パナマ経済(2022年4月報)
令和4年5月9日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
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主な出来事
●2022年のパナマの実質GDPは7.5%増の見通し(IMF発表)
●基礎的食料品バスケットは1年間で12.47ドル上昇
●コルティソ大統領は電気自動車の利用を促進する法案162号を承認
●パナマ運河庁(ACP)は、新通航料金を発表
●第四送電線事業環境影響評価(III)の落札決定
1.経済全般、見通し等
(1)2022年のパナマの実質GDPは7.5%増の見通し(IMF発表)国際通貨基金(IMF)は2022年4月の会議で、最新の世界経済見通し(WEO)を更新して、パナマの見通しを前回1月発表の本年の実質GDP成長率を5%から7.5%に修正した。当該修正は2021年のGDP成長率が15.3%と最終的に上振れしたこと、更に2022年第一四半期以降も経済回復のトレンドは継続する見立てによるものである。また、同数値は、近隣諸国のなかでも急激な成長(回復)を示している。
(2)政府の経常収入は予算比6.5%増
経済財務省(MEF)は、2022年1月から3月の政府歳入データを公表し、経常収入は総額1,715.6百万ドル(前年同期比28.8%増、383.3百万ドル増)であり、予算比6.5%増(105.2百万ドル増)となったことを発表した。これは、パンデミック前の2019年比でも上回り、経済回復に伴う政府財政の好転が示されている。経常収入内訳をみると、税収が全体約8割を占め、1,377百万ドル(前年同期比33.4%増、予算比6.7%増)である。また、税収のなかでも消費税(ITBMS)は、213.4百万ドル(前年同期比76.8%増)で昨年よりも大幅に増加し、消費拡大傾向が併せて示されている。
(3)2022年2月末時点で銀行預金は98,545百万ドルに達する
銀行監督庁(SBP)は、2022年2月末時点の預金額は、98,545.1百万ドルで、前年同月比で、2,618.3百万ドル増(2.7%)となったことを発表した。内訳をみると、全体の26%を占める外国預金33,961百万ドル(前年同期比5%、1,614百万ドル増)であり預金残高の多い順で、コロンビア、ペルー、チリである。他方で、全体の74%を占める国内預金は、64,584.4百万ドル(前年同期比1.6%増)であり、内24,409.2百万ドルが定期預金で最も多く、14,098.6百万ドルが普通預金であった。SBPによると、外国預金と国内預金の増加は、「パナマが他の中南米地域に比べ、政治的な安定性が高いドル経済であり、特に近隣国の投資家からの資金流入があった」と述べた。
(4)ムーディーズ社は、パナマの金融機関に対し「安定」の見通しを維持
米国格付会社のムーディーズ社はパナマにある金融機関(Banco General、Banco Nacional de Panama、Banistmo等)の見通しに対する格付けを「安定」に据え置きした。見通しの根拠として、「インフレ圧力が高まっているにもかかわらず貸付金額は順調に伸び、今後もパンデミックの影響が薄れて各種金融サービスの再開が見込まれる点」「各銀行は世界的なボラティリティの高さに起因する不確実性に備える為に適切な準備水準を維持している点」が挙げられる。外的要因としては、パナマ経済が、今後、1年~1年半のあいだに「海外からの投資額の改善」「パナマ運河の収入増加」「Cobre Panama 鉱山での生産と銅の輸出」が好材料であると述べた。
(5)パナマの「暗号法」が国会承認
4月28日、国会第3読会を経て、法案697号(通称、暗号法)が国会承認された。当該法案は「暗号資産の商業化と使用、デジタル価値の発行、貴金属やその他の商品のトークン化、決済システム及びその他の関連行為を規定」している。同法の目的は、パナマ国民と法人が「暗号資産使用を自由に行えること」とし、具体的には、ビットコインやその他の暗号通貨が、パナマ共和国の法制度によって“禁止されていない”民間または商業活動の支払手段であると認めている。
2.経済指標
(1)基礎的食料品バスケットは1年間で12.47ドル上昇消費者保護・公正取引庁(ACODECO)は、最新の月次報告書で、基礎的食料品バスケット(パナマとサンミゲリート地区のスーパーマーケットと食料品店の59製品の価格が対象の食料品指数)を発表した。それによると、バスケット平均指数は、「275.65ドル(前年+12.47ドル)」であり、特に”穀物”及び”肉”が高い増加率を示した。これらの品目は世界情勢に敏感であり、”穀物”の指数上昇はロシアのウクライナ侵攻が直接の要因であり、”肉”は家畜の餌となる小麦(特に高級肉)の値上げが間接的に影響している。ACODECOによると、燃油価格も三週連続上昇しており、その他の品目も今後上昇が予想されると懸念を表明した。
(2)パンデミックに起因する保険支払いは135百万ドルに達する
パナマ保険協会(Apadea)によると、パンデミックによる”保険請求”は、締切日2022年3月31日で、135百万ドルを超えた。そのうちの影響の大部分は、感染した被保険者の死亡に対する生命保険請求に関するもので、総額88.3百万ドル(5,014件)であった。他方で、健康保険に関する請求は、総額46.2百万ドル(9,787件)であり、内訳として、集中治療室(ICU)での入院が21.5百万ドル、中等症患者の入院20.2百万ドル、残りは、救急治療室でのケアによって発生する費用2百万ドル及び医療費1.5百万ドルであった。ICUでCovid-19治療を受けた方の費用は平均一人当たり4.6万ドル、病棟入院の費用は平均一人当たり1.3万ドルであった。その他、失業保険関連等で、約55万ドルを支払われた。
(3)携帯電話事業者“Digicel”が市場撤退を表明後、政府が同社の100%株
式取得を発表
4月6日、Digicel Panama S.A.(Digicel)は、民事司法裁判所及び170人の従業員に私的整理を要請し、パナマでの携帯電話事業から撤退することを表明した。同社社長は撤退理由のとして、2021年に承認された「Cable&Wireless Panama(CWP)とClaro Panamaの合併」を挙げ、当該事象が公正な競争を排除し、同社が不利な状況に置かれることが想定されるとした。
4月27日、パナマ政府は、Digicelの株式100%取得して管理下に置き、会社清算プロセスの停止を発表した。今回の国有化が一時的なものであり、閣議では公共サービス庁(ASEP)を通じて「コンセッション」を行い、再び民間企業に売却することが承認されている。政府は健全な通信業界の競争環境確保には、3社以上が必要と判断した。(Digicelを除き、現在、CWP、TIGOの2社)
(4)政府は2022年1月時点で236,222人の公務員を雇用
パナマの公務員数は、2022年1月時点で236,222人(前年比+5,031人、102.1%)であり、年々増加している。それに伴い、給与金額も382.3百万ドル(前年比+17.3百万ドル、4.8%)増加した。公務員の増加率が大きい政府機関順で、”検察庁”対前年(以下同じ)666名増、”厚生省”665名増、”教育省”496名増、”農業開発省”374名増、”会計検査院”270名増、”治安省”246名となっている。他方で民間では、2020年のパンデミックによる影響で失った雇用は36万4千人であり、現在、15万6千人は復職したが、パンデミック前にはほど遠く、新規の雇用が生み出せていない。
(5)2022年1月~2月の経済活動指数(IMAE)は、12.8%上昇
国立統計センサス局(INEC)によると、2022年1月~2月の経済活動指数(IMAE)は前期比で12.8%上昇して、昨年から通算11ヶ月連続の上昇となったと発表した。また、INECは、「パンデミック後の経済活動再開により、産業別には“建設”、“商業”、“ホテルとレストラン”、“輸送”、“通信”、“電気と水”、“製造”等の回復に言及し、3月以降は、ロシアのウクライナ侵攻による影響(インフレ)があり、若干上昇速度は減少すると述べた。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)コルティソ大統領は電気自動車の利用を促進する法案162号を承認4月25日、コルティソ大統領は、陸上輸送・移動における電気自動車を促進し、再生可能エネルギー利用を増やして温室効果ガスの排出を削減することを目的とする「法案162号」を承認した。新しい法律では電気自動車の開発と運用が規定され、具体的には、公的機関および集合的かつ選択的な輸送手段の車両(タクシーやバス等)の電気自動車への転換比率が、2025年10%、2027年25%、2030年40%であることが明記されている。
(2)2022年1月~2月のコロンフリートレードゾーン貿易額はパンデミック前を上回る
2022年1月~2月で、コロンフリートレードゾーン(ZLC)の貿易額は3,443百万ドル(2019年度比21%増)を記録した。内訳をみると、輸入は1,771百万ドル、主要輸入先は中国63%、EU(欧州連合)5.1%、米国4.9%、英国2.6%、メキシコ2.5%であり、再輸出は1,672百万ドル、再輸出先は、ベネズエラ13.9%、パナマ国内10.2%、コロンビアは8.7%、コスタリカ6.5%、ホンジュラス5.6%であり、主要取扱品目は、電子部品、医薬品、化学、香水、化粧品、衣料品全般等である。
(3)パナマはリタイア後の移住地として11回目の首位を獲得
4月6日、パナマ観光庁(ATP)第1回観光環境大臣会合にて、観光業界で世界の権威がある「コンデナスト・トラベラー誌」英国版で、パナマがリタイアメントインデックスカテゴリで11回目の首位となったことを発表した。同雑誌には、「家賃を含めて月額3,000ドル未満で、リタイア後の夫婦が、優れた病院や診療所で適切な医療を受けられる。また、女性は55歳、男性は60歳以上で、処方薬の20%割引が受けられる。」と記載されている。ATP広報担当はパナマが引き続き、高齢者にとって理想的な国であるように取り組むと述べた。
(4)2022年1月から2月までの輸出総額は467百万ドル
国家統計センサス局(INCE)によると、2022年1月から2月の輸出総額は467百万ドル(対前年比(以下同じ)2.5%減)で、内訳を見ると銅の出荷が、351.3百万ドル(8.8%減)であり、その他が115.7百万ドル(23%増)である。First Quantum社は、「銅の輸出の減少は、2022年1月の発電設備の一時的なメンテナンスによる影響であり、既に2月単月では前年を上回るものだ」と述べた。銅以外の品目別では、出荷好調だったのが、バナナ(+18.8%)、スイカ(+45%)、魚の切り身(+10%)、未精製の砂糖(+138%)、エビ(+101%)であり、パイナップル、メロン、コーヒー、衣料品、魚粉は出荷減少となった。
(5)エアバスは、新型機”A220”でラテンアメリカでの存在感を高める
4月1日、エアバスの最新航空機”A220”がスイスインターナショナルエアラインズによるデモンストレーションツアーで、パナマに降り立った。ラテンアメリカ地域の航空業界は、コロナ禍後に顕著な回復を記録するとみられ、欧州の航空機製造会社であるエアバス社はコパ航空をはじめとするトクメン空港に乗り入れる空港会社に売り込みを行った(現在、市場の占有率は60%程度)。A220は100~150席の小型・中型の航空機でありながら、航続距離が3,450海里(例えばパナマから出発するオペレーターがアメリカ大陸全体を利用可)を持ち、前世代の航空機と比較して、1座席あたりCO25%、NOx50%削減している。
4.パナマ運河、海事関連
(1)パナマ運河庁(ACP)は、新通航料金を発表4月1日、ACPは、来年(2023年)1月1日からの新通航料金表の使用を発表した。ACPは、「料金の数は430から60未満に簡素化され、現行の料金帯を排除し、“使用されるロック”、“船種”、“船型”に基づいた料金を導入することにより、複雑さを最小限に抑え、取引を容易にする」と説明し、2023年から2025年まで段階的に適用される。なお、ACPと運河利用者である船主の協議プロセスの一部である公聴会は、2022年5月20日に開催される。
(2)欧州のガスを巡る危機は、パナマ運河を通峡するLNG船輸送に影響を及ぼす
4月4日、ACPのバスケス長官はパナマ報道各社との定期会合にて、「今年度に北米からパナマを通峡してアジアに向かうLNG船の数多くの配船が減少し、ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンへの影響により”米国から欧州へ”の輸送に切り替わっている(同時期のLNG価格で、欧州向けは高騰)。2021年10月~2022年1月の4カ月で、前年同期比約80百万ドル減少(約40%)した。液化天然ガス(LNG)は、2021年に516.7百万トンの通峡を記録した急成長セグメントの1つであるが、LNGのサプライチェーンの変更は短期的には運河収入に影響を与える可能性がある。ただし、中長期的には、米国からアジア諸国へのLNGの需要は維持され、増加するだろう。」と発言した。
(3)ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けたパナマ船籍船と船員
パナマ海事局(AMP)商船局長は、4月1日現在で、ロシアのウクライナ侵攻後に発生した軍事衝突により影響を受けたパナマ船籍は少なくとも21隻あり、約290名乗員が被害を受け、その多くがウクライナ人(パナマ人は0)であると発表した。現在、AMPは、黒海やアゾフ海などの近くのウクライナ海域やロシア海域を航行する際、警戒を怠らないようにパナマ船籍船に警告しつつ、国際海事機関などと協力して、影響を受けた人々に援助を提供するために取り組んでいる。
(4)上海港の公衆衛生危機はパナマ向けの貨物の輸送を遅らせる
中国・上海市でのコロナウイルス流行に伴い、中国は厳格な封じ込め政策「ゼロコロナ」戦略を実施している。2021年上海港は中国国内のコンテナ輸送の17%、アジア地域の輸出の27%を占める重要拠点であり、現在、コンテナ船の5分の1が港にコンテナを下ろすことができず、平均50時間の待機時間が発生している。パナマ向けも5週間を超える遅延が発生し、特に中国から輸入している「建設資材や電子部品などの産業の供給」「電子機器、衣類、靴」などの入手影響を与える可能性がある。
5.インフラ関連
(1)第四送電線事業環境影響評価(III)の落札決定4月1日、公共調達裁判所(TACP)は、第四送電線事業の環境影響評価(III)について、el consorcio Camsa-Engimore社に落札決定したことを発表した。本件については、別入札企業より入札評価結果に対して申し立てがあり、TACPの判断に委ねられていた。
本件の入札手続きに1年近く要したことによる事業遅延の可能性について、Etesa(国営送電公社)は、本環境影響評価と並行して同事業の建設に係る入札手続きを行う事が可能であることから、事業全体の進捗に影響はないと見解を示した。
(2)トクメン空港公社はコロン空港の運営を民間企業に委託する方針を示唆
トクメン空港公社は、コロン空港の運営についてコンセッション契約により民間企業に委託する方針を示した。これは、トクメン空港公社が国内の4地方空港(コロン、リオ・ハト、パナマパシフィコ、ダビ)の運営状況を改善すべく、コンサルタント業務により各空港においてコンセッションによる運営のフィージビリティを調査したところ、コロン空港が選定されたものである。この選定理由としては、コロンはフリーゾーンを有しているためショッピング観光やクルーズ船ターミナルを有しているためクルーズ観光を保管する役割を担えるというものである。
(3)民間企業が目指すアマドールの埋立地開発
L.G.S.Panama Tourism Development社は、「Desarrollo Maritimo Amador」というプロジェクトにおいて、アマドールコーズウェイ脇に50haの埋め立て地を造成し、宿泊施設、レストラン、ショッピング施設を設ける大規模プロジェクトを目指している。このプロジェクトの投資額は553.7百万ドルとされている。
現在、本プロジェクト実施に向けた環境影響評価が行われているが、他方で民間企業が公共施設(海岸や沖)の埋立てを行うことについての妥当性についても検証される必要があるとされている。
(4)新たな水産市場開発が入札公示
4月25日、パナマ市役所は水産市場開発の入札を公示した。本プロジェクトの参考価格は43百万ドルで「ターンキー」方式で行われ、履行期間は着工命令から730日間とされている。
他方、本プロジェクトの実施の決定過程においては不透明な部分があるとされており、同28日、市民団体は、2月にパナマ市議会が承認したプロセスが地方分権の在り方として妥当性が得られていないとの理由で訴訟を裁判所に提出した。その結果、翌29日に裁判所側は、パナマ市議会に対して2月の市議会が承認したプロセスに係る資料の提出を求めるとともに本プロジェクト進捗の中止を命令した。
- パナマ主要経済指標(2022年4月)(Excel)
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