パナマ経済(2023年11月報)

令和5年12月12日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●ムーディーズはパナマのゾブリン格付を「安定的」から「ネガティブ」に格下げ
●パナマ最高裁判所は法律406号に対し違憲判決を下す
●パナマ運河庁は水質問題にかかる新たな通航予約枠制限措置を発表
●PPP方式で行われる第四送電線事業は1月に入札を開始
 

1.経済全般、見通し等

(1)ムーディーズはパナマのゾブリン格付を「安定的」から「ネガティブ」に格下げ
10月31日、米国大手格付会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、パナマの政府長期発行国債(担保有り及び無し)の格付けを「Baa2」から「Baa3」に引き下げた。ムーディーズは変更理由として、「長期的に増加している構造的な財政課題に対する効果的な政策対応の欠如、中央政府の脆弱なガバナンスと財政政策の有効性低下を示す状態にある」という分析を発表した。
 11月9日、米国格付会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は銅生産にかかる新契約を巡る危機により、パナマのゾブリン格付のアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に格下げした(投資適格はBBB)。同社は「コブレ・パナマ鉱山を運営するファースト・クアンタム社の子会社であるミネラ・パナマ社との銅生産にかかる新契約をめぐる抗議活動や道路封鎖により生じる投資家の信頼喪失及び将来の民間投資への潜在的な損害リスクを反映した」と発表した。
 
(2)国際銀行センターの銀行預金残高は増加傾向
パナマ銀行監督局(SBP)によると、2023年9月末時点で国際銀行センターの銀行預金残高は1,005億1,600万ドル(前年同期比3.8%増)、内訳別では国内預金が617億9,200万ドル(同0.8%増)、外国預金が387億2,400万ドル(同8.8%増)となったと発表した。外国預金の国別シェアでは、コロンビアが22.2%(85億9,900万ドル)でトップである。SBPによると、パナマは地域内で政治的混乱がある国からの資本の避難所(国内市場の信頼の表れ)となっていると述べた。
 
(3)国難のなかでの財政赤字GDP比4.75%(2023年9月末迄)
経済財務省(MEF)によると、非金融公共部門の累積赤字は2023年9月末時点で39億3,240万ドル(前年同期比▲4億690万ドル)に達し、名目国内総生産(GDP)の4.75%に相当することを明かした。財政社会責任法の遵守には、本年上限3%が定められているが、既に厳しい状態となっている。
 
(4)政府は2024年までに国家一般予算を削減
20日、アレグザンダー経済財務大臣は2024年度一般国家予算案が当初予算(327億5400万ドル)よりも大幅に減額される見通しであると発表した。アレクサンダー大臣は、「パナマの変化し続ける現状を考慮して、様々なシナリオをもとに評価を行い、当初予算案からの減額が相当と判断した。来年度は補助金等の給付は大幅に削減する」と述べた。
(5)パナマ国債が下落、最高裁判決後の最初の影響
29日、ブルームバーグ社によるとパナマ国債(2036年満期)は前日比4.1%下落したと発表した。同社は「今後、パナマが債券発行など国際資本市場に依存し続けると、パナマの資金調達モデルに重大な問題が発生する可能性がある。既に英国投資会社バークレイズ社はパナマ国債(2028年及び2036年満期)について損切りしてでも早期の売却を推奨しており、今後も価格下落が続く可能性及びパナマが投資適格の喪失により急落を招く危険性を指摘している。」と述べた。
 

2.経済指標

(1)パナマ民間企業評議会は17億ドルの経済損失を受け道路封鎖解除を主張
14日、パナマ民間企業評議会(CONEP)は、これまでの今次内政危機による国内経済損失は17億ドル(うち、一次産業で1億5,000万ドル)であり、国内の中小零細企業の10%が閉鎖に追い込まれ、1万5,000人の雇用が失われたと発表した。具体的には、チリキ県の道路封鎖だけでも生産地から消費地への輸送がストップして、立ち往生したトラックは1,500台に上り、大量の農作物が販売できず廃棄された。
 
(2)観光産業は2億ドルの損失
パナマ・ホテル協会(Apatel)によると、先月からの国内での激しい抗議活動により、2024年1月までに訪問を予定していた68,000人以上の観光客がキャンセルとなり、ホテル業界では既に13百万ドルが損失している。今後の機会損失なども含まれると、合計2億ドル以上の損失になると考えられる。祝日の予約キャンセル状況は、チリキ県で約90%、ボカス・デル・トロで60%、サンタ・カタリナで90%、エルバジェ・デ・アントンでほぼ100%となっている。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)パナマ最高裁判所は法律406号に対し違憲判決を下す
28日、パナマ最高裁判所は政府とミネラ・パナマ社との銅生産にかかる新契約の根拠法法律406号に対して違憲判決を下した。コルティソ大統領は当該判決を尊重し、ミネラ・パナマ社が運営するコブレ・パナマ銅山を閉山することを発表した。
最高裁判所(CSJ)判決直後、米国投資銀行JPモルガンは、「パナマは中期的な成長及び財政状況の見通しに重大なマイナス影響が生じる可能性が高い。先行きは不透明で、2024年5月の選挙まで不透明な状況は長引く可能性もあるが、既にパナマ経済はダメージを受けていると言って良い。ただし、これはほんの始まりにすぎない。契約更新が困難な場合、ファースト・クアンタム社は国際仲裁に訴える可能性が高く、政府が数十億ドルの責任を問われる可能性もある(パナマ・カナダ間のFTA第8条に基づく)。また、銅山が永久閉鎖となれば、パナマが各機関からの信用格下げを受け、急速な財政悪化が見込まれる」と投資家向け分析で報告した。
 
(2)政府はミネラ・パナマ社からの一部ロイヤリティ及び税金を受領。その後、制限口座保管を発表
16日、政府はミネラ・パナマ社から5億6,700万ドル(2021年12月~2023年10月の操業にかかるロイヤリティ及び税金で年末までに総額7億7,000万ドルを想定)の受領とパナマ国立銀行の制限口座への保管を発表した。当該発表は法律406号に基づくものであり、当該法律により契約締結後の30日以内に支払いが義務付けられている。コルティソ大統領は、「現在、最高裁判所の判決を待っていることを考慮し、受領した金額を使用できないよう、経済財務省(MEF)に対して制限口座への保管を指示した」と説明した。
 
(3)2023年10月のパナマ発着入国者数は15.48%減少
トクメン空港公社によると、2024年10月のパナマ出入国者数は408,556人(前年同月比15.48%減少)、トランジット含めた空港利用者数は153万人(トランジット率73%)となり、厳しい内政状態を反映して入国者数は減少に転じた。パナマ観光会議所(Camtur)会長は、「外国人観光客によるホテル予約キャンセル、イベント中止、一部のクルーズ船入港中止、更には潜在的に海外旅行や国内観光を計画していた多くの人々が見合わせをした。年末年始のパナマの観光産業は極めて厳しい状況に直面している。」と述べた。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマ運河庁は水資源問題にかかる新たな通航予約枠制限措置を発表
10月31日、パナマ運河庁(ACP)は運河を通航する顧客(船会社)に対し、2023年11月~2024年2月まで有効な予約スロットを段階的に減少させる新たな措置を発表した。1日あたりの通航予約数に関しては、10月迄は32隻、11月30日迄は24隻、12月1~31日は22隻、2024年1月1~31日20隻、2024年2月1~29日は18隻となる。ACPは当該措置適用の背景に関して、「2023年10月の運河流域の降水量は前年比41%減であり、過去73年間の観測史上で最も乾燥した月になった。運河庁は喫水対策や通航制限などあらゆる対策を講じてきたが、ガツン湖やアラフエラ湖は水位が戻らず深刻な影響を受けている。」と説明した。
11月28日、ACPは、「現在の予測に基づき、パナマ運河は、2月までに1日の通航隻数を18回に漸減させることが、今後の乾季における首都圏生活用水とパナマ運河事業継続性を確保するために必要であると判断している。ACPはこれまで同様に船舶の航路選択を可能にできるように(船舶の出発までの)十分な時間を確保して事前に通知する」と発表し、より厳しい通航隻数制限の適用を示唆した。
 
(2)エルニーニョ現象が国内の飲料水サービスに及ぼす影響
国立上下水道局(IDAAN)はエルニーニョ現象が国内の飲料水サービスに及ぼす影響を最小化する措置として、以下3点を発表した。
ア.少雨となる乾季(12月以降)の飲料水サービスを保証するため1,000万ドルを投資し、パナマ市に給水するチリブレ浄水場用に浮体式ポンプを設置して集水の改善に取り組む。
イ.漏水修理能力を3倍以上に増強し、水道管の破裂を回避するための圧力調整弁を設置する。
ウ.水の合理的な使用について住民の意識を高める節水キャンペーンを実施する。
 なお、ベルサ・オルメド・パナマ気象水文研究所副所長によると、「これまでのエルニーニョ現象の年の降水パターンによれば、乾季は例年より早く(12月中旬)到来し、2024年6月まで続く可能性ある。現在でもガツン湖及びアラフエラ湖の運河流域で十分な降雨となっておらず、水位が十分戻っていない。私たちは水問題に対して短期的な解決法を持ち合わせていない危機的な状況にある」と述べた。また、9日、米国海洋大気庁(NOAA)のエルニーニョ・南方振動(ENSO)診断討論会はエルニーニョ現象が2024年4月から6月のあいだに62%の確率で北半球の春まで続くと発表した。同時にパナマ気象水文研究所は、エルニーニョ現象が2023年11月から2024年1月のあいだに「強い」強度に達する可能性が高いと警告した。
 

5.インフラ関連

(1)PPP方式で行われる第四送電線事業は1月に入札を開始
 地元メディア「ラ・プレンサ」紙が報じたところによると、国営送電公社(ETESA)のカルロス・モスケラ社長が記者との会談において、PPP方式で行われる第四送電線事業は1月に入札を開始し2027年から2028年の間に稼働する計画である述べた。また、プロジェクトの現状としては、PPP事務局(Snapp)と調整しており、フィージビリティ・スタディ、入札書類、PPP契約を含む最終技術報告書(Informe Técnico Definitivo)が最終段階であると説明した。
 
(2)生活インフラの不足状況
 地元メディア「ラ・プレンサ」紙が報じたところによると、第12回国勢調査および第8回住宅センサスの結果、1,221,528戸の居住者がいる住居のうち、65,379戸(5.4%)は土間があり、60,679戸(5.9%)は屋内に飲料水が供給されておらず、電気は58,032戸(4.8%)で不足し、衛生サービスは44,465戸で受けられていない。また、72,000戸強(6%)はもっぱら薪を使って調理が行われている。ゴミ収集サービスは24.1%の戸が利用できていない。

パナマ主要経済指標(月次ベース)