パナマ経済(2023年5月報)

令和5年6月5日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
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FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●公的債務は2023年第1四半期だけで1,624.7百万ドル増加
●スターリンク社(米国衛星通信サービス会社)がパナマで営業を開始
●3つの新規フリートレードゾーンに78.3百万ドル投資
●パナマ運河第四架橋の建設工事は8月に開始予定
 

1.経済全般、見通し等

(1)公的債務は2023年第1四半期だけで1,624.7百万ドル増加
経済財務省(MEF)の四半期報告書によると、2023年第1四半期期末(2023年3月31日)の公的債務残高は、45,898.71百万ドル(前期末比1,624.69百万ドル・3.67%増)となり、その99.97%が中央政府、残りの0.03%が分権組織であり、対外債務が83.86%、国内債務が16.14%であることが明らかになった。公的債務ポートフォリオ内訳は、81.35%は固定金利、18.65%は変動金利で契約されており、債券の大部分(62.50%、28,687.56百万ドル)がグローバル債である。次いで、多国間組織が20.46%、9,393.9百万ドルである。残りの3,853.06百万ドルは、中期国債2,538.39百万ドル、民間融資400.91百万ドル、短期国債312.12百万ドル、国立銀行302.9百万ドル、二国間銀行261.99百万ドル、商業銀行104.86百万ドルである。
 
(2)2023年年初の政府歳入は予算比・前年比減
パナマ国税局(DGI)の報告によると、2023年1月~4月までの政府歳入は1,908.3百万ドル(予算比363.7百万ドル・13.4%減、前年同期比295.9百万ドル・13.0%減)となった。歳入のうち税収は83%を占め、税収の落ち込みが鮮明となっている。DGIによると、税収の落ち込みは納税制度の正常化プロセスの一環(年初の月ズレ)が理由であり以降は予算並に推移するだろうと述べた。他方で、納税制度に詳しいパナマ弁護士は、「今年の歳入徴収には大きな課題があると見ている。通常、選挙前の年は、税務当局からの圧力や納税者による選挙結果への期待が低下する状況下であり、パンデミック危機から回復しつつある経済環境のもと、歳入の徴収が減少する傾向にある。」と分析している。
 
(3)パナマはGAFI行動計画全体を幅広く遵守:ガリド非金融部門監督庁長官(SSNF)
ガリドSSNF長官はインタビューを受け、「今年中にGAFIリストから外れるべく、マネーロンダリング防止体制強化が政府に求められており、SSNFはGAFI行動計画全体を幅広く遵守・対応を行っている。そのなかで、最終受益者登録に関しては、現在、約4,500人の居住者エージェントが単一受益者登録名簿(RUBF)プラットフォームに登録を行っており、現在、パナマ国内法人の65%が登録されている。」と述べた。
 
(4)パナマ銀行センターがマイルストーン達成:預金残高が100,000百万ドル突破
パナマ銀行監督庁(SBP)は、パナマ銀行センターの2023年3月末の預金残高は、100,380百万ドル(前期末比1,954百万ドル増・2%増)となったと発表した。内訳をみると、国内預金残高 62,938百万ドル(前年比1.4%減)、外部預金残高 37,442百万ドル(前年比8.2%増)であり、外部預金が増加している。外部預金の国別内訳をみると、コロンビア21.7%、ベネズエラ5.8%、ペルー5.7%、米国5.6%となっている。カスティージョSBP長官は、「今次結果は、パナマ銀行センターの国内預金および(特に中南米地域各国からの)外部預金の信頼性の高さを表している」と述べた。
 

2.経済指標

(1)中米地域の基礎的食料品バスケット指数が16%上昇
3日、国連食料農業機関(FAO)は中米域内の食料実態調査結果を公開し、中米地域の基礎的食料品バスケット指数は前年比16%上昇したと発表した。そして、要因として米国を目指す移民の波が地域住民の食料購買力にも影響を与え、食料安全保障の観点で懸念があると分析している。パナマでは、食料不安に苦しむ人の割合が5.5%(28万人相当)とされるが、他方でパナマの基礎的食料品バスケット指数は、中米統合機構(SICA)のなかで、エルサルバドルに次ぐ低水準(341.27ドル)であり、消費者物価指数(CPI)も地域各国が軒並み10%超えのなか、最低水準(2022年:2.7%、2023年:4.9%)である。
 
(2)パナマ国民の平均学校教育年数は11.6年
国立統計センサス局(INEC)により、2023年2月~3月に実施された国勢調査速報が発表された。モレノINEC局長はパナマ国民の平均学校教育年数が11.6年であることを報告するとともに「平均学校教育年数が大学水準に達していない。その背景にあるのは若年層(15歳~29歳)の高失業率30%であり、昨今は大学教育を受けても就職できない若者がでてきており懸念される状況である。また、パナマ国民の3%が非識字者であり改善が求められる」と述べた。当該調査では、パナマがラ米地域のなかでブラジル(50%)、キューバ(35%)に次いで3番目にアフリカ系住民が多い国(32%)であり、1,281,482人のパナマ人がアフロ・デスコンデントを自認し、17%が先住民であると明らかにした(7民族:695,774人相当)。
 
(3)パナマのソーシャルネットワークの利用者は280万人
米国の民間通信調査会社MeltwaterとWe Are Socialによるグローバルデジタル2023レポートによると、パナマでは2023年1月末の時点で328万人(前年比9.1%増)のインターネットユーザーが存在し、インターネット普及率は73.9%に達する一方、人口の26.1%に相当する116万人がオフライン環境にあるとも言える。また、パナマのSNSユーザーは推定285万人であり、各SNSのユーザー数は、Facebookが175万人(前年比20万人・10.3%減)、YouTubeが248万人、Instagramが220万人、LinkdInが110万人、Twitterが64万人となっている。
 
(4)消費者保護・公正取引庁(ACODECO)は95万ドル以上の罰金を報告
ACODECOは、合計1,827件・総額954,962.53ドルの罰金を報告した。罰金の内訳をみると、第1位が消費者保護法違反であり、合計1,151件、総額398,540.63ドル。第2位が信用履歴確認の不遵守に対する制裁103件・299,000.00ドル。第3位が価格統制の不遵守に対する罰金が、合計453件、総額192,625.00ドル。第4位が退職者、年金受給者、高齢者に対する給付金の不履行が、合計53件、総額24,171.90ドル。第5位が再利用可能なバッグの使用に対する不履行34件、5,600ドル。第6位がガスボンベの不適切使用は7件、4,500ドルであった。制裁を受けた企業群・業種はスーパーマーケット、薬局、金融会社、銀行、携帯電話会社、流通業者、精米所となっている。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)スターリンク社(米国衛星通信サービス会社)がパナマで営業を開始
18日、パナマ大統領府はイーロン・マースク氏が所有するスペースX社のスターリンク社(衛星通信サービス会社)が営業を開始したと発表した。ルイス・オリバ国家イノベーション庁長官は、「現在、パナマ国内にインターネットに接続できない学校は1,089校あり、その全ての学校にインターネット接続を可能にする。第一段階では、2024年6月迄に500校に衛星回線を整備する計画である。現在、学校にインターネット回線を接続するためには、1,200ドルのコストがかかるが、Starlink社のサービスを利用することで52ドルに削減される。具体的な作業としては、学校用及び村用の2種類のアンテナを無料配布する。」と述べた。
 
(2)2022年の輸出額は3,652百万ドル
パナマ会計検査院は、2022年度の輸出額3,652百万ドル(前年比0.2%増、ほぼ前年並)を発表した。そのうち、銅の輸出額は2,797百万ドル(前年比5.0%減)であり、銅の輸出先は中国、日本、韓国、ドイツ、インドが上位であった。残りは855百万ドル(前年比20.8%増)であり、バナナ(127.4百万ドル)、肉(25.3百万ドル)、魚と魚の切り身(52.4百万ドル)、砂糖、木材(45.9百万ドル)、皮革、コーヒー(25.7百万ドル)などの伝統的産品の輸出額が銅の減少分をカバーした。銅を除くパナマ産輸出品の最大の市場は米国であり、次いで、欧州向けパナマ産出荷の主要港があるオランダとなっている。
 
(3)トクメン国際空港の定時性は世界第2位
9日、米国のリアルタイムのフライトデータ解析を行う最大手FlightStats社の発表によると、トクメン国際空港は2023年3月の定時性指数(オンタイム・パフォーマンス)の中規模空港部門で世界第2位に選出された。アラブ・トクメン空港公社総裁は、「定時運航は、航空会社、規制当局、空港を支えるロジスティクスチェーンのすべての関係者と協力することで達成できるものであり、選出されて誇りに思う」と述べた。
 
(4)パナマはEUのイエローカードを解除するための全要件を遵守:パナマ水産資源庁
15日、パナマ水産資源庁は2023年4月中旬に実施されたEU水産資源総局(DGMare)による実地監査の結果を発表し、違法漁業への取り組みに非協力的な国に適用されるコード「イエローカード」の指定を受けたことを明らかにした。DGMareは「パナマは素晴らしい変化を遂げたが、いくつかの調整に欠けている」と発表しており、具体的には「港における船舶の積み替え製品の管理」「違法製品が市場に出回るのを防止」「違法漁具の使用禁止や規制エリアでの漁業禁止」を課題として挙げている。なお、パナマにとってヨーロッパは世界最大の水産物の輸入国であり(世界貿易額全体の34%)、現在はパナマからの水産物輸出品が厳格な検査の実施など、規制の対象となっている。
 
(5)3つの新規フリートレードゾーンに78.3百万ドル投資
貿易産業省(MICI)は、3つの新規フリートレードゾーンを開発中で78.3万ドルの投資を行うことを明らかにした(現在、パナマには13のフリートレードゾーンが既に存在)。そのうちの二つが、西パナマ県ベラクルス市の「テックバレー自由貿易特区」及びコロサル市の「パナマ・デジタル・ゲートウェイ自由貿易特区」であり、デジタル化及び電子商取引に特化した企業のためのフリーゾーンである。既に誘致が決定しているGoogleはじめ、Netflix、Microsoft、Amazon Web Servicesなどの企業誘致を目指す。そして、もう一つがバルボア造船所内にある「アスティバル自由貿易特区」であり、海事補助産業や船舶修理修繕及び造船に関連する事業の新規誘致ために設置される。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)世界的なインフレと需要減がパナマの港の荷動きに影響
パナマ海事庁(AMP)の港湾管理システム(SPN)によると、2023年1月~4月のパナマ国内コンテナ取扱量は2,647,686TEU(前年同期比1.3%減)、貨物量は3,474,617トン(前年同期比2.2%)であり、コンテナ積載率は70%(空コンテナ:431,298、前年は78.6%)であった。また、車両輸送に関しては、2023年1月~4月で、合計79,595台(うち15,756台が国内向け)であり、バルボア港が合計14,638台、マンサニージョ港が合計64,655台の取り扱いであった(PSA港及びクリストバル港は僅少)。パナマ物流ビジネス協議会(COEL)のエドガー・ウルティア会長は、「今次の貨物取扱量や貨物量の傾向は、パナマだけでなく世界的なインフレや需要減によるものである。他方で、パナマ国内の消費は緩やかに改善傾向にあり、2023年度末ではプラス圏に戻る見通しである」と述べた。
 
(2)GUPCがACPに対して起こした仲裁裁判(総額671百万ドル)でACPが34百万ドルを上限とした条件付支払いの判決が下る
Grupo Unidos por el Canal, S.A.(GUPC)及びその株主(CUSAを除く)が仲裁手続きにおいて、パナマ第三閘門の設計・建設契約に基づく支払いの関連でパナマ運河庁(ACP)に対して約671万ドルを求めていた件について、16日、GUPCの一部主張(4件の人件費増加にかかる費用のうち、2件が棄却、2件が部分的にACP支払い義務の発生)が通り、ACPの34百万ドルを上限とした支払いの判決が下った。既にGUPCとACPは当該事案も含めて5件の訴訟を起こしており、3件がACPに有利な仲裁判断が下され終結し、残りの2件は係争中となっている。
 
(3)世界銀行のコンテナ港湾効率性評価、バルボア港、コロン港が中南米地域内で上位
18日、世界銀行は「コンテナ・ポート・パフォーマンス・インデックス(CPPI)2022」を公表した。CPPIは船舶の位置情報などのデータを用いて、寄港船の沖待ちも含んだ入港から離岸までの総滞在時間により、コンテナ港湾の効率性を評価した指標である。世界348港のうち、パナマでは、76位:バルボア港、81位:コロン港、305位:クリストバル港であった。この順位は、中南米地域内では、バルボア港が12番目、コロン港が13番目と上位に位置している。
 

5.インフラ関連

(1)パナマ運河第四架橋の建設工事は8月に開始予定
10日、公共事業省(MOP)のサボンヘ大臣は、パナマ運河第四架橋の建設が8月に開始されると述べた。また、建設は受注者によりパナマ運河入口の太平洋側に位置するセロ・ソーサで土工を開始し、年内に橋の基礎工事に着手することを示した。本事業は、2018年に中国企業が受注し着工命令が出されたが、資金不足により事業が中断し、コストカット及び資金調達の調整が行われ、3月30日にMOPと受注者との間で建設継続に関する契約書の別紙(Adenda)に署名が行われた。
 
(2)ガトゥン発電所建設は進捗率60%
現在、コロン県に建設中のガトゥン発電所(投資規模1,200百万ドル)プロジェクトを主導するGeneradora Gatun社(出資比率:InterEnergy Group Ltd. 51%及びAES 49%)は、建設工事進捗率が60%と順調に推移しており、2024年7月13日に操業開始予定と発表した。同発電所は、液化天然ガス(LNG)炊きで国内最大級670MW(メガワット)の発電能力を有する予定であり、パナマ国内需要の約30~35%の発電能力となる見込みである。当該建設プロジェクトにより約1,500人の雇用が新規創出され、稼働後は常勤職員として約70名(うち、発電所職員50名)を雇用見込みで、そのほとんどがコロン県出身者となる見込みである。
 
(3)General International Telecom Panamá, S.A.は、Degicelの営業権売却に関する唯一の入札者
24日、パナマ公共サービス庁(ASEP)はDegicelの新営業権に関する第2回事前審査を実施し、エルサルバトル国際総合通信会社の子会社であるGeneral International Telecom Panamá, S.A.が唯一の営業権入札者であったことを明かした。今後は、ASEPが当該企業の最終事前資格審査を行い、落札者として適格か審査を行う。