パナマ経済(2021年10月報)

令和3年11月9日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●GAFIはパナマに緊急行動を要求し、2022年2月までの期限を設定
●失業率の低下(2021年度14.5%)の政府発表は実態から乖離
●旅客船のパナマ運河通航料金体系改定に係る公聴会の開催
●メトロ3号線事業の本格着工
●トクメン空港新旅客ターミナル建設の契約打ち切り
 

1. 経済全般、見通し等

(1)GAFIはパナマに緊急行動を要求し、2022年2月までの期限を設定
10月21日、金融活動グループ(GAFI)はパナマに対し、2022年2月までに、マネーロンダリング防止に対する欠陥に対処するための15項目の行動計画(2019年合意文書)を完了するよう再要請した。現在の進捗は、15項目のうち7項目が“十分に達成”と評価されているが、8項目が保留中。GAFI会長のマーカス・プライヤーは現在のパナマの進捗に大きな懸念を示し、ブラックリスト掲載の可能性すら示唆している(同リストに記載されているのは北朝鮮、イランのみ)。2021年国会では、マネーロンダリング体制強化に関わるいくつかの法改正、導入を既に実施しており、同法律の即時実行が強く求められている。
 
(2)政府の債務残高は、2021年度に38億9,230万ドル増加
経済財政省(MEF)によると、2021年9月末時点での非金融部門の債務残高は、399億9,950万ドル(海外:323億8,000万ドル、国内:76億1,950万ドル)であり、1年間で38億9,230万ドル増加した。債権者構成は、世界各国への債券235億1,140万ドル、多国間融資84億5,960万ドル、国債 41億340万ドル他である。
 
(3)GDPは2019年水準には回復しないものの、2021年は13.8%に達する見込み
パナマ商工会議所(CCIAP)は、2021年のGDP成長率見通しを当初の予定 8.2%から13.8%に大幅に上方修正した。また、2022年は6.4%、2023年7.6%と予想する。他方で、2021年末の名目GDP予想は60,870.1百万ドル、2022年は65,590百万ドルで、いずれも2019年66,787.9百万ドルの水準に達していない。
 
(4)2021年9月までの経常収支は回復傾向
国税庁(DGI)の租税徴収報告書によると、2021年1月から9月までの政府の経常収支は41億8,787万ドルであり、2020年同期比で18.8%増、6億6,410万ドル増となった。予算比でも21.2%増、7億3,310万ドルであり、税収は回復傾向にあることが鮮明になった。他方で、パンデミック前の2019年同時期では、50億1,600万ドルであり、これを下回っている。2021年1月から9月までの経常収支 41億8,787万ドルの主な内訳は、所得税と固定資産税を含む直接税18億880万ドル(34.5%増)、消費税を含む間接税は、13億5,820万ドル(7%増)、更に非税収(国庫納付)では、9億7,210万ドル(29%増)である。
 
(5)2022年度の政府の財政赤字は24億9500万ドルの見込み
10月26日、パナマ国会は、252億9470万ドルの政府予算を含む法案第637号の第三読会を終了、承認し、29日に大統領が署名を行い、予算成立した。経済財務省(MEF)によると、来年度も歳入は歳出より低く、財政赤字が24億9500万ドルになると予測し、赤字補填は全て債券発効で賄われる。来年度は、歳入とGDPが大幅に低下した過去二年間よりも赤字幅は縮小し、2020年に70%近くの値に達した“債務対GDP比率”を下げると予想される。ただし、財政責任法の本来の上限は40%であり、大きく上回る状態が続く。
 

2.経済指標

(1)失業率の低下(2021年度14.5%)の政府発表は実態から乖離
国立統計センサス局(INEC)によると、パナマの失業率は2020年 18.5%(失業者371,567人)から2021年には14.5%(失業者281,634人)に、4%(約9万人)低下した。他方で、労働力人口も63%(2020年)から59.8%(2021年)に3.2%減少し、職探しをしている人が6万4,000人減少したことを示す。労働問題に詳しい専門家は、「失業者数は実質大きな減少となっておらず、30歳以下の若年層の高失業率(約28.9%)や契約の一時停止が解除されない労働者(約8万人)が問題である」と述べ、雇用・経済対策が急務であることを強調している。
 
(2)パナマの消費者物価指数は2021年9月までに2.5%増加
国立統計センサス局(INEC)によると、2021年1月から9月にかけて、パナマの消費者物価指数(CPI)は、2020年同時期と比較して2.5%増加(インフレ)を記録した。業種別内訳(増加割合)をみると、輸送10.2%、教育3.1%、食料およびノンアルコール飲料 2%、レストラン及びホテル 1.3%、その他(1%以下)である。
 
(3)国内一次、二次産業(農業・畜産、製造等)の経済活動は回復の兆し
国内一次、二次産業(農業・畜産、製造等)の経済活動は、2021年第1四半期の国内総生産で、5億1670万ドルのうち9,739.2百万ドル(比率約19%)だったが、第2四半期は、9億1,249万ドルのうち3億7,920万ドル(比率41.5%)、前年同期比25.4%増で、コロナ対策として行われた人の移動制限が緩和された後に回復している。上期のコモデティ別生産量データ(肉類は屠殺数から算出)をみると、牛(前年同期比5%増)、豚(11%増)、鶏肉と無糖練乳(3%増)、低温殺菌乳(4%増)、トマト(14%増)、ソフトドリンク(12%増)、アルコール飲料(53%増)であり、殆どの製品で生産指標が良好。
 
(4)2021年上半期のパナマ国内外への海外送金は増加傾向
パナマ貿易産業省(MICI)によると、2021年上半期(1月~6月)にかけて、パナマが海外から受け取った送金は1億7700万ドルであり、対前年167%(7,100万ドル増)であった。パナマが海外から受け取る送金は主に米国、コロンビア、エクアドル、スペイン、メキシコからで、主に銀行振込であり昨年の落ち込みから回復している。他方で、パナマからの送金は1億8400万であり、前年同期比106%(1,000万ドル増)だった。近年、コロンビア、ニカラグア、米国、エクアドル、ドミニカ共和国など、比較的収益性の高い仕事に就く外国人労働者の流入により、海外送金額は年々増加している。
 
(5)月次経済活動指数(IMAE)は2021年1月~8月にて12.48%増加
国立統計センサス局(INEC)によると、月次経済活動指数(IMAE)は2021年3月までの1年間に及ぶ大幅な前年比減少から、5か月連続で前年比増加(26.39%)を記録し、2021年1月~8月にて12.48%増加である。ただし、2021年度は前半3か月の減少が響き、パンデミック前の2019年の水準は回復しない見込み。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)パナマ向けの海上輸送運賃は高止まり
2020年6月以前では中国から米国またはパナマ向けでは、約2,000ドル/40ftコンテナだったが、現在は、10,000ドル~20,000ドルの水準で高騰が続いている。運賃高騰の要因は、港の混雑、搭載スペースに対する需要の高まり、コンテナの不足等の要因によるものである。更に、コロナ禍からの各国経済開放による需要急増により事態は深刻化している。米系大手小売/食料品業者WalmartやCoca Colaなどは、BCO (Beneficial Cargo Owner)として、直接船会社と交渉してチャーター輸送を行うが、中小手の業者は輸送手配に苦慮している状況。
 
(2)コロンフリーゾーンの2021年1月~8月における貿易額は113億5000万ドル
コロンフリーゾーン(ZLC)は、2021年1月~8月の貿易額が113億5000万ドル(輸入:54億700万ドル、再輸出:59億4,300万ドル)であると報告した。同貿易額は、前年同期比24%増加であるが、パンデミック前の2019年同期比25%減であり、パンデミック前の水準には戻っていない。ただし、今年度は年末商戦(需要増)が明らかにみられ、単月(2021年8月)では2019年の水準を約1%程度上回っている。なお、コロンフリーゾーンから再輸出される品目は多い順で、医薬品、電子機器、携帯電話、衣料品であった。
 
(3)ラテンアメリカ証券取引所(Latinex)は、9月までの取引額78億8,800万ドル
ラテンアメリカ証券取引所(Latinex)は、2021年1月から9月で、取引額78億8,800万ドル(前年同期比26.9%増)を記録した。この記録は、パンデミック前の2019年の取引額56億9,600万ドル(前々年同期比38.5%増)も上回る。同取引所のGMによると、「コロナ禍で相対的に株価が下がったなかで、よりよい条件(機会)をとらえて、企業などの株式の購入が活発化した。更に、パナマと相互間の為替取引協定を結ぶエクアドル、コスタリカ、グアテマラなどとの取引増加が取引額増加に繋がっている」と述べた。
 
(4)トクメン国際空港は運航再開1年間で商業飛行回数の53%を回復
トクメン国際空港会社によると、コロナ禍により2020年3月に運航停止、そして同年10月運航再開から1年経ち、トクメン国際空港は、2021年1月~9月で、延べ6,852,158人(そのうち85%にあたる、5,856,706人がトランジット利用)の搭乗者数及び71,866飛行回数を記録した。当該飛行記録は、パンデミック前(2019年)と比較して、約53%まで回復を示した。また、北米と欧州及び中南米カリブ地域各国を中心として、パンデミック前の89目的地のうち、66目的地(38カ国中31カ国)の路線を回復した。
 
(5)デルタ航空はコパ航空とパナマ・米国路線で競合を目指す
15日、トクメン空港会社は、12月に米国発着便増加を発表した。同時に、米国航空会社デルタ航空は、12月中旬(18日、20日)から、ロサンゼルス、オーランド、NYジョンF.ケネディ国際空港からトクメン国際空港への直行便就航、そして、アトランタ空港への増便を発表し、同社は、「今年の冬に米国4都市とパナマ間で週13便を運航する予定で、1998年のフライト開始以来、同国へのフライト数が最も多い」と述べた。他方で、コパ航空も、12月12日から、週4回アトランタへの直行便運航開始することを発表した。従って、同社が事業を行う米国の都市が11になる。現在、コパ航空はパンデミックによる商業フライト中断・再開後、米国のデンバー、ラスベガス、ニューオーリンズの各路線を運航再開していないが、再開の検討に入っている。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)旅客船のパナマ運河通航料金体系改定に係る公聴会の開催
 10月5日、パナマ運河庁(ACP)は旅客船のパナマ運河通航料金体系改定に係る公聴会を開催した。この改定案は、現行の旅客容量(寝台数)とPC/UMSを用いた料金体系から、PC/UMSのみに基づく料金体系にしようとするものである(当館注:PC/UMSは、ACPが独自に採用する船舶容量)。今回の公聴会の審議事項を踏まえ、通航料金体系の改定案はACPの理事会で審議ののち、閣議に提出される予定である。
 
(2)9月までのパナマの港湾ターミナルのコンテナ取扱量
 パナマ海事庁(AMP)の発表によると、2021年9月までのコンテナ取扱量は639万TEUを記録した。これは2020年同期比と比して12.4%の増加(70.3万TEU増)となる。ターミナル別では、コロンコンテナターミナルが36%増、バルボアが24.8%増、ボカス・フルーツ・ターミナルが21.9%増、マンサニージョ国際ターミナルが8.4%増となる一方で、クリストバルが0.8%減、PSAターミナルが1.4%減であった。
 
(3)パナマの海運カボタージュ法案が国会で可決
10月21日、パナマ領海内のカボタージュ輸送及び国内貿易活動を規制する法案第598号は、国会で承認された。当該承認に至る過程として、3回の討論など実施されたが、微修正に留まり、原案はほぼ完全に保持された。同法では、海事サービス免許を申請する会社の株主は少なくとも、75%がパナマ国籍でなければならない。
 
(4)パナマ運河は、2019年会計年度より10%多い記録的な通航船舶トン数を記録
10月28日、パナマ運河局(ACP)は、2021会計年度(2020年10月1日~2021年9月30日)に年間5億1,670万トンの通航船舶トン数 (PC /UMS: Universal Canal Shipment System)、13,342隻の通峡を記録したと発表し、トン数の記録は2019年度と比較すると10%、2020年度とでは8.7%上回る。他方で、通峡隻数は前年比 0.1%減となり、ネオパナマックスなど通峡船舶の船型大型化が進んでいる。船種別では、コンテナ船が1億8,430万トン、ばら積み貨物船9千万トン、ケミカルタンカー船 6500万トン、LNG船 6100万トン、LPG船 5280万トンと続く。また、2021年のパナマ運河のトン数別主要航路は米国東海岸-アジア、続いて米国東海岸-南米西海岸、南米西海岸-欧州、南米域内、南米東海岸-アジアとなっている。利用国別ランキング(注:運河を通過する船舶の国別発着数)では、米国、中国、日本、韓国、チリの順である。
 

5.インフラ関連

(1)メトロ3号線事業の本格着工
 10月5日、メトロ公社は、メトロ3号線事業について高架部分の杭打ち工事の開始により本格着工したことを発表した。本事業は、円借款を通じた支援としては中南米で過去最大規模の2,810.71億円の協力を行うものであり、モノレールおよび関係システムは日立製作所と三菱商事が実施する。
 
(2)トクメン空港新旅客ターミナル建設の契約打ち切り
 9月28日、トクメン空港公社はトクメン空港の新旅客ターミナル建設にかかりオデブレヒト社との契約の打ち切りを発表した。同公社は、当該契約については数次の契約変更を経て9月30日を履行期限としていたが、期限内の完工が困難な状況にあったことから、契約を打ち切ったとしている。一方で、オデブレヒト社は、この遅れはコロナの影響に伴う資機材調達の遅れ等に起因するもの、また必要な資金の調達が支払われていなかったとして同公社の決定を不当と主張している。
 
(3)Corredor de las Playas(ビーチ回廊)の第一区間建設の第三者への譲渡
 FCC(西)は公共事業省(MOP)に対して、Corredor de las Playas(ビーチ回廊)の第一区間の建設について、第三者に譲渡する意向を示した。本事業は、El Consorcio de las Playas(FCC社とCisco社のコンソーシアム)が受注により工事が開始していたが、その後、本事業に係る用地等の補償に莫大な金額を要することが判明したため、MOPは事業を大幅に縮小する見直しを行っていた。現在、MOPは同工事を引き継ぐ企業を検討中である。
 
(4)「ターンキー方式」プロジェクト案件の入札
 公共事業省は、国内全域の道路のリハビリ・拡張等にかかり、26件の「ターンキー方式」プロジェクトの実施(合計1,162百万ドル)に向けて取り組んでいる。この「ターンキー」方式は、工事請負企業側の自己資金で事業を開始するとともに特定の進捗が確認された段階ではじめて実施機関が建設費を支払うものであり、コロナの影響で財政が苦しいパナマ政府としては予算支出のタイミングを後ろ倒しにすることが可能になるとともに公共事業実施による経済を再活性化が期待できる。「ターンキー方式」プロジェクト26件のうち、9月末時点で5件が契約済み、13件が入札プロセス中にある。
 
(5)バルボア造船所のコンセッション契約の締結
 パナマ海事庁とAstilleros Puerto de Balboa社は、バルボア造船所のリハビリ、開発および管理を含む20年間のコンセッション契約を締結した。この契約では、企業側は20年間で固定料金として14.4百万円(毎月6万ドル)をパナマ政府に支払うとともに、リハビリのために20百万ドルの投資を行うこととされている。また、企業側は同契約内容を遵守している場合に限り契約満了の1年前に延長を要求が可能となっている。