パナマ経済(2022年11月報)
令和4年12月5日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
担当:小松原書記官
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主な出来事
●2023年度の国家予算27,579百万ドル
●食品及び教育にかかるコストが物価上昇を牽引
●パナマは、航空運送競争力指数ランキングでラテンアメリカ地域のなかで第3位
1.経済全般、見通し等
(1)2023年度の国家予算27,579百万ドル14日、2023年度国家予算(期間2023年1月1日から2022年12月31日)が成立した。官報によると、予算総額は、27,579百万ドル(期首予算比7.4%増、1,868百万ドル増)であり、内訳は、歳入:経常収入 約18,430百万ドル、資本収入 約9,140百万ドル、歳出:経常支出 15,920百万ドル、資本支出 11,650百万ドルである。なお、政府の財政赤字は、2,194百万ドルであり、国内総生産(GDP)の3%を占めている。
(2)修正ローンポートフォリオの廃止
16日、パナマ銀行監督庁(SBP)は国内の銀行が12月31日までに修正ローンポートフォリオを廃止し、法人・個人を問わず、各ローンを滞納期間の長さに応じて分析し、信用リスクカテゴリーに移行させることを発表した。
9月銀行業務報告書によると、パンデミック時の救済措置として付与された修正ローンポートフォリオは3,037百万ドル(ピーク比76.4%減:2021年9月ピーク時12,843百万ドル)であり、大幅に減少している。内訳は、住宅ローン 1,504百万ドル、消費者ローン 780百万ドル、サービスローン 324百万ドル、建設ローン 234百万ドル、貿易ローン 125百万ドルである。なお、そのなかには、回収不能ローン 935百万ドルが含まれており、SBPの対応が求められる。
(3)パナマ、2023年予算のため債券市場で1,500百万ドルの国債を発行
14日、パナマ経済財務省(MEF)は、2023年予算の一部を補うために、2035年満期で総額1,500百万ドル(クーポンレート6.40%、利回り6.528%)を発行したと発表した。MEFは、同入札には北米、ヨーロッパ、アジア、中南米、中東から200人以上の投資家が参加して、4,200百万ドル以上の購入希望があったと明かした上で、海外投資家のパナマへの信頼感の現れであるという見方を示している。また、MEFは、米国連邦準備制度理事会の金利上昇が続いており、市場の状況を総合的に勘案して、予定より早期の国債発行に踏み切ったと説明している。
(4)政府補助金がパナマ運河の国庫納付額を上回る
経済財務省(MEF)によると、政府補助金額の推移は、2019年 1,695.6百万ドル、2020年 2,848.6百万ドル、2021年 2,881百万、2022年(見込み)2,586百万ドル、2023年(予算)1,843百万ドルであり、特に過去3年間で補助金が急増している。2022年度は、パンデミックの経済に与える影響は限定的になりつつあるが、物価高騰の対策として、低所得者等への食料品支給やデジタルバウチャー及び燃料価格、電気やガスなどインフラへの補助金が発生している。当該金額はパナマ運河の国庫納付額(2020年:1,824百万ドル、2021年:2,800百万ドル)を上回っている。
(5)3,527百万ドルの財政赤字
経済財務省(MEF)によると、2022年1月~9月の非金融公共部門の財政収支は3,527.3百万ドルの赤字(前年同期比12.4%減、499.5百万ドル減)となり、コロナ禍で毀損した基礎的財政収支は改善傾向を示している。赤字幅縮小の理由は、経済回復による税収(所得税及び法人税、消費税)の増加によるもので、税収は前年同期に825.6百万ドル(前年同期比6.9%増、528.5百万ドル増)を記録している。他方で、歳出は11,732.8百万ドル(前年同期並の29百万ドル増、0.2%増)であった。内訳は、経常支出9,020.8百万ドル(前年同期比1%減、94.7百万ドル減)、資本支出 2,712百万ドル(前年同期比4.8%、123.7百万ドル)となり、主な資本支出には、メトロプロジェクト及びパナマ・ソリダリオ・プログラムへの支払いが含まれる。
(6)政府歳入は予算3,930.6百万ドルを下回る
パナマ国税局(DGI)は、2022年1月~9月の政府経常収入は総額4,933.4百万ドル(前年比15.5%増、662.6百万ドル増)と発表した。他方で、予算比では395百万ドル減、7.4%減であり、コロナ禍からの回復期における見通しの甘さが露呈されている。
経常収入に占める主な財源は、税収約3,930.6百万ドル(前年比22.3%増)であり、その主な内訳をみると、法人税1,929.8百万ドル(前年比27.7%及び予算並)、間接税1,669.6百万ドル(予算比 約225百万ドル減)となっている。間接税の主要なものは消費税(Itbms)であり、606.7百万ドル(前年比21.4%増、予算比22.1%減)となっている。
(7)パナマ貯蓄基金、160.8百万ドルの損失を計上
パナマ貯蓄基金(FAP)は、FAP内の貯蓄基金が160.8百万ドル減、10.95%減の損失となり、2013年以来の最悪の結果となったと発表した。FAPは、「ロシアのウクライナ侵攻は予想以上に長引き、いつ紛争が終結するのか不透明な状況が続き、世界的なコモディマーケットに影響を及ぼしている。また、米国経済は歴史的な高インフレに見舞われ、FRBが急激な利上げを行っているため、FAPの主要投資対象である米国債券及び株式に大きな影響を及ぼしている。」と説明した。
2.経済指標
(1)食品及び教育にかかるコストが物価上昇を牽引パナマ会計検査院によると、2022年1月~10月の消費者物価指数(CPI)は3.1%上昇を記録した。主な増加は、食品及び教育にかかるコストの上昇によるものであり、内訳別に卵9.8%、チーズ7.6%、魚4.7%、油10%、保存用豆11.9%、コーヒー9.4%、パン3.3%、パスタ6.8%、教育8.4%である。他方で、医療-1.7%、通信0.2%、衣類と履物0.1%、レクリエーション及び文化、そして輸送は1%未満であった。
(2)燃料価格の高騰は引き続き、中南米地域のインフレの圧力となる
世界銀行の最新レポート「コモディティマーケットの見通し」によると、「2022年のコモディティマーケットはロシアのウクライナ侵攻に起因する食糧価格の高騰及びサプライチェーンの変化などのインフレ圧力が特徴付けた。そして、その特徴は来年以降も強く継続し、多くの発展途上国を抱える中南米・カリブ地域のインフレ状態を長引かせる可能性がある」と指摘している。他方で、IMF最新レポートによると、パナマの消費者物価指数(CPI)予測値は、政府が燃油価格凍結施策を継続する前提で、2022年4.4%、2023年3%であり、中米地域の同指標(2022年7.8%、2023年4.4%)を下回る見通しである。
(3)パナマ保険業界は成長するもインフレの影響を受ける
パナマ保険監督庁は、2022年1月~8月の保険収入は1,113.8百万ドル(前年同期比8.2%増)であり、内訳は医療保険 前年同期比15.9%増、自動車保険 前年同期比2%増、団体生命保険 前年同期比29.1%減、個人生命保険 前年同期比32.7%減と発表した。
医療保険の増加は、コロナ禍の反動で当該機関に実施できなかった診察や処置の反動増と医薬品の輸入価格上昇(インフレ)によるものである。なお、2021年8月~2022年8月の健康保険請求件数は、前年同期比9.9%増加している。また、自動車保険は保有契約件数、被保険者数ともに若干減少しているが、パンデミック時の一時的な自動車保険割引タリフの廃止により、収入は増加している。他方で、生命保険は、ワクチン接種の効果によりパナマ国内のコロナ感染状況が改善し、大幅に減少となっている。
(4)貧困に直面するパナマの不透明な未来
パナマの民間社会団体 Panama Without Poverty Initiativeの「パナマの貧困及び極貧に関する年次報告書」によると、パナマの貧困率は25.0%(4人に1人)であり、約110万人のパナマ国民が貧困状態にある。更に、国民全体の10%を占める富裕層は国民所得の37.3%を占めており、富裕層の所得は貧困層の約13倍の所得格差となっている。また、国内都市間での格差も深刻であり、国内総生産(GDP)の80%がパナマ県に集中しており、貧困層の約90%がコマルカと呼ばれる先住民地区に暮らしている。
(5)電話番号300万件がナンバーポータブル
公共サービス庁(ASEP)は、パナマで携帯電話や固定電話のナンバーポータブル(通信事業者変更時の番号持ち運び)制度が開始した2011年11月29日から2022年9月末までの約11年間で、約3百万件(携帯電話292万件、固定電話11万件)が同制度を利用して通信事業者変更を行ったと発表した。
また、7月末時点でパナマでの携帯電話の有効回線数は6.8百万回線、人口100人あたり156.8回線となっている。現在、同制度を利用した通信事業者変更は増加傾向であり、ASEPは「コロナ禍で、テレワーク、リモート授業、遠隔医療の増加により、消費者心理が変化し、より効率的かつ良質な価格帯での通信サービスを追求するようになった」と分析している。
(6)月間経済活動指数(IMAE)は2022年1月~9月で11%上昇を記録
パナマ国立統計センサス局(INEC)によると、月間経済活動指数(IMAE)は2022年9月単月で12.23%増、2022年1月~9月11.08%増であり、業界別では建設、ホテル及びレストラン、運輸、倉庫、通信サービス、商業が好調であった。パナマ建設会議所(Capac)によると、建設業界は、本年度のGDPの8%を占める見通しであり、また、ホテル及びレストラン業界も観光客が徐々に回復し、コロナ禍のパナマ経済に帯する影響が限定的になりつつある。更にコロン・フリーゾーンでの商取引、運河通航収入及び航空輸送収入、電気通信なども依然として堅調に推移している。他方で、減少に転じているのは、バナナ栽培や牛乳生産量、コンテナ取扱量、火力発電などである。
(7)デジタルバウチャー「Vale digital」補助金発行額が1,800百万ドルを突破
パナマ国税局(DGI)の2021年-2022年上半期中間審査報告書によると、「Panamá Solidario」施策の一環でコロナ禍に実施されたデジタルバウチャー「Vale digital」は、2022年3月~2022年6月で累計1,856.3百万ドルに達した。同デジタルバウチャーは、一定の基準を満たした失業者を対象に120ドルのバウチャーが支給されるもので、12月に同制度は終了する。また、デジタルバウチャーともに紙媒体での支給も行われ、合計すると577,514人(うち、パナマ県:53.8%、西パナマ県:18.4%、コロン県10.2%、その他17.6%)が同制度を利用している。更に政府は食料の配給として、2020年3月~2022年3月で、11,516,278個の食料袋を届けている。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)パナマは、航空運送競争力指数ランキングでラテンアメリカ地域のなかで第3位ラテンアメリカ・カリブ地域航空運送協会(ALTA)の最新の調査(2022年9月末時点)によると、航空運送競争力指数ランキングでパナマは、メキシコ、ブラジルに次ぐ第3位であり、航空運送分野での競争力が高水準であった。これら三カ国は多くの航空路線を有し、市場規模が大きく開放的であると評価されている。
パナマの評価された点としては、国際線接続空港数が第二位であり、燃料提供価格も第三位と優れたスコアとなっている。他方で、パナマの改善が必要な点としては、「航空券に含まれる税負担が高い水準にある」ことであり、パナマは中南米諸国のなかでも八番目に同税負担が高い国であり、航空券に平均76ドルの税負担が含まれている(一位:アルゼンチン198ドル、ブラジル11ドル、チリ4ドル)。また、「空港での乗客の体験」に関する評価は第二十一位であり、トクメン空港到着後のプロセスの簡素化、迅速化、安全性に改善の余地がある。
(2)トクメン国際空港利用者は2019年比5.8%減
トクメン空港公社によると、2022年1月~10月のトクメン国際空港利用者は12.9百万人(2019年比5.8%減、約80万人減)であったと発表した。同社は2022年通年15百万人、2023年16.5百万人、2024年 18百万人を見込んでおり、本年は2019年16.5百万人を下回るものの回復が順調であると強調している。発着地域別比率は、南米46%、北米28%、カリブ海地域11%、中米10%、欧州5%となっている。2022年10月末時点で、航空会社18社により84都市への直行便が就航している。
(3)パナマは国際航空路線の93%を回復
中南米カリブ海地域航空輸送協会(ALTA)の報告書によると、2022年1月~8月の同地域の旅客数は、213百万人(前年同期比 約163%増)であり、各便の平均搭乗率は80.8%である。特にパナマは、2019年の国際航空路線数88就航路線に対し83就航路線(2022年10月末時点)であり、93%の国際航空路線が回復した。
アラブ・トクメン空港公社総裁は、「2023年の空港利用者は2019年16百万人を超える見込みであり、トランジットする旅客にパナマの魅力を知ってもらい国内観光業を盛り上げることが我々の役割である。」と述べた。他方で、コパ航空のエイルブロンCEOは中南米地域の航空需要は世界をリードしているとしつつ、「世界情勢は燃料費高騰、インフレ、金利、景気後退の懸念など暗雲が立ち込めてきている。更に、我々には2050年までに排出量をゼロにすることを視野に入れて、航空事業の脱炭素化の責務がある。」と先行きに対して慎重な見方を示した。
(4)2022年8月入国者数110万人で2019年度比22%減
パナマ観光庁(ATP)によると、2022年1月~8月のパナマ入国者数1.1百万人(2019年度同期比 22%減、41.4万人減)であり、通年での見込みを1.8百万人(2019年度同期比 28%減、70万人減)とし、加えて、2022年1月~8月の観光客消費額3,920百万ドル(2019年同期比22%)、ホテル稼働率54%(1月~5月 60%程度、6月~7月20~30%程度)と発表した。ATPは、「2022年1月~5月はパンデミック前の水準に迫るほど好調であったが、6月~7月はパナマ国内での抗議活動により、ボカス・デル・トロ、ペダシ、ティエラス・アルタスなどの地方の観光地で高いキャンセル率となってしまった。その後改善傾向ではあるが、通年で見るとコロナ禍前の水準には達しない見込みである」と述べた。
(5)パナマ国内の農業部門は輸出好調を維持
パナマ会計検査院の輸出統計によると、2022年1月~8月の輸出総額は2,467.5百ドル(前年同期比8.8%増)、輸出総重量は202.75万トン(前年同期比5.6%増)であり、好調であった。輸出国TOP10は、中国、日本、韓国、ドイツ、インド、ブルガリア、米国、オランダ、スペイン、カナダである。輸出が前年同期比(以下、括弧内%増減)で増加した品目は、スイカ(19.0%増)、パイナップル(27.0%増)、養殖エビ(111.7%増)、牛肉(21.2%増)、鉄・銅・アルミくず(20.3%増)、木材(11.1%増)、コーヒー(6.6%増)、銅鉱石・精鉱(6.2%増)である。一方、バナナ(15.0%減)、メロン(7.7%減)、その他の魚介類(13.0%減)、魚及び魚のフィレ(生鮮・冷凍)(2.1%減)、衣類(35.8%減)、皮及び皮革(5.4%減)は輸出が減少した。
(6)コロン・フリーゾーンの1月~9月貿易額は前年比45%増
パナマ会計検査院は、2022年1月~9月のコロン・フリーゾーンの貿易額は19,159百万ドル(対前年45%増、2019年比43%増)、内訳としては輸入10,811百万ドル、再輸出8,348百万ドルであったと発表した。また、月平均額は2022年上期が1,700百万ドル程度であったが、7月以降は2,000百万ドルを超え、8月には3,730百万ドルに達している。主要輸入先は、中国、EU(欧州連合)、シンガポール、米国、メキシコであり、主要再輸出先は、ベネズエラ、コスタリカ、コロンビア、グアテマラ、ドミニカ共和国、ホンジュラスであった。主要取扱品目は電子製品、医薬品、化学品、香水・化粧品、衣料品全般、卑金属、アルコール飲料となっている。
4.パナマ運河、海事関連
(1)アマドールのクルーズターミナルへのクルーズ船の着岸7日、ノルウェージャン・アンコール号(Norweigian Envore)、バイキング・スター号(Viking Star)の2隻のクルーズ船がアマドールのクルーズターミナルに着岸した。アマドールのクルーズターミナルにおいては、現在も一部箇所で施工が行われているものの暫定供用されており、今回がクルーズ船の当該ターミナルへの初めての着岸となる。
5.インフラ関連
(1)国内初のPPP事業事前資格審査の再評価公共事業省(MOP)は、国内初の官民パートナーシップ事業(PPP)となるパンアメリカンハイウェイの道路補修並びに維持管理契約の事前資格審査につき、15者(単一企業及びコンソーシアム)のうち14者を通過とする再評価結果を発表した。本件は、先般、申請のあった15者(単一企業及びコンソーシアム)全ての者に対して事前資格審査を通過させる評価を行っていたが、MOPは参加企業側からの申し立て(一部の企業は、入札要件を満たしていない者が事前資格審査を通過しているという申し立てを行っていた。)を受け、再評価を行うこととしていたものである。本事業は、パンアメリカンハイウェイのパナマ市東部のパコラからダリエンのヤビサまでの区間の道路補修並びに維持管理を行うものであり、参考価格は387百万ドルとされている。
(2)ラ・チョレラからペノノメまでの道路補修事業の入札公示
公共事業省(MOP)は、パンアメリカンハイウェイの西パナマ県のラ・チョレラからコクレ県ペノノメまでの約100kmの区間において、道路補修事業の入札公示を行った。本事業は、PPP事業として構想中のパンアメリカンハイウェイのラ・チョレラからベラグアス県サンティアゴまでの約200kmの区間の道路補修及び維持管理事業のうち、とりわけ道路状況の悪い区間の補修を先行して行うものである。
- 主要経済指標(2022年11月)(Excel)
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