パナマ経済(2022年5月報)

令和4年6月2日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●CSS旧世代公的年金プログラムの財政準備金は1年間で1,013百万ドル減少
●パナマでのブルムバーグ・ニューエコノミー・フォーラムの開催
●米国はTPCを再交渉するためのパナマとの技術協議会を確立
●パナマ運河(ACP)は、新料金体系に関する公聴会を実施
●公共事業省(MOP)がパナマ国内初となるPPPを活用した事業の事前資格審査を公示
 

1.経済全般、見通し等

(1)CSS旧世代公的年金プログラムの財政準備金は1年間で1,013百万ドル減少
社会保障基金(CSS)の最新報告によると、旧世代公的年金プログラム(注.2005年時点で35歳以上が対象)の財政準備金は、2020年末で2,512百万ドルから、2021年年末に1,499百万ドルとなり、1年間で1,013百万ドル減少したと発表した。運用状況は極めて悪く、年間20億ドル以上の年金支払いに対し、運用益や政府支出など含めても1,000百万ドル程度の収入である。従って、このペースでは2年弱で準備金はショートし、破綻することになる。政府は収支均衡まで政府支出を増やして対応を行うが、現在の試算では2077年までに77,000百万ドルの年金支出が見込まれる。
 
(2)2022年第1四半期(1-4月)は1,082百万ドルの財政赤字
経済財務省(MEF)の報告によると、2022年第1四半期(1-4月)は1,082百万ドルの財政赤字であり、前年同期1,117.2百万ドルと比べ、353百万ドル減少したものの財政赤字の状態が続いている。内訳をみると、非金融公共部門の歳入は、合計2,933.4百万ドル(前年同期比+489.3百万ドル、20%増加)であった一方で、歳出は合計4,015.4百万ドル(前年同期比+454百万ドル、12.7%増加)であった。歳出の大部分を占める“2,897.6百万ドル”は債務返済(利子含)であるがほぼ前年並みで、その他の公的支出合計1,117.8百万ドル(前年同期比+441.1百万ドル、65.2%増)となっている
 
(3)パナマ貯蓄基金(FAP)は、2022年第1四半期に50百万ドルを失う
パナマ国立銀行が作成した損益計算書によると、パナマ貯蓄基金(FAP)は、2022年第1四半期に50万ドルとなった。投資損失の理由は、米国FRBの金利引き上げ政策に加え、欧州での不確実性から世界的に株式市場が安値に進んだ事が挙げられる。FRP技術顧問は、「第1四半期は予期できなかった事態であり、FRPは今後、ボラティリティがより低く、安定したリターンを見込めるプライベートエクイティまたは長期投資ファンドへの分散型投資配分比率を高める」と述べた。なお、FAP設立からの運用はプラスであり、2022年3月31日時点で、資本金約1,371百万ドルであり、設立以前の資本金1,234百万ドルを上回っている。
 
(4)FRBの利上げはパナマの地元金融市場に金利に圧力をかける
5月4日、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は施策金利を0.5%引き上げ、0.75%から1%の範囲にすると発表た。同利上げは、米国のインフレを抑制するための措置で、2000年以来22年振りの大規模なものである。中央銀行を持たずドル経済であるパナマでの影響として、パナマ銀行会長によると、「世界的な傾向、そして、米国の金利上昇は直接的にパナマの資金コストと金利に影響を与え、地元の預金とローンのレートに反映される。他方で、パナマの金融市場独自のマネーサプライ(需要)もあるので、効果の度合いはケースバイケースではある。」と述べた。
 
(5)政府補助金(助成金)は、2021年2,311.5百万ドルに達する
5月5日、経済財務省(MEF)は2021年財務総勘定報告書を発行し、そのなかで2021年の「家計への補助金(助成金)2,311.5百万ドル(対前年167%増)」及び「企業への補助金やインセンティブ、社会保障基金への送金 633.5百万ドル」であり、政府補助金(助成金)は総額2,945百万ドル(2019年比1,256.5百万ドル増、74.4%増)に達したと発表した。家計への補助金のうち、全体の49%にあたる1,133.1百万ドルがCovid-19に起因するパンデミックの影響に対する支援であり、Vale digital (バウチャー)、食糧品支給等である。その他、全体14.6%は電力補助金3,368百万ドルであった。
 

2.経済指標

(1)パナマでのブルムバーグ・ニューエコノミー・フォーラムの開催
5月18日、19日、パナマ市で「ブルムバーグ・ニューエコノミー・フォーラム」が開催された。同フォーラムには、世界の国内総生産(GDP)83%にあたるハイレベルの政府・企業関係者、有力な海外投資家200人以上が参加し、パナマ含めた地域の“商業”“ロジスティクス”“観光”分野での投資拡大及び、ロシアによるウクライナへの侵攻が、貿易、金融、公衆衛生、都市、気候変動分野における各国の政策、動向に及ぼす影響がテーマとなって話し合われた。
 
(2)新車販売は、需要の再活性化により第一四半期に増加
パナマ自動車販売事業者協会(ADAP)によると、第一四半期(1月~3月)9,371台(対前年比17.7%増)であり、需要の回復が堅調である一方で、2019年の水準(11,292台)には達していない。ADAPは、今年の後半にかけて供給能力が改善すると予想し、2022年販売台数は45,000台(前年比約17%増)が見込まれている。
 
(3)燃料の引き上げにより、業界の流通コストが5%上昇
パナマ産業労働者連合(SIP)によると、燃油価格上昇に起因して、卸売・流通産業のコストもこの数ヶ月で5%増加しており、製品全体に占める流通コストは3ヶ月前12~13%程度から17~18%に増加し、加えて原材料価格や海上輸送運賃など、工業生産に影響を与えるコストが軒並み上昇している。また、SIP会長は、燃料の増加への運送業者側の対処法は多くないが、その一つはより多くの製品をより少ない頻度で輸送できるようにすることであると述べた。
 
(4)トクメン国際空港は4月にターミナル利用者120万人超
トクメン空港公社は、2022年4月のターミナル利用者を約124万人と発表した。これは、2021年の同時期と比較して、約78.7万人大幅増となる。現在就航する航空会社は20社で、78目的地であり、発地別では南米46%、北米29%、カリブ海10%、中米10%、欧州5%となっている。トクメン空港公社のアラブ総裁は、「ワクチン接種済旅行者の世界的な増加及び、様々な国によって対応された衛生対策の成果で、昨年と比較してターミナル利用者が大幅に増加した」と述べた。
(5)3年間で239.8百万ドルの調理用ガス補助金
経済財務省(MEF)によると、政府は調理用ガスタンクへの補助金を5月23日から更に6か月延長する(2022年5月20日大統領令第133号)と発表した。同補助金の金額は2019年~2021年で、239.8百万ドルに達する。そして2022年の延長分を含めると、合計315.4百万ドルとなる。
 
(6)Cable&Wireless Panama(CWP)社は、25年間で3,187百万ドルを投資し、政府国庫に1,020百万ドル納付
5月27日、Cable&Wireless Panama(CWP)社は、「民営化後1997年5月29日から運営され、25年経過して、2021年12月31日の時点で、8,970百万ドルの経済効果となり、3,187百万ドルがパナマでの事業に投資され、パナマ経済に大きく貢献している。また、パナマ政府は49%株式を所有しているので、これまで1,020百万ドルを配当金として政府国庫に納付している。昨年9月にはClaro Panama社を200百万ドルで買収し、+Móvil事業を強化して5G投資を着実に進める」と発表した。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)米国はTPCを再交渉するためのパナマとの技術協議会を確立
2022年3月、パナマ外務省から同組織宛に発送された米国とパナマの二国間貿易促進協定(TPC)に関する書簡に関して、5月6日、米国通商代表部はパナマ外務大臣宛に返答の書簡を送付した。農業開発省によると、内容としては、「TPCで定められた4品目 “豚肉、鶏肉、およびいくつかの乳製品”の関税撤廃プログラムに対して、両国の技術協議会を確立する」ことであった。
 
(2)豚畜産農家はコストの上昇を警告し、政府はトウモロコシの関税の凍結措置を決定
農業開発省(MIDA)は、動物用飼料の価格を下げる目的で、今年の12月31日までの時限的措置として、トウモロコシの輸入関税を一時的な撤廃(40%から0%)を発表した。全国豚畜産協会のフアン・ゲバラ会長は、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻した後、トウモロコシの価格は1キンタル(約45kg)あたり11ドルから18ドルに増加したと述べた。パンデミックが発生する前、パナマは年間約900万キンタルのトウモロコシを消費し、そのうち800万キンタルは豚と家禽の消費市場に供給するために輸入されており、今回の関税凍結措置に繋がった。
 
(3)パナマの観光業はコロナ禍で120億ドル損失
ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は、パナマの観光業が2020年から2023年のあいだに120億ドル損失し、ベリーズ続いて2番目に大きい損失金額である発表した。同委員会は、パンデミックによる移動制限措置の影響で、パナマには未だ9,000の空室があり、過去2年間に失われた観光業における3万人の雇用はまだ十分回復していないと述べた。
 
(4)パナマは、牛肉を米国に輸出するための主要な要件を満たす
5月6日、コルティソ大統領は、「米国向けのパナマ産牛肉の品質に関して、パナマ国内の食肉処理場の衛生検査、製品の毒性残留物試験など米国が要求する22項目すべてに対し、肯定的な報告を行った。一連の手続きは25年に及んでおり、大きな成果である。」と述べた。バルデラマ農業開発大臣は今後、パナマ産牛肉の米国への輸出増大のため一連の行政プロセスが行われることになると述べた。
 
(5)パナマは2022年6月に漁業管理について、EUからの監査を受ける予定
4月29日、パナマ水産資源庁(ARAP)フローラ・トリホス長官は欧州連合代表部宛てに書簡を送付し、2022年6月13日の週に漁業管理に関してEUの調査団受け入れ、監査の実施を確認した。当該監査後には、欧州連合海事水産総局より「グリーンカード」「イエローカード」「レッドカード」の3段階で評価され、前回2019年12月には、パナマは「イエローカード(要改善及び警告措置)」を受けている。
 
(6)コパ航空は、アビアンカ航空とゴル航空の共同持株会社設置後も独自のビジネスモデルを継続
5月11日、南米航空大手であるコロンビアのアビアンカ航空とブラジルのゴル航空は、共同持株会社「グルポ・アブラ」設置に合意したと発表した。2022年後半の手続き完了を予定しており、出資比率は明らかとなっていない。中南米の大規模な航空会社再編を受け、コパ航空は「低コスト高収益事業を強化する独自のビジネスモデルを維持し、“グルポ・アブラ”の路線網拡大を注視する。我々、競合相手にとしても殆どの場合、“前向き”な影響がでる」と述べた。なお、米国・ユナイテッド航空、パナマ・コパ航空、コロンビア・アビアンカ航空は2018年11月30日に南北アメリカ大陸における共同事業協定(JBA)に合意したが、コロナ禍のアビアンカ航空のチャプター11適用により協定は宙に浮いている。
 
(7)コロンフリーゾーンは、第1四半期で52,565百万ドルの貿易額を記録
コロンフリーゾーンは、52,565百万ドル(対前年+810百万ドル)の貿易額を記録し、内訳をみると、輸入26,181百万ドル(2021年比37%増、2019年比21.7%増)、再輸出26,380百万ドル(2021年比22.4%増、2019年比15%増)であり、それぞれ増加となった。輸入先内訳は、中国46.4%、欧州連合11.8%、シンガポール6.3%、米国5.9%であり、再輸出先は、ベネズエラ8.6%、コスタリカ7.8%、コロンビア7.2%、チリ6.1%と続く(パナマ国内7.3%)。再輸出先のベネズエラとは正式に米ドル取引が認められており、当面は安定した取引が続く見通しである。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマ運河庁(ACP)は、新料金体系に関する公聴会を実施
5月20日、パナマ運河庁は2023年1月1日から導入される新しい通航料金のための公聴会を実施した。公聴会後、バスケス運河庁長官は、「各団体から受領した意見書を確認し、再評価及び分析してそれぞれに回答する。ACPとして苦慮するのは、各者が各々のビジネスの立場から意見を主張するなかで、それらが一般的に適用可能なものかを精査することだ」と述べた。
 
(2)パナマ運河は貨物構成の変化に直面
パナマ運河庁(ACP)バスケス長官によると、「米国が大型船の入港を制限しているなかで、中国のCovid-19の封じ込め政策のため、中国発貨物が同国に滞留している状況であり、一部の海運会社が中型・小型船に貨物を移し替えている。パナマ運河を通る船の通教隻数約35隻/日は変わらないものの、船舶総トン数は減少傾向である。短期的には通航収入の減少となっているが、中国の状況は来期には正常化する可能性が高い。他方で、米国発天然ガスの欧州への輸出が続いており、アジアへの輸出の減少からLNG船の通峡が減り、4億ドルの影響額に達する可能性がある」と述べた。
 
(3)運河庁(ACP)は新しい労働協約を実現し、影響額は88百万ドル
パナマ運河庁(ACP)は、最大労働者組合と会合を行い、2022年-2025年労働協約の合意に達した。同協約は6月19日から適用され、4年間で9%の賃上げ(2022年3.5%、2023年1.75%、2024年1.75%、2025年2%)となり、影響額は 88百万ドルと試算された。なお、賃上げの対象者はACP労働者全体の83%にあたる。
 
(4)パナマ運河は、ガトゥン湖の水位レベルを上昇し、ネオパナマックスロックで最大のドラフトを提供
5月6日、パナマ運河庁(ACP)は、現在から今後数週間のガトゥン湖で予測される水位レベルに基づいて、ネオパナマックスロックの喫水制限案を一時停止し、最大許容ドラフトを15.2メートルまたは50フィートを通知した。7日時点のガトゥン湖の水位は85.8フィートであったが、本格的に雨季に入り、5月12日では86フィートに達し、その後も降雨により水位は上昇し続けている。
 

5.インフラ関連

(1)公共事業省(MOP)がパナマ国内初となるPPPを活用した事業の事前資格審査を公示
 5月27日、公共事業省(MOP)は、パナマ国内初となるPPPを活用した事業として、パンアメリカンハイウェイのパナマ市東部のパコラからダリエンのヤビサの区間(延長:約250km)の道路補修並びに維持管理契約に係る事前資格審査を公示した。本件の参考価格は総額387百万ドルで、事前資格申請期限は6月25日とされている。
 
(2)サボンヘ公共事業大臣がパナマ運河第四架橋の再開時期を示唆
 5月24日、サボンヘ公共事業大臣は、国会の公共インフラ・運河委員会でパナマ運河第四架橋について、2022年下半期に再開することを目指していると述べた。同事業はバレーラ政権時代に中国企業が受注していたが、資金調達等の問題により実施が滞っていたが、ようやく再開の目処が立った模様。