パナマ経済(2021年3月報)

令和3年4月12日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事
  • 世界銀行発表によるラテンアメリカ地域の2020年GDP成長率は▲6.7%、2021年GDP成長率予想は+4.4%。パナマは2021年GDP成長率が最も反転すると予想される国のひとつ。
  • パンデミックに伴う経済活動の停滞により、2020年銀行新規ローンは15,668百万ドル(前年比40%減少)にとどまった。
  • Moody’sがパナマの格付けをBaa1からBaa2に見直した。これで昨年11月から今年3月にかけて格付け大手3社がパナマの格付けを1段階格下げした。
  • メキシコ支援によりパナマとコスタリカのカリブ海側国境を流れる河川に橋梁が完成した。
  • 2020年コンテナターミナル年間取扱高は7.7百万TEUで前年実績から微増となった。
 

1.経済全般、見通し等

(1)2020年銀行新規ローン15,668百万ドル(前年比40%減少)
 パナマ銀行監督庁は2020年の銀行新規ローンの貸出しが15,668百万ドルで、前年の26,310百万ドルから40.4%減少したと発表した。主な減少理由はパンデミックに伴う経済活動の停滞によるもので、新規ローンの減少は銀行の利子収入の減少に繋がる。分野別では商業が6,474百万ドルで前年比40%減、製造業が2,342百万ドルで同50%減、個人が1,543百万ドルで同51%減となった。一方、2020年末の銀行貯金額は95,196百万ドルで前年比8.1%増加した。経済の先行き不安から手元資金を貯蓄にまわす個人が増えたことが一因と考えられている。また、銀行による準備金も1,211百万ドルとなり前年比88.9%増加した。
 
(2)2020年政府年金補助539百万ドル
 社会保険庁は、政府からの年金補助として2020年は539.6百万ドルを受領したと発表した。給付された補助金の主な内訳は、法律で定められている年金(障害・退職・死亡)制度維持のための140百万ドル、2011年に合意された年金引き上げ分に対する補填164.7百万ドル、公務員の基本給引き上げに伴う公的補助136.5百万ドルなど。政府からの補助金を受給しているにも関わらず年金収支は赤字であり、現状のままでは2024年には準備金が払底して、28万人以上いる年金受給者への支払ができなくなることが懸念されており、政府は早急に年金制度改革に着手する必要がある。
 
(3)1月~2月政府歳入592百万ドル(前年同期比40%減)
 今年2ヶ月経過時点(1月~2月)の政府歳入は592.5百万ドルで、前年同期比40.8%減、予算前提613.9百万ドルと比較して3.5%不足している。特に1月の歳入は251.7万ドルと低調だったが、これは昨年末、新型コロナウイルス感染者数が増加したため年初から実施された2週間の外出制限、経済活動制限により税収が大幅に減ったことが要因である。
 
(4)ムーディーズのパナマ格下げ(Baa2)
 3月17日、ムーディーズはパナマの格付けを見直し、Baa1からBaa2に格下げした。見通しは、安定とした。これで、S&P、Fitchを含む主要格付け3社が、昨年11月から今年3月にかけてパナマの格付けを見直した。ムーディーズは格付けの見直し理由を、経済成長の減速、財政赤字の増加、公的債務残高の増加によるものと説明した。この他にも脆弱な年金制度がリスク要因となっている。一方で、国債による資金調達の借入れ金利は低く抑えられており、今後、政府主導の公共インフラ投資による経済押し上げが期待されている。
 
(5)2020年政府電気料金補助金254百万ドル
 政府はFET(Fondo de Estabilizacion Tarifaria)を通じて、配電会社ENSA、Naturgyに、2020年の政府補助金として総額254.4百万ドルを支払う。既に、2021年2月までに160.8百万ドル支払われたが、93.6百万ドルが未払いとなっている。FETを通じた政府からの補助金給付は2004年に始まり、当初は石油価格高騰の影響を抑えるための政策だったが、その後、歴代政権は本制度を維持してきた。電気使用料が月0-300kw/hの顧客の使用料の約30%は本補助金でカバーされ、これに加えて現在新型コロナウイルス感染拡大に伴う支援策(FET Additional)として2021年3月末まで追加で20%が補助金で補填される。また、同支援策は301-1,000kw/hの客も対象となり使用料の30%が補助金で補填される。
 
(6)世界銀行2020年ラテンアメリカGDP成長率は-6.7%
 3月29日、世界銀行は、ベネズエラ除くラテンアメリカ地域全体の2020年GDP成長率が-6.7%、2021年GDP成長率予想が+4.4%と発表した。パナマの2020年成長率は-17.9%で、同地域で最も成長率が減少した国の一つとなった。一方、2021年予想は+9.9%で、ラテンアメリカ域内で最も成長率の高い国の一つとなると予想されている。
 
(7)パナマ食糧安全庁(Aupsa)の廃止(大統領選公約達成)
 3月30日、コルティソ大統領はパナマ食糧安全庁(通称Aupsa)の廃止と、新たなパナマ食糧局(通称APA)設立に関する法案に署名した。大統領は、「Aupsaに代わり、保健省、農牧開発省、貿易産業省が重要な役割を担う。それは、食の安全と自給力を強化することだ」とコメントした。Aupsaは2006年、マルティン・トリホス政権時代に設立されたが、当時の農牧開発大臣がコルティソ大統領だった。コルティソ大統領は2019年の大統領選でApusa廃止を公約に掲げており、今回、この公約を達成するに至った。
 

2.経済指標

(1)2020年トクメン空港利用客数は452万人(前年比7割減)
 トクメン空港公社によれば、トクメン空港の年間利用客数は、ピークだった2019年の16,582,601人から、2020年は4,526,663人となり、2019年比で7割減少した。同公社は2021年も客足は戻らず2019年比で4割~6割減少するとみている。今後、世界的にワクチン普及が進むと利用客数は回復すると思われるが、パンデミック前の水準に戻るには3年以上要するとみられている。現在、運航再開したフライトの目的地は61都市、29ヵ国、乗り入れている運航会社は16社、一日の発着便数は175便。
 
(2)2021年1月新車販売台数1,547台(前年比55%減)
 パナマ自動車販売者協会ADAPは、昨年12月に開催されたオンライン販売促進イベントにて多くの購入希望者に販売が行き渡った反動により、2021年1月の新車販売台数が1,547台にとどまったと発表した。パンデミック到来前、2020年1月の新車販売台数が3,487台だったことから、新車需要回復にはまだまだ時間がかかるとみられている。
 
(3)2月末公的債務残高38,439百万ドル
 経済財務省は、2月末の公的債務残高は38,439百万ドルで、1月末から468百万ドル減少したと発表した。これは償還期限を迎えた国債の返済によるもの。一方、2020年2月末の債務残高と比較すると8,607百万ドル増加した。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)ミネラ・パナマ社2020年売上げ1,455百万ドル
 コクレ県ドノソ地区の銅山で採掘を行っているミネラ・パナマ社(本社はカナダのFirst Quantum社)の2020年売上げは1,455百万ドルで、前年の524百万ドルの約3倍に増加した。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、保健省の指導のもと4月初旬から9月頭まで操業を停止したが、2019年6月からは銅の海外輸出も始まっておりプロジェクトは順調に進んでいる。First Quantum社によれば、これまでに輸出港Punta Rinconから銅20.8万トン、金8.5万オンス、銀1.5百万オンスが輸出され、同社は今年、新たにColina地区から採掘を行う準備を始め、2023年からの採掘開始を目指している。
 
(2)ラテンアメリカ開発銀行350百万ドル貸付け承認
 3月2日、ラテンアメリカ開発銀行(CAF)は、パナマのデジタル化促進のために350百万ドルの貸付けを承認した。これはCAFによるデジタル移管戦略支援プログラムの一環で、具体的には行政業務のデジタル移管、デジタル産業の促進、デジタルを活用したインフラ展開などに向けた支援プログラムとなっている。
 
(3)メキシコ支援によるパナマ、コスタリカ国境の橋梁完成
 3月4日、パナマとコスタリカのカリブ海側国境を流れるシクサオラ川に架かる橋が完成し開通式が行われた。同橋は、長さ260メートル、幅16.4メートル、2018年に建設が開始された。建設資金25百万ドルのうち、メキシコのインフラ基金による資金協力10百万ドル、パナマ政府とメキシコ政府が7.5百万ドルずつ拠出した。建設はコスタリカとメキシコ企業が請け負った。両岸の住民約1.5万人の生活に寄与する他、バナナ農園や近隣ビーチへのアクセスなど観光面でも活用されることが期待されている。
 
(4)経済財務大臣のラテンアメリカ開発銀行取締役会長就任
 ラテンアメリカ開発銀行(CAF)は、4月1日からパナマのアレキサンダー経済財務大臣が取締役会長に就任すると発表した。期間は1年間。エクアドルのマウリシオ・ポソ経済財務大臣から引き継ぐ。取締役会は19名の代表から構成されている。
 
(5)漁業法改正
 コルティソ大統領は、海洋資源の保護を目的に持続可能な漁業を形成するための法律204号(2021年3月18日付け)に署名した。漁業法の改正は60年ぶり。水産資源庁は、今後、6ヶ月以内に158の条項を定める。同法律は水産資源の維持、漁業海域の制定、漁業者免許、水産資源調査に関する内容で漁業の近代化と最適化を図ることが目的である。また、2019年12月にEUより課されたイエローカード(不法漁業や漁業法の未整備に対して十分な取組みが認められない国と警告認定するもの)から脱却するための取組みでもある。
 
(6)Rey配送センター建設に80百万ドル投資
 大手食料品ストアReyグループのオーナーであるCorporacion Favorita社(エクアドル)は今後5年間で中米に200百万ドルを投資すると発表した。このうち、Reyグループの配送センター建設に80百万ドル投資する計画があり、本建設事業により建設工事用に1,200人の雇用創出、運営に400人の新規雇用が創出されることが期待されている。
 
(7)Mastercard社のSEM認定
 大手クレジットカード会社Mastercard社が多国籍企業本部制度(通称SEM)の認定を受けた。Mastercard関係者は、多くの人々に利益をもたらす包括的なデジタル経済を推進するというミッションにおいて、SEM認定は重要であると述べた。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)パナマ運河の喫水制限
 3月15日、パナマ運河庁は、4月13日以降のネオパナマックス型閘門の最大喫水を48.5ft(14.78m)に制限することを発表するとともに、後3月24日には4月24日以降の同最大喫水を48.0ft(14.63m)に制限することを発表した。これは、今後数週間のガトゥン湖の予測水位に基づく決定である。なお、3月24日以降、同最大喫水は49.0ft(14.94m)に制限されている。
 
(2)水管理システムプロジェクトの入札資格審査内容の修正
 3月8日、パナマ運河庁は、パナマ運河の中長期的な運営およびパナマ国民が日常生活で消費する水資源確保を目的とした「水資源管理システムプロジェクト」について、入札資格審査内容の修正を発表した。元請け企業の入札参加資格は、これまでは単体企業に限定されていたが、今次修正により単体企業もしくは3社以内の共同企業体(JV)まで広げられた。また、元請け企業と下請け企業との作業割合について、これまでは元請け企業が最低でも契約金額の70%相当の作業を行うこととしていたが、今次修正により元請け企業は最低でも契約金額の55%相当の作業を行うこととするよう修正がなされた。
 また、3月31日には、同プロジェクトの入札資格審査内容の修正が改めて発表され、関心企業とパナマ運河庁との間で個別協議の開催に係る事務手続きが追加された。関心企業は4月9日までに申し込みを行う必要がある。
 
(3)2020年パナマ運河による二酸化炭素排出削減量13百万トン
 パナマ運河庁は、2020年に運河が貢献した二酸化炭素排出削減量は、13百万トンに及ぶと発表した。これはパナマ運河の代替ルートとしてスエズ運河、喜望峰ルートを利用した場合との比較であり、自動車2.8百万台の1年間の排出量、植林した217百万本の木が10年間に吸収する量に相当する。同庁はパナマ運河が環境負荷軽減の面からも最適ルート(グリーンルート)であるとコメントした。
 
(4)2020年コンテナターミナル年間取扱高7.7百万TEU
 海事庁は、2020年のコンテナターミナルの年間取扱高が7.7百万TEUで、前年比5.3%増加したと発表した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療衛生品の荷動増が一因と考えられている。ターミナル別の取扱高は、太平洋側のPSAターミナルが1.2百万TEU(前年比23%増)、バルボア・ターミナルが1.95百万TEU(同1.7%増)だった。大西洋側のクリストバル・ターミナルが1.07百万TEU(同2.4%増)、マンザニーロ・インターナショナル・ターミナルが2.66百万TEU(同4.7%増)、コロン・コンテナ・ターミナルが71.4万TEU(同8.9%減)だった。
 
(5)2021年1~2月のコンテナ・自動車取扱高
 海事庁は、2021年1月から2月までの2ヶ月間のコンテナ取扱高が1,370,764TEU(前年同期1,317,665TEU)、自動車の取扱高が28,236台(同19,099台)を記録したと発表した。このうち、23,257台は第三国向け。また昨年1月から2月までにパナマで乗下船したクルーズ船乗客数は242,001人だったが、今年はゼロとなっている。
 
(6)AES Colon社による中米向けLNG供給
 パナマは中米向けLNG供給基地の役割を果たすポテンシャルをもつ。AES Colon社は2019年10月から現在までに24隻の米国産LNG積載船を受け入れた。また、2020年6月、Colon LNG Marketing社(AES Colonグループ会社)とTropigas Natural S.A.社は、パナマとコスタリカ向け顧客にLNGを販売するため、LNG供給に関する契約を締結した。AES Colonは投資額1,150百万ドルの民間プロジェクト、18万立方メートルの貯蔵タンクを持ち、75%がLNG供給、25%が火力発電に利用される。パナマはLNGのインフラ設備をもつ中米で最初の国で、コスタリカのようなクリーンエネルギー政策に取り組んでいる国々のLNG利用を支えている。
 

5.インフラ関連

(1)経済活性化に向けたインフラプロジェクトの進捗計画
 サボンヘ公共事業大臣は、経済再活性化に向けてインフラプロジェクトは3つのフェーズに基づいて進捗させると述べた。同大臣によると、第1フェーズは新型コロナウイルス感染症の影響で中断を余儀なくされていたプロジェクトの再開、第2フェーズはターンキー方式の活用、第3フェーズは官民パートナーシップ(PPP)制度の活用とのこと。第2フェーズのターンキー方式は、特定の目標が達成する(工事進捗の50%達成時および完了時)までは受注企業側の資金で実施されることから、政府の支払い時期を2023年および2024年に先送りすることが可能となる。よって、国内財政が逼迫している現状において、即時支払いがなく且つ雇用創出等の経済効果が期待されることから、インフラ整備を行うために有効な施策であるとの見立てである。
 
(2)メトロ3号線事業のトンネルへの計画変更に向けた各種調査
 メトロ公社は、メトロ3号線のパナマ運河横断区間について、第4架橋からトンネルへの計画変更に向けて各種調査等を進めている。
ア トンネル整備に係る地盤調査
 3月29日、トンネル整備に係る地盤調査について、el consorcio Geofisica Tunel L3(Monitoriza,S.A.とGehymのコンソーシアム)が163,177.40ドルで落札決定した。
イ トンネル設計業務の企業説明会の開催
 3月8日、メトロ公社は、トンネル設計業務の企業説明会を実施し、外国企業を含む多くの企業が参加した。本件はトンネル部の基本設計、詳細設計および建設時に条件変更が生じた場合の設計の見直しを行うものであり、参考価格は13百万ドル、入札日は4月13日とされている。
 
(3)メトロケーブル(ロープウェイ)のフィージビリティ調査の入札手続き
 メトロケーブル(ロープウェイ)のフィージビリティ調査の入札手続きについて、入札参加企業3社は公共調達局に対して異議申し立てを行った。これは、本件への5社からの入札について、評価委員会は2社のみが落札要件を満たしているとの評価を行ったことに対して、落札要件を満たしていないとの評価を受けた残りの3社から異議申し立てが行われたもの。