パナマ経済(2022年12月報)

令和5年1月6日
在パナマ日本国大使館
担当:嶋書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●2022年第3四半期GDPは11,317.7百万ドル
●ドノソ鉱山の銅生産に係るコンセッション契約の交渉決裂
●2022年度パナマ運河庁予算より2,494.4百万ドルが国庫納付
 

1 経済全般、見通し等

(1)2022年第3四半期GDPは11,317.7百万ドル
 12月15日、パナマ会計検査院は、2022年第3四半期(7~9月)のGDPが11,317.7百万ドルであったと発表した。この数値は、2021年同期比で980百万ドル増(9.5%増)となる。会計検査院は、「6月~7月に発生した国内での抗議活動の影響にもかかわらず、経済活動は引き続き回復基調にある。好調な産業は、運河含む輸送・通信、商業、金融・不動産、貿易、建設である。」と説明している。
 
(2)2022年11月時点の修正ローンポートフォリオ残高は1,603百万ドル
 12月30日、パナマ銀行監督庁(SPB)は、11月末時点の修正ローンポートフォリオ残高が1,603百万ドルであったと発表した。この修正ローンポートフォリオはパンデミック時の救済措置として返済条件が修正されたローンで、2022年12月31日をもって廃止され、修正前のローン条件に戻される。今後、銀行側は、当該未返済のローン顧客に対して、延滞・未払い状況により信用リスクをカテゴリー分けし、資産の差し押さえ等の措置を講じることとなる。SPBによると、11月末時点の修正ローンポートフォリオ残高の1,603百万ドルのうち、440百万ドル分の返済が「疑わしい」または「回収不能」にカテゴリーされる見込みである。カスティージョSPB長官は、「回収不能のリスクが高いローンが残されている状況であるが、当該ローンの多くは財務能力の高い大手銀行が取り扱っているので、金融システムの健全性は失われない。」と見解を示した。
 
(3)公的債務支払利息は1,369.8百万ドル
 経済財務省(MEF)は、2022年1月から9月までの公的債務支払利息が1,369.8百万ドル(前年比13.6%増)であったと発表した。また、米国FRBの利上げの影響から、パナマ債券市場の金利(加重平均)も2022年6月末の3.98%から9月末には4.05%に増加しており、固定金利が8割を占める同市場で変動金利の増加が顕著となっている。
 
(4)パナマ国内の法人手数料の支払いが減少
 パナマ経済財務省国税局(DGI)は、法人手数料の支払いが過去4年間で22%(19.6百万ドル)減少したと発表した。パナマ国内の法人は設立時に年間250ドルの一時金支払い、以後、毎年300ドルの支払い義務がある。3年以上手数料を滞納している法人資格停止対象となる企業は475,739社(142.7百万ドル相当の滞納)あり、パナマの制度では5年以内に納付しない法人は解散となる。当該施策は一連のGAFI対策の一環で実施されているが、登録制度の厳格化や強制的な徴収に伴い法人数減少が続くことによる税収の減少が懸念されている。
 

2 経済指標

(1)パナマの賃金は2年間で26.2%下落
 国際労働機関(ILO)の世界賃金報告書によると、2020年から2021年にかけての中南米・カリブ地域の多くの国は、インフレーションやロシアのウクライナ侵攻に伴い、貧困、不平等及び社会不安が悪化し、低所得労働者の購買力が損なわれている。なかでも、パナマの賃金格差は深刻であり、地域内対象22カ国中、コロンビアに次いで2番目に悪い状況となっている。また、2022年のパナマのジニ係数(所得の集中度を示す指標)も、パンデミック前の2019年の36.8を上回る49.8となり、ラテンアメリカにて3番目に悪い数値となった。また、パナマの賃金は、2020年から2021年にかけて平均26.2%減少している(同地域は軒並み減少しており、コロンビア27.5%減、エクアドル26.3%減、コスタリカ23.3%減)。ILOは、この原因について、パンデミックによる労働時間短縮の影響に加えて、労働者数自体が減少していると分析している。
 
(2)増加傾向にある被保険者への保険料給付金
 パナマ保険者協会(Apadea)は、2022年1月から10月の保険会社の保険料収入が1,352.7百万ドルであったと発表した。この数値は対前年同期比6.3増で、その要因はパンデミック後の経済活動の再開に伴う企業保険料の増加等によるものである。保険料収入のうち、最も大きい分野は「医療保険」、次いで「自動車保険」となる。
 今後も保険料収入は増加すると予測される一方、被保険者への保険料給付金の増加が問題となっている。1月から10月の「医療保険」の保険料収入は335.8百万ドルで対前年同期12.5%増であるのに対し、同期間の被保険者への保険料給付金は266百万ドルで対前年同期18.7%増となっており、給付金が収入を上回る増加率を示している。また、「自動車保険」についても同様で、保険料収入は222.2百万ドルで対前年同期2.7%増であるのに対し、同期間の被保険者への保険料給付金は140百万ドルで対前年同期20.2%増となっており、給付金が収入を上回る増加率を示している。これらの問題はより深刻になれば、保険料の引き上げ等を検討する必要が生じることとなる。
 
(3)パナマシティはラテンアメリカ地域で5番目に生活費が高い都市にランクイン
 調査会社Expatistanは、世界各国の生活費を示す指標を発表した。この調査で、パナマシティはラテンアメリカ地域32都市の中で5番目に生活費が高い都市にランクインした。なお、1位はケイマン諸島のグランドケイマン、2位はバハマのナッソー、3位はバルバドスのブリッジタウン、4位はウルグアイのモンテビデオ。同ランキングは、様々な生活指標(基本的なサービス、食料、家賃、教育費、衣類、履物、交通、パーソナルケア製品及びコーヒー等の日常の出費)を集計して算出したものである。
 

3 通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)ドノソ鉱山の銅生産に係るコンセッション契約の交渉決裂
 12月15日、パナマ政府とミネラ・パナマ社の親会社にあたるファースト・クァンタム社(カナダ)との間のドノソ鉱山の銅生産に係るコンセッション契約の交渉が決裂した。本件は、2022年1月17日にミネラ・パナマ社とパナマ政府の間でコンセッション契約の改定案に合意していたものの、企業側が最終的に合意しなかったものである。企業側は銅生産に係るロイヤリティの見直しや現場での環境対策の緩和を求めている模様。
 それに対して、パナマ政府は、企業側の提案を拒否及び企業の商業活動停止の決定とともに、19日、企業側に対して10営業日以内に操業停止中の維持管理計画の提出を求めた。
 一方で、企業側は、23日、パナマ政府に対して、「ドノソ鉱山のコンセッション契約を規定した1997年の契約法」、「パナマとカナダの自由貿易協定」に基づく2つの仲裁手続きを行う意向を示した。なお、12月末時点で、ミネラ・パナマ社は通常営業を続けている。
 
(2)2022年9月末までのパナマの輸出総額は2,813百万ドル
 貿易産業省貿易情報局(INTERCOM)によると、2022年1月から9月までの輸出総額は2,813百万ドル(2021年同期比8%増)であった。このうち、銅の輸出総額は、2,159.1百ドル(2021年同期比5.3%増)で全体の76.5%を占めている。他方、銅以外の輸出総額は、653.9百万ドル(2021年同期比18%増)で、9月時点としては2010年以来最大の出荷額を記録した。内訳としては、工業製品が240.6百万ドル、農産物が194.4百万ドル、農業加工品が129.3百万ドル及び水産物が89.7百万ドルであった。
 
(3)IATAはベネズエラ政府に対して各国航空会社への債務返済の要請を再開
 国際航空運送協会(IATA)は、ベネズエラ政府に対して、2016年以降保留となっている各航空会社への合計3,800百万ドルの清算の要請を再開した。このうち、コパ航空への清算についても約500百万ドルが含まれていると推測されている。これは、ベネズエラ国内で販売した航空チケットの収入について、一度支払われた現地通貨(ベネズエラ・ボリバル)ではなく各航空会社が求める米ドルにて清算のうえ各航空会社に送金を要請するものである。
 
(4)イベリア航空がマドリッド・パナマシティ間の就航便を増便
 イベリア航空は、12月からマドリッド・パナマシティ間の就航便数を週5便に増便した。さらに2023年1月からは週6便、同年3月には週7便に増便予定となっている。これにより、イベリア航空にとってはパンデミック前の週7便の運航体制に戻ることとなる。イベリア航空は、「パンデミックが落ち着きつつあり、中南米への需要も徐々に回復しているところである。パナマは魅力的な市場であり、この路線強化に引き続き取り組みたい。」と今後の同社の営業展開につき説明した。
 

4 パナマ運河、海事関連

(1)2022年度パナマ運河庁予算より2,494.4百万ドルが国庫納付
 12月15日、パナマ運河庁(ACP)は、2022年度ACP会計年度分として2,494.4百万ドルの国庫納付を行った。この国庫納付額は、当時過去最高額となっていた2021年度を413.8百万ドル上回るものであり、前年度に引き続き過去最高額を更新することとなる。なお、この国庫納付額の元手は、運河収入の余剰金が1,894百万ドル、トン税及びその他事業収入が600.4百万ドルである。
 
(2)2022年1月から10月までの国内コンテナ取扱量
 パナマ海事庁は、2022年1月~10月までのコンテナ取扱量が7,149,817TEUであったと発表した。この数値は2021年同期に比して0.2%の減となる。この減少の要因について、パナマ海事会議所のクレメント会長は、「Maerskなど主要船社において、南米~中米~欧州向け冷蔵貨物輸送便の再編に伴うパナマへの寄港数の減少や6月から7月に行われた国内デモ活動による物流停滞の影響によるものだ。」と見解を示した。
 

5 インフラ関連

(1)Etesaが1,450百万ドル以上を投じて国内送電線の充実化を実施
 国営送電公社(Etesa)は、1,450百万ドルを投じてパナマ国内の送電線の充実化に向けて取り組みを進めている。1,450百万ドルの主な内訳は、再生可能エネルギーを含む発電量増加に対応するための送電網の充実化に約700百万ドル、第四送電線事業の750百万ドルとなる。第四送電線事業は、ボカス・デル・トロ県のチリキグランデ発電所からパナマ県の第三変電所までの約330kmを結ぶ送電線の整備するものであり、官民パートナーシップによって実施される予定となっている。
 
(2)CABEIがビーチ幹線道路の建設に係る140百万ドルを融資
 中米経済統合銀行(CABEI)は、ビーチ幹線道路(corredor de las playas)の建設に係る140百万ドルの融資を工事受注業者であるスペインのコンソーシアムに行った。この融資は、コンソーシアム側に速やかに資金を支払うために行うもので、CABEIがコンソーシアムに支払い、後に公的債務となるものである。
 本事業は、当初、西パナマのラ・チョレラから同県南西のサン・カルロスまでの50km以上の道路整備を行うフェーズ1,2に分けて整備する計画であった。フェーズ1については別企業と契約していたが、想定以上の用地補償費等を要することが判明したことから、計画区間のうち4.5kmの高架橋整備に大幅に事業を縮小する変更がなされるとともに契約を当該コンソーシアムに引き継ぐこととなったものである。