パナマ経済(2023年6月報)

令和5年7月10日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●現地視察後のパナマの金融活動作業部会(GAFI)グレイリスト除外に「楽観論」
●コルティソ政権はミネラ・パナマ社との新契約の締結を閣議決定
●パナマがパリMOUの海事「グレイリスト」に掲載
●パナマ運河庁(ACP)管轄区域以外の新たな水源確保が必要。リオ・インディオ川が最有力
●パナマ首都圏都市交通3号線整備事業の工事進捗率は39%
 

1.経済全般、見通し等

(1)現地視察後のパナマの金融活動作業部会(GAFI)グレイリスト除外に「楽観論」
 23日、クマール金融活動作業部会(GAFI)議長は定期総会を終え、GAFIのグレイリストにパナマを残留としたが、同時にパナマに課せられている15項目履行を実質的に完了と見做し、米国を中心したGAFI合同グループの現地視察の実施を承認した。クマール議長は「将来にわたって実施を維持するための必要な政治的コミットメントの維持を検証するために、立入検査を実施する」と述べた。アレクサンダー経済財務大臣は、「マネーロンダリング防止とテロ資金対策のための効果的な体制は、金融・経済システム、そしてすべての国民の幸福のために必要であり、視察団を受け入れる。パナマの取り組みを適切に示し、視察後にはグレイリストから脱却をできると信じている」と述べた。
 
(2)政府は補助金や税制優遇措置に対する“信用”に依存している
 建設業や銀行業などの国を支える基幹産業は、パナマ政府の補助金や税額控除の有効性に疑問に呈している。パナマ銀行協会(ABP)は、政府が実施した特別金利政策に対しての補助金が政府の承認や書類提出の様々のプロセスに深刻な遅延が生じさせており、総額で500百ドル以上が未払金となっていると発表した。また、パナマ建設会議所(Capac)も公共事業支払いや特別住宅ローンに対する政府補助金の支出が滞納しており、
総額350百万ドルの負債があることを明らかにし、政府に対して事態の改善を強く求めている。
 
(3)非金融公共部門(NFPS)の財政赤字は2023年3月末時点で前年比38.2%増加
 経済財政省(MEF)によると、NFPSの2023年3月末時点の累積財政赤字は1,575.1百万ドルとなり、2022年3月末と比較して435百万ドルの増加(38.2%増)となった。中央政府の歳入が279百万ドル減少したことが主因である。政府は、歳入減少を2023月1月13日迄の納税を前年度に計上(2022年11月14日付の法律337号)したことによるものであると説明している。また、歳出も270.1百万ドル(18.9%)増加しており、社会プログラム受益者への支払い、デジタルバウチャー延長、燃料補助金などの措置が増加の要因となっている。財政責任法ではNFPSの財政赤字の上限をGDP比3%に規定しているが、第1四半期終了時点で既に1.92%に相当する高水準の財政赤字で推移している。
 
(4)パナマ、150百万ドルの融資契約に調印
 経済財務省は、2023年5月30日付閣議決定第19号で公表された国際復興開発銀行(IBRD)との150百万ドルの融資に調印したと発表した。当該融資は支払い期間が2025年12月31日迄の「パナマにおける気候変動へのレジリエンスとグリーン成長開発政策のための融資」であり、融資期間は15年(金利はIBRDが定期で定めるもの)となっている。
 

2.経済指標

(1)国際通貨基金(IMF)はパナマの実質GDPを再確認
 IMFは「パナマの実質国内総生産(GDP)成長率の予測は、2023年5.0%、2024年4.0%であり、2023年は中米地域で最も高い。そして、パナマの2023年の物価上昇率(CPI)は、3.1%であり、中米地域の平均3.6%を下回り、エルサルバドルの2.5%に次ぎ、地域の最低水準である」と発表した。
 
(2)住宅、電気、食料の価格が高騰
 パナマ会計検査院は、2023年1月~5月の消費者物価指数(CPI)は1.5%増(前月比0.4%増)となったと発表した。内訳をみると、主な増加となったのは「住宅、水道、電気、ガス」10.9%増、「食品と非アルコール飲料」4.2%増、「雑貨とサービス」3.8%増、「教育」3.7%増、「レストランとホテル」3.3%増である。他方で減少となったのは、「輸送」9.9%減、「保健」2.6%減である。増加の要因は、「住宅、水道、電気、ガス」にかかる政府補助金拠出の停止であり、来月以降は燃料上限価格凍結施策も終了となる見込みであり、CPIの上昇が懸念される。
 
(3)基礎的食料品バスケット価格は4月に最大325.39ドルを記録
 消費者保護・公正取引庁(ACODECO)は、2023年4月のパナマ市及びサン・ミゲリート市内の家庭用の基礎的食料品バスケット価格は、最大325.39ドル、最小273.98ドル、平均289.96ドル(前月比1.2%増、前年比5.18%増)を報告した。対象区域で最小は、サン・ミゲリート市内のスーパーマーケットであり、最大はパナマ市のエル・カングレホ地区で記録している。
 
(4)中小零細企業(MSME)の売上高は前年比25%増で、依然として遅れをとっている
 国内総生産(GDP)の34%、国内雇用の80%以上を占めるMSMEの売上高は、現状前年比25%増の伸びを記録しているが、パンデミック前の水準を超えておらず物足りない数字となっている。マルティネス全国中小企業連合(Unpyme)会長によると、「かつてパンデミック前には国内には約96,000社のMSMEがあったが、パンデミックにより2020年4月~2022年9月頃にかけて40%以上を失った。倒産した会社のほとんどが20年以上にわたって事業を営んできた会社であり、中小企業の再活性化は容易ではない」と述べた。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)コルティソ政権はミネラ・パナマ社との新契約の締結を閣議決定
 14日、閣議によりアルファロ貿易産業大臣にミネラ・パナマ社との新契約締結の権限を与えられた。大統領府は、「パナマは国家として最低年間375百万ドルの受け取りが保証され、更にロイヤリティも条件付きではあるが、ミネラ・パナマ社の粗利の12~16%と大幅に向上して規定されている。新契約は1997年法律第9号によって締結された旧契約よりあらゆる面で優れている」と発表した。今次の閣議決定後はパナマ国会に送付され、承認されれば、その後は数日以内にアルファロ大臣とミネラ・パナマ社法務部門代表との間で署名が交わされる。
 
(2)パナマ市は、中南米地域で5番目に魅力的な国際会議ツーリズム都市
 国際会議コンベンション協会(ICCA)によると、パナマ市がイベント、会議、コンベンションを開催するのに最も魅力的な都市別ランキングで中南米地域のなかで第5位に選ばれた(1位はブエノスアイレス、2位リマ、3位サンティアゴ・デ・チリ、4位ボゴタ)。
 パナマ観光振興機構(Promtur)によると、国際会議・展示会に参加するための滞在の1日あたりの支出は平均600ドル強、観光客は平均235ドルであり、国際会議・展示会等への参加者は、飲食、宿泊費、交通費が比較的高額であり、観光客の3倍も消費を行っていると発表した。なお、国際会議・展示会等への平均滞在日数は3日程度であるが、観光者は約8日間である。
 
(3)パナマ入国者数は、第1四半期に前年同期比84%増加
 パナマ観光局(ATP)によると、2023年第1四半期は786,854人(前年同期比84%)の入国者が報告された。その内の188,114人がクルーズ船到着によるものであり、増加の要因となった。また、入国者のうち24時間以上滞在する旅行者数は521,107人(同57%増加)、24時間未満の旅行者は77,633人(同14%増)であった。ATPの分析によると、来訪者が好調だった国は、アルゼンチン(同139%増)、米国(同107%増)、ブラジル(同88%増)であり、これらの国は他の国に比べて、滞在時間が長く、1日あたりの消費額も多い高価値の観光客である。また、パナマに訪れる観光客は、カップル及び家族旅行がメインセグメントでパンデミック前より比率が増加傾向である。特に、ブラジル(同14%増)、ドイツ(同13%増)、フランス(同15%増)であり高い伸びを示した。一方で、米国だけは個人旅行者の割合が増加した(同期比5%増)。そして、同期のホテルの稼働率は61.9%で、パンデミック前の2019年同時期の稼働率53.6%より高い(同じ部屋数で仮定しても54.5%)。滞在先は、パナマシティ及びタボガ島(67%)、リビエラ・パシフィカ(17%)、ボカス・デル・トロ島(7%)、ボケテ(6%)、ハイランド(2%)、ペダシ、パシフィック・ベラグエンセ、ポルトベロ、サンタ・イサベル(各1%)である。なお、パナマコンベンションセンターの来場者は、2023年に136,000人以上となり、2022年の96,000人を上回り、旅行者の平均滞在日数も2023年は2019年よりもわずかに上回った。
 反対に、パナマからの出国者の傾向をみると、国際航空運送協会(IATA)の発表では、パナマはラテンアメリカ地域およびカリブ海地域で、1人あたりの年間平均旅行回数が最も多く、平均1.26回となっている。2位がチリ1.21回、3位がコロンビア0.78回、4位がメキシコ0.72回である(米国2.6回、カナダ2.63回)。
 
(4)コロン・フリーゾーンの貿易額は、2023年1月~5月で11,426百万ドルに達する
 コロン・フリーゾーン(CFZ)庁によると、2023年1月~5月の貿易額は11,426百万ドル(前年比33.8%増、前々年比70%増)で、4,900百万ドルが輸入、6,525百万ドルが再輸出であると発表した。取り扱い主要品目をみると、医薬品および医療関連品(原材料等)、衣類、繊維、電気製品であり、いずれも好調である。輸入先は、EU31%、中国27%、米国7.6%、メキシコ2.6%、香港2.3%であり、再輸出先(国内含)としては、EU、パナマ国内、中国、コスタリカ、ベネズエラがTOP5であった。
 
(5)2023年1月の輸出額は258百万ドル
 パナマ会計検査院によると、2023年1月の貿易額は258.4百万ドル(前年同月比28%増)であり、その殆どが銅の輸出増加が要因であった。内訳をみると、銅は200.09百万ドル(前年同月比37%増)であり単月として過去最高金額となり、銅以外は、57.5百万ドル(前年同月比4%増)である。国別には1位が中国(150.7百万ドル)、2位が日本(28.8百万ドル)、3位が韓国(23.4百万ドル)である。
なお、2023年1月~3月で国勢調査が実施された為、各種統計データ発表に遅延が生じている。
 
(6)パナマの銅輸出が減少の一方で「非銅」輸出品目は大きな伸びを記録
 パナマ貿易産業省(MICI)によると、2022年度の銅輸出額は2,797.2百万ドル(前年比4.6%減、141百万ドル減)になったと発表した。MICIは「2022年12月中旬に発生したロイヤリティ契約交渉の行き詰まりの結果、2022年の銅輸出は減少した。また、2月23日、パナマ海事庁(AMP)は鉱山会社(ミネラ・パナマ社)のプンタ・リンコン港での銅精鉱の積み込み作業を許可しなかったため、鉱山会社はコブレ・パナマでの鉱石処理の停止を余儀なくされた。その影響で、2023年第1四半期の銅精鉱輸出額は、291.39百万ドル(前年同期比17.3%減、60.81百万ドル減)であり、前年と同様の傾向となっている。」と説明している。また、MICIのドルモイ輸出促進担当ディレクターは、農業、漁業といった銅を除くパナマの生産部門にかかる輸出に関して、「パナマの銅以外の輸出は2022年が非常に好調で、2022年末時点で合計855百万ドル(輸出増額3,862.2百万ドルの24%に相当)に達した。主要品目は魚及び切り身、魚粉と魚油、砂糖、コーヒー、牛肉、医薬品であり、こういった付加価値を付けられる製品が輸出には極めて重要で大きく延びたことから、2023年の見通しも明るい。銅以外の主要なマーケットは、米国、オランダ、台湾、中国、タイ、コスタリカ、グアテマラであり、パナマとのFTAを締結していない各国への出荷が伸びている。」と述べた。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマがパリMOUの海事「グレイリスト」に掲載
 海上安全基準を下回る船舶の排除と海洋環境の汚染防止を目指す「パリMOU」の2023年度のランキングが公開され、パナマは第46位となりグレイリスト入り(本年の基準で41位以下)した。パナマは昨年度36位から10位順位を落とし、初めてのグレイリスト対象国となり、船籍国のライバルであるマーシャル諸島は18位、リベリアは25位で、更にデンマークは1位であり、ホワイトリストを維持している。パリMOUの枠組みでは、船種、船齢、フラッグ、船級、船舶管理会社の検査履歴、船舶自体の欠陥・修理歴などの各種項目が点検され、船籍国には指導・監督の全面的な責任を負う。
 25日、1994年以来の約29年ぶりの当該グレイリスト入りに関し、パナマ海事庁(AMP)は声明発表した。AMPはパナマ船籍の国際的なコンプライアンス遵守の重要性は理解しているが、今次のグレイリスト入りは船舶老朽化、拘留や安全検査の履歴、安全検査不足などの要因が重なった。不適切な商船の廃棄を進めると報告した。今次グレイリスト入りで、今後、欧州などの特定地域に入港する場合の厳格な事前審査や船会社の保険料の上昇などが懸念され、国内海事関係者からはAMPへの非難が相次いでおり、パナマ船籍の競争力低下が懸念される。
 
(2)パナマ運河庁(ACP)管轄区域以外の新たな水源確保が必要。リオ・インディオ川が最有力
 バスケス運河庁長官は、米国陸軍工兵隊の技術評価予備審査の結果概要を明かし、「最適な水資源管理システムのため、ACP管轄区域“以外”で運河運営と飲料水の安定供給を行うための水源を新たに見つける必要がある。現時点で最も実現可能でコストがかからないと思われる候補はリオ・インディオ川(コロン県中西部)である。他方で、流域の住民・コミュニティにとってはセンシティブであり、法的な側面にも言及する必要がある。」
と述べた。今後は、ACP理事会が7月6日に飲料水供給と運河運営を改善するために検討すべき選択肢の提出を受ける予定であり、その後、4週間以内に政府とも協議を行い、年末までに水の利用可能性を向上させるための提案が政府からなされる見込みである。
 
(3)パナマ運河庁(ACP)は干ばつにより段階的な喫水低下を発表
 ACPは7月にかけてネオパナマックス閘門の最大喫水を43フィート(13.11メートル)に段階的に減少させることを発表した。ネオパナマックス閘門は最大喫水50フィートであるが、6月1日現在で44フィート(13.41メートル)あり、6月25日に43.5フィート(13.26メートル)、7月19日以降は43フィート(13.11メートル)に引き下げられる。当該措置は5月の歴史的な少雨・乾燥により、ガトゥン
湖(1913年建設)及びアラフエラ湖(1935年建設)の2つの人工湖の干ばつに伴う水位低下によるものである。
 
(4)攻撃的な気候事象の脅威:エルニーニョはいつまで続くのか
 デ・カルザディージャ・パナマ気象・水文学研究所所長は、「パナマでは、エルニーニョ現象が降水量減少、最高・最低気温の上昇、蒸発量増加という3点の気候の傾向をもたらすと考えられている。今後数ヶ月は傾向が軽微であるが、来年2024年1月~3月は南半球の夏期シーズンと乾期が重なるため、状況はより深刻になる可能性がある。また、エルニーニョの平均的発生期間は9ヶ月から18ヶ月と推定され、長期化すれば来年の後半まで続く恐れもある。」と警告した。
 

5.インフラ関連

(1)パナマ首都圏都市交通3号線整備事業の工事進捗率は39%
 27日、メトロ公社によると、パナマ首都圏都市交通3号線整備事業の工事進捗率が39%であると発表した。
 本事業は、円借款を通じた日本の支援として、パナマ首都圏で大きな課題となっている慢性的な渋滞に対して、首都圏西部と中心部を結ぶモノレールシステムの整備によって都市交通機能の改善を図るプロジェクトであり、質の高いインフラ整備を実現するために日本企業のモノレールシステムが導入される。
 
(2)トクメン空港公社は復配と新規の空港インフラへの投資を検討
 9日、トクメン空港公社によると、第1四半期の売上は65.8百万ドル(前年同期比7.6%増)、2.9百万ドルの収益であり、今期は株式を100%保有する政府への復配を検討している(2015年~2019年:118.4百万ドル、以降無配)と発表した。併せて、第1四半期の空港ターミナル利用者数は4.2百万人(前年同期比 24.6%増)、利用者発着地別シェアは、南米44%、北米28%、カリブ海11%、中米11%、ヨーロッパ6%であり、航空旅客需要が順調に回復していることを示した。
22日、第二ターミナル開業から1年経過して、アラブ・トクメン空港公社総裁は、「パンデミックにより遅延していたトクメン空港公社は第三滑走路を中心とした空港ターミナルのインフラ整備を本格的に再開して、今後、60百万ドルを投資する。パンデミックの状況下では空港収入が半減して、投資は見送りせざるを得なかった。現在は状況が劇的に改善し、総額917百万ドルの投資を要とする116百万平方メートルの新旅客ターミナル(第三ターミナル)建設を含む拡張プロジェクトを再開する。また、業績も回復してきたので、配当の再開も検討する。」と述べた。
 
(3)建設業界への投資総額は2023年1~4月で420.2百万ドルに到達
 パナマ会計検査院によると、2023年1~4月の新規工事・修繕プロジェクトにかかる費用及び投資総額は、420.2百万ドル(対前年同期比64%増、164.1百万ドル増)となった発表した。2023年2月以降は、パンデミック前の2019年の水準を上回っている。内訳をみると、247百万ドルは住宅向け、172.3百万ドルは小売、倉庫、オフィススペース向けのプロジェクトであった。地域別には第一位がパナマ市で2
70.8百万ドル、次いでアライハン市 5,630万ドル、ラ・チョレラ市 3,900万ドルであった。また、その他にパナマ政府のインフラプロジェクトは今年度27件、1,254百万ドル規模が予定され、建設業界へ好影響が期待されている。
 
(4)パナマ市における廃棄物の収集、運搬、処理を行う3社との契約を閣議決定
 20日、閣議においてパナマ市におけるゴミの収集、運搬、処理を行う3社との合計2400万ドルの1年間の暫定的な契約を承認したことを発表した。契約企業3社と都市家庭廃棄物庁(AAUD)は、パナマ市内を4地域に分けて、それぞれの担当地区においてサービスを提供する。