パナマ経済(2022年2月報)
令和4年3月8日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事
●米州開発銀行が経済フォーラムを実施:「ニアショアリング」という概念が示すパナマの経済機会
●パナマは、税務問題における欧州連合非協力的国リストに残留
●2021年海外直接投資額は改善しているが、2019年の水準にはほど遠い
●パナマ船籍「ナムラ・クイーン」号がウクライナのユズニー港近傍で砲撃を受ける
●パナマ船籍「ファシリティ・エース」号が太平洋で火災発生から2週間後沈没
1. 経済全般、見通し等
(1)米州開発銀行が経済フォーラムを実施:「ニアショアリング」という概念が示すパナマの経済機会2月3日、米州開発銀行(IDB)は、パナマの経済分野閣僚(経済財務省、貿易産業省、運河庁等)を招き、経済フォーラムを実施した。テーマは「パナマ:南北アメリカ大陸の中心地域のバリューチェーン強化における役割」であり、カローネIDB総裁は、コロナ禍でのサプライチェーンの変革が「ニアショアリング(経済用語:遠方の主要経済圏を拠点としていた営利事業を近隣国に移転される事象)」を促す。つまり米国にとって生産工場であるアジアからラテンアメリカ地域に移転する可能性が高まっており、パナマは地政学上の優位性を生かした拠点機能としての重要性が今後増すと述べた。
(2)公的債務における2021年の利息及び手数料の総額は1,619百万ドル
経済財務省(MEF)によると、債務残高は4,869百万ドル(資本支出3,250万ドル、利子及び手数料1,619百万ドル)であり、利子及び手数料は、2019年1,284百万ドル、2020年1,460百万ドルであり、年々増加している。また、コロナ禍による財政悪化により緊急的な公債発行に拍車がかかっている。パナマの経済学者は、「現在のパナマでは“財政規律”の考え方が重要であり、公債発行を抑制しなければならない。世界的なインフレ傾向が金利上昇に繋がり、今後、資金調達コストが増加、高額な支払利息に繋がる可能性がある」と指摘した。
(3)2021年の歳入増加は財政収支赤字を減少させる
経済財務省(MEF)報告によると、非金融公共部門の歳入は、11,564.7百万ドル(前年比 +1670.5百万ドル、16.9%増)となり、2021年財政収支は、3,522.8百万ドル赤字(前年比1,698百万ドル、32.5%の赤字削減)となった。2021年年末の財政赤字は、名目国内総生産(GDP)63,718百万ドルの5.53%に相当すると見積もられ、政府の財政責任法(7.5%)の範囲内に入っている。
(4)パナマは、税務問題における欧州連合非協力的国リストに残留
2月24日、欧州連合理事会は、欧州連合非協力的国・地域リストの更新を行い、パナマをブラックリストに残した(同リストには他、フィジー、グアム、米領バージン諸島、パラオ、サモア、トリニダード・トバゴ、バヌアツが含まれる)。同理事会は「パナマは、要求に応じた税務情報交換に関して、税務上の透明性と情報交換に関する基準が広く遵守されているとは認められない」とし、2021年に国会整備された「金融機関の最終受益者の確認や違法な送金に関しての処罰における法的枠組み(法律254号)」の実効的運用が求められている。
2. 経済指標
(1)建設部門はパンデミックの「急激な落ち込み」回復せず国家統計センサス局(INEC)によると、パンデミック以前の建設部門のGDPへの貢献は、2019年14.5%(1,551.8百万ドル)、2020年5.5%(450.2百万ドル)、2021年8.8%(907百万ドル)であり、パンデミックによる急激な減少後に十分な回復を遂げていない。パナマ建設会議所(Capac)によると、建設事業への投資縮小・抑制が継続されており、建設部門の失業者が多くなっている実態(2019年8月時点の労働者:172,877人、2021年10月時点の労働力:143,321人/29,000人の減少)が要因として考えられると述べている。
(2)保険請求額増加は保険会社の収支を減少させる
パナマ保険協会(Apadea)によると、パナマの2021年保険請求額は1,587.2万ドル(前年比+5.92%)であり、増加した。内訳をみると、健康部門は、362.3百万ドル(前年比+8.7%)、自動車部門274.6百万ドル(前年比+6.4%)、その他(生命保険部門など)約800百万ドルとなった。健康部門では、パンデミックが始まって以来のCovid-19に関連する入院、集中治療室費用などを負担し、自動車部門では2020年の新車販売一時停止があり、再開後に自動車保険契約が増加した。
(3)パナマは観光振興戦略として9カ国(5億人)の旅行者市場をターゲット
パナマの国際振興基金(Promtur)によると、同基金が実行する新しい施策(観光プロモーション、キャンペーン等)に1,500万ドルが割り当てられると発表した。パナマは、昨年(2021年)の観光客70万7,768人(推定)を大きく上回り、今年(2022年)に180万人を予測する。同施策は、2021年後半に立ち上げられた観光ブランド「パナマ・ヴィヴェ・ポル・マス」に基づき、9カ国(米国、ブラジル、スペイン、フランス、ドイツ、コスタリカ、コロンビア、アルゼンチン、カナダ)を対象とする。
3. 通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)2021年海外直接投資額は改善しているが、2019年の水準にはほど遠い国家統計センサス局(INEC)によると、パナマへの海外直接投資額は、2021年1,611.2百万ドル(対前年61%増)であり回復傾向であるが、2019年が4,062.百万ドルを踏まえると、まだ道半ばである。昨年からの回復傾向の要因としては、企業の利益増加によりコロナ禍で中断事業の再活性化や再開した結果で(割合98.8%)。純粋な新規投資(1.2%)は殆どない。
(2)コロンフリーゾーンの2021年1月~11月における貿易額は27%増
コロンフリーゾーン(ZLC)は、2021年1月~11月の貿易額は16,710百万ドル(輸入:8,222百万ドル/前年比32.4%増、再輸出:8,687百万ドル/前年比22.8%増)を報告した。同貿易額は前年同期比27%増加であるが、パンデミック前の2019年度同期と比較すると、368百万ドルマイナスであり、パンデミック前の水準には戻っていない。
(3)電気自動車の税制上の優遇措置を規定した法案第169号が国会承認
2月25日、電気自動車の税制上の優遇措置を規定した法案第169号国会で承認された。特定品目にかかる特別消費税(ISC)電気自動車 税率0%及びハイブリッド車 税率10%を規定し、これまで電気自動車にかけられていた税率5%(2012年~)が撤廃されることとなった。同法案成立と合わせ、ENSA Servicios(パナマ政府系送電会社)とEvergo(民間)は、電気自動車を促進するため、全国に150の電気自動車用公共充電ステーションを追加で設置するための提携に署名した。現在、パナマ全国には約74の充電地点に合計91の充電設備があるため、約3倍になる見通しである。
(4)トクメン空港は2022年に入っても「回復」傾向を維持
トクメン空港会社によると、2022年1月は、オミクロン変異株の影響や北半球の厳しい冬を起因とした一部の減便があったものの、トクメン空港を利用する旅客数(トランジット含む)は、1,132,044人(前年同期比59%)であり、回復傾向を維持している。当該結果は、昨年後半からアメリカ、ヨーロッパ、カリブ海などの路線就航が再開し、現時点で76都市まで回復したことが大きな要因で(2019年3月:85都市、約90%)。トクメン空港を利用する旅客数(2022年1月)の行き先地域別では、南米45%、北米30%、中央アメリカ11%、カリブ地域9%、ヨーロッパ5%のシェアとなっている。
(5)トクメン空港での航空貨物の荷動きは、パンデミック前の水準を上回る
トクメン空港会社によると、2021年のトクメン空港発着の貨物取扱量は、約202,742トン(対前年+38.9%、対前々年2019年比+23%)と発表し、パンデミック以前と比較しても増加となった。機種別内訳としては、貨物専用機72%、旅客機28%であり、エアライン別では、DHL 40%、コパ航空20%、その他40%である。同社によると、「海上貨物の特需的な増加、コンテナ不足、港湾遅延により、航空貨物輸送への需要が高まっている。更に、経済回復及びWith Corona経済により、e-commerceの需要高まりは(航空貨物の)サプライチェーンに負荷をかけている」と述べた。
4. パナマ運河、海事関連
(1)パナマ船籍「ナムラ・クイーン」号がウクライナのユズニー港近傍で砲撃を受ける2月25日、日本船主(日鮮海運)が所有するパナマ船籍バルク船(2020年建造)「ナムラ・クイーン」号は、穀物を積み込むために港に向かっている途中で夜間錨泊中に船尾への砲撃を受けた。ウクライナ軍参謀本部は、ウクライナのユズニー港の南12海里にあるロシア海軍の船に発砲されたと報じており、パナマ海事庁(AMP)は、船尾は大きく損傷し、乗務員1名(フィリピン国籍)が軽傷を負ったことを明らかにし、パナマ籍船がウクライナ領海を通過しないように勧告する通達を発行した。
(2)パナマ船籍「ファシリティ・エース」号が太平洋で火災発生から2週間後沈没
3月1日、運航船社である商船三井は、大西洋上で2月17日から出火していた同社のパナマ船籍の自動車運搬船「ファシリティ・エース」号が、乗用車約4,000台を載せたまま沈没したと発表した。3月1日時点で燃料油の流出は確認できていないが、積まれている燃料油は1,400トン程度(重油約1,000トン、軽油約400トン)だったとみられる。出火原因は特定できていないが、乗員は既に全員避難しており、負傷者はいない。沈没時は到着した大型の救助艇により安全海域に向けてえい航しており、沈没したのはアゾレス諸島から220海里(400キロメートル)程度離れた地点であった。
5. インフラ関連
(1)メトロ3号線事業の進捗状況メトロ公社は、2021年2月22日の着工式典開催から1年が経過したメトロ3号線事業について、順調に事業を進捗していると発表した。具体的には、ボーリング調査の完了が近づくとともに3つの駅の建設及び車両基地の建設が進捗しているというもの。
本事業においては現時点で1,200人が雇用されており、最大で5,000人程度が本事業の建設に携わる予定である。
(2)パナマ市の水産市場開発
2月15日、パナマ市議会は新たな水産市場開発等のプロジェクトの実施について承認した。パナマ市役所のプロジェクト担当によると、パナマ市役所は「市営マーケット・ネットワーク」構想を持っており、新たな水産市場をはじめ市内に合計7つのマーケット開発を目指している。「市営マーケット・ネットワーク」の開発予算は86百万ドルであり、そのうち40百万ドルが新たな水産市場に用いられる見込みである。
しかしながら、同プロジェクトに対しては、事前の公開協議プロセスへの疑問の声や市民の望むプロジェクトではないとして反対の声が上がっている。
(3)トクメン空港第2ターミナル建設に係る仲裁手続き
2月2日、パナマ調停・仲裁センター(Cecap)は、トクメン空港第2ターミナル建設に係るトクメン空港公社と同建設受注者のオデブレヒト社間での紛争に係り仲裁手続きを行うと発表した。
本ターミナルの建設にあたっては、履行期限が2021年9月末までとなっていたところ、改善必要箇所の対応ができていなかったことから、トクメン空港公社はオデブレヒト社との契約を打ち切るとともに、今後3年間当国調達案件の競争参加資格を剥奪する措置を発表していた。
今回の仲裁手続きは、公共調達行政裁判所(TACP)に対して上記措置の取り消しを求め控訴していたが棄却となったことから、同社が仲裁手続きをCecapに求めていたものである。
- 主要経済指標(2022年2月)(Excel)
(297KB)