パナマ経済月報(2023年7月報)

令和5年8月9日
パナマ経済(2023年7月報)
2023/8/8
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●政府が最新の失業率8.9%を発表
●パナマ政府と米国政府は、グローバルな半導体エコシステム構築の為の新パートナーシップを発表
●パナマ人のドミンゲス候補が国際海事機関(IMO)次期事務総長に選出
●パナマ運河は今期の干ばつにより1日あたりの船舶通過数を削減
●アメリカ橋の補修事業の受注者が決定
 

1.経済全般、見通し等

(1)パナマ、74カ国・地域と租税情報交換
パナマ政府は、6月28日付政令第9号「2016年10月27日付法律第51号第3条第30号に規定される報告対象国・地域のリストを採択し、租税目的のための情報交換を実施するための規制枠組みの確立及びその他の規定」により、73の国・地域と自動的に租税情報を交換することを承認し、官報に掲載した。更に、2016年10月24日付第47号法令により既に二国間租税協定を結んでいるアメリカを加えると、74カ国・地域となる。
 
(2)全国銀行システムのクレジット及び国際銀行センターの資産は、金融セクターの「レジリエンス」を反映
パナマ銀行監督庁(SBP)によると、2023年4月末の全国銀行システム(SBN)のクレジット残高が58,632百万ドル(前年同期比4.7%増)となり、金利上昇基調にもかかわらずプラスのパフォーマンスとなった。主要な内訳をみると、住宅ローン残高は17,414.4百万ドル(前年同期比6.7%増)、個人消費が13,199百万ドル(前年同期比1.9%増)であり、SBPは労働市場の良好なパフォーマンスと消費者の信頼感は、クレジット残高を押し上げる決定要因であると分析している。
また、国際銀行センター(CBI)の総資産は141,461百万ドル(前年同月比4.0%増)となり、純貸付ポートフォリオ(8.1%増)及び投資構成要素(3.9%増)増加が資産増加の要因である。なお、CBIの2023年5月時点での不良債権比率は4.3%、内30日以上の延滞債権は1.6%、90日以上の延滞債権は2.7%であった。
SBPの分析によると、パンデミックにより一時的に毀損したCBIの支払余力の流動性や財務体質を示す各種指標も十分な財務健全性が担保されている水準まで回復しており、パナマの金融セクターの「レジリエンス」を反映した結果が示されていると考えられる。
 
(3)住宅ローン10件中7件が優遇金利セグメント
パナマ銀行監督局(SBP)は、「一般戸建て住宅」及び「商業用不動産」で構成される住宅ローンに関する実態を詳細に報告し、2023年5月末時点で総額20,139百万ドル(前同期比5.1%増)であると発表した。全体の86.9%にあたる17,507百万ドル(前年同期比6.7%増)が一般戸建て住宅であり、そのなかでも優遇金利法に基づくプライムローンは8,358百万ドル(前年同期比11.9%増)、一般ローンは9,150百万ドル(前年同期比2.4%増)であり、相対的にプライムローンの伸びが大きい。そして、残りのローンは商業用不動産で7.1%、補助金の無い中古住宅市場は5.9%となっている。
 
(4)パナマ貯蓄基金(FAP)監督委員会は経済財務省(MEF)に970百万ドルの送金を要求
パナマ貯蓄基金(FAP)監督委員会(基金のコーポレート・ガバナンスの為の市民社会を代表する組織)は、MEFに対し、2018年~2022年のパナマ運河庁が国庫拠出する分担金(運河庁の政府への拠出金が名目GDP2.5%を超える場合、その半額がFAP資産に割当)に相当する970.2百万ドルをFAPに送金するための関連指示を「遅滞なく」実行するよう強く求めた。また、FAP監督委員会は当該分担金が2018年法律第51号に基づくものであり、「当該分担金の送金は、会計検査院によるGDP公表後、翌年度に実施される」とされているが、過去数年で実現しておらず、法律遵守の重要性を警告している。
 
(5)公務員給与が35.5百万ドル増加
パナマ会計検査院によると、2023年1月~4月の公務員給与の支出額は1,616百万ドル(前年同期比35.5百万ドル増)であり、対象となった公務員数は249,620人(同期比2,854人増、対象中央政府機関28、地方自治体41、公営企業16、金融仲介機関8:合計93公共部門)である。
 

2.経済指標

(1)政府が最新の失業率8.9%を発表
国立統計センサス局(INEC)は、2023年7月時点の失業率は8.9%(前回、2022年4月は9.9%)と発表した。コルティソ大統領は、今次結果に関して政府の取り組みにより前回調査から「改善」したと述べた。他方、新規労働契約数は2017年の約445,000件から2022年の約240,000件に減少した一方で、インフォーマルセクター労働者は2017年の月間1,900人から2022年に月間10,000人以上へ大幅に伸びたため、雇用形態が大きな変化が生じている。なお、パナマの若年層の失業率は失業者全体の54.2%を占め、社会的な課題となっている。
 
(2)2022年度の海外直接投資額は前年比41.2%増だったが、2019年には大幅に届かず
国立統計センサス局(INEC)によると、2022年度の海外直接投資額は2,721.1百万ドル(前年比41.2%増)であったが、2019年度の3,921百万ドルには大幅に届かなかった。2022年度の内訳をみると、627.9百万ドルが一般金融機関(銀行)の資金調達による投資、433.1百万ドルがコロン・フリーゾーンによる直接投資であり、1,656.1百万ドルがその他の企業による投資である。
 
(3)6月の住宅、水道、電気、ガスなどの公共サービスの価格は前年同月比10.7%増加
国立統計センサス局(INEC)は、2023年6月の消費者物価指数(CPI)が0.6%減少、2023年上半期のCPI累積変動率は1.1%増加したと発表した。CPI下落の要因は、主に自動車用燃料の価格が前年同月比35.1%減少したため、輸送等のグループのCPIが前年同月比13.8%減少したためである。他方で、住宅、水道、電気、ガスなどの公共サービスの価格は前年同月比10.7%増加し、なかでも電気料金はENSAなどの配電会社の電気料金値上げ(平均値上げ率1.45%、対象はパナマ県、コロン県、ダリエン県の顧客513,691人)により、同CPIは前年同月比41.4%増加となった。
 
(4)2023年第1四半期、海外送金額が減少
貿易産業省(MICI)によると、2023年第1四半期の他国からパナマへの海外送金は83.7百万ドル(前年同期比2.1%減)、パナマからの海外送金は88.7百万ドル(前年同期比3.7%減)と発表した。パナマへの主な送金元は、米国(59.4百万ドル)、英国(4.2百万ドル)、コロンビア(2.8百万ドル)であり、パナマからの主な送金先は、コロンビア(46.3百万ドル)、ニカラグア(12.3百万ドル)、米国(6.5百万ドル)である。
 
(5)国内経済活動は第1四半期に7.75%上昇
国立統計センサス局(INEC)が発表した月間経済活動指数(IMAE)によると、パナマ経済は2023年第1四半期に7.75%の累積成長率を記録し、プラスを維持している。好調なセクターは「建設業界(建設件数回復、生コンの生産及び輸入セメント需要増)」、「商業(フリーゾーンからの再輸出、新車販売、小売及び卸売)」、「金融仲介(ローン需要増、外国預金及び保険料増加)」、「運輸・倉庫・通信サービス(運河通航料収入、コロン・フリーゾーンでの商業活動、電気通信が堅調)」である。他方で、不調だったセクターは「鉱業及び採石業(ミネラ・パナマとの政府との契約交渉にかかる一時操業停止)」である。
 
(6)パナマ商工会議所(CCIAP)は政府に対してサプライヤーへの支払い滞納に対処を要請
16日、CCIAPは、政府による民間企業への過去からの未払金が数百万ドル以上になっていることに抗議し対処を要請した。例えば、奨学金を処理・管理する企業(22百万ドル)、デジタルバウチャーによる支払い分の金額を受け取るスーパー(18百万ドル)、医薬品の供給事業者(95百万ドル)など他業界に及び、その多くが180日以上滞納している。ファブレガ会長は、「公的機関による回収プロセスの阻害と合意された支払条件の不履行は、透明性を悪化させ、民間企業の資金繰り・流動性が損なわれる。また、将来的に政府系のプロジェクトへの投資に悪影響を及ぼす。」と政府に対して警告した。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)パナマ政府と米国政府は、グローバルな半導体エコシステム構築の為の新パートナーシップを発表
20日、パナマ大統領府は米国CHIPS法に基づき、米国国務省とパナマ政府がグローバルな半導体サプライチェーン構築・強化に向けたパートナーシップを締結した。また関連して、同日、パナマ大統領府は、コルティソ大統領と当地を訪問中のジーナ・レモンド米国商務長官との会談を行った。
 
(2)パナマの自由貿易特区に初のデータセンターを設置(パナマ・デジタルハブ構想関連)
12日、パナマ・デジタル・ゲートウェイ(PDG)は、自由貿易特区初のオープン型接続データセンター(海底ケーブル陸揚げ局)として、イタリアの多国籍企業であるTIMグループのグローバル・オペレーター、スパークル(Sparkle)社と共に操業を開始した。PDGはパナマを通過する海底ケーブルハイウェイを利用し、コロサル地区に敷かれた国際的なテクノロジー企業の投資誘致を促進するための税制優遇措置のある特別な区域にある。今後、PDGへの投資総額は総額27百万ドル規模になる見通しである。
 
(3)コロン・フリーゾーン(CFZ)の貿易額は2023年上期に14,032百万ドルに達した
2023年上期の貿易額は14,032百万ドル(前年同期比35%増)となり、内訳は輸入7,047百万ドル、再輸出は6,985百万ドルであった。CFZでの主要な取扱品目は、医薬品およびその関連品(原材料、器具、投入物など)、衣料品、繊維製品、電化製品であり、主な供給元は中国、スペイン、ベルギー、米国、メキシコ、主な供給先はコスタリカ、ベネズエラ、中国本土、スペイン、ドミニカ共和国であった。コロン・フリーゾーン庁によると、増加の要因は、企業が年末商戦を見据え、在庫を増加させたためである。
 
(4)パナマはパンデミック前の旅客数及びフライト数を上回ることに成功
トクメン空港公社は、2023年上半期のパナマのターミナル利用旅客数は、850万人(2019年比4.6%増加、トランジット比率は71.86%・610万人)と過去最高になったと発表した。発着地域別旅客数数は、南米(全体の44%)、北米(28%)、カリブ(12%)、中米(10%)、欧州(5%)であった。
また、ラテンアメリカ・カリブ海航空輸送協会(ALTA)によると、パナマ発着の供給座席数はパンデミック前の2019年比102%となったと発表した。ALTAは2019年には存在しなかった少なくとも13の新路線(主にコロンビア、ベネズエラ、ブラジル発着、及びパナマ・パシフィコやボカス・デル・トロなど地方空港発)が5月末までに新規開設され、パナマ発着の各国航路のなかで最も増便となったのは、ベネズエラ航路(前年比196%増加)である。
 
(5)パナマの航空貨物輸送量は上半期に16%減少
国際航空運送協会(IATA)によると、世界貿易のペース鈍化、米国インフレの継続的上昇・金利上昇により、2023年上半期の航空貨物輸送量は累計で99,854トン(前年対比16%減、1万9,143トン減)となったと発表した。他方で、パンデミック前の2019年比では24%増加が記録されている。トクメン空港公社によると、航空貨物輸送量の71%が同空港を貨物ハブ拠点とする貨物航空会社によって輸送され、残りの29%が旅客航空会社によるものである。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマ人のドミンゲス候補が国際海事機関(IMO)次期事務総長に選出
18日、IMO事務総長選挙でトルコ、ドミニカ、ケニア、フィンランド、中国の各候補を破り、次期事務総長にパナマ人のアルセニオ・ドミンゲス氏が選出された。コルティソ大統領はTwitterにて、「海洋国であるパナマにとって、祖国の同志であるアルセニオ・ドミンゲス氏が本日、IMOの新事務総長に選出されたことは名誉なことである。」と称賛した。また、テワニー外相は「今次勝利は、在英国パナマ大使館、IMO常駐代表及び大使館、パナマ外務省、パナマ海事庁のチームワークの賜物である。」と述べた。
 
(2)パナマ運河は今期の干ばつにより1日あたりの船舶通過数を削減
25日、パナマ運河庁(ACP)は、今後数ヶ月間、ネオパナマックス閘門の最大喫水を44フィート(13.41メートル)に維持しつつ、1日あたりの通航隻数を26日より通常時の35~36隻から32隻(ネオパナマックス10隻、パナマックス22隻)に制限をすると発表した。また、ACPは、1日の通過隻数能力は「ガトゥン湖の水位、天気予報、船舶組み合わせによって、必要と判断されれば更に調整される可能性がある。通航船舶には予約システムを利用しての通峡を強く推奨する」と分析している。
 
(3)リベリアは船舶総トン数でパナマを追い抜く
27日、海事ポータルClarksons World Fleet Monitor月次報告書によると、パナマは1990年代から保持していた船籍国の船舶総トン数ランキングでリベリアに首位を明け渡したことが判明した。2023年7月の船籍登録にかかる最新値では、パナマが8,240隻、244.3百万トン(前年同期比2.3%増)、リベリアが5,052隻、246.5百万トン(前年同期比5.6%増)、マーシャルが4231隻、186百万トンとなった。
 
(4)パナマ港湾のコンテナ取扱量は上半期に3.9%減少
パナマ海事庁(AMP)によると、2023年上半期のコンテナ取扱量は402万TEU(前年同期比3.9%減)を記録した。主要港湾別の実績をみると、減少幅が大きかった順に、マンサニージョ国際ターミナル(MIT)1,267,641TEU(前年同期比7.5%減)、PSAターミナル552,236TEU(前年同期比5.7%減)、コロン・コンテナ・ターミナル656,655TEU(前年同期比4.9%減)であった。AMPは国際貿易の不振、インフレ圧力、一部の生産拠点がインドに切り替わりスエズ運河を経由するようになったことなどが、パナマの港湾活動のダイナミズムを低下させている要因であると分析している。
 

5.インフラ関連

(1)アメリカ橋の補修事業の受注者が決定
 公共事業省が発注するアメリカ橋の補修事業をアメリカ橋リハビリテーションコンソーシアムが約570万ドルで受注した。このコンソーシアムはCentroequipos S.A.、ARD Engineering Inc.、ATP Electronics, S.Aの3社で構成される。
 
(2)センテナリオ橋の補修事業が8月に開始
 7日、公共事業省はセンテナリオ橋の補修事業が8月から開始されると発表した。公共事業省が発注するセンテナリオ橋の補修事業は、同橋リハビリテーションコンソーシアムが約620万ドルで受注している。当該コンソーシアムはアメリカ橋の補修事業と同じCentroequipos S.A.、ARD Engineering Inc.、ATP Electronics, S.Aの3社で構成される。
 
(3)トクメン国際空港の滑走路改修に22社が関心
 11日(火)、トクメン国際空港(AITSA)は、航空ターミナル滑走路の舗装改修工事の一般競争入札に関心を持つ建設会社22社の代表者を招き、視察会を開催した。このプロジェクトは、2本の滑走路の調査、設計、改修、維持管理を含み、参考価格は約4,300万ドルであり、入札は8月8日に行われる。
 
(4)パナマにおけるPPP契約によるプロジェクト計画を発表
 18日から20日にかけて米州開発銀行(IDB)主催によりパナマで開催された「PPPアメリカズ2023」フォーラムにおいて、サレ・アスバット・パナマPPP事務局長は、パナマではPPP契約によって道路インフラや道路拡張、送電線、最高裁判所などのインフラ整備を含む8件の約30億ドルの工事を実施する計画であると述べた。アスバット事務局長の発言を受け、ラファエル・サボンヘ公共事業大臣より道路関係プロジェクト4件、カルロス・モスケーラ・カスティージョ エテサ社社長より送電線プロジェクト、マリア・エウヘニア・アリアス最高裁判所判事よりパナマ地方司法都市プロジェクトを紹介した。
 
(5)公共資源管理を可視化するプラットフォームを発表
 18日から20日にかけて開催された「PPPアメリカズ2023」フォーラムにおいて、「Gestión Transparente Panamá」と呼ばれる公的資源の透明性と説明責任を促進するためのプラットフォームがパナマ政府とIDBによって発表された。このプラットフォームは、Transparency Fundから資金提供を受けており、デジタルプラットフォームを通じて、ラテンアメリカとカリブ海地域における公共支出、公共投資、公共調達の透明性を促進するイニシアチブMapaInversionesの一部である。