パナマ経済(2023年9月報)

令和5年10月7日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●金利上昇にもかかわらず貸出ペースが加速
●フィッチは、パナマのアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ
●リオ・インディオの貯水ダム建設は890百万ドルを要する
●パナマ運河通航料金に係る上水サーチャージの変更
●パナマ首都圏都市交通3号線整備事業のトンネル掘削機がパナマに到着
 

1.経済全般、見通し等

(1)金利上昇にもかかわらず貸出ペースが加速
パナマ銀行監督局(SBP)の銀行業務報告書によると、2023年7月の与信ポートフォリオは59,783.8百万ドル(前年同月比5.2%増、2,934.9百万ドル増)と発表した。内訳別増加率は、それぞれ、企業への融資が11.1%増、商業が2.7%増、金融サービス業務が8.8%増、自動車ローンが4.3%増、個人ローンが3.4%増、クレジットカードローンが0.11%増であった。エコノミストによると、「パナマ国内市場の金利は上昇しているが、米国や他の地域の国々で記録された金利上昇に比べれば、その割合は相対的に小さい。預金の大部分が定期預金であることに加え、受動的な金利の変動がないため、貸出金利はある程度安定しており上昇幅は緩やかである。」と分析している。
 
(2)自動車購入のためのローンは増加傾向
SBPによると、2023年7月の自動車ローンの平均金利は7.63%と上昇傾向であったが、2023年7月末時点の全国銀行システムの自動車ローン残高は1,826.5百万ドル(前年同月比4.3%増、2019年比3.2%増)に達したと発表した。また、県別にみると、パナマ県が自動車ローンポートフォリオ全体の72.1%(約1,317百万ドル)、次いで、チリ県が10.4%(190百万ドル)となっている。国立統計センサス局(INEC)によると、2023年1~5月までの国内の新車販売台数は20,585台(前年同期比23.7%増)となった。
 
(3)GAFI査察団の受け入れ
経済財務省(MEF)によると、金融活動作業部会(GAFI)査察団が9月上旬に来訪してパナマ国内関連施設への3日間の立ち入り調査を実施した。アルメンゴル経済財務次官以下、MEF関係者が立ち会っているが、調査項目・内容などは機密事項として取り扱われており、開示されていない。MEFは今後の見通しとして、GAFIは10月27日に部会内「極秘会議」を実施し、国際協力審査部会(ICRG)に報告書提出を行う予定である。そして、当該内容を基に、グレーリストから除外されるに値するかどうかを決定すると発表した。
 
(4)BANESCO(銀行)は建設債券を巡る「不適切な」執行でパナマ政府を提訴
スペインのメディア『El País』紙によると、Banesco Holding Latinoamerica,S.A 及び、パナマ子会社のBanesco S.A.は、住宅省及び教育省などの一部の公共機関が返済期限を守らず、建設債券を不適切に発行・執行したことを理由に国際仲裁請求を提出したと報道した。訴状のなかでBANESCOは、場当たり的な公共機関の債券の発行は、公共調達を規制する2006年法律第22号に違反し、バネスコ・セグロス・パナマ社に関連する損失と費用をもたらす可能性があると主張している。
 
(5)パナマ銀行監督庁がアトラス銀行の経営権を取得
15日午後2時をもって、パナマ銀行監督庁(SBP)はアトラス銀行(Atlas Bank, S.A.)の管理・運営権を取得したと発表した。同行は、有効預金や証券などの正常資産に関する証券会社ナショナル・アドバイザーズ・コーポレーション(NAC)へのエクスポージャーが91%となり、現在パナマ証券監督庁(SMV)の監督下にあるNACの資産保全及び健全な資産アクセスの観点から買収が決議された。アトラス銀行は2016年12月にSBPが発行した一般銀行免許を取得しており、国内外での銀行業務を認可され、事業運営を行っている。
 

2.経済指標

(1)フィッチは、パナマのアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ
28日、米国格付け会社のフィッチ・レーティング社がパナマのアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ、ゾブリン格付けをBBB-に据え置いた。他方で、パナマの格付上限をA-からAA-に引き上げ、ドル経済により「資本規制が課されるリスクを軽減する」ことを考慮した。格付けの主要因は「持続的な財政圧力と不透明な財政再建」であり、見通しに関する最大の不確定要素は、2024年5月に実施される選挙の結果により、現在、当選が有力視されているリカルド・マルティネリ前大統領(2009年~2014年)の動向であると分析している。
 
(1)2023年7月末時点の基礎的食料品バスケットは平均290.34ドル
消費者保護・公正取引庁(ACODECO)は、2023年7月の基礎的食料品バスケット平均価格が290.34ドル(前年同期比1.156%増)、最高329.76ドル(前年同期比4.380%増:ヴェジャ・ビスタ地区のエル・カングレホ)、最低273.66ドル(前年同期比0.614%増:サン・ミゲリト地区のオホ・デ・アグア)であったと発表した。なお、16日、パナマ大統領府は91オクタン価及び軽油を対象とした燃料価格上限(B/.3.25)の凍結措置の1ヶ月延長(9月15日から10月15日まで)を閣議承認した。
 
(2)2023年6月の国内経済活動の成長ペースは鈍化
国立統計センサス局(INEC)によると、2023年6月の月間経済活動指数(IMAE)は7.35%(前年同月比4.5%減)となり成長のペースは鈍化している。ホテル・レストラン・サービス、金融仲介、商業などは昨年より増加となっているものの、鉱業及採石業、農業(特に、牧畜及び牛乳の生産、パイナップル生産)の減少や国内の干ばつの影響による水力発電の発電量低下が影響している。
 
(3)CEPALは2023年のラテンアメリカ地域の成長率予測を1.7%に引き上げ
5日、ラテンアメリカ・カリブ海経済委員会(CEPAL)は、ラテンアメリカ地域の成長率(GDP)見通しとして、世界のマクロ経済シナリオは依然として「複雑」であるとしつつも、地域全体で2023年は1.7%(4月予想1.2%から引き上げ)、2024年は1.5%と発表した。パナマのGDPは地域トップクラスであり、2023年は5.1%、2024年は4.1%である。CEPALの地域各国は、高水準の公的債務、内外金利の上昇、成長率低下による税収減により、財政余力は“限定的”になると分析している。
 
(4)チリキ県はコーヒーの収穫を開始
9月下旬、チリキ県は2023年シーズンのコーヒー収穫を開始した(通常9月~4月)。県内のコーヒー生産は「国内市場向け」とより厳しい品質が求められる「スペシャルティコーヒー向け」と分かれるが、とりわけ高地ではゲイシャ、パカマラ、カトゥアイ、ティピカなどの付加価値ブランドに注力している。農業開発省(Mida)によると、今期は降雨量の減少に伴い、作物に影響を与える害虫も減少するため、生産量が前期比15%~20%増加する可能性を指摘している。なお、パナマには約21,000ヘクタールのコーヒー農園があり、そのうち約12,400ヘクタールがアラビカ種、残りの8600ヘクタールがロブスタ種である。チリキ県が最大生産地(耕作面積6,435ヘクタール、生産者1,154人)で、コクレ県(耕作面積4,715ヘクタール、生産者2,210人)、パナマ・オエステ県(耕作面積2,300ヘクタール、生産者1,000人)、コロン県(耕作面積1,801ヘクタール、生産者1,601人)と続く。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)パナマの自動車新車販売、2023年上半期に加速
国立統計センサス局(INEC)によると、2023年上半期(1~6月)の自動車新車販売台数(速報値ベース)は、24,603台(2019年比4.6%増、前年同期比22%増)となり、パンデミック前の水準を上回った。車種別にはSUV12,110台、普通車(セダン、クーペ、ピックアップトラック含)5,891台、ピックアップ3,561台、高級車1,261台と続き、SUVモデルの根強い人気がうかがえる。
 
(2)2023年上半期、銅以外の輸出が伸びる
貿易産業省(MICI)によると、2023年上半期の銅以外の輸出は581.2百万ドルに達した。そのうち、約448.1百万ドル(前年同期比4.4%増)は農業(農産業)、工業、養殖業による出荷にあたる。その大部分(輸出総額79.3%)が貿易協定を結んでいる国々との取引であり、欧州連合(EU)が第1位で、中米共同市場(MCCA)、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)がそれに続く。他方で、主要輸出品目は銅(貿易総額全体の74.5%)であり、バナナ(4.3%)、医薬品(1.6%)、チーク生材(1.5%)、鉄・鉄くず(1.4%)などその他の品目の輸出がそれに続く。銅以外では米国が依然として主な輸出先であり、次いでコロン・フリーゾーン、オランダ、インド(主にチーク材)となっている。
 
(3)移民が好む居住国トップ3に「パナマ」
米国フォーブス誌によると、移民が好む居住国ランキングを発表し、TOP3がメキシコ、スペイン、パナマと発表した。同ランキングは「生活の質」「文化的な親しみやすさ」「労働市場」「良好な家計」「レジャー活動」「気候および天候」などの各種指標に基づいている。パナマは最も友人を見つけやすい国の第1位、最も優れた文化と外国人に対する「歓迎の精神」を持つ国の第2位、定住しやすさのカテゴリで4位である。アンケートの74%が「友人を見つけるのにほとんど苦労しない」と答え、81%が「くつろげる」と答えている。
 
(4)トクメン空港公社は、2024年度予算を22.25%増額
トクメン空港公社は、2024年度予算324.1百万ドル(前年比22.25%増)を国会予算委員会に提出し、配当金20百万ドルの納付を発表した。予算の内訳としては、ターミナル運営及び維持管理に約142百万ドル、債務支払いに88.8百万ドル、投資に68.7百万ドルを予定している(過去には2015~2019年に118.4百万ドルの配当、2021年1,855百万ドル社債発行を実施)。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)リオ・インディオの貯水ダム建設は890百万ドルを要する
12日、バスケス運河庁(ACP)長官は、パナマ運河の水源を確保するための最も現実的な選択肢は、リオ・インディオにおける貯水ダム建設であると改めて言及し、本プロジェクトへの当初事業予算は890百万ドルと見積られ、2024年5月に入札書類の完成、2025年乾季の着工を計画していると述べた。
 
(2)パナマ運河通航料金に係る上水サーチャージの変更
24日、パナマ運河庁(ACP)は10月1日からパナマ運河を通航する際の最大喫水を管理するための措置の一環として、変動制の上水サーチャージを変更すると発表した。パナマ運河利用者は、当該変更により現行方式と比較して変動運賃で約50%、固定運賃比で平均10%の減額となり、例えば通航1回あたりの平均削減額は、ネオパナマックス船で19,700ドル、パナマックス船で6,800ドルとなる。バスケス長官は当該規制は、喫水レベルを維持するためのものであり、今次変更もそのためであると示唆した
 
(3)2023年上半期は記録的な乾燥・少雨期間
26日、パナマ気象水文学研究所は、全国気象観測所ネットワークからの降雨データに基づいて実施した2022年1月~2023年8月までの降雨状況に関する報告書を発表し、2023年上半期は記録上最も乾燥した期間(1981年観測開始)となったことを明らかにした。また、エルニーニョ現象に関し、「現在のパナマ国内のエルニーニョは"中程度の強さ"であるが、今後徐々に強まり、国全体の平均気温が1℃から2℃上昇すると予想される。今期の冬季(2024年1月から3月)に継続する確率が60%であり、継続した場合、2023年の平均降水量は平年より15%~30%減となる見通しである。」と発表した。
 
(4)政府は運河庁への土地売却で今年度500百万ドル規模を確保へ
8月30日に会計検査院の承認を受け、政府はパナマ運河庁(ACP)から国有地の一部(20,578ヘクタールの原生林地帯、507ヘクタール海洋地域)と引き換えに500百万ドルを受け取り、2023年度一般国家予算に追加して政府事業の納入業者への未払金対応や運営費に充てることが明らかになった。従って、今年度予算約27,720百万ドルに456百万ドルが加わり、2023年補正予算は28,100百万ドルを超える。国内政府系機関内での取引であり、財政の抜本的な改善にはならないことから、土地の算定価格が高すぎる等資金の確保には批判の声も挙がっている。
 

5.インフラ関連

(1)パナマ首都圏都市交通3号線整備事業のトンネル掘削機がパナマに到着
 21日、メトロ公社はパナマ首都圏都市交通3号線整備事業(メトロ3号線事業)でパナマ運河横断部のトンネル掘削に使用するトンネル掘削機の最初の部品がパナマに到着したと発表した。トンネル掘削機はドイツで製造されたものでパナマへは2回に分けて輸送される。
 
(2)ラテンアメリカ開発銀行がパナマのエネルギー転換に200百万ドルを支援
 14日、ラテンアメリカ開発銀行(CAF)はパナマのエネルギー・環境政策を支援するために200百万ドルの融資を承認した。また、本支援により、クリーンで再生可能なエネルギーの導入、エネルギーマトリックスの多様化、化石燃料の削減、エネルギー安全保障の改善を促進すると発表した。

パナマ主要経済指標(月次ベース)2023年9月