パナマ経済(2021年8月報)

令和3年9月9日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●S&Pは、パナマの格付け見通しをBBB(安定的)から(ネガティブ)に変更
●ラテンアメリカ証券取引所(LATINEX)の取引量は前年同期比60%増加
●世界銀行が地域本部にパナマを選択
●パナマ運河庁は旅客船のパナマ運河通航料金体系の改定案を発表
●メトロ3号線事業トンネル部設計の落札者決定
 

1. 経済全般、見通し等

(1)S&Pは、パナマの格付け見通しをBBB(安定的)から(ネガティブ)に変更
8月5日、スタンダード&プアーズグローバルレーティング(S&P)は、パナマのソブリンリスク格付けの見通しを安定からネガティブに変更した。変更理由として、同社は声明で、パナマの一人あたりのGDPが2019年の15,831ドルから2020年には12,373ドルに減少になった事象を「衝撃的で、地域で最も深刻な縮小」とし、今後6か月から24か月におけるパナマの財政および経済指標のリスクを反映したと述べた。また、パナマが財政赤字を削減するための重大な課題を抱えていることを強調し、「最も喫緊の問題は社会保障基金の財政の悪化である」と指摘している。
 
(2)2021年上期の非金融公共部門は2,273百万ドルの財政赤字となるも収益率は改善
パナマ経済財務省(MEF)の発表によると、非金融公共部門の財政収支は、上期(1月~6月)で2,273.3万ドルの赤字を記録した。今年度の傾向としては、収入も費用も昨年同期比で大幅に増加し、現状も財政赤字となっているものの収益率は2020年よりも相対的に改善している。
総支出額(歳出)は7,460.7百万ドルで、2020年の同時期と比較して1,171.3百万ドル(16.8%)増加し、内訳として、国家・機構の運営のため特別法で定められた公務員の賃金増加(187.8百万ドル増)や公共投資、設備投資の実行(約579.3百万ドル増)他となった。
他方で、総収入(歳入)も5,187.4百万ドルで、前年同期と比較して1,112.1百万ドル(27.6%)増加で、移動制限緩和などによる事業回復による税収の回復などで、大幅に改善した。
 
(3)2021年上期の債務返済額は、2,907.9百万ドルに達し、利息と手数料支払いが増加傾向
2021年上期の債務返済額は、2,907.9百万ドルで前年同時期と比して109%(246.7百万ドルの増)であった。債務返済はすべて公的債務で賄っている状況で、2021年度上半期では、とりわけ利息と手数料支払いのみで829.6百万ドルで、前年同期比116.3%(前年度:713.1百万ドル)と大きな伸びとなっている。パナマは、中南米諸国と比較しても安価な金利レートで、金融市場で良好な立ち位置を維持しているが、政府債務の契約件数増加により、近年、総利息支出は増加傾向である。
 
(4)2021年上半期(1月~6月)の新規貸付(ローン)は、7,798百万ドル
パナマ銀行監督局によると、2021年上半期(1月~6月)の新規貸付(ローン)は、7,798百万ドルであり、2020年の同期比で5.7%増加。融資実行先の内訳をみると、“商業/サービス分野”へ3,400百万ドル(前年同期比3.3%増)、”産業分野”へ1,115百万ドル(前年同期比0.1%減)、個人向け融資 1,044百万ドル(前年同期比23%増)その他2,000百万ドルであり、年明けに政府によって課された厳しい移動制限により、個人向け融資が大きく伸びた。他方で、2021年6月末時点での新規貸付残高は54,226百万ドルであり、前年同期の残高と比較して、987百万ドル(1.8%)の減少を示した。
 

2. 経済指標

(1)自動車販売台数は上半期で83%増加し、安定化に向かう
上半期には1万8千台以上の新車が販売され、ディーラーは3万5千台で年末を迎えると見込む。会計監査院のデータによると、今年の上半期の自動車販売台数は、前年同期比83.4%増加して合計18,260台になった。内訳では、2021年1月から6月までの乗用車(セダン、クーペ、トラックタイプ)の販売台数は、5,509台で前年同期比58.4%増加した。また、ミニバンと小型ミニバンの販売台数も58.2%増加し、合計310台となった。更に、高級車とSUVに関しても、それぞれ前年同期比171.5%と106.4%のプラスの数字で、販売台数897台と7,354台であり全体的にどの車種でも販売台数が伸びた。
 
(2)ラテンアメリカ証券取引所(LATINEX)の取引量は前年同期比60%増加
2021年1月~7月、パナマ証券取引所を傘下に有するLATINEXでの株式取引量は、
合計5,082百万ドルで、前年同期比60%、1,906百万ドルの増加。内訳としては、初回取引が3,449百万ドル(前年同期比+85%増)、2回目以降1,571万ドル(前年同期比+54.9%)である。2021年は、既にパンデミック前の取引記録を上回り、2016年以来の高水準となっている。また、7月29日に発表されたトクメン国際空港の追加債務1,855百万ドルがLATINEXにも登録されたため、2021年は2019年の年間取引記録8,527百万ドルを超える可能性が高い。
 
(3)パナマの労働市場は、度重なる外出制限措置で弱体化している
パナマの労働者のおよそ70%は対面によるものであり、空港検疫と夜間外出禁止令は、特に第三次産業(ホテル、レストラン、バー、不動産活動、教育、ロジスティクス、芸術と娯楽など)に壊滅的な影響を生じた。パナマ労働開発省によると、2021年8月時点で、179,585人の雇用が再開された一方で、度重なる政府の措置により雇用再開後に22,479人が解雇され、104,624人が契約の一時停止(給与支払いの停止)となった。契約停止となった労働者約80%は、第三次産業に属していた。そのなかで、パナマのホテル業は、現状営業再開が38%のみにとどまっている。また営業再開したホテルも最大提供客室数の50%で運営され、3万2000室となっている。現在までに、観光に関連した100,000件を超える雇用契約に対して、65%以上が停職、賃金引き下げ、更には解雇などの影響がでている。
 
(4)苦境に立たされるショッピングセンター
パナマショッピングセンター協会は、「現在、ショッピングセンター(モール)の30-40%が空室・空き地であり、それらのほとんどが家賃を支払いできない零細事業者の運営する店舗である。これからの事業者は、売上を生み出す消費が停滞している状況で再開することができない。」と述べている。現在のショッピングセンターの状況はパンデミック以前に比べ、売上60%程度であり、従業員も半分程度となっている(残りの半分は、20%が契約停止、30%が契約終了)。売上が戻らない限り、雇用回復はあり得ず、ショッピングセンター協会は、購買促進するキャンペーンを打ち出し、パナマブラックウィークエンド(9月30日~10月10日)や年末にかけて消費拡大に繋げる施策を次々と実施する見込み。
 

3. 通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)世界銀行が地域本部にパナマを選択
世界銀行は、中央アメリカ及びドミニカ共和国の地域本部を設立するためにパナマを選択した。世界銀行副総裁であるジャラミロ氏は会見で、「パナマはこの地域の重要かつ戦略的なプレーヤーであり、その地理的位置とラテンアメリカおよびカリブ海諸国との接続性」を強調した。同本部はワシントンからパナマの首都に移され、スタッフは半年~1年かけて約30人規模になる。8月9日、ジャラミロ氏は、パナマ大統領府を公式に訪問し、コルティソ大統領、アレキサンダー経済財務大臣および民間部門の代表者と会談し、パンデミックの経済対策、そして、世界銀行が経済回復の段階でどのように貢献できるかを話し合った。
 
(2)コパホールディングスはパンデミック以降はじめての“利益”を記録
8月6日、コパ航空を運営するコパホールディングスは、2021年第2四半期決算で、営業利益+304.3百万ドル、純利益+28.1百万ドル(1株あたり0.66ドル)を報告した。パンデミック前の2019年第2四半期では、営業利益が、+645.1百万ドル、純利益が+50.9百万であり、それぞれ-52.8%、-44.8%減少したものの、パンデミック以降はじめての利益を確保した。パンデミック発生前、コパ航空は世界80目的地に週約2,500便を運航していたが、2021年2月には、52目的地への週760便まで減少し、売上は大きく減少した。しかし、燃料費などの費用削減を積極的に行い、また、時間厳守92.1%、飛行完了率99.5%など業界最高峰のサービス品質も確保し、搭乗率、機材運用率は向上している。
 
(3)銅の採掘・輸出により、パナマが鉱物資源国の仲間入り
国家統計センサス局(INEC)速報値によると、2021年上半期の輸出は、1,664.9百万ドルで対前年同時期と比較して108.7%を記録した。そのうち銅は1,312.8百万ドルを占めており、過去2年間と同様、銅は国の主要な輸出品となっている。その他、輸出が増加した他の品目のチーク材とパーム油は、合わせて数千万ドルの規模である。輸出は2021年上半期が非常に好調で、国内総生産(GDP)への貢献は4%を超える。主要輸出先とその前年同期比は次の通り(上位5カ国で全体の73%を占める)。中国 581.5百万ドル(326.1%)、韓国183.5百万ドル(236.5%)、日本176百万ドル(486.1%)、スペイン156百万ドル(54.5%)、ドイツ116百万ドル(326.8%)。
 
(4)牛肉の輸出は上半期で25%減少
パンデミックによりパナマの牛肉輸出は、2021年上半期(1月~6月)で合計12百万ドル、昨年は合計16百万ドルであったため、25%減少した。理由としては、国外の大規模ホテルやレストランチェーンからの発注が減少している為である。現在、牛肉は12カ国・地域(中国に加え、台湾、香港、エルサルバドル、ジャマイカ、グアテマラ、トリニダードトバゴ、日本、バハマ、シンガポール、ニカラグア、キュラソー)に出荷しているが、産業界は、大きなマーケットである米国向けへの輸出開始に力を注いでおり、米国が食肉の輸入条件としている(微生物・細菌に対しての)厳格な分析・検査の実行を進めている。
 

4. パナマ運河、海事関連

(1)旅客船のパナマ運河通航料金体系の改定案
 9月1日、パナマ運河庁(ACP)は、旅客船のパナマ運河通航に係る料金体系の改定案を発表した。この改定案は、現行の旅客容量(寝台数)とPC/UMSを用いた料金体系から、PC/UMSのみに基づく料金体系にしようとするものである(当館注:PC/UMSは、ACPが独自に採用する船舶容量)。
 この改定案に対する海運業界からのパブリックコメントの受付期間は10月1日午後4時15分までとなっており、10月5日に公聴会が開催される予定となっている。
 
(2)パナマ海事局の収入は2021年1月から7月にかけて38%増加
パナマ海事局(AMP)は、パンデミックにもかかわらず、今年の1月から7月までで、収入が110.83百万ドル、対前年38%(予算比35%)増だったと発表した。また、国庫納付額は、総額45.5百万ドルに達しており、7ヶ月で既に予算を上回っている。要因は、コンテナ取扱量増加によるものが大きく、AMPは、港湾事業の戦略的再構築によりリソースの配置など港湾管理の見直しや経費削減などを行った結果であると述べた。
 
(3)パンデミックの逆境下で、パナマの港湾事業は成長
パナマ海事庁(AMP)の速報値によると、2021年1月~7月のパナマ国内6つのコンテナターミナルのコンテナ取扱量は合計490万TEUを記録し、2020年同時期と比較して12.5%の増加となった。また、パンデミック前の2019年同時期と比較すると22.5%増加した結果となる。パナマ国内で荷役が行われるコンテナの90%は、周辺諸国に輸送される積み替え貨物であり、他国向けの高需要の恩恵を受けている。6つのコンテナターミナルのうち、最も増加率が高かったBocas Fruit Companyターミナルはバナナ輸出により31.5%増であった。その他、コロンコンテナターミナルが28%増、バルボアが24.4%増、マンサニージョ国際ターミナルが10.4%増、クリストバルが1.4%増であり、唯一、PSAターミナルが3.1%減であった。
 
(4)パナマ運河庁(ACP)の収益は第3四半期に11%増加
8月15日、運用開始107年を迎えたパナマ運河は、2021会計年度(2020年10月~)の9か月間2021年6月までで、2,913百万ドルの総収入を報告した。前年同期比11%、322百万ドル増となった。他方で、総経費は、2021会計年度(2020年10月~)の9か月間で、1,289百万ドル、+0.3%増で、前年並に抑えられている。
 
(5)13,705隻が5年間で新しい閘門(第三閘門)を通過
パナマ運河局(ACP)によると、運河拡張が開始された2016年6月26日から、2021年6月末までに13,705隻の船が第三閘門を通過した。当該数字は、この5年間の運河通過総数の28%に相当。第三閘門は、最大15,000TEUの容量を持つネオパナマックスの通過を可能にし、同通過数は、2016年度に236隻から上昇し始め、2017年度/1,912隻、 2018年度/2,513隻、 2019年度/2,983隻、2020年度/3,287、2020年10月から2021年6月までで既に2,774隻である。第3閘門を最も使用する船種は、コンテナ船であり、ばら積み船、液化石油ガス、液化天然ガスがそれに続く。ACPバスケス長官は、「ネオパナマックスの通過は、全体の貨物量54%、運河通行料収入58%を占めており、運河拡張がパナマを通るルートの競争力に貢献したという価値を示す」と述べた。
 
(6)パンデミック以降初めてのクルーズ船のパナマ寄港
 8月26日、ウィンドスタークルーズラインのクルーズ船スターブリーズ号がパナマに寄港した。クルーズ船のパナマへの寄港は2020年のパンデミック以降初めてとなる。同号はコロンからパナマ運河を南へ通過しアマドールのフラメンコターミナル、チリキを経由してコスタリカへ向かった。
 

5. インフラ関連

(1)メトロ3号線事業トンネル部設計の落札者決定
 8月13日、メトロ3号線事業のトンネル部の設計について、el consorcio Tunel de las Americas(Tecnica y Proyectos,S.A.(スペイン)とLouis Berger LAC.S.de R.L.(米国))の落札が決定した。落札価格は9,856,000.6ドル。本件は、今年2月に参考価格13百万ドルとして入札プロセスが開始していたところ、5月に4コンソーシアムからの入札があり、これまで各入札内容の評価、異議申し立てへの対応が行われていた。
 
(2)第四送電線事業の環境影響評価の入札の中断
 8月26日、公共調達局は、実施機関であるEtesa(国営送電公社)に対して、第四送電線事業に係る環境影響評価業務の入札手続きの中断を命じた。これは、7月30日に5者からの入札があり、その後に行われた入札提案書の評価に対して、競争参加企業側の異議申し立てを受けて行われたもの。本件は、ボカスデルトロのチリキグランデからパナマ市内に建設される第3変電所までの330kmを結ぶ送電線事業の環境影響評価であり、参考価格は4.2百万ドルである。
 
(3)パナマコンベンションセンターのパナマ政府への引き渡し
 8月23日、パナマ観光庁は、アマドールで建設していたコンベンションセンターが建設を請け負ったCCA-CSCECからパナマ政府に引き渡されたことを発表した。本施設の開業は9月30日を予定しており、今後、国際的なイベント等によって外貨をもたらす重要な施設となることが期待されている。