パナマ経済(2021年5月報)
令和3年6月8日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事
5月24日、経済財務省は米州開発銀行IDBからの150百万ドルの融資契約に署名した。これは、IDBによるパナマの持続可能な経済回復を促進するための総額300百万ドルの融資プログラムの一環で、昨年6月にも150百万ドルの融資を受けており、今回は同プログラムを通じた2回目の融資となる。同資金はパンデミックにより経済的な打撃を受けた中小企業向け融資として活用され、中小企業によるデジタル化への対応や生産性向上に向け使われる。
(2)民間投資(コンセッション方式)による鉱山開発を閣議承認
貿易産業省は、5月12日の閣議で、経済政策のひとつとして、コロン県ドノソとコクレ県ラ・ピンターダに広がる24,954ヘクタール、並びにコロン県ドノソとコクレ県オマール・トリホスに広がる644ヘクタールを新たにコンセッション方式での開発対象地域とすることが承認されたと発表した。今後、同地域では民間投資を通じた鉱脈調査、鉱山採掘が可能になる。尚、644ヘクタールの土地はモレホン計画と呼ばれ、ペタキージャ・ゴールド社が、2011年から2014年まで金を採掘、輸出していたが、ペタキージャ・ゴールド社の契約不履行と深刻な環境汚染が明らかとなりコンセッション事業は中止され、開発予備地域へと変更された経緯がある。その後、5月18日に貿易産業省は、ブロードウェイ・ミネラル社(カナダ)から、モレホン計画の再操業に関する提案を受けたと発表した。ブロードウェイ・ミネラル社は、ペタキージャ・ゴールド社が社会保険庁に納めていなかった元従業員の社会保険料30百万ドルの立替え、再操業に向けた200百万ドルの設備投資、新たなコンセッション方式により政府へ毎年25百万ドルの配当、1,000人の直接雇用創出を提案した。更に、貿易産業大臣はブロードウェイ・ミネラル社が金の精錬施設の建造に250百万ドルの投資を検討(政府が同事業の株式の50%を保有する計画)していると述べた。
(3)バンコ・ヘネラルが永久劣後債発行(400百万ドル)
5月4日、バンコ・ヘネラル銀行は400百万ドルの永久劣後債を発行した。同債券は追加資本として扱われ同銀行の資本比率を強化する。調達資金400百万ドルのうち、218百万ドルは発行済み債券の償還に充てられ、182百万ドルは運転資金となる。同債券の金利は5.25%だが、米国長期国債(10年)に連動して10年毎に見直される。バンク・オブ・アメリカによれば、同銀行は国際金融市場において永久劣後債により資金調達を達成したパナマで初の銀行となり、且つラテンアメリカの金融機関が資金調達した中で最低の金利だったと報告した。
(4)Moody’sによる2021年経済成長率予想+8%~+10%
格付け会社Moody’sは、パナマの2021年の経済成長率を+8%~+10%と予想した。また、2021年以降は+4%~+5%の成長率を維持しながら、2019年(パンデミック前)のGDP水準に戻るのは2023年になると予想している。更に経済回復にはインフラ投資が鍵になるとし、APP(官民パートナーシップ)の活用や海外投資を誘致する取組みが効果的であると指摘した。今後、パナマがサービス業に頼る経済発展モデルから脱却するには労働力の質向上が必要であると分析している。
(5)2020年政府補助金2,415百万ドル
政府が支払う家庭、社会保障、企業への補助金が年々増加している。2008年には481百万ドルだったが、2020年は2,415百万ドルとなった。特に、2020年はパンデミックで打撃を受けた家庭の救済を目的とした新たな補助金が設けられ、2019年の1,689百万ドルと比較して大幅に増加した。一方、2020年の政府税収は3,852.8百万ドル、前年比で29.5%減少だった。斯様な状況下、一部のエコノミストは非生産的な補助金を削減するべきだと主張している。
(6)公務員給与の支払いが過去12年間で3倍に増加
パナマでは公務員給与と経常収入の増加率が大きく乖離しており政府財政を圧迫する一因となっている。公務員へ支払われた年間給与額は、2009年の1,179百万ドルから、2020年の3,511百万ドルへ、12年間で約3倍に増加した。一方、同期間の政府経常収入の増加は1.5倍にとどまっている。公務員の人数は、好調なパナマ経済を背景にマルティン・トリホス政権(2004-2009)から右肩上がりで増加してきた。2020年12月時点の公務員は242,240人、うち中央政府職員158,123人、地方公務員84,117人。あるエコノミストは、公務員給与の増加は、教育や健康といった市民生活の質を犠牲にしていると指摘している。
(7)持続可能な観光マスタープラン2020-2025
政府は、持続可能な観光マスタープラン2020-2025(PMTS)を閣議承認した。観光に関わる商品、インフラ整備、基礎サービス向上のために、観光閣議(Gabinete Turistico)を通じて、50以上のプロジェクトに政府予算、米州開発銀行(IDB)の基金を用いて総額400百万ドルを投資する計画。
(8)ジェネラル・ガツンがLNG発電所計画NG Powerを引継ぐ
6月1日、コルティソ大統領は、コロン県のLNG発電所計画(NG Powerプロジェクト)に関して、同計画をジェネラル・ガツンが引継ぐと発表した。ジェネラル・ガツンは、10億ドルの投資と3,000人以上の直接雇用創出が期待されている。大統領は、LNG発電は環境負荷が小さく、新世代のエネルギー構成で主力を担う。本プロジェクトは政府のエネルギー転換政策のひとつであり、競争力のある電力供給が多くの企業の投資を引き付けると語った。ジェネラル・ガツンはシェアの51%をインター・エネルギー・グループ、25%をパナマ政府、24%をAES社が保有する事業体。
コパ航空は、2021年第1四半期の業績が、売上185.7百万ドル(前年同期比68%減少)、収支は110.7百万ドルの赤字になったと発表した。同社は、ラテンアメリカの航空需要が、引続きパンデミックの水際対策の影響を強く受けているとコメントした。同社はパンデミック当初から運営資金の確保に動き、現在の負債総額は1,700百万ドルに達している。
(2)第1四半期の新規ローン3,666百万ドル(前年同期比で29%減少)
パナマ銀行監督庁は、2021年第1四半期の新規ローン金額は3,666百万ドル、前年同期比で29%減少したと発表した。月別では、1月が1,038百万ドル、2月が1,141百万ドル、3月が1,487百万ドルとなり回復傾向にある。3月単月でみると住宅ローン、個人ローンの金額が前年同月を上回った。
(3)第1四半期の政府歳入2,571百万ドル(前年同期比4.2%増加)
経済財務省は、2021年第1四半期、非金融部門における政府歳入2,571百万ドル(前年同期比4.2%増加)、歳出3,563百万ドル(同7.9%増加)、収支は992百万ドルの赤字となったと発表した。歳出のうち、運営費が2,883百万ドル(同12.0%増加)、設備投資が679百万ドル(同6.6%減少)だった。エコノミストからは、赤字削減のため公務員の給与支出や補助金を抑制し、経済刺激策としてAPP(官民パートナーシップ)を促進させ、より多くの投資を実施するよう求める声があがっている。
(4)2021年失業率予想10%~12%
労働開発省は、パンデミックの影響で労働契約を一時停止された284,209人のうち、5月上旬までに職場復帰した労働者は154,425人である一方、ホテル、レストラン、バー、小売業といったサービス業においては職場復帰が進んでいないと述べた。会計検査院は、2020年に18.5%だった失業率が、2021年は10%~12%になると予想している。
(5)旧年金制度改革の必要性
パナマの年金制度は、旧制度(Subsistema Exclusivo)と新制度(Subsistema Mixto:2007年以降の新規加入者が対象)がある。社会保険庁は、年金受給額、受給者が、2018年は1,813百万ドル(268,053人)、2019年は1,954百万ドル(283,085人)、2020年は2,010百万ドル(293,169人)だったと発表した(新制度加入者は受給年齢に達していないので、この数値は旧制度の受給額、受給者を指す)。また、旧制度の年金収支は、2016年40.5百万ドルの黒字、2017年1.8百万ドルの黒字から、2018年48.0百万ドルの赤字、2019年249.9百万ドルの赤字、2020年507.6百万ドルの赤字と、年々運用が厳しくなっている。現在、年金準備金を切崩して運用されているが、準備金も2024年に全額使い切ると予想されており、早急に制度改革を行う必要がある。
(6)2020年は結婚組数、離婚組数、出生数が減少
2020年は経済だけでなく、ライフステージの統計にも大きな変化がみられた。会計検査院によると、パナマの2020年の結婚組数は4,961組(前年10,858組)、離婚組数は1,979組(同4,558組)、出生数は67,770人(同72,456人)、胎児の死亡数は6,840人(同9,024人)と、いずれも前年から大幅に減少した。特に結婚組数は、14,341組だった2015年以降、毎年減り続けているが、2020年は著しく減少しており、パンデミック対策で厳しい外出規制を敷いたことが一因と分析されている。2020年の死亡者数は23,112(同20,049人)で前年から増加した。
2021年1月から4月までのパナマ証券取引所の取引額は1,643百万ドル、前年同期比で15.4%増加した。取引の内訳は、81%が企業債権、19%が政府債券だった。パナマ証券取引所では、エルサルバドルやコスタリカからも取引注文が入り、将来的に証券売買の地域ハブになることを目指している。
(2)2020年外国直接投資588百万ドル(前年比86%減少)
会計検査院は、2020年の外国直接投資が588百万ドルで、2019年の4,320百万ドル、2018年の5,080.4百万ドルと比較して2割以下に減少したと発表した。2020年はパンデミックの影響で世界的に投資需要が低迷、海外企業によるパナマへの投資も著しく減少したことが原因。
(3)パナマ観光促進基金と航空会社による提携
パナマ観光促進基金Promturはイベリア航空(スペイン)との間で観光促進に向けた提携を行うと発表した。両者は12.5万ドルずつ拠出して観光促進を図る。また、パナマ、マドリッド間の直行便を現在の週3便から週6便に増便することも発表された。同様に、Promturはエアー・ヨーロッパ(スペイン)とも提携し、観光促進のため1百万ドルずつ拠出すると発表している。また、同社は7月20日頃を目途にパナマ、マドリード間の直行便(週2便)を再開する。この他にも欧州航空会社によるパナマ発着便の再開、開設が相次いでおり、ルフトハンザ(ドイツ)は、2020年3月から、パナマとフランクフルトの直行便(週3便)の開設を予定している。また、コパ航空傘下Wingoは、6月21日頃を目処にパナマとサン・ホセ(コスタリカ)の直行便(週2便)を開設する。
(4)パナマ、コロンビア間の送電事業計画の環境影響調査
公共サービス庁ASEPは、パナマ、コロンビア間の送電事業計画に対して、パナマ環境省が環境影響調査の結果に対して承認を与える期限を2023年3月12日まで延期すると発表した。これに伴い、ICP社(Interconeion Colombia Panama)は、今年11月までに環境影響調査を終え、その結果をパナマ環境省へ提出しなければならない。その後、環境省が承認に向けた分析作業を行う。送電線設置が計画されているのは、区間1(グナ・ヤラ地区含むパナマ域内)、区間2(カリブ海側海底ケーブル)、区間3(コロンビア海岸線からセロ・マトソ変電所まで)で、本事業は、パナマ送電公社ETESAとコロンビアISAの間で10年以上前から計画されている。
(5)第1四半期のパナマからの輸出額806百万ドル(前年同期比54%増加)
会計検査院は、2021年第1四半期におけるパナマからの輸出額が806百万ドル、前年同期比で54%増加したと発表した。輸出額のうち、銅輸出が636百万ドルと大半を占めており、日本、中国への輸出が全体の6割以上を占める。その他、海産物、スイカ、メロン、カボチャといった農産物も前年同期比で上昇した。
(6)第1四半期のコロン・フリーゾーン取引額4,065百万ドル(前年同期比12.9%増加)
2021年第1四半期のコロン・フリーゾーンの取引額は4,065百万ドル、前年同期比で12.9%増加した。内訳は、輸入が1,910百万ドル、同21.5%増加、再輸出が2,155百万ドル、同6.2%増加だった。パンデミックに伴う衛生管理を含む国境での交通規制が解除され、コロンビアやコスタリカといった近隣国への輸送が復活したことが増加の一因。
パナマ運河庁は、2021会計年度上半期(2020年10月から2021年3月まで)の売上が1,938百万ドル、前年同期比で153百万ドル増加したと発表した。項目別には、通航料収入が1,875百万ドル、同150百万ドル増加した一方、電力販売は4.9百万ドル減少、上水販売も77万ドル減少した。通航隻数は6,833隻、昨年同期比で695隻減少した。昨冬は極東で厳冬となり、電力需要が増加したためLNG船の通航が好調で、上半期のLNG船通航隻数276隻のうち、1月単月で59隻が通航した。また、バイデン米大統領の就任で米中間の貿易摩擦が緩和され、北アメリカからの家畜飼料用穀物の輸送需要が高まり、バルク船の通航隻数が増加、パンデミックにより需要が蒸発したクルーズ船の通航料減少を補った。
(2)パナマ海事庁がLNG燃料外航ばら積み船を船籍登録
5月12日、パナマ海事庁は世界初の液化天然ガス(LNG)を燃料とする外航ばら積み船HL Green、並びにHL ECOがパナマ船籍に登録されたと発表した。本船スペックは載貨重量18万トン、全長292メートル、幅45メートルで、韓国船社H Line Shippingによって運航され、韓国クァンヤンとオーストラリアを結ぶ鉄鉱石輸送に従事する。
(3)リベリア船籍の登録増加
クラークソン社によれば、2018年に便宜置籍船の登録(トン数ベース)が世界第2位となったリベリアは、更に2020年の1年間で登録トン数が8%(13.8百万トン)増加した。特に最近は日本、韓国、中国といった極東市場でシェアを伸ばしている。一方、パナマ船籍への登録は同0.9%の増加にとどまった。
(4)ネオパナマックス閘門通航可能船舶の最大全長を拡大(370.33メートル)
5月21日、パナマ運河庁は、拡張運河の運用開始からほぼ5年が経過し、今般、ネオパナマックス閘門通航可能船舶の最大全長を370.33メートル(1,215フィート)へ拡大し、即時有効にすると発表した。ただし、全長367.28メートル(1,205フィート)を超える船舶は、バウスラスターを備え、またガツン湖からアグア・クララ閘門(カリブ海側)へ向かう際、運航支援用タグボートを追加手配する必要がある。
(5)水管理システムプロジェクトの入札資格審査申請日の変更
5月7日、パナマ運河庁はパナマ運河の中長期的な運営に加えてパナマ国民半数が日常生活で消費する水資源確保を目的とした「水資源管理システムプロジェクト」の入札資格審査申請日の提出期限を8月5日、同6日に変更した。これは、関心企業側からの疑義を踏まえて入札資格審査内容の修正が行われる予定であるところ、先行して提出日の変更を行ったものである。なお、これまで、申請書類の提出期限は6月3日、同4日とされていた。
5月31日、メトロ3号線事業の運河横断に係るトンネル部の設計業務について入札が行われ、4者(コンソーシアム)の応札があった。本件は、トンネル部の基本設計、詳細設計および施工時における設計の見直しまでを一括して行うものであり、参考価格は13百万ドル。今後、評価委員会が各者の入札図書の評価を行い、落札者を決定する。
(2)メトロ1号線延伸部分の電気供給システム整備の公示
5月28日、メトロ公社はメトロ1号線延伸区間(現在終着駅のサンイシドロからビジャ・サイタ間)の電気供給システム整備の入札を公示した。本件は、延伸区間の電気供給システムの設計から整備を行うものであり、参考価格は47.9百万ドル。
(3)クルーズターミナル建設に係る契約変更について会計検査院が承認
会計検査院は、現在アマドールのペリコ島で行われてるクルーズターミナル建設について、発注者であるパナマ海事庁と受注者のel consercio Cruceros del Pacificoとの契約変更について承認した。本件はペリコ島に2隻のクルーズ船が停泊できるターミナルを建設するものであり、昨年10月、両者の間で契約工期の延長(2022年9月まで)と契約金額の増額(41百万ドル増)する契約変更がなされていた。
(4)ビーチハイウェイプロジェクトの規模縮小
公共事業省は、ビーチハイウェイ(el corredor de las Playas)プロジェクトの規模を縮小すると発表した。ビーチハイウェイは、西パナマのラチョレラから同県南西のサンカルロス(チャメ)までを結ぶ総延長約55kmの高速道路であり、ラチョレラからサンタクルスまでを第1区間(約33km)、サンタクルスからサンカルロスまでの第2区間(約22km)に分けられる。今回の発表で、第1区間は当初計画の約33kmのうちラチョレラから12kmに延長を縮小するとともに、第2区間は事業中止となった。なお、両区間とも契約締結済みであるが、それぞれ契約内容を縮小することとなる。
- 民間投資(コンセッション方式)による新たな鉱山開発を閣議承認
- パナマ政府、AES社で構成されるジェネラル・ガツンがコロン県LNG発電所計画NG Powerを引継ぐ
- 2020年外国直接投資588百万ドル(前年比86%減少)
- パナマ運河庁の2021会計年度上半期実績(通航隻数減少、通航料収入増加)
- ネオパナマックス閘門通航可能船舶の最大全長を拡大(370.33メートル)
1.経済全般、見通し等
(1)米州開発銀行IDBからの融資150百万ドル5月24日、経済財務省は米州開発銀行IDBからの150百万ドルの融資契約に署名した。これは、IDBによるパナマの持続可能な経済回復を促進するための総額300百万ドルの融資プログラムの一環で、昨年6月にも150百万ドルの融資を受けており、今回は同プログラムを通じた2回目の融資となる。同資金はパンデミックにより経済的な打撃を受けた中小企業向け融資として活用され、中小企業によるデジタル化への対応や生産性向上に向け使われる。
(2)民間投資(コンセッション方式)による鉱山開発を閣議承認
貿易産業省は、5月12日の閣議で、経済政策のひとつとして、コロン県ドノソとコクレ県ラ・ピンターダに広がる24,954ヘクタール、並びにコロン県ドノソとコクレ県オマール・トリホスに広がる644ヘクタールを新たにコンセッション方式での開発対象地域とすることが承認されたと発表した。今後、同地域では民間投資を通じた鉱脈調査、鉱山採掘が可能になる。尚、644ヘクタールの土地はモレホン計画と呼ばれ、ペタキージャ・ゴールド社が、2011年から2014年まで金を採掘、輸出していたが、ペタキージャ・ゴールド社の契約不履行と深刻な環境汚染が明らかとなりコンセッション事業は中止され、開発予備地域へと変更された経緯がある。その後、5月18日に貿易産業省は、ブロードウェイ・ミネラル社(カナダ)から、モレホン計画の再操業に関する提案を受けたと発表した。ブロードウェイ・ミネラル社は、ペタキージャ・ゴールド社が社会保険庁に納めていなかった元従業員の社会保険料30百万ドルの立替え、再操業に向けた200百万ドルの設備投資、新たなコンセッション方式により政府へ毎年25百万ドルの配当、1,000人の直接雇用創出を提案した。更に、貿易産業大臣はブロードウェイ・ミネラル社が金の精錬施設の建造に250百万ドルの投資を検討(政府が同事業の株式の50%を保有する計画)していると述べた。
(3)バンコ・ヘネラルが永久劣後債発行(400百万ドル)
5月4日、バンコ・ヘネラル銀行は400百万ドルの永久劣後債を発行した。同債券は追加資本として扱われ同銀行の資本比率を強化する。調達資金400百万ドルのうち、218百万ドルは発行済み債券の償還に充てられ、182百万ドルは運転資金となる。同債券の金利は5.25%だが、米国長期国債(10年)に連動して10年毎に見直される。バンク・オブ・アメリカによれば、同銀行は国際金融市場において永久劣後債により資金調達を達成したパナマで初の銀行となり、且つラテンアメリカの金融機関が資金調達した中で最低の金利だったと報告した。
(4)Moody’sによる2021年経済成長率予想+8%~+10%
格付け会社Moody’sは、パナマの2021年の経済成長率を+8%~+10%と予想した。また、2021年以降は+4%~+5%の成長率を維持しながら、2019年(パンデミック前)のGDP水準に戻るのは2023年になると予想している。更に経済回復にはインフラ投資が鍵になるとし、APP(官民パートナーシップ)の活用や海外投資を誘致する取組みが効果的であると指摘した。今後、パナマがサービス業に頼る経済発展モデルから脱却するには労働力の質向上が必要であると分析している。
(5)2020年政府補助金2,415百万ドル
政府が支払う家庭、社会保障、企業への補助金が年々増加している。2008年には481百万ドルだったが、2020年は2,415百万ドルとなった。特に、2020年はパンデミックで打撃を受けた家庭の救済を目的とした新たな補助金が設けられ、2019年の1,689百万ドルと比較して大幅に増加した。一方、2020年の政府税収は3,852.8百万ドル、前年比で29.5%減少だった。斯様な状況下、一部のエコノミストは非生産的な補助金を削減するべきだと主張している。
(6)公務員給与の支払いが過去12年間で3倍に増加
パナマでは公務員給与と経常収入の増加率が大きく乖離しており政府財政を圧迫する一因となっている。公務員へ支払われた年間給与額は、2009年の1,179百万ドルから、2020年の3,511百万ドルへ、12年間で約3倍に増加した。一方、同期間の政府経常収入の増加は1.5倍にとどまっている。公務員の人数は、好調なパナマ経済を背景にマルティン・トリホス政権(2004-2009)から右肩上がりで増加してきた。2020年12月時点の公務員は242,240人、うち中央政府職員158,123人、地方公務員84,117人。あるエコノミストは、公務員給与の増加は、教育や健康といった市民生活の質を犠牲にしていると指摘している。
(7)持続可能な観光マスタープラン2020-2025
政府は、持続可能な観光マスタープラン2020-2025(PMTS)を閣議承認した。観光に関わる商品、インフラ整備、基礎サービス向上のために、観光閣議(Gabinete Turistico)を通じて、50以上のプロジェクトに政府予算、米州開発銀行(IDB)の基金を用いて総額400百万ドルを投資する計画。
(8)ジェネラル・ガツンがLNG発電所計画NG Powerを引継ぐ
6月1日、コルティソ大統領は、コロン県のLNG発電所計画(NG Powerプロジェクト)に関して、同計画をジェネラル・ガツンが引継ぐと発表した。ジェネラル・ガツンは、10億ドルの投資と3,000人以上の直接雇用創出が期待されている。大統領は、LNG発電は環境負荷が小さく、新世代のエネルギー構成で主力を担う。本プロジェクトは政府のエネルギー転換政策のひとつであり、競争力のある電力供給が多くの企業の投資を引き付けると語った。ジェネラル・ガツンはシェアの51%をインター・エネルギー・グループ、25%をパナマ政府、24%をAES社が保有する事業体。
2.経済指標
(1)第1四半期のコパ航空売上185.7百万ドル(前年同期比68%減少)コパ航空は、2021年第1四半期の業績が、売上185.7百万ドル(前年同期比68%減少)、収支は110.7百万ドルの赤字になったと発表した。同社は、ラテンアメリカの航空需要が、引続きパンデミックの水際対策の影響を強く受けているとコメントした。同社はパンデミック当初から運営資金の確保に動き、現在の負債総額は1,700百万ドルに達している。
(2)第1四半期の新規ローン3,666百万ドル(前年同期比で29%減少)
パナマ銀行監督庁は、2021年第1四半期の新規ローン金額は3,666百万ドル、前年同期比で29%減少したと発表した。月別では、1月が1,038百万ドル、2月が1,141百万ドル、3月が1,487百万ドルとなり回復傾向にある。3月単月でみると住宅ローン、個人ローンの金額が前年同月を上回った。
(3)第1四半期の政府歳入2,571百万ドル(前年同期比4.2%増加)
経済財務省は、2021年第1四半期、非金融部門における政府歳入2,571百万ドル(前年同期比4.2%増加)、歳出3,563百万ドル(同7.9%増加)、収支は992百万ドルの赤字となったと発表した。歳出のうち、運営費が2,883百万ドル(同12.0%増加)、設備投資が679百万ドル(同6.6%減少)だった。エコノミストからは、赤字削減のため公務員の給与支出や補助金を抑制し、経済刺激策としてAPP(官民パートナーシップ)を促進させ、より多くの投資を実施するよう求める声があがっている。
(4)2021年失業率予想10%~12%
労働開発省は、パンデミックの影響で労働契約を一時停止された284,209人のうち、5月上旬までに職場復帰した労働者は154,425人である一方、ホテル、レストラン、バー、小売業といったサービス業においては職場復帰が進んでいないと述べた。会計検査院は、2020年に18.5%だった失業率が、2021年は10%~12%になると予想している。
(5)旧年金制度改革の必要性
パナマの年金制度は、旧制度(Subsistema Exclusivo)と新制度(Subsistema Mixto:2007年以降の新規加入者が対象)がある。社会保険庁は、年金受給額、受給者が、2018年は1,813百万ドル(268,053人)、2019年は1,954百万ドル(283,085人)、2020年は2,010百万ドル(293,169人)だったと発表した(新制度加入者は受給年齢に達していないので、この数値は旧制度の受給額、受給者を指す)。また、旧制度の年金収支は、2016年40.5百万ドルの黒字、2017年1.8百万ドルの黒字から、2018年48.0百万ドルの赤字、2019年249.9百万ドルの赤字、2020年507.6百万ドルの赤字と、年々運用が厳しくなっている。現在、年金準備金を切崩して運用されているが、準備金も2024年に全額使い切ると予想されており、早急に制度改革を行う必要がある。
(6)2020年は結婚組数、離婚組数、出生数が減少
2020年は経済だけでなく、ライフステージの統計にも大きな変化がみられた。会計検査院によると、パナマの2020年の結婚組数は4,961組(前年10,858組)、離婚組数は1,979組(同4,558組)、出生数は67,770人(同72,456人)、胎児の死亡数は6,840人(同9,024人)と、いずれも前年から大幅に減少した。特に結婚組数は、14,341組だった2015年以降、毎年減り続けているが、2020年は著しく減少しており、パンデミック対策で厳しい外出規制を敷いたことが一因と分析されている。2020年の死亡者数は23,112(同20,049人)で前年から増加した。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)パナマ証券取引所の取引額増加2021年1月から4月までのパナマ証券取引所の取引額は1,643百万ドル、前年同期比で15.4%増加した。取引の内訳は、81%が企業債権、19%が政府債券だった。パナマ証券取引所では、エルサルバドルやコスタリカからも取引注文が入り、将来的に証券売買の地域ハブになることを目指している。
(2)2020年外国直接投資588百万ドル(前年比86%減少)
会計検査院は、2020年の外国直接投資が588百万ドルで、2019年の4,320百万ドル、2018年の5,080.4百万ドルと比較して2割以下に減少したと発表した。2020年はパンデミックの影響で世界的に投資需要が低迷、海外企業によるパナマへの投資も著しく減少したことが原因。
(3)パナマ観光促進基金と航空会社による提携
パナマ観光促進基金Promturはイベリア航空(スペイン)との間で観光促進に向けた提携を行うと発表した。両者は12.5万ドルずつ拠出して観光促進を図る。また、パナマ、マドリッド間の直行便を現在の週3便から週6便に増便することも発表された。同様に、Promturはエアー・ヨーロッパ(スペイン)とも提携し、観光促進のため1百万ドルずつ拠出すると発表している。また、同社は7月20日頃を目途にパナマ、マドリード間の直行便(週2便)を再開する。この他にも欧州航空会社によるパナマ発着便の再開、開設が相次いでおり、ルフトハンザ(ドイツ)は、2020年3月から、パナマとフランクフルトの直行便(週3便)の開設を予定している。また、コパ航空傘下Wingoは、6月21日頃を目処にパナマとサン・ホセ(コスタリカ)の直行便(週2便)を開設する。
(4)パナマ、コロンビア間の送電事業計画の環境影響調査
公共サービス庁ASEPは、パナマ、コロンビア間の送電事業計画に対して、パナマ環境省が環境影響調査の結果に対して承認を与える期限を2023年3月12日まで延期すると発表した。これに伴い、ICP社(Interconeion Colombia Panama)は、今年11月までに環境影響調査を終え、その結果をパナマ環境省へ提出しなければならない。その後、環境省が承認に向けた分析作業を行う。送電線設置が計画されているのは、区間1(グナ・ヤラ地区含むパナマ域内)、区間2(カリブ海側海底ケーブル)、区間3(コロンビア海岸線からセロ・マトソ変電所まで)で、本事業は、パナマ送電公社ETESAとコロンビアISAの間で10年以上前から計画されている。
(5)第1四半期のパナマからの輸出額806百万ドル(前年同期比54%増加)
会計検査院は、2021年第1四半期におけるパナマからの輸出額が806百万ドル、前年同期比で54%増加したと発表した。輸出額のうち、銅輸出が636百万ドルと大半を占めており、日本、中国への輸出が全体の6割以上を占める。その他、海産物、スイカ、メロン、カボチャといった農産物も前年同期比で上昇した。
(6)第1四半期のコロン・フリーゾーン取引額4,065百万ドル(前年同期比12.9%増加)
2021年第1四半期のコロン・フリーゾーンの取引額は4,065百万ドル、前年同期比で12.9%増加した。内訳は、輸入が1,910百万ドル、同21.5%増加、再輸出が2,155百万ドル、同6.2%増加だった。パンデミックに伴う衛生管理を含む国境での交通規制が解除され、コロンビアやコスタリカといった近隣国への輸送が復活したことが増加の一因。
4.パナマ運河、海事関連
(1)パナマ運河庁2021会計年度上半期実績パナマ運河庁は、2021会計年度上半期(2020年10月から2021年3月まで)の売上が1,938百万ドル、前年同期比で153百万ドル増加したと発表した。項目別には、通航料収入が1,875百万ドル、同150百万ドル増加した一方、電力販売は4.9百万ドル減少、上水販売も77万ドル減少した。通航隻数は6,833隻、昨年同期比で695隻減少した。昨冬は極東で厳冬となり、電力需要が増加したためLNG船の通航が好調で、上半期のLNG船通航隻数276隻のうち、1月単月で59隻が通航した。また、バイデン米大統領の就任で米中間の貿易摩擦が緩和され、北アメリカからの家畜飼料用穀物の輸送需要が高まり、バルク船の通航隻数が増加、パンデミックにより需要が蒸発したクルーズ船の通航料減少を補った。
(2)パナマ海事庁がLNG燃料外航ばら積み船を船籍登録
5月12日、パナマ海事庁は世界初の液化天然ガス(LNG)を燃料とする外航ばら積み船HL Green、並びにHL ECOがパナマ船籍に登録されたと発表した。本船スペックは載貨重量18万トン、全長292メートル、幅45メートルで、韓国船社H Line Shippingによって運航され、韓国クァンヤンとオーストラリアを結ぶ鉄鉱石輸送に従事する。
(3)リベリア船籍の登録増加
クラークソン社によれば、2018年に便宜置籍船の登録(トン数ベース)が世界第2位となったリベリアは、更に2020年の1年間で登録トン数が8%(13.8百万トン)増加した。特に最近は日本、韓国、中国といった極東市場でシェアを伸ばしている。一方、パナマ船籍への登録は同0.9%の増加にとどまった。
(4)ネオパナマックス閘門通航可能船舶の最大全長を拡大(370.33メートル)
5月21日、パナマ運河庁は、拡張運河の運用開始からほぼ5年が経過し、今般、ネオパナマックス閘門通航可能船舶の最大全長を370.33メートル(1,215フィート)へ拡大し、即時有効にすると発表した。ただし、全長367.28メートル(1,205フィート)を超える船舶は、バウスラスターを備え、またガツン湖からアグア・クララ閘門(カリブ海側)へ向かう際、運航支援用タグボートを追加手配する必要がある。
(5)水管理システムプロジェクトの入札資格審査申請日の変更
5月7日、パナマ運河庁はパナマ運河の中長期的な運営に加えてパナマ国民半数が日常生活で消費する水資源確保を目的とした「水資源管理システムプロジェクト」の入札資格審査申請日の提出期限を8月5日、同6日に変更した。これは、関心企業側からの疑義を踏まえて入札資格審査内容の修正が行われる予定であるところ、先行して提出日の変更を行ったものである。なお、これまで、申請書類の提出期限は6月3日、同4日とされていた。
5.インフラ関連
(1)メトロ3号線事業のトンネル部の設計業務の入札5月31日、メトロ3号線事業の運河横断に係るトンネル部の設計業務について入札が行われ、4者(コンソーシアム)の応札があった。本件は、トンネル部の基本設計、詳細設計および施工時における設計の見直しまでを一括して行うものであり、参考価格は13百万ドル。今後、評価委員会が各者の入札図書の評価を行い、落札者を決定する。
(2)メトロ1号線延伸部分の電気供給システム整備の公示
5月28日、メトロ公社はメトロ1号線延伸区間(現在終着駅のサンイシドロからビジャ・サイタ間)の電気供給システム整備の入札を公示した。本件は、延伸区間の電気供給システムの設計から整備を行うものであり、参考価格は47.9百万ドル。
(3)クルーズターミナル建設に係る契約変更について会計検査院が承認
会計検査院は、現在アマドールのペリコ島で行われてるクルーズターミナル建設について、発注者であるパナマ海事庁と受注者のel consercio Cruceros del Pacificoとの契約変更について承認した。本件はペリコ島に2隻のクルーズ船が停泊できるターミナルを建設するものであり、昨年10月、両者の間で契約工期の延長(2022年9月まで)と契約金額の増額(41百万ドル増)する契約変更がなされていた。
(4)ビーチハイウェイプロジェクトの規模縮小
公共事業省は、ビーチハイウェイ(el corredor de las Playas)プロジェクトの規模を縮小すると発表した。ビーチハイウェイは、西パナマのラチョレラから同県南西のサンカルロス(チャメ)までを結ぶ総延長約55kmの高速道路であり、ラチョレラからサンタクルスまでを第1区間(約33km)、サンタクルスからサンカルロスまでの第2区間(約22km)に分けられる。今回の発表で、第1区間は当初計画の約33kmのうちラチョレラから12kmに延長を縮小するとともに、第2区間は事業中止となった。なお、両区間とも契約締結済みであるが、それぞれ契約内容を縮小することとなる。
- 主要経済指標(2021年5月)(Excel)
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