パナマ経済(2022年7月報)

令和4年8月5日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●コルティソ大統領は、国家緊縮財政政策を承認
●経済財務省(MEF)は713.4百万ドルの債券発行し、公的債務の借り換えを実施
●コルティソ大統領は、自家用車の燃料価格凍結を承認
●コルティソ大統領は、基礎的食料品バスケット対象品目の価格凍結及び輸入関税撤廃を承認
●パナマ運河の通航料金体系の改定を閣議決定
 

1.経済全般、見通し等

(1)コルティソ大統領は、国家緊縮財政政策を承認
 12日、コルティソ大統領は、公共支出を抑制する緊縮財政政策10項目を承認した。主要な政策は、(1)国家公務員給与の10%削減プロセスの確立、(2)公務員の希望退職プログラムの開始、(3)法律で定められたものを除く公務員の昇給の停止、(4)政府機関における携帯電話の新規割当の制限、(5)政府代表としての公式訪問を除く、海外渡航の禁止等である。
 
(2)経済財務省(MEF)は713.4百万ドルの債券発行し、公的債務の借り換えを実施
8日、MEFは2022年度の4,000百万ドル規模の資金調達計画の枠組みの一環として、2022年7月末に満期迎える債券(債務残高936百万ドル)の借り換えのために713.4百万ドルの債券を発行することを発表した。この新規発行債券は、償還期間12年(2034年満期)、利率5.20%で、パナマ証券取引所で売買される。今後の債務返済は、2023年に1,993百万ドル、大統領選挙が行われる2024年には3,453百万ドルの債務返済期限が到来する。これからの借り換えオペレーションは、FRB基準金利が上昇していることから、政府の金利負担が増加する可能性が指摘されている。なお、5月31日時点の公的債務残高は42,891.2百万ドルに達している。
 
(3)危機の余韻を残しつつ、ローンクレジットは回復基調へ
パナマ銀行監督庁(SBP)が発表した最新の銀行業務報告書によると、2022年5月末時点のローンポートフォリオ残高は、56,064百万ドルで、前年同期と比較して3.4%(1,856百万ドル)の増加となっている。SBPは、ローンポートフォリオの持続的増加は、主に住宅ローンや個人消費ローン等の主要なコンポーネントの勢いに呼応していると指摘した。なお、住宅ローン残高19,126百万ドル(前年同期比4.9%増)、個人消費財ローン12,968百万ドル(4.3%増)となっている。
 
(4)356.5百万ドルの追加予算が閣議決定
6月29日、閣議は一般国家予算への追加予算356.5百万ドルを承認した。追加予算の主な内訳は、公共事業省(MOP)239.7百万ドル、メトロ公社67.8百万ドル、教育省(Meduca)44百万ドルであり、各種公共投資プロジェクトに充てられる。メトロ公社に関しては、2号線に関連する支払いを完了させる予定である。他方で運用資金として認められたのは、司法省の5.2百万ドルのみである。内閣府の発表によると、追加予算に関しては、320百万ドルのグローバル債発行を通じて外部から調達するとしている。
 
(5)政府は7月13日から17日までデジタルバウチャー(Vale Digital)を支給
12日、コルティソ大統領は7月に対象者344,919人に対して、デジタルバウチャー(Vale Digital)を支給することを発表した。支給期間は7月13日(水)から17日(日)までであり、対象には120ドル相当が給付され、7月の発行額は約41.5百万ドルの支出となる見込みである。当該バウチャーは、パンデミックで大きな影響を受けた人々を支援される目的で創設された「パナマ・ソリダリオ」プランの一環の施策である。
 

2.経済指標

(1)コルティソ大統領は、自家用車の燃料価格凍結を承認
11日、コルティソ大統領は、自家用車の燃料価格を1ガロンあたり一律3.95米ドルに凍結することを発表し、15日から適用された。その後、19日、燃油高、物価高騰に起因する国内のデモ及びストを伴う反発に対する政府の対応として1ガロンあたり一律3.25米ドルに金額が引き下げられた。
なお、国家行政刷新会議は、運用開始となった2週間(7月15日~28日)で燃料請求総額48.9百万ドルのうちの34%にあたる15.9百万ドルを自家用車向け燃料補助金として計上したと発表した。燃料別内訳をみると、95オクタン価(ハイオク)ガソリンが最も多く購入され、請求額24.6百万ドルのうち9百万ドルが補助金で、91オクタン価(レギュラー)ガソリンは7.4百万ドルのうち2.3百万ドル、ディーゼルは1,4.8百万ドルのうち4.6百万ドルが補助金であった。
 
(2)コルティソ大統領は、基礎的食料品バスケット対象品目の価格凍結を承認
 12日、コルティソ大統領は、燃油価格や基礎的食料品バスケット価格の高騰により影響を受ける国民への措置として、2022年7月から12月まで、基礎的食料品バスケット対象10品目の価格凍結を承認した。その後、国内のデモ及びストを伴う反発に対する政府の対応として、基礎的食料品バスケットの対象品目増加や価格上限及び補助金に対して、国内のデモ及びストを行う抗議団体との合意が行われた。7月25日時点では抗議団体との合意により72品目まで規制品目が増加し、2022年7月から12月まで基礎的食料品バスケットのコストは30%減少し、80ドル以上の削減となる見込みである。
 
(3)燃料価格高騰にもかかわらず、自動車販売台数は回復が継続
2022年上半期(1月~6月)の自動車販売台数は16,637台(前年同期比12.5%増及び1,843台増、2019年同期比16.1%減及び3,182台減)であり、直近の燃油高騰にもかかわらず順調に回復しているものの、パンデミック前の台数には達していない。最も好調な車種はSUV 7,844台(前年同期比31.4%増)であり、普通車4,651台(前年同期比6.8%減 )と続く。
 
(4)パナマの基礎的食料バスケットはラテンアメリカで4番目に高い水準
ブルームバーグの6月の報告では、パナマの基本的な基礎的食料バスケットは、280ドルであり、グアテマラ(417.4ドル)、ベネズエラ(382.0ドル)、ホンジュラス(285.6ドル)に次いで、ラテンアメリカ(Latam)で4番目に高いものだった。
 
(5)パナマ労働市場の最新の状況
国家統計センサス局(INEC)によると、2022年4月時点でパナマの非農業部門の労働人口は153万人であり、2021年10月の143万人から約10万人増加するとともに、失業率は2021年10月の11.3%から2022年4月時点で9.9%に低下している(農業部門含めた全体、2022年184万人)。労働人口の産業別内訳をみると、雇用増加が顕著だったのは、建設業14,222人(13%増)、工業14,004人(13%増)、サービス業13,054人(12%増)、運輸・物流12,915人(12%増)、商業 11,616人(10%増)、公務員11,294人(10%増)である。また、インフォーマルセクターは2022年4月時点で737,922人であり、それらの大多数は第三次産業(サービス業)79.1%であり、その他は第二次産業(工業)が20.9%であった。
 
(6)C&W Panama社、200百万ドルでClaro Panama社の事業買収を完了
1日、Liberty Latin America社の子会社であるCable & Wireless (C&W) Panama社は、2021年9月に発表したClaro Panama社の200百万ドル規模の事業買収の手続きが完了したことを報告した。消費者保護・公正取引庁(ACODECO)によると、両社は2023年1月16日までは独自の事業運営を継続し、その後に統合が行われる。両社は固定電話、携帯電話、有料放送のサービスを提供し、顧客基盤200万人を有する企業となる。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)コルティソ大統領は、基礎的食料品バスケット対象品目の輸入関税撤廃を承認
25日、コルティソ大統領は臨時閣議を招集し、基礎的食料品バスケットの製品コストを削減する目的で、同対象品目の輸入関税撤廃を発表した。当該措置は6ヶ月間延長可能であり、消費税の免税は免れない。なお、当該輸入関税は、2021年7月~2022年7月にて、17.61百万ドル(17,610,917ドル)を計上している。
 
(2)2022年1月~5月の輸出は22%以上の伸びを記録
貿易産業省貿易情報局(Intelcom)によると、2022年1~5月の輸出総額は1,521.3百万ドルで、2021年同期比から22%以上増加した。銅(銅鉱石と精鉱)及びバナナが輸出を牽引し、それぞれ全体の76.5%及び4.0%を占めている。銅は、1,163.5百万ドル(前年同期比216.4百万ドル増)であり、バナナなど他の品目は約357.8百万ドルである。チーク材2.3%、鉄くず(スクラップ)1.3%、パーム油1.1%であった。パナマ農産物輸出協会(Apex)のロベルト・トリバルドス前会長は輸出実績について、「非常に良好で、特に銅以外の分野でも成長するだろう。」と評価している。なお、輸出額の多い国は順に、中国、日本、韓国、ドイツ、インド、ブルガリア、カナダ、米国、オランダ、スペインである。
 
(3)パナマ・パシフィコ国際空港への新規航空会社誘致
 トクメン空港公社のアラブ総裁は、パナマ・パシフィコ国際空港では、旧米国ハワード空軍基地のターミナル改造を完了し、旅客施設・税関の処理能力が向上した為、同時に2便のオペレーションを行い、1便あたり300人~350人の旅客を扱えるようになったと述べた。また、同総裁はエクアドルからアエロリージョナル社が参入し、グアヤキルやキトから向こう2ヶ月間週2便のチャーター便を運航するほか、メキシコのヴォラリス航空、コロンビアのヴィヴァ航空など、LCCキャリア誘致のため現在交渉している。近日中にコパ航空のグループLCC会社であるウインゴ航空の定期便を就航させる見込みであると述べた。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマ運河の通航料金体系の改定を閣議決定
 12日、閣議では、パナマ運河庁(ACP)が提案したパナマ運河通航料金体系の改定が承認された。当該通航料金改定案は、4月1日に発表され、以降、公聴会やその他の海事関係者からの意見・コメントを踏まえて見直しがなされたものである。
 当該改定により、パナマ運河はより簡素化された料金体系となり、通航料体系は現行の430から60以下に削減されることになる。なお、当該改定により、2023年度のACPの運河の通航収入は、295百万ドル程度になる見込みである。
 
(2)パナマが船籍登録国での世界一の座を失う可能性
パナマ海事会議所(CMP)主催の「船舶登録の現状と今後の動向」カンファレンスで、シガルイスタ・パナマ海事庁商船局長は、「現下の状況では2023年に船籍登録国での世界一の座を失うだろう(中略)パナマは、1993年にリベリアを上回って以来、世界一の船籍登録国であったが、現在、競争力を失いつつあり、再度リベリアに追い抜かれる可能性がある。他の船籍国は、パナマと異なり、民間企業の関与により柔軟性と迅速なサービス対応行われている。早急に改善すべく、船舶登録に関する法律第57号を見直す必要がある。」と述べた。世界の船籍国は、年々、船籍登録数を増加させており、パナマにおいても年間で1.6%の増加が見られるが、それ以上にマーシャル諸島が2.4%、リベリアが5.5%の増加を示すなど、他国の増加が著しい状況にある。クレメントCMP会長は、政府の対応が遅すぎることに苦言を呈しつつ、「官民パートナーシップ」モデルによる船籍登録サービスを提案している。
 

5.インフラ関連

(1)オルテガ・メトロ公社総裁がメトロ3号線事業の進捗状況並びに開業予定時期に言及
 メトロ公社のオルテガ総裁は、メトロ3号線事業の7月上旬時点の進捗率が16%であると発表した。本事業については、2021年2月の本格着工以来、杭の打設や駅舎建設及び車両基地等の工事が進捗している。また、オルテガ総裁は、メトロ3号線事業の開業時期について、運河横断部のトンネルの整備期間などを考慮のうえ、2026年後半となることを示唆した。
 
(2)公共事業省はパナマ国内初のPPPプロジェクトの事前資格審査の提出期限の延長
 11日、公共事業省(MOP)は、国内初の官民パートナーシップによるプロジェクトとなるパンアメリカンハイウェイの道路補修並びに維持管理契約に係る事前資格審査の申請期限を7月25日から8月24日に延長すると発表した。本プロジェクトは、パンアメリカンハイウェイのパナマ市東部のパコラからダリエンのヤビサまでの区間の道路補修並びに維持管理を行うものであり、参考価格は387百万ドルとされている。
 
(3)パナマ市役所は水産市場開発プロジェクトの再度の入札不調を発表
 19日、パナマ市役所は、水産市場開発プロジェクトの再入札が行われたものの企業側の応札がなかったことにより、再度の入札不調となったことを公表した。今般の再入札は、6月21日に一度目の入札が行われていたものの、企業側の応札がなく入札不調となったことから改めて入札が行われたものである。なお、本プロジェクトについては、4月25日に入札公示がなされていたものの、同29日に市民団体側が実施の決定過程に不透明な部分があるとの理由で行った訴訟に対して同30日に裁判所側は判決が下るまでの期間のプロジェクトの進捗中止を命令していたが、パナマ市役所側は入札手続きを継続していた。