パナマ経済(2021年6月報)
令和3年7月19日
在パナマ日本国大使館
担当:小松原書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事
●2021年度、総額2,000百万ドルの負債管理と国債発行
●パナマ証券取引所の取引額増加によりパンデミック前の水準を上回る
●パナマ運河は拡張運河の運用開始から5年を迎えた
●政府はパナマ・ポート・カンパニー(PPC)との25年間の契約更新延長を承認
●パナマ運河庁は、水資源管理プロジェクトの入札モデルの再構築を発表
1.経済全般、見通し等
(1)パナマ政府歳入の回復政府歳入がパンデミックの打撃から徐々に立ち直っている。2021年1月から5月までの政府歳入は2,155.9百万ドル(前年同期比12.1%増・今期予算比27.6%増)、このうち税収が1,685.6百万ドル(同14.8%増・同33.1%増)、非税収443.2百万ドル(同1.1%増・同16.1増)、その他26.9百万ドル(同66%増・同35.9%減)となった。税収の主な中身は、所得税521百万ドル(昨年同期比66.8百万ドル増)、法人税167.5百万ドル(同97.1百万ドル増)、消費税Itbms225.9百万ドル(同46.8百万ドル減)だった。消費税の減少は、年初の外出規制や企業活動の停止により経済活動が制限されたことが要因である。
(2)2021年度、総額2,000百万ドルの負債管理と国債発行
経済財務省(MEF)は、総額2,000百万ドルを2031年3,362%の利回りで1,250百万ドル、2050年に3.774%の利回りで750百万ドル調達する。発行総額の3割相当の715.9百万ドルは、財務省債2022(303百万ドル)とグローバル債2024(412.9百万ドル)の未払い残高を削減するために割り当てられる。当該施策は、政府の負債管理(債券買戻し)という手法で知られており、今後数年間で満期を迎える債券のバランスを減らし、借り換えのリスクを軽減するために行われる。調達された残りの資金、つまり1,284.12百万ドルは、2021年の予算の資金調達に使用される。なお、5月末時点の公的債務残高は38,346.5百万ドル(国内6,611.7百万ドル、国外31,734.8百万ドル)で、4月末時点から47.5百万ドル減少したが、2020年5月末からは5,596百万ドル増加した。
(3)GAFI(金融活動作業部会)は、グレーリスト対象のパナマに行動計画の早急な完了を求める
GAFIは、マネーロンダリングとテロ資金供与の防止のための体制の欠陥に対処するために国際機関と合意した行動計画を迅速に完了するようパナマに促した。2021年2月時点で、パナマのアクションプランの15項目のうち、2項目は完全に満たされ、12項目は部分的に満たされている状態、1項目は進展無しである。ある程度の進展はGAFIも認められているが、グレーリストから抜け出すには、項目を幅広く遵守する必要がある。とりわけ、「マネーロンダリングと法人のテロ資金調達のリスクに対しての理解を向上させる必要性」「(個人送金のような)非財務報告主体の監督強化」「マネーロンダリングに関する違反に対して制裁措置の確保」「最終受益者に関する最新情報提供とオフショアエンティティの活動を監視するメカニズムの確立」「取締役および候補株主の誤用を避けるためのリスク評価」5項目がGAFIの指摘するパナマの課題である。
(4)パナマ商工会議所は2021年のインフレ率+1.2~1.5%と予想
パナマ商工会議所(Cciap)は2021年のインフレ率を1.2~1.5%と予想した。Cciapによれば、過去2年間、インフレ率はマイナスだったが、今年はガソリン価格の上昇が、食品を含む国内の商品コストに影響を与え、インフレ率上昇の引き金になると想定した。また、同インフレにより中期的にはパナマの消費需要が押し下げる可能性もあわせて指摘している。
(5)2021年5月消費者物価指数が前年比 1.9%・前月比 0.4%いずれも増加
会計検査院は、今年5月の消費者物価指数CIPが前年比で1.9%増加、前月比で0.4%増加したと発表した。特に、食料品と輸送部門で指数が増加した。両部門において、何れも燃料コストの上昇がトリガーとなった。なお、2020年のCIPは前年比で1.6%減少だった。
(6)ジェネラル・ガツンがLNG発電所計画NG Powerを引継ぐ
コルティソ大統領は、コロン県のLNG発電所計画(NG Powerプロジェクト)に関して、同計画をジェネラル・ガツンが引継ぐと6月1日に表明した。ジェネラル・ガツンはシェアの51%をインター・エネルギー・グループ、25%をパナマ政府、24%をAES社が保有する事業体であり、パナマ政府の投資は、AES Panama(パナマ政府がシェア50.4%保有)を通じて行われている。NG Powerは同プラントにほぼ着手しておらず、ジェネラル・ガツンは、今年の第2四半期からコロン海岸のイスラテリファーでプラントの建設が始め、32カ月から34カ月の間で完成を目指す。建設されるプラントは、2つのガスタービンと1つの蒸気タービンを持ち、プラントへのLNG供給は隣接するAES Colonターミナルから送られ、完成すれば発電量はパナマ最大の670MWとなる見込み。
2.経済指標
(1)パナマ国内コンテナターミナルの取扱高が2.8百万TEU2021年1月から4月までのパナマ国内6つのコンテナターミナルでの取扱高は、2,813,168TEUにのぼり、昨年同期比で8.5%増加した。個々のターミナルの取扱高は、ボカス・フルーツ・ターミナルが43,612TEU(前年同期比12.9%増)、コロン・コンテナ・ターミナルが273,094TEU(同14.0%増)、マンザニーロ・インターナショナル・ターミナル944,456TEU(同6.8%増)、パナマ・ポーツ・カンパニー・バルボアが788,322TEU(同21.7%)、パナマ・ポーツ・カンパニー・クリストバル372,393TEU(同2.6%減)、PSA・パナマ・インターナショナル・ターミナル391,291TEU(同2.2%減)だった。パナマに到着したコンテナの9割は、他国向け積み替え製品を含んでいる。
(2)臨時財政政策の期間延長
パナマ銀行監督官庁(SBP)は、従前より実施している臨時財政政策の期間を7月1日から9月30日までの90日間延長することを発表した。SBPは当該延長を「キャッシュフローと支払い能力がある債務者のローンを評価する期間」と位置付け、昨年のように自動付与でなく銀行への申請が必要となる。昨年8月には、ローンの修正が100万件を超え、残高も28,105.8百万ドルでしたが、今年の6月18日には493,847件、残高16,179.5百万ドルに減少した。
(3)インフォーマルセクターに従事する労働者の増加
パナマの労働市場において、これまでになくインフォーマルセクターに従事する労働者が増えている。インフォーマルセクターの定義には、労働契約を持たない民間企業労働者、フリーランス、従業員5人以下の雇用者、家事サービス、家族労働者が含まれる。2020年のパナマの労働人口200万人のうち、失業者は371,567人、就業者は1,631千人。就業者から農業従事者を除いた人数は1,470,571人、このうち777,162人がインフォーマルセクター従事者で、その割合は52.8%に達する。最近15年間、農業以外に就業した人数の2/3がインフォーマルセクターに従事している。会計検査院のデータでは、インフォーマルセクター従事者の人数は、2014年に545,507人、2015年に575,415人、2016年に583,940人、2017年に606,597人、2018年に679,166人、2019年に716,113人、2020年に777,162人と右肩上がりに増加している。また、パンデミックが雇用に与えた影響は深刻で、労働開発省によれば、2020年3月から2021年4月までに、労働契約の一時停止、労働時間の短縮、解雇された労働者に支払われた金額の合計は1,935.7百万ドル。一方、社会保険料460.7百万ドル分の徴収をやめている。
(4)パナマの2020年における電子商取引による取引額は、総額296百万ドル
パナマの電子商取引を通じた売上が296百万ドル(市場占有率の約8%)にあたり、ブラジルなど他の中南米諸国を上回る水準となっている(ブラジル 約7.8%)。パナマでは、生活習慣の変化を背景とした電子商取引(eコマース)の採用の増加により、非対面決済チャネルの使用が42%増加している。現在、パナマの企業の49%は、非接触型決済を含むデジタル決済システムを持っており、最も人気のある製品は、電子機器、スポーツ用品、衣類、本である。また、 インターネットにアクセスできるユーザーは、人口の64.8%(約282万人)で、人口の9.3%(約40.4万人)がオンラインで支払いまたは購入を行っている。
(5)基礎的食料品バスケット、生活必需品の価格管理は更に6ヶ月延長
消費者保護・公正取引庁は基礎的食料品バスケットの約14品目(「牛肉」「米」「玉ねぎ」「粉ミルク」「パン」「ソーセージ」等)、感染症対策・衛生用品の約11品目(「抗菌製品」「アルコール」「石鹸」「マスク」等)の価格管理を維持・延長すると発表した。基礎的食料品バスケットは最大販売価格、感染症対策・衛生用品は利益率を指標としている。同価格管理は販売者に定期報告を義務付け、消費者には通報サイトと提供し管理をおこなっている。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)パナマ証券取引所の取引額増加によりパンデミック前の水準を上回る2021年1月から5月までのパナマ証券取引所の取引額は2,436百万ドル、前年同期比で15.4%増加した。このうち、バンコ・ヘネラル銀行による400百万ドルの永久劣後債を含む初上場取引が1,648百万ドルとなり、同18.2%増加した。また、総取引成立は4,540件で同33.8%増加した。パナマ証券取引所の取引高は年々増加しており、今年はパンデミック前の2019年と比べても増加している。
(2)トクメン空港の利用者数は回復基調。一方で本格的な需要には至らず
トクメン空港公社は、5月のトクメン空港利用客数は60.1万人、前月から31%増加したと発表した。利用者数は回復傾向にあるものの、中南米では再び新型コロナウィルスの新規陽性者数が増加していることもあり本格的な需要回復には至らない。今年1月から5月までの合計は約230万人(うち78%は乗継客)、前年同期比で36.1%減少した。
(3)バナナは、2021年1月から5月までの5カ月間の輸出量が7,679コンテナに達した
パナマの伝統的な輸出農作物であるバナナは、2021年1月から5月までの5カ月間の輸出量が7,679コンテナ、金額(FOB)ベースで62.8百万ドルに達したと農牧開発省が発表した。会計検査院の発表による1月から4月までの統計数値では、2021年は40.3百万ドルで、前年同期比で6.4百万ドル減少した。また、スイカの2021年1月から4月までの輸出金額は10.7百万ドルで、こちらは前年同期比で2.1百万ドル増加した。
(4)2021年1月から5月までの輸出額は継続して増加
2021年1月から2021年5月の5か月間の輸出実績は、特に銅の輸出好調により、引き続き成長した。貿易産業省によると、昨年・2020年の同時期に輸出された690.4百万ドルと比較して、今年・2021年の輸出額は1,244百万ドル、昨年比で80%増加した。今年の輸出額は1,244百万ドルのうち、950百万ドルは銅の出荷であり、増加要因は当該出荷によるもの。続いて、2番手以降の輸出品目は、バナナ、チーク材、パーム油、鉄鋼廃棄物(スクラップ)の順になり、銅精鉱以外の輸出は7%程度の増加で、278.9百万ドルに対し、297.5百万ドルである。
(5)2021年1月から4月までのコロン・フリーゾーンの取扱額は前年同期比26.2%増加
2021年1月から4月までのコロン・フリーゾーンの取扱額は5,521百万ドル、前年比で26.2%増加した。このうち輸入が2,469百万ドル、同21.1%増加、再輸出が3,052百万ドル、同30.7%増加した。近隣国への輸送が復活し増加に寄与した一方で、取扱額を2019年同時期で比較すると7.8%減少で、依然としてパンデミック前の水準には到達していない。政府は、新たな企業誘致策として、多国籍企業製造サービス制度(EMMA)適用会社がコロン・フリーゾーン内で営業できることを認めている。
(6)アジア各港でのコンテナ不足と混雑を要因とした海上貨物運賃上昇が続く
パンデミックによるアジア各港でのコンテナ不足と混雑を要因とした海上貨物運賃上昇が続いている。例えば、通常はアジアからパナマ向けは、約4,000 US$/40ftHQであるが、6月中旬に、約10,000 US$/40ftHQと2.5倍に上昇し、直近では約15,000 US$/40ftHQに達する会社もある。アジア-欧州間は、更に上を行き、約20,000 US$/40ftHQである。例年、7月~9月の高需要期は各社のスペース調整に困難を伴うが、今年は、「6月、中国南部の港やアジアの一部の港で起きたCovid-19集団感染による部分的な操業停止」「スエズ運河でのEver Givenによる海路封鎖」があり、海運会社予約システムは、最大6週間の大幅な遅延が生じている。
4.パナマ運河、海事関連
(1)運用開始5周年を迎えた拡張運河2021年6月26日、パナマ運河の拡張運河は運用開始から5年を迎えた。バスケス運河庁長官は、「この5年間、我々は新しい閘門(ネオパナマックス閘門)の運用により、国への直接的な貢献を増やしながら、クライアントへ効率的で安全なサービスをより強固にすることができた。これは、計画段階で実施した国民投票を通じて得られた運河の拡張に対する国民投票を通じて得られた運河の拡張に対する国民の信頼と運河関係者のプロ意識がなければ実現しなかった。」と述べた。
拡張運河の運用を開始して以降、約13,700隻の船舶が第三閘門を通過した。これは、5年間にパナマ運河を通航した全ての船舶のうち、隻数ベースで28%、積載貨物量ベースで54%、運河庁の通航料収入ベースで58%を占めており、拡張運河がパナマ運河の競争力向上に貢献したことを示している。
(2)パナマ運河庁2021年1月から5月までの収入が予想を27%上回る
パナマ海事庁は、2021年1月から5月までの収入が81.5百万ドルだったと発表した。これは、昨年同期比で25%増加し、予算の想定を27%上回った。海事庁は、同収入から32.5百万ドルを国庫納付した。
(3)政府はパナマ・ポート・カンパニー(PPC)との25年間の契約更新延長を承認
6月23日、パナマ海事局(AMP)の理事会は、PPCとのバルボア港とクリストバル港の運営、開発権に関する現行のコンセッション契約(1997年1月から2022年1月)について、2022年1月から2047年までの25年間の期間で自動更新することを承認した。
このコンセッション契約の自動更新については、現行契約において契約内容を遵守していることを条件に可能となっており、2021年2月に会計検査院は前年より行われていた現行契約内容の監査に基づきPPCが契約内容を遵守しているとの監査結果を公表していた。
また、今回の契約更新に先だち、国はPPCより150百万ドルを受け取っている模様。内訳としては、現行契約における配当金(国はPPCの10%株主)や社会貢献に係るものである。
また、更新後の契約において、PPCは、毎年、7百万ドルの配当金の支払いを行うこととなっており、AMPは港湾利用税とこの配当金によって、25年間の契約で800百万ドル以上の収入を見込んでいる。
(4)パナマ運河庁は、水資源管理プロジェクトの入札モデルの再構築を発表
6月28日、パナマ運河庁は、2020年9月に入札公示し事前資格審査手続き中であった水資源管理プロジェクトの入札プロセスを中止するとともに、入札モデルの再構築を行ったうえで新たな入札プロセスを開始すると発表した。本プロジェクトは、当初、推定2,000百万ドルの投資によって水管理システムの設計、建設およびシステム構築までを一括して行い、2025年に運用開始する予定であったが、上記に伴い、現時点での運用時期は2028年になると予測されている。バスケス運河庁長官は、「事前資格審査手続きでの関心企業との対話により、企業が受注することを厭わないリスクレベルを特定することができた。これにより、入札プロセスを改善し、今後数十年の間に運河の運営と国民への上水に必要な水資源を確保する。」と述べた。
(5)パナマ海事庁はPCCPとの港湾開発に係る契約をキャンセルするプロセスを開始
パナマ海事庁は、2013年に締結したPCCP(Panama Colon Container Port)との港湾開発に係る契約を取り消すプロセスを開始している。PCCPは海事庁からの再三の投資スケジュールの提供を果たさず、また投資の支払いも滞っている。PCCPは、当初、56,390百万ドルの当該投資を約束していたが、これまでの投資は10,420百万ドルのみであり、契約投資額の83.4%が未払いの状況である。
5.インフラ関連
(1)メトロ3号線事業の工事保険契約の落札決定6月9日、メトロ3号線事業の工事保険契約は、Assa Compania de Seguros社に落札決定した。落札金額は8,999,998.80ドル。これは、メトロ公社の示す参考価格750万ドルに比して高額となるが、応札者のうち、要件を満たしていたのは同社のみであった。本件はメトロ3号線事業の工事の際の保険契約であり、公示当初はトンネル部も含める契約内容としていたが、トンネル部は設計が未実施であるため契約手続きの中で対象外となっていた。
(2)メトロケーブル(ロープウェイ)のフィージビリティ調査の入札手続きの中止
6月10日、メトロ公社は、メトロケーブルフィージビリティ調査に係る入札手続きを無効にすると発表した。本件については5者から提出のあった入札図書を入札評価委員会で評価していたものの、相次ぐ異議申し立てを受けたことに伴い、公共調達局(DGCP)が入札評価委員会の刷新を行い、改めて入札評価委員会で評価を行ったところ、上記5者全てが入札要件を満たしていないという評価結果を発表していた。これに伴い、メトロ公社は、改めて入札を行うことを示唆している。
(3)クルーズターミナル建設に係る追加予算の承認
6月16日、パナマ海事庁は、パンデミックの影響で工事が中断となっていたアマドールクルーズターミナルプロジェクトの再開にあたって、パナマ海事局に約20百万ドルの追加予算を承認した。パナマ海事庁は、これは工事が中断していたことにより建設途中の構造物が受けた塩害に対して特別な材料で処理を行うものだと説明している。
- 主要経済指標(2021年6月)(Excel)
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