税が課された場合、コスト上昇を招きパナマ産製品の競争力に打撃を与える可能性がある。主に農産物や水産物が米国向け輸出の19.1%を占めており、影響が大きい。一方で、ドイツやスペインがパナマ製品の輸入拡大に関心を示しており、パナマは欧州向けの市場で輸出機会の拡大を模索している。
(3)Expocomer出展企業の15%が中国企業
 3月25日から27日までの3日間、パナマ・コンベンション・センターでパナマ商工会議所が主催するExpocomer2025が開催され、41カ国から845社が参加し、来場者は31,415人となった。ホテル宿泊数は述べ10,000泊を超えた。ビジネスマッチングの接触は20,000件を超え、195百万ドルの取引が成立した。また、全出展企業のうち約11%にあたる90社が中国企業で、スマート・セキュリティ、家庭用品、繊維製品、エレクトロニクス、ドローンなど、さまざまな分野にまたがり出展した。
(4)パナマのコーヒー農園がランキングで世界一に輝く
 パナマはスペシャルティコーヒー生産の世界的リーダーとしての名声を高め続けている。3月21日に発表された、世界的なグルメサイト、テイスト・アトラスの最新ランキングで、パナマの3農園が世界のトップコーヒー生産者の仲間入りを果たした。ボケテのアシエンダ・ラ・エスメラルダは、滑らかでフローラル、そしてフルーティーなアラビカ豆で有名で、第1位の座に輝いた。ボルカンにある2006年創業のナインティ・プラス・ゲシャ・エステーツが3位、ボケテの火山高地にある1919年創業のフィンカ・エリダが4位となった。このランキングは、パナマのスペシャルティコーヒーの品質を証明している。
 

3 パナマ運河、海事、インフラ関係

(1)米国ファンド、ブラックロック社、ハチソン・ポーツ社の買収を発表
 米国ファンドのブラックロック社は、スイスの海運会社MSC社とコンソーシアムを組み、CKハチソン社の傘下にあるハチソン・ポーツ社の買収を決定したと発表した。同社の運営している43港の権利は推定220億ドルでブラックロック社のコンソーシアムに売却される見込みとなった。
 売却の背景には、過去5年間で市場価値が40%下落したCKハチソンの財務的苦境や、政治的圧力、特に港湾分野における中国の影響力を縮小しようとしたトランプ米国大統領下の圧力がある。今回の売却には、パナマのクリストバル港やバルボア港など、パナマの経済にとって重要な港が関わっている。
 MSC社は子会社のターミナル・インベストメント・リミテッド(TIL)社を通じて主要な港湾に対する支配力を強化し、世界的な物流における優位性をさらに強固なものにすることになる。
(2)マースク社はハチソン・ポーツ社の買収による影響を注視する
 パナマ運河及びパナマ港湾の最大の利用者であるマースク社は、ブラックロック社及びTIL社コンソーシアムによるCKハチソン社の港湾権益の買収を注視しており、同社の物流ネットワークへの影響を分析している。バルボア港とクリストバル港の主要な利用者であるマースク社は、「我々は、ハチソンとブラックロック間の取引について注視している。現段階で結論を出すのは時期尚早であり、物流ネットワークの継続的な完全性を確保するため、影響の評価に注力している。」と述べた。
 業界アナリストによると、マースク社は別の港湾への移転や独自の港湾開発などの代替案を検討する可能性がある。過去に検討された選択肢の中には、2016年にパナマ運河庁(ACP)が推進したコロサル港プロジェクトがある。同プロジェクトは最終的に実現しなかったが、マースク社も入札に参加した。また、マースク社はパナマにラテンアメリカ地域統括拠点を設置しており、パナマの港湾接続性に対する戦略的重要性を認識している。
(3)新たな太平洋側の港湾開発
 ムリーノ大統領は、「パナマは太平洋を横断する貿易の中継拠点としてその機能を拡大する必要があり、港湾施設の整備に取り組みたい。パナマ運河を通航する船舶があることは、パナマにとって大きなチャンスである。」と述べ、コロサル港について、パナマ運河の運用のために必要不可欠であり、必要であれば、政府はあらゆる支援を行うと強調した。
(4)北京条約に署名
 ムリーノ大統領は、米国テキサス州、アラバマ州、カリフォルニア州、アイオワ州、アイダホ州の連邦議会議員と会談し、パナマ運河に関する問題について意見を交わした。また、国連本部(ニューヨーク)で、北京条約として知られる「外国での船舶の裁判上の売買の承認に関する国際条約(the United Nations Convention on the International Effects of Judicial Sales of Ships)」に署名し、32番目の署名国となった。
 本条約は、2022年に国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)によって採択され、船舶売買の国際的手続きの枠組を確立するもので、法的リスクを最小限に抑えながら法的所有権を確保し、購入者、投資家、債権者に利益をもたらすものである。
 パナマは、世界最大の船舶が登録(8,800隻以上)されており、船舶登録への信頼を強化するもので、パナマへの主な利益は以下のとおりである。
 ・法的手続きによる売買の確実性と透明性の向上
 ・債権者の権利の保護と適正な売却の分配
 ・船舶所有権をめぐる訴訟の減少
 ・所有権移転の合理化と海上貿易の強化
 また、本条約では、所有権の証明として「売却証明書」の発行や、国際海事機関(IMO)による情報リポジトリの創設など、透明性の確保が規定されている。条約への署名により、パナマの現行法が補完され、国際基準に適合し、世界的な海事産業における同国のリーダーシップが強化される。
(5)サンミゲリート市を結ぶケーブルカープロジェクトの進捗
 パナマ・メトロ公社は、パナマ市とサンミゲリート市を結ぶケーブルカープロジェクトの入札手続きにおいて、2つのコンソーシアムから関心の表明があったと発表した。そのうちの1つはパナマ、メキシコ、ドミニカ共和国のコンソーシアム、もう1つはスペインとオーストラリアのコンソーシアムであった。
 オリジャク大統領府大臣は、本事業は、人口密集地域の生活の質を向上させることを目的とし、ムリーノ大統領の主要な選挙公約の一つであると強調した。また、本プロジェクトは、サンミゲリートとパナマの住民にプラスの影響をもたらし、メトロ2号線と接続するとともに、パナマにとって初めて導入される近代的なシステムであり、約24ヶ月で運用を開始出来る見込みであると述べた。
(6)メトロ3号線プロジェクトの進捗
 トンネル部は全長4.5キロメートル、直径13.5メートルであり、1日あたり8メートルの速度で掘削作業が進んでいる。掘削箇所には、延長2メートルのリングが設置され、1つのリングは9つのパーツで構成される。これまで340のリングが設置されており、680メートルのトンネル建設に相当し、トンネル部の工事進捗は15%である。パナマ・パシフィコ駅からシウダ・デル・フトゥーロ駅までの高架区間(延長18.5キロメートル)は、75%が完成している。駅はすべて建設中であり、シウダ・デル・フトゥーロ駅が85%の進捗率で最も進んでおり、サン・ベルナルディオ駅の69%、ヌエボ・アライハン駅の61%、ビスタ・アレグレ駅の58%がそれに続いて進捗している。車両基地は、変電所、テストラインが完成し、96%の進捗である。車両は、17編成が組立とテストの段階にある。今年の後半までに、メトロ3号線の26編成すべてがパナマに到着し、その後、ビスタ・アレグレ駅までの最初の走行試験を開始する予定である。

パナマ主要経済指標(月次ベース)2025年3月