パナマ経済(2022年8月報)

令和4年9月6日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●2022年度上半期の非金融部門の財政収支は、マイナス19,200百万ドル
●社会保障基金の年金制度の準備金が、一年間で814百万ドル減少
●7月の消費者物価指数(CPI)は3.5%上昇と緩やかに上昇
●不安定な世界情勢のため、パナマ運河庁は、輸送量見通しを下方修正
 

1.経済全般、見通し等

(1)2022年度上半期の非金融部門の財政収支は、マイナス19,200百万ドル
経済財務省(MEF)は、2022年1月から6月までの非金融部門の財政収支を発表した。同発表によると、非金融部門の歳入は5,578.3百万ドル(対前年7.8%増)、歳出は7,498.2百万ドル(前年比1.1%増)で、財政赤字は1,919.9百万ドル(対前年14.4%減、322.04百万ドル減)であった。パンデミック規制の影響を受けていた2021年度上半期に比して財政赤字幅は縮小したものの、依然として高水準にある。
 
(2)ローンポートフォリオは、56,590百万ドルに拡大
パナマ銀行監督局(SBP)の6月銀行業務報告書によると、6月末時点の国内ローンポートフォリオの残高は、56,590百万ドル(前年同月比4.4%増、2,364百万ドル増)となった。なお、パンデミック時の緊急融資措置である修正ポートフォリオ(2022年6月時点)は、4,714百万ドル(対前年同月比68%減)であるが、そのうち、回収不能ローンポートフォリオが1,089百万ドル含まれている。
 
(3)コルティソ政権は政権新規満了後に支払いが訪れる融資契約を締結
2日、2022年度一般会計予算の財政的支援を目的とした米州復興開発銀行(IBRD)との250百万ドルの融資契約の締結が閣議決定した。当該融資の支出期間は2023年12月29日までと合意されており、公的債務残高に上乗せされる。また、当該融資は現政権で使用されるが、支払いは政権任期満了3ヶ月後の2024年9月に開始される予定で、毎年3月15日および9月15日に支払う半期36回の分割払いである。返済期間20年の2042年迄であり、金利は米ドル建て債務に使用される固定金利に加えIBRDが定期的に設定する変動金利が付加される。
 
(4)2022年上半期(1月~6月)の金利支出は、総額782百万ドル
 経済財務省(MEF)の財政金融局は、2022年上半期の金利支出が総額782百万ドルであり、2023年に2,050百万ドル、2024年には3,470百万ドルの金利負担が予定されていると発表した。また、同局は、「米国連邦準備制度理事会(FRB)の基準金利引き上げに伴う資本市場の金利上昇により、今後数年間にわたる債務償還に対して、歳出抑制及び戦略的な債務管理が必要となる。他方で、パナマの債務の80%が固定金利で契約されており、変動金利採用率が高い他国と比較すると、米国基準金利引き上げに伴う影響は抑制的である」と述べた。

(5)マネーロンダリングおよびテロ資金調達との闘いにおいて、パナマは着実な前進を遂げる
 18日、アレクサンダー経済財務大臣は、弁護士及び会計士を対象としたマネーロンダリング、テロ資金調達に対する法令遵守を確実なものとするための措置が盛り込まれた協定に署名した。同協定は、世界銀行の支援のもと、非金融機関監督庁(SSNF)が2020年法令第124号に基づき、規制対象事業のリスクを特定し、評価することでガイドラインやプロシージャーが詳細に盛り込まれた。
 19日、SSNFは、国内法人に対しての受益者登録簿の登録件数が約25,000社(活動中の法人全体の約9%)に達したと発表した。当該管理簿は、マネーロンダリング、テロ資金調達、大量破壊兵器拡散防止を目的として、検察庁、歳入総局などの所轄官庁が、最終受益者情報を迅速かつ正確に把握できるようにするため、2022年4月から運用開始している。
 

2.経済指標

(1)社会保険庁の年金制度の準備金が一年間で814百万ドル減少
 社会保険庁(CSS)の報告書によると、確定給付型の老齢・障害・死亡にかかる年金及び保険プログラム(IVM)の準備金が、2021年3月の2,226百万ドルから2022年3月の1,411百万ドルへ、前年比814.63百万ドルの衝撃的な減少となった。CSSの数理部門によると、何も対策をしなければ、2023年最終四半期から2024年第1四半期にかけてIVMにかかる準備金が枯渇すると予測している。なお、2022年7月時点で登録されている年金受給対象者及び退職者は、298,729人である。
 
(2)7月の消費者物価指数(CPI)は3.5%上昇と緩やかに上昇
 12日、国家統計センサス局(INEC)は、「7月のCPIは3.5%上昇した。ロシアのウクライナ侵攻に伴う国際市場での原油価格の上昇を反映したものの、政府施策による自家用車向け国内燃料価格の下落があった為、6月のCPI 5.2%上昇と比べると、上昇幅は緩やかに転じている。」と発表した。内訳をみると、運輸9.4%、食品・非アルコール飲料4.8%、レストラン・ホテル4.4%、住宅・水・電気・ガス2.6%、教育2.5%が主要な上昇したカテゴリである。なお、運輸カテゴリに関しては、先月までは12%を超えていたが、政府施策(燃油価格凍結)の効果で同指数が下落している。
 
(3)政府は170品目の医薬品を対象に30%の価格引き下げを承認
 9日、コルティソ大統領は、医薬品に関する技術委員会の勧告を承認し、例外または緊急リストにある170品目の医薬品を対象に30%の割引を適用し、更にこれに追加して定年退職者には20%の割引を維持することを決定した。当該措置の有効期間は6ヶ月間で延長も可能とされており、8月15日より施行されている。
 
(4)2022年上半期(1月~6月)の民間雇用契約登録数は、2019年上半期より85,102件の減少
 5日、国家統計センサス局(INEC)は、2022年上半期で117,006件(対前年13.9%増)の民間労働契約数が労働開発省(Mitradel)に登録されたと発表した。当該件数は、パンデミック前の2019年同期の民間労働契約数と比較すると、85,102件(42.1%)減少している。
 
(5)7月のパナマ国内新車販売台数は2,881台
 パナマ自動車流通協会(ADAP)は、7月単月の国内新車販売台数が2,881台であったと発表した。この数値は昨年7月の3,231台に比して11%の減少しており、ADAPのバティノビッチ会長は、「7月の新車販売台数の落ち込みは、同月に国内各地で発生したデモ活動の影響で車両の輸送ができなかったことによるものである。」と述べた。
 また、自動車業界では半導体不足により期限内の納期が困難な状況にあることなどから、バティノビッチ会長は、2022年の新車販売台数の見込みを当初の45,000台から41,000~42,000台に下方修正した。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)パナマ・パシフィコ国際空港など、パナマ地方空港の展望
パナマ観光庁(ATP)は、2022年1月~6月の観光収入が2,275.9百万ドル(前年同期比166.4%増)となり、海外からのパナマ国内への来訪者は前年同期比286.1%を記録し、そのうち、トクメン空港及び主要空港への到着が来訪者83%以上を占めたと発表した。トクメン空港公社のアラブ総裁は、「好調なトクメン空港だけでなく、パナマ・パシフィコ空港はターミナルの1百万ドル以上の改修により、ショッピングや観光、主要ビーチへのアクセスに便利な空港として、格安航空会社の関心を呼んでいる。更に、ダビ、リオ・アト、コロンのターミナル施設の復旧と、その発展に向けたプロモーション戦略を実施し、地域観光振興のための具体的なアクションを起こす」と述べた。
 
(2)成長するウィンゴ航空
 16日、コパ・ホールディングスのローコストキャリア(LCC)であるウィンゴ航空は、パナマ・トクメン空港からキューバ・ハバナ(9月3日)、ドミニカ共和国・サントドミンゴ(10月6日)を新規開設して、片道110ドル程度の低価格で提供することを発表した。ウィンゴ航空は、コロンビアとコスタリカに8機を運航し、搭乗率は90%を超えており、パナマ国内路線及び他国への新規路線開設及び増便を積極的に推進している。
 
(3)パナマ産コーヒーの完成度は高い
パナマ産コーヒーのコンペティションである「第26回ベスト・オブ・パナマ 2022」が、8月1日~6日の6日間にわたりチリキ県で開催された。2020年及び2021年はリモート開催であったが、今年は、生産者、バリスタ、国際審査員(韓国、香港、オーストラリア、アメリカ)が一同に集い、テイスティングを2019年以来実施した。主催者のパナマ・スペシャルティコーヒー協会は、「昨今の原材料価格高騰に伴うコスト高により、多くの生産者が値上げせざるを得なくなり厳しい状況が続いたが、パナマ産のコーヒー豆の売上は、落ちておらず、世界がゲイシャ種の高品質を評価していることが示された。」と述べた。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)不安定な世界情勢のため、パナマ運河庁は輸送量見通しを下方修正
 15日、バスケス・パナマ運河庁長官は、ロシアのウクライナ侵攻、中国でのパンデミックによる閉港、世界的な半導体不足の影響からなる三つの要因から、今年の運河を通峡する輸送量の見通しを引き下げることを発表した。他方で、2022年度予算における収入4,215.4百万ドル、取扱量536.6百万トンからどの程度の減少になるのか具体的な数値設定には言及していない。
 
(2)パナマ運河庁が運河環境領域秩序化計画を発表
23日、パナマ運河庁(ACP)は、パナマ運河流域管理を強化するため、「環境領域秩序化計画(PIOTA)」を発表した。当該計画は、持続可能な開発及び水資源の統合管理を考慮し、運河運営を行うともに水資源保護と保全を行うことを目的としている。手法としては、既存の人口をベースに周辺地域に対しての流域診断が行われる。今後、ACPは関係政府機関を巻き込んで、実施に向けたロードマップを作成する予定である。
 
(3)運河庁はクジラ保護のため船舶の減速航行の実施を発表
パナマ運河(ACP)は、船舶に対して8月1日から11月30日まで、指定区域内と海洋哺乳類の移動範囲の重複を最小限に抑えるTSS(Traffic Separation Schemes)と呼ばれる指定航行区域内への停泊及び減速航行をするように要請すると発表した。鯨類は、この時期に出産・保育のために、南半球の冬季に暖かいパナマ近海の海域に移動するため、当該措置は海洋哺乳類との衝突を避けるために例年実施されている。ACPによると、船舶との衝突による鯨の死亡事故は、措置実施前13件(2009年~2011年)に比べ、実施後5件(2017年~2019年)となり、約38%減少した。
 
(4)パナマ海事庁は年内の商船法改定に向けて海事関係者らとの議論を開始
 パナマ海事庁(AMP)は、パナマが船籍登録として世界一位の座を失おうとする状況を受け、2022年内の商船法(法律第57号)改定に向けて海事関係者らと議論を開始した。この商船法は、船籍登録に係る規制を定めたもので、2008年以降、改定がなされていなかったことから、AMP内でも国際競争力を確保するためには同法の改定が必要だと言及されていた。
 

5.インフラ関連

(1)パナマ市議会が水産市場開発等パナマ市内の2023年度の各プロジェクトの実施を承認
 2日、パナマ市議会は、水産市場開発をはじめとするパナマ市内70のプロジェクトについて2023年度の実施を承認した。水産市場開発プロジェクトは、本年6月21日、7月19日と2回にわたり入札を行ったものの、企業側の応札がなかったことにより入札不調となっていたものである。
 
(2)公共事業省(MOP)が国内2件目のPPPによる道路維持補修管理事業の実施を計画
公共事業省(MOP)は、官民パートナーシップ(PPP)のスキームを活用した国内2件目のプロジェクトの実施に向けて準備を進めている。本プロジェクトは、パンアメリカンハイウェイにおいて、西パナマ県のラ・チョレラ市からベラグアス県サンティアゴ市に至る約200kmの区間の道路補修工事及び維持管理を実施するであり、総事業費は429百万ドルとされている。
 
(3)会計検査院がCorredor de las Playas事業の変更を承認
24日、会計検査院は、Corredor de las Playas(ビーチ幹線道路)の事業縮小に係る当初契約に対する変更条項を承認した。本事業は、当初、西パナマ県のラ・チョレラ市から南西に約55kmの幹線道路を設ける工事として計画され、その第一区間(約32km)を2018年にel consorcio de las Playas(FCC社(西)とCisco社(墨)のコンソーシアム)が受注していたが、その後、用地補償に180百万ドルを要することが判明したため、計画変更により約6kmの高架橋の整備のみに事業が大幅に縮小したものである。今回の変更条項は、当該事業内容の変更により契約金額を603百万ドルから282百万ドルに変更すること及び契約相手を当該変更に伴いコンソーシアム側が契約内容の第三者への譲渡を要望したことを受けて契約相手をPuentes y Calzadas Infraestructura de Panama社に変更するものである。