パナマ経済(2021年4月報)
令和3年5月7日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事
担当:田中書記官
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- 2021年パナマ成長率予想、IMFは+12%、経済財務省は+9%
- AES社によるLNG火力発電所事業NG Power買収交渉。電力市場におけるAES社独占が懸念されている。
- 第1四半期の政府歳入1,316百万ドル(前年同期比6.9%減少)。パンデミックの影響による歳入減少に歯止めがかかったとする見方あり。
- パナマ貯蓄基金FAPは長期から短期へ投資先の運用ポートフォリオ見直し。
- 2020年海外送金額355百万ドル。パンデミックの影響により前年比39.7%減少。
1.経済全般、見通し等
(1)国際通貨基金IMFの2021年パナマ成長率予想+12%4月6日、国際通貨基金(IMF)が発表した2021年のラテンアメリカ経済成長率予想は+4.6%。そのうちパナマの成長率予想は+12%で、同地域ではガイアナに次ぐ高成長予想となっている。全体の傾向として、輸出国であるアルゼンチン、ブラジル、ペルーは、グローバルな製造業回復の恩恵を受け、比較的早く経済が回復すると予想されている。一方、観光業に依存するカリブ諸国の成長率は+1.5%~2.4%と低く、経済回復には時間がかかると予想されている。その他、主な国別成長率予想は、ペルー+8.5%、チリ+6.2%、コロンビア+5.1%。
(2)パナマ経済財務省の2021年パナマ成長率予想+9%
4月27日、経済財務省は、2021年の経済成長率予想を+9%と発表した。これは、世界銀行予想+9.9%、Fitch Ratings社予想+9.2%と同水準であり、IMF予想+12%に比べると保守的である。但し、GDPが新型コロナウィルス感染拡大(以下「パンデミック」)以前の2019年水準に戻るのは2023年になると予想されている。アレキサンダー経済財務大臣は、持続的な経済回復が必要であり、そのためにはワクチンの早期普及が必要不可欠であると述べた。現在まで、パナマ政府は104.4百万ドルの予算を使って、9.2百万ドースのワクチンを調達した。
(3)政府による電気料金補助制度延長(今年6月末まで)
政府は、パンデミックがライフラインの維持に影響を与えるとして今年3月末を期限としていた電気料金補助期限を6月末まで延長した。同補助金の恩恵をうける利用者は1百万人以上で顧客全体の91%に及ぶ。電気使用料が月0-300kw/hの顧客は使用電気料金の50%(常設補助制度を含む)。また、月301-1,000kw/hの顧客は同30%が補助金で賄われる。今回の期限延長により新たに25百万ドルの財源が必要になる。経済活動の停滞で、2021年1月~2月の電力消費量は前年同期比で11.8%減少した。
(4)AES社によるLNG火力発電所事業NG Power買収交渉
パナマで電力事業を展開している米国AES社がインター・エネルギー社と設立したジェネラル・ガツン社は、2013年に国営送電公社Etesaが承認したLNG火力発電所事業(NG Power)に対する20年間のライセンス契約について譲渡交渉を行っている。当初、NG Powerは、Sinolam Smarter Energy社(中国)のLNGを使用した発電所計画で670MWの発電能力をもち2017年から電力供給を始める計画だったが、計画は大幅に遅れている。小規模水力発電所協会は、同ライセンス譲渡は、電力市場における独占的地位の確立と、将来における市場操作の可能性から規制当局が介入するべき案件であり、譲渡が成立した場合、AES社は配電会社(ENSAとNaturgy)へ販売される電力の8割を占めることになるため、販売価格をコントロールし、他の電力会社の事業や消費者に影響を与えると主張している。現在、AES社はパナマ国内で5つの水力発電所(総電力704MW)、コロンでのLNG発電所(381MW)、ペノノメでの22機の風力発電(55MW)を操業し、4機の太陽光発電(40MW)も建設中である。既に、AESは合計1,200MWを越える発電能力をもち、仮にNG Power(670MW)の発電能力が加わると、合計で1,900MWに迫る発電能力を持つようになる。
(5)コロン県火力発電所BMLの事業清算
電力民営化の一環として、1998年、政府が株式の51%をCelsia社へ91.7百万ドルで売却して、残り49%は政府保有となっているコロン県の火力発電所BML(Bahia Las Minas)は、負債総額409百万ドルを抱え事業継続の目処が立たないことから閣議で事業の清算が承認された。今後、電力市場を管理している公共サービス庁ASEPにて清算手続きが進められる。これまでパナマ政府、Celsia社がBMLへ資本注入した金額は、2013年から2021年までの合計で、政府が96.5百万ドル、Celsia社が101.0百万ドルに及ぶ。更に同事業の銀行債権を肩代わりするため、政府が15.2百万ドル、Celsia社が16.1百万ドルを支払う。BMLは、2011年以降、165百万ドルの投資を行い石油から石炭へ火力燃料を変更して操業していたが、結局、民営化後、一度も配当を出すことなく精算することになった。
(6)経済活動の早期回復が期待されるセクター
パナマ商工会議所は、国内の消費需要の回復には時間がかかると予想している。失業者700人を対象にした調査では、全体の32%が、6ヶ月以内に新たな職を見つけることは難しいと答え、生活資金に余裕のない家庭は教育への投資を減らすとみられる。同会議所は早期回復が期待されるセクターとして、運河、港湾、銅輸出、メトロ3号線事業を含む公共インフラ事業、建設、農業、食料品加工、食糧販売、民間健康サービスを挙げられており、ワクチン普及が経済活性化に繋がると考えている。
(7)パナマ私企業評議会による47の経済再生提案
4月19日、コルティソ大統領は、パナマ私企業評議会が作成した民間セクターに対する中長期の投資計画として総額4,337百万ドル、47項目から構成される経済再生提案を受け取った。対象となったセクターはエネルギー・金融・建設・製造・農業・輸出・観光など。同提案が達成された場合、14万人の直接雇用、6.8万人の間接雇用が生まれると見積もられており、これはパンデミックにより失われた雇用の半数以上が復活することを意味する。
2.経済指標
(1)第1四半期の政府歳入1,316百万ドル(6.9%減少)2021年第1四半期の政府歳入は1,316百万ドル、前年同期比で6.9%減少、更に一昨年同期比では17%減少したが、2020年の年間歳入は2019年比で22.5%減少したことから、今年第1四半期の結果は、パンデミックの影響による歳入減少に歯止めがかかったという見方もある。
(2)第1四半期の証券取引所取引高1,293百万ドル(5.9%増加)
2021年第1四半期の経済活動は、年初の外出規制や企業活動停止の影響で国内総生産は伸びなかったが、証券取引所での取引は活発だった。第1四半期のパナマ証券取引所の取引高は1,293百万ドル、前年同期比で5.9%増加した。また、2019年同期比と比べて28.1%増加した。これは、経済復活を見越した企業による資金調達が活発になってきたことを示唆している。証券取引監督庁によれば、パンデミック以降、総額3,975百万ドルの証券に対して償還期限、金利条件の見直しを行った。
(3)輸出好調、建設工事・輸入・人の移動は低調
会計検査院が発表した2021年1月~2月の統計によると、着工が認められた建設工事は88百万ドル、前年同期比で55.4%減少(内訳は住宅が34.1%減少、非住宅が83.4%減少)だった。貿易は、低調な国内消費を反映して輸入額は1,424百万ドル(同14.4%減少)であった。一方、銅輸出に牽引され輸出額は480百万ドル(同40.5%増加)だった。人の移動に関して、年初の外出制限が響き、メトロ乗客数は同63.1%減少、公共バス乗客数は同60.4減少となった。
(4)2021年2月の月間経済活動指数は9.73%減少
会計検査院が発表した2021年2月の月間経済活動指数IMAEは、前年同月比で-9.73%となった。1月は、同-14.63%だったことからマイナス幅は縮小し、改善傾向が見られる。セクター別にみると、マイナス成長は、ホテル、レストラン、建設、商業、製造業、交通、倉庫、金融、不動産、電力消費など。一方、プラス成長は、銅輸出、通信、港湾コンテナ取扱高、乳製品、健康サービスなどとなっている。
(5)第1四半期の新車販売7,964台(12.6%減少)
パナマ自動車販売者協会ADAPは、今年の第1四半期の新車販売が7,964台、昨年同期比で12.6%減少したと発表した。一方、3月単月の販売台数は4,057台で、2019年10月以降で最も販売台数が多い月となった。これは、同月にADAPが開催したデジタル販促イベントによって消費が刺激されたことが要因で、持続的な販売台数の回復にはまだ時間がかかるとみられている。ADAPは今年の年間販売台数を3万台(昨年の25%増)と予想している。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)パナマとコスタリカの国境道路再開4月5日、2020年3月から封鎖されていたパナマとコスタリカの国境道路Paso Canoasが通行再開された。チリキ県商工会議所はパナマとコスタリカ間を移動する際のパスポートコントロールの廃止は国境を跨ぐ商売活性化に繋がり、両国を行き来する観光業にも裨益するとコメントした。
(2)2021年2月末銀行預金残高95,927百万ドル(11.4%増加)
銀行監督庁によれば、2021年2月末の国際銀行センターの預金残高は95,927百万ドル、前年同期比(以下同じ)で11.4%増加した。これで2020年3月から11ヶ月連続の増加となる。政府預金残高が13,827百万ドルと54.2%増加した理由は国債による資金調達によるものだが、法人・一般人による預金残高も46,076百万ドルと8.4%増加した。これは経済の先行き不安から貯蓄を増やす顧客が増えたからだと考えられている。また海外貯金残高も32,395百万ドルと2.2%増加しており、コロンビア、ドミニカ共和国など自国通貨国によるパナマへのドル資金逃避が理由のひとつと考えられている。
(3)パナマ貯蓄基金FAP資金運用の見直し
米国のパンデミック救済政策によりパナマ貯蓄基金FAPは運用計画を見直す。米国FRBの金融緩和により米国長期国債(10年)の金利が低下。FAPは米国長期国債を軸に運用ポートフォリオを組み立てているが、バイデン米大統領が承認した1.9兆ドルもの救済策は米国経済にインフレ効果をもたらすと予想されているため、FAPはポートフォリオに占める固定金利比率を64%から44%へ減らし、変動金利の比率を18%から35%に引き上げる。FAPの運用資金は1,379.6百万ドルで、2012年から2020年までの運用益は383.8百万ドル、そのうち147.3百万ドルを再投資、131.5百万ドルを国庫納付、105.0百万ドルを新型コロナウィルスによる緊急対策に使用した。
(4)2020年海外送金額355百万ドル(39.7%減少)
貿易産業省によると、2020年に送金代理店を通じてパナマから海外へ送金された金額は355.3百万ドル、前年比で39.7%減少した。送金額が減少した要因はパンデミックによる失業、労働契約の停止、労働時間の減少によるもので、主な送金先は、コロンビア、ニカラグア、米国、ペルー。海外送金はパナマで働く外国人労働者のみならず、近年は海外へ留学しているパナマ人へ親族が仕送りするケースも増えている。ベネズエラへの送金に関しては、公式為替レートを避けるためコロンビア経由で送金されている。反対に2020年にパナマへ送金された金額は256.6百万ドル、前年同期比で5.6%減少した。
(5)米国財務省外国資産管理局がパナマ企業15社を制裁リストから除外
米国財務省外国資産管理局OFACは、パナマ企業15社をクリントン・リストから除外した。今回、リストから除外された企業の多くはワケッド・グループの関連企業だが、会社は既に清算されている。
(6)マスターカード社との覚書締結
3月にSEM認証を受けたマスターカード社は、デジタル化を進めるパナマ政府との間で覚書を締結した。パナマは、同社と金融サービスのデジタル化に向けて取り組むラテン・カリブ地域で最初の国となり、今後、5年間、同社のサポートを受ける。具体的には、銀行口座を持たない人もオンライン取引にアクセスできるようになること、中小企業が同社のデジタルプラットフォームを利用できるようになることなど。
4.パナマ運河、海事関連
(1)運河通航予約料の改定料率適用開始日の変更(6月1日開始)4月13日、パナマ運河庁は、2月17日に発表し、4月15日付で適用予定であった通航予約料金の改定について、6月1日付の適用に変更することをホームページで発表した。この変更は、海運業界からの意見を踏まえたものである。尚、その他の改定(オークション方式の最低料金、特別オークション方式による予約枠の新設及び運河通航に際しての各種付随料金)については、当初予定通り4月15日付で適用されている。
(2)米開催気候サミットでのパナマ発言
4月22日、23日に米国バイデン大統領の呼びかけで開催された気候サミットにおいて、エリカ・モイネス外相は、パナマは地球温暖化の脅威に晒されている国の一つで、気候変動が原因の水不足により海上交通の要衝であるパナマ運河では、安定的な通航に必要な水を確保するために多額の投資が必要になる。パナマ運河は船舶の航行距離短縮をもたらし、2020年は年間13百万トン以上の二酸化炭素削減に貢献した。これは気候変動の抑制に同調する運河利用者にとってインセンティブになると述べた。
(3)パナマ運河庁は2030年までにカーボンニュートラル実現を志向
パナマ運河庁は2030年までにカーボンニュートラルの実現を目指すと発表した。運河のオペレーションに使用される電気を太陽光・水力発電由来のものにすることや、電気自動車の導入が検討されている。また、これまで船種やサイズに基づき設定されてきた通航料に関して、今後は排出炭素量に応じた料金設定も検討される可能性が示唆された。
(4)港湾労働者の賃金
港湾労働者の最低賃金を定める法案第94号が国会第三読会で承認された。しかし、本法案の内容は港湾関係者の意見を反映させたものではないとのことから、パナマ海事会議所(CMP)はコルティソ大統領に対して本法案の承認拒否を求めている。他方、マンザニーロ・インターナショナル・ターミナル(MIT)においては、港湾労働者組合と港湾ロジスティック会社との間で賃金交渉において、今後4年間の賃上げ(1~2年目は4%、3~4年目は3.8%)が合意された。
(5)2021年第1四半期コンテナ取扱高209万TEU(7.5%増加)
パナマ海事庁が2021年第1四半期の港別コンテナ取扱高を発表。全体では2,090,435TEUで、前年同期比(以下同じ)7.5%増加した。港別では、ボカス・フルーツ・ターミナル31,372TEU(13.7%増加)、コロン・コンテナ・ターミナル191,002TEU(5.9%増加)、マンザニーロ・インターナショナル・ターミナル712,030TEU(5.0%増加)、パナマ・ポーツ・カンパニー・バルボア589,668TEU(24.4%増加)、パナマ・ポーツ・カンパニー・クリストバル284,286TEU(0.3%増加)、PSA・パナマ・インターナショナル・ターミナル282,077TEU(6.1%減少)。
5.インフラ関連
(1)中米経済統合銀行(CABEI)と韓国によるメトロ5号線プロジェクトのフィージビリティ調査の実施CABEIは、メトロ5号線のフィージビリティ調査を実施するために63万ドルの無償技術協力を行うことを発表した。これは、CABEIと韓国信託基金との間で締結された枠組みを通じて行われ、韓国によって承認された資金によって行われる。メトロ5号線は、ベジャビスタからエル・クリソルまでの約13kmで計画されており、4号線よりも需要は高いとされている。
(2)メトロケーブル(ロープウェイ)のフィージビリティ調査の入札内容の再評価
公共調達局(DGCP)は、メトロケーブル(ロープウェイ)のフィージビリティ調査の入札において、先般の入札評価委員会による入札評価結果を無効にしたうえで、改めて入札内容の評価を行うことを決定した。また、DGCPは、メトロ公社に対して評価委員会のメンバーを刷新するように命じた。
- 主要経済指標(2021年4月)(Excel)
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