パナマ経済(2021年7月報)

令和3年8月11日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
 
主な出来事
●公的債務残高は6月の時点で39,684百万ドルに達する
●パナマの2021年第1四半期(1-3月)GDP ▲8.5%
●茂木外務大臣のパナマ訪問
 

1.経済全般、見通し等

(1)公的債務残高は6月の時点で39,684百万ドルに達する
公的債務残高は6月の時点で39,684百万ドルに達し、コルティソ政権が発足して以来13,072百万ドル増加した。第2四半期(4月~6月)では、今後数年で満期を迎える有価証券の約200百万ドル程度の償却費用に係る資金調達が含まれるが、これを除いても増加の割合は非常に大きい。債務の伸びは、「歳入見通しが甘く資金回収が十分できていない」「パンデミック発生による財政状況悪化への対応」が理由として挙げられる。政府総債務残高(対GDP比)も、1年で46.4%から69.8%になり、23パーセントポイント以上急増している。
 
(2)パナマの2021年第1四半期(1-3月)GDP ▲8.5%
パナマ会計検査院は、2021年第1四半期の国内総生産(GDP)は昨年から減少し、▲8.5%になったと発表した。第一四半期(1-3月)は、レストラン、ホテル等の外食産業・観光産業は、▲54.8%でパンデミックの影響は昨年から色濃く残り、更に、パナマ県と西パナマ県移動制限による産業活動停滞で、建設業も▲35.1%となり、厳しい状況であった。他方で、鉱山及び鉱物採石開発・事業、パナマ運河の通行料収入、コンテナ取扱量・コロンフリーゾーンからの輸出等の港湾事業は好調であったが、マイナスをカバーできてはいない。2020年通年は、長期間にわたる外出制限により、パナマのGDPは17.9%の大幅な減少だった。今期は昨年が低水準であり、すべての予測は、通期で2桁(+10~12%)の反発を予測。
 
(3)政府の歳入2021年第1四半期に、合計2,758百万ドルで増加傾向
政府の歳入は、2021年第1四半期で合計2,758百万ドルとなり、予算と比較して664百万ドル(31.8%)増加し、2020年の記録と比較しても529百万ドル(23.7%)増加した。2021年第1四半期には回復が見られるが、パンデミック前の2018年 3,545百万、2019年 3,377百万と比較するとまだかけ離れている。また、昨年2020年と比較して増加したのは、単に税金徴収のパフォーマンスが向上したわけではなく、延期による支払いも含まれている。
 
(4)2021年1月から5月までの新規融資総額は、依然として景気低迷を示す
銀行監督庁(SBP)によると、2021年5月に銀行は1,326.6万ドルの新規融資を実行した。これは、前年同月と比較すると、737.7百万ドルまたは125.3%の増加に相当するが、前年同月は政府がコロナ感染を封じ込めるために強い制限を課していた月にあたる。
実際に、2021年1月から5月までの5か月間では、6,297.6百万ドルの新規融資が行われ、昨年比では▲3.9%で252百万ドル減少している(パンデミック前の2019年1月から5月と比較すると、約10,900百万ドル新規融資が実行されており、42.2%と大きく減少した)。従って、4月、5月は前年同月比で新規貸付の返済が回復したものの、2021年1月から5月までの5か月間の増減のバランスをとるほどではなく、経済の低迷を象徴している。
 
(5)中米経済統合銀行(CABEI)はパナマへ追加融資の交渉を開始
中米統合銀行(CABEI)のモッシ総裁は、パナマに対する新たな融資の交渉を行っていることを発表した。この融資の規模は125百万ドルから150百万ドルであり、これが実現すると、昨年末に承認された2件の融資(250百万ドル、150百万ドルの合計400百万ドル)に続くものとなる。
 
(6)米州開発銀行(IDB)グループ総裁のパナマ訪問
8月1日より3日まで、IDBグループのクレイバー・カロライン総裁がパナマを訪問した。同氏は、コルティソ大統領、アレキサンダー経済財務大臣、民間セクターの代表者と会談を行い、水質管理と衛生、健康と社会の保護、都市開発と教育など22分野の事業に及ぶ投資について協議した。また、今回の同氏の訪問中、IDBはパナマの農業支援のため、農業開発省と農業イノベーション研究所へ総額41百万ドル規模で融資を行うことを発表した(資金調達期間15年、返済猶予期間5年)。また、ワクチン購入に関して、総額30百万ドル規模でCovaxの枠組みとAstra Zeneca研究所のもとで締結された契約に関しての資金調達を行う。
 
 

2.経済指標

(1)パナマ貯蓄基金(FAP)の2021年第2四半期時点の純資産は約1,400百万ドル
FAPは2021年6月30日時点で、純資産は約1,400百万ドルとなった。第1四半期は、市場金利上昇に起因して8.9百万ドルの損失を記録したが、第2四半期は好転した。FAPは、2013年に創設以来、累積384百万ドルの収益を報告し、その一部を国庫に納付し、総額237百万ドルに達する。このうち、105百万ドルがパンデミックに関連した医薬品や関連費用に使用された。また、COVAX契約に基づくワクチンの購入にも20百万ドルが別途割り当てられた。
FAPからの資金の引き出しは、FAP法第5条に定められた要件を条件としており、次の条件を満たす必要がある。1)国家政府による非常事態宣言下、2)要求された引き出しは非常事態に関連しており、国内総生産(GDP)の0.5%を超える、3)引き出し後のFAP純資産は、前年の名目GDP2.0%以上
 
(2)6月以降の夜間外出禁止令によりレストランの売上30%減少
現在、パナマ保健省(MINSA)がCovid-19感染予防対策のため発出している外出制限策の影響で、これまで2020年3月から閉店を余儀なくされたレストランは2,700店舗に及ぶ。パナマ・レストランおよび関連事業協会(ARAP)よると、外食産業は、外出禁止令を緩和した2021年4月19日以降、パンデミック以前の売上水準の50~60%まで回復したが、6月7日以前の11時まで営業できた時期と、6月7日以降の午後10時から外出禁止となった期間を比較すると、レストランの売上は更に30%も減少した。統計上の最新値では、2020年第4四半期(2020年10月~12月)にホテルやレストランから報告された収益減少率は、前年比59%。外食産業の予防接種率(2回接種済)は50%である。
 
(3)建設業界の鉄鋼とポリ塩化ビニル(PVC)価格は、パンデミック前の1.5~3倍に上昇
パンデミック発生後数ヶ月間の建設事業停止による再開後の需要急増や海上輸送貨物運賃の上昇により、パンデミック以前は、鉄鋼は600ドル/1トンだったが、現在は1,600ドル~1,700ドルに達している。また、PVCの場合は150%上昇となっている。
パナマ建設会議所(Capac)の見解では、この状況は、請負業者が管理できない不可抗力の状況であり、民間投資の場合は、消費者に価格転嫁するかは契約を踏まえて、慎重に判断する必要があり、他方で、公共投資プロジェクトでは、法律による規定に従い、建設価格を適切に引き上げるとしている。
 
(4)米生産者への補助金にさらに1,800万ドル追加
7月21日、地方自治体は、農業開発省(MIDA)を通じて、生産コストの増加により収穫された米の100£=45.3592kg単位ごとに、生産者に2.00ドルの追加補助金を与えることに合意した。MIDAによると、当該補助金は2021/2022年の農作物の収穫期をカバーし、推定9億£の収穫が見込まれることを考慮に入れると18百万ドルに相当する。政府は既に、米の100£あたり7.50ドルの補償を認めており、既に合計65.3百万ドルに更に追加され、合計83.3百万ドルになる。この援助は、パンデミック発生による国際市場の混乱により、肥料、物資輸送などの価格上昇の影響を緩和し、主食である米の国内生産を持続させる措置とされている。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)茂木外務大臣のパナマ訪問
7月17日より19日まで、茂木外務大臣は当地を訪問し、コルティソ大統領を表敬した他、モイネス外務大臣との会談及びパナマ運河視察を行った。会談のなかで、両国は、日本とパナマの経済関係促進のため、経済対話を早期に実施することで一致した。また、モイネス外相は、2022年に官民ミッションを日本に派遣することを表明した。
 
(2)石油価格上昇は、貨物の輸送運賃上昇に拍車をかける
石油1バレルの国際価格は、WTIバレルは74ドル、ブレントは75ドルで取引(7月中旬時点)され、1年前は43ドルと比較すると57%上昇した。既に一部の海運会社やルートは、燃油サーチャージとして、40フィートのコンテナで、400ドルから800ドルの増加を通知している。海上コンテナ運賃(40フィート)は、アジアからパナマまでの輸送で、15,000ドルに急騰し(以前は2,000ドル程度)、今後は年末のピークシーズンにかけて更に輸送コスト高騰が予想され、年末商品の到着遅延などが見込まれる。
 
(3)トクメンの旅客輸送は4ヶ月連続で増加
トクメン国際空港は4ヶ月連続で乗客数が増加し、6月には751,219人に達した。当該人数は2020年10月12日に商用便の運行が再開されて以降、最高値である(ただし、パンデミックが発生する前の月平均値120万人をはるかに下回る)。2021年1月458,628人と比較すると、63%増加し、今年の3月から上昇傾向となっている。また、2021年第一四半期では、合計3,099,683人の乗客が利用しているが、その大部分がトランジットのためのターミナル利用者であり、トクメン空港を通過した乗客の発地は、北米が41%、南米が40%、中米が8.9%、カリブ海とヨーロッパがそれぞれ6.7%と3%である。航空会社は、2021年6月の時点で、パンデミックの前に事業を行っていた航路・目的地の73%(28か国、58目的地)を復便させている。
 
(4)コロンビアとパナマ両国は電気の相互接続に合意
7月21日、コロンビアとパナマのエネルギー省は、両国間の電気相互接続の基本原則を定義する協定に合意し、署名した。この協定署名により、コロンビアのエネルギーガス規制委員会(CREG)とパナマの国家公共サービス局(ASEP)は、相互接続スキーム(エネルギー交換の条件、報酬、商業的および技術的運用のルールを規定)が前進した。具体的には、エネルギー資源の最適な使用と余剰発電が可能になり、緊急時に相互支援が保証される。
 
(5)コルティソ大統領の米国・テキサス州訪問
コルティソ大統領は米国・テキサス州を訪問(7月12日~16日)し、商工会議所や投資家などと会合をもった。そのなかで、エナジートランスファー社(米国州内および州間の天然ガスの貯蔵と輸送会社)と液化石油ガス(LPG)に関して、パナマの太平洋側のターミナル開発、建設、運用の実現可能性調査のために、パナマ政府とエナジートランスファー社とのあいだで覚書が締結された。また、多国籍通信企業ミリコム社を訪問し、パナマの地理的優位性に基づいた金融サービスの拡大(フィンテックハブ構想)が話し合われ、会談後に同社がパナマを「フィンテックハブ」を構築し、全国の固定およびモバイルインターネットサービスの拡大に250百万ドルを投資することを発表した。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマ運河庁(ACP)の2022年度予算案が4,215百万ドルで閣議承認
閣議は、パナマ運河庁(ACP)の2022年会計年度の予算案を4,215百万ドルで承認した。今年度会計の予算3,308百万ドルと比して、907百万ドル増となる。収入の内訳は、通行料収入が3,180百万ドル、トラフィック関連サービスが1,023百万ドル、その他12百万ドルである。また、総経費は2,025百万ドルを見込む。また、442.8万ドルが投資プログラムに別途割り当てられ、主な投資プログラムは水資源プロジェクトである。なお、ACP新会計年度予算案は、2021年10月1日から2022年9月30日まで適用され商業、海事産業、および水路がサービスを提供する市場とルートの経済状況の予測に基づく交通予測を考慮に入れて作成されており、これから国会で審議される。
 
(2)パナマ運河庁(ACP)は、鯨類の保護のための規制を再開することを発表
パナマ運河庁(ACP)は、2021年8月1日から11月30日まで、クジラ、イルカ、その他の大型動物等の海洋移動種との衝突のリスクを減らすため、国際海事機関(IMO)が定める行動規範(分離通航方式が適用される指定航行区域内の航行順守や航行速度上限を10ノットとする)の実施を発表した。パナマ湾は移動性のザトウクジラにとって重要な越冬場所であるため、海洋生物の保護は重要であり、更に、分離通航方式は、温室効果ガスと汚染ガスの排出を大幅に削減する。自動船舶識別システムからの速度、位置、および船首方位データの分析・年次推奨事項への準拠により、船舶の温室効果ガスと汚染ガスの排出量が平均75%削減、2017年から2020年のあいだで、合計20,000トン以上の二酸化炭素(CO2)排出減少に寄与している。
 
(3)パナマ政府と中国政府間の海事協力協定の更新
 7月20日、パナマ海事庁(AMP)は、パナマ政府と中国政府間の海事協力協定を更新した。本協定の更新により、中国の港に入港するパナマ籍船への港湾関税控除や優遇措置が引き続き継続され、両国間の貿易関係を強化する。この協定は、中国の港に運航するパナマ籍船のために、平等、相互利益、航行の自由、無差別の原則を基礎に置くものである。
 

5.インフラ関連

(1)メトロケーブル(ロープウェイ)のフィージビリティ調査の再入札
 7月23日、メトロ公社は、メトロケーブル(ロープウェイ)のフィージビリティ調査の入札を公示した。本事業は、人口増加の著しいサンミゲリート地区の住民の移動性向上のために、同地区北部からメトロ1号線、2号線沿線への接続をロープウェイによって接続するものである。同調査は、先般、入札手続きが行われたものの、企業側から提出のあった入札提案書の評価の結果、全社が入札要件を満たしていなかったとして手続き自体が無効とされていたところであり、今回、改めて入札を行うものである。同調査のメトロ公社の参考価格は、前回入札同様、1.3百万ドルである。
 
(2)バルボア造船所のコンセッション契約の落札決定
 7月30日、パナマ海事庁(AMP)は、バルボア造船所のリハビリ、開発および運営等を行う20年間のコンセッション契約に関して、Astilleros Puerto Balboa社(スペイン企業グループ)に落札決定したことを発表した。バルボア造船所は、太平洋側の周辺諸国で唯一、3つのドックを有しており、うち1ドックはパナマックス船の対応も可能となっている。
 
(3)第4送電線事業の環境影響評価の入札
 7月30日、Etesa(国営送電公社)の第4送電線事業の環境影響評価の入札が行われ、5者の応札があった。本件は、ボカスデルトロのチリキグランデからパナマ市内に建設される第3変電所までの330kmを結ぶ送電線事業の環境影響評価であり、参考価格は4.2百万ドルである。