パナマ経済(2021年2月報)
令和3年3月3日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事担当:田中書記官
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●2020年の名目GDPは52,938百万ドルで前年比20.7%減少。実質GDP成長率はマイナス17.9%。
●フィッチレーティングス社はパナマの信用を「BBB-」へ格下げした。
●2021年1月末公的債務残高38,908百万ドル。
●パナマ運河庁は4月15日以降の運河通航船舶に適用される通航予約料金等の改定を発表。
●メトロ3号線事業の着工式典の開催および着工命令。
1.経済全般、見通し等
(1)フィッチレーティングス社はパナマの信用を格下げ2月3日、格付け機関フィッチレーティングス社は、パナマの格付けを「BBB」から「BBB-」に格下げにするとともに見通しを「安定」から「ネガティブ」に見直しを行った。フィッチレーティングス社はパナマのGDPが2020年に17.7%縮小すると見積もっており、これは同社格付けのなかではマカオ、モルディブ、レバノンに次いで悪い数字である。
2月8日、同社はパナマ運河庁と同庁が発行した450百万ドルの債券を「A」から「A-」、トクメン国際空港公社は「BBB」から「BBB-」、国道公社(ENA)マスタートラストは「BBB-」から「BB+」及びENA Norteは「BB」から「BB-」にそれぞれ格下げするとともに見通しを「安定」から「ネガティブ」とした。
2月10日、同社はパナマ国内の5つの銀行についても格付けを発表し、Banco Nacional de Panama(BNP)は「BBB」から「BBB-」、Banco Generalは「BBB+」から「BBB-」、Credecorp Bank、Global BankおよびMMG Bankは「BBB-」から「BB+」、それぞれ格下げするとともに見通しを「安定」から「ネガティブ」とした。一般的に「BBB-」までは「投資適格」、「BB+」以下は「投機的」となり資金調達が難しくなる。
(2)2021年に必要な資金調達額は5,971百万ドル
経済財務省によると、2021年に政府が必要とする資金調達額は5,971百万ドルの見込みである。このうち、1,822百万ドルが債務返済、残りの4,149百万ドルが政府運営および投資に用いられる。4,149百万ドルの内訳は、8,832百万ドルとされる2021年の政府運営費に対して歳入は7,489百万ドルと見積もられていることから不足分の1,344百万ドルが政府の運営費、残りの2,805百万ドルが投資に用いられる。
(3)税制改革の可能性を示唆
アレキサンダー経済財務大臣は、パンデミックの影響で税収が大幅に減少し、歳入の確保が大きな課題となっているところ、将来の財政維持のために税制改革を行う可能性を示唆し、ITやサイバービジネス等のデジタル経済への課税を一例に挙げた。
(4)2021年のパナマ経済の見通し
イギリスの経済誌エコノミストの調査チームであるエコノミストインテリジェンスユニットは、2021年のパナマ経済の見通しを報告した。この報告によると2021年のパナマのGDPは9.1%成長すると想定されるが、これはパナマ国内の新型コロナウイルス・ワクチン接種が順調に行われた場合のものである。そのためにワクチンの国内の配布が課題とされているところ、この報告では9~12ヶ月で国内の集団免疫が達成されると見込まれている。
(5)EMMA制度の関係規則の公布
2月24日、政府はEMMA制度の関係規則を公布し、投資を希望する外国企業等の設置、運営等に適用される規則や手順を定めた。この中でEMMA制度の対象企業は、外国企業あるいは多国籍企業が所有する国内企業とし、ビジネスグループとして7,500万ドル以上の資産を有するか3社以上の子会社を有することを条件とした。また、現行のSEM登録企業も諸条件を満たせばEMMA制度を利用することができる。
2.経済指標
(1)2021年1月末公的債務残高38,908百万ドル経済財務省は非金融公共部門の公的債務残高が、2021年1月末時点で38,908百万ドル(対外債務:31,828百万ドル、国内債務:7,080百万ドル)に達したと発表した。2020年末の36,969百万ドルから1ヶ月で1,948百万ドル増加した。この大幅な増加は海外投資家向けに発行した2,450百万ドルの国債発行によるものである。一方で、経済財務省は1月、日本市場より2011年に借り入れていたサムライ債(元本400百万ドル)の償還を含む、441.7百万ドルの債務元本の返済を行った。
(2)2020年の非金融公共部門の財政赤字は5,350百万ドル
経済財務省は、2020年の非金融公共部門の財政赤字が5,350百万ドルと発表した。これは、2019年と比較して3,437百万ドルの増加(179.6%増)となる。これは、パンデミックの影響で所得および税収の大幅な減少と社会保険庁の収益の減少によって歳入が大きく減少した一方で、政府の経常経費や蓄積した債務に係る利子の増加によって歳出が増加したためである。
(3)2020年の実質GDP成長率はマイナス17.9%。
3月1日、会計検査院が発表した2020年の名目GDPが52,938百万ドルで前年比20.7%減少、実質GDP(基準年は2007年)は35,308百万ドルで実質GDPに基づく成長率はマイナス17.9%となった。項目別には、ホテル・レストラン(前年比▲55.8%)、建設(同▲51.8%)、不動産(同▲30.8%)、製造業(同▲22.0%)が前年比で大きく落ち込んだ。
(4)パンデミックによる国内経済への余波
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは2020年のパナマ経済に大きな被害を及ぼした。建設業界においては、国内主要自治体で登録された契約額は509.9百万ドルで2019年の1,130.9百万ドルに比して54.9%減少、建設資材として使用されるコンクリートは342,462m3で2019年の1,131,953m3に比して69.7%減少した。新車登録台数は24,091台で2019年の47,866台に比して50%減少し、燃料消費量は723百万ガロンで2019年の1,128百万ガロンに比して35.9%減少した。国内移動の面においては、メトロの利用客数は49.9百万人で2019年の122.5百万人に比して59.3%の減少、MiBus利用客数は90.6百万人で2019年の193.1百万人に比して53.1%減、高速道路利用者数は73.3百万台で2019年の137.2百万台に比して46.6%減少している。商業活動においては、輸入額は8,076百万ドルで2019年の12,835百万ドルに比して37.1%が減少している一方で、輸出額は1,725百万ドルで2019年の1,504百万ドルに比して14.7%増加した。この増加は銅鉱物の輸出によるものである。
(5)ローン条件の見直し(モラトリアム)の対象は23,106百万ドル
パナマ銀行監督庁は、2021年1月末時点で39銀行と725,095の債権者との間でのローン条件の見直し(モラトリアム)の対象は23,106百万ドルに達すると発表した。内訳は個人ローンが699,161人で12,536百万ドル、企業ローンが25,853社で10,570百万ドルとされている。
(6)コパ・ホールディングスの2020年第4四半期の収益は158百万ドル
コパ・ホールディングスは2020年第4四半期の収益が158百万ドルであったことを発表した。2020年10月12日より商用便の運行再開に伴い、同年第3四半期収益の32百万ドルに比して大きくなった。一方で、2020年の年間収益は801百万ドルで2019年の2,707百万ドルに比して70%減少している。これはトクメン空港利用客数の72%減とほぼ一致する。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)パナマは租税回避地(タックスヘイブン)ブラックリストに残留2月22日、EUの経済財務相理事会(エコフィン)は租税回避地(タックスヘイブン)ブラックリストの更新を行い、パナマを引き続きブラックリストに残すことを決定した。パナマは2017年12月に税制の透明性基準を確保していない国としてグレーリストに登録され、その後も改善がなれなかったことから2020年2月にブラックリストに登録がなされていた。次回は、2021年10月に更新される予定である。
(2)パナマはGAFIのグレーリストに残留
2月25日、金融活動作業部会(GAFI)はマネーロンダリングとテロ資金供与の防止体制に欠陥がある国のグレーリストを更新し、パナマを引き続きグレーゾーンに残すことを決定した。パナマは2019年6月にグレーリスト登録されていた。次回は、2021年6月に更新される予定である。
(3)2020年のパナマの輸出先トップは中国
2020年のパナマの輸出先のトップは総額370百万ドルで中国であった。これまでの主要な輸出先はオランダとアメリカであった。主な理由はドノソ山脈から採掘された銅の輸出の増加によるものであり、銅輸出の60%が中国向けである。
(4)パナマと韓国との自由貿易協定は3月1日より有効
パナマと韓国との自由貿易協定(FTA)は3月1日より有効となる。これは、2018年2月にコスタリカ、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラスとともに中米・韓国自由貿易協定の署名を行っていたもの。パナマからはコーヒー、パーム油、シーフード等の農水産物は間もなく適用されるとともに、牛肉、豚肉、鶏肉及びトロピカルフルーツ(パイナップル、バナナ、メロン、スイカ等)についても適用の可能性を検討する。一方で、韓国からは電気自動車や医療アプリケーションおよびワクチン等の生産を含むバイオテクノロジーの各分野の誘致を促進したい考え。
4.パナマ運河、海事関連
(1)パナマ運河の通航予約料金等の改定2月17日、パナマ運河庁は4月15日以降の運河通航船舶に適用される通航予約料金等の改定を発表した。改定される内容は以下のとおり。
ア 通航約料金の改定
(ア)パナマックス型
・船幅が27.74m(91ft)未満の船舶:10,500ドル
・船長が274.32m(900ft)未満、且つ最大船幅が32.61m(107ft)の船舶:40,000ドル
・船長が274.32m(900ft)から294.44m(966ft)且つ最大船幅が32.61m(107ft)の船舶:50,000ドル
(イ)ネオパナマックス型
・船幅が42.67m(140ft)未満の船舶:70,000ドル
・船幅が42.67m(140ft)以上の船舶:85,000ドル
イ オークション方式の最低料金の改定
(ア)パナマックス船(Regularクラス):15,000ドル
(イ)パナマックス船(Supersクラス):55,000ドル
(ウ)ネオパナマックス型(パナマックス プラス含む):93,500ドル
ウ 特別オークション方式による予約枠の新設
パナマ運河の通航状況等に応じて、ネオパナマックス型閘門の予約枠を1枠追加する特別オークション方式を適用する。特別オークション方式の最低料金は100,000ドル。
エ 運河通航に際しての各種付随料金の改定
タグボート、綱取り、牽引機関車、船舶検査、保安、油濁関連サービス等のパナマ運河庁が提供する各種海事サービスの料金を改定する。
(2)パナマ運河のLNG船通航実績の記録更新
パナマ運河庁の発表によると、1月のLNG船の運河の通航は、58隻、674万トンCP/Suabといずれも過去最高を記録した。これはアジアを中心にLNGの需要が増加したことに伴うものとされている。(これまでは、2020年1月の54隻と同年11月の623万トンCP/Suabが最高記録であった。)
(3)水管理システムプロジェクトの入札資格審査申請日の修正
2月17日、パナマ運河庁はパナマ運河の中長期的な運営に加えてパナマ国民半数が日常生活で消費する水資源確保を目的とした「水資源管理システムプロジェクト」の入札資格審査内容の修正を行い、申請書類の提出期限を6月3日、同4日に変更した。これまで、申請書類の提出期限は3月4日、同5日とされていた。
(4)ワクチン供給ルート最適化を支援する覚書
2月8日、パナマ運河庁はマンサニージョ国際ターミナル(MIT)とコロン・コンテナ・ターミナル(CCT)との間で、ラテンアメリカへの新型コロナウイルス・ワクチンの供給ルート最適化を支援する覚書を締結した。この中で、パナマ運河庁、MITおよびCCTは、パナマ運河のカリブ海側に、ラテンアメリカ地域向けの新型コロナウイルス・ワクチンの貯蔵、供給のためのロジスティックスセンターの設立に向けた3者連合を立ち上げることに合意した。今年1月にはパナマ・ポーツ・カンパニー(PPC)とPSA・パナマ・インターナショナル・ターミナル(PSA)との間で太平洋側を対象とした覚書を締結していたところであり、これによって、太平洋側、カリブ海側の両側から新型コロナウイルス・ワクチンのサプライチェーンに求められる需要に対応することが可能となった。
(5)拡張運河の受注者からパナマ運河庁への271.8万ドルの返還
2月23日、パナマ運河庁は拡張運河の設計・施工を担当したGrupo Unidos por el Canal(GUPC)から271.8万ドルを受領した。これは、運河に使用したコンクリート強度等についてパナマ運河庁とGUPC側の両者はそれぞれの賠償要求に対して国際商業会議所の仲裁裁判所に決定を委ねていたところ、2020年9月に判決によりGUPC側がパナマ運河庁に対して271.8百万ドルを返還することが決まっていたもの。
(6)バルボア港、クリストバル港のコンセッション契約に係る会計検査院の監査
2月4日、会計検査院は、パナマ・ポーツ・カンパニー(PPC)との間で1997年より行われているバルボア港とクリストバル港の25年間のコンセッション契約に係る監査結果を講評した。このコンセッション契約は、契約義務を遵守していれば25年の契約期末の2022年1月に自動的に契約更新ができることとなっており、この監査はこれまでの契約義務の遵守を確認するもの。ソリス会計検査院長官は、上記2港のコンセッション契約に係る契約義務は基本的に遵守されていると結論づけた。しかし、国はPPC社の10%株主であるにも関わらず監査期間の23年間のPPCの利益である909百万ドルのうち8百万ドルの配当しか受け取っていない点について、PPCの取締役会(国も株主の一員)での議論が必要だとの指摘があった。また、ソリス会計検査院長官は、PPCを含む全てのコンテナターミナルのコンセッション契約について監査を行うことを示唆した。
(7)バルボア造船所運営に係る入札の公示
2月26日、バルボア造船所の運営の入札が公示された。本件は、太平洋側で唯一のパナマックス型船舶に対応したドックを有するバルボア造船所のリハビリを含む運営を行うもので、参考価格は18百万ドル、入札日は5月18日とされている。
5.インフラ関連
(1)メトロ3号線事業の着工式典の開催および着工命令2月22日、メトロ3号線事業の着工式典が開催されるとともに本事業受注業者であるHPHジョイント・ベンチャー・コンソーシアムに対して工事着工命令がなされた。本事業は2020年10月にメトロ公社とメインコントラクターであるHPH・ジョイント・ベンチャー・コンソーシアムとの間で契約が調印され、2月9日に会計検査院の承認が下りたところであった。着工式典には、コルティソ大統領をはじめカリソ副大統領兼大統領府大臣、サボンヘ公共事業大臣、オルテガ・メトロ公社総裁、スミス西パナマ県知事、チュンHPH・ジョイント・ベンチャー・コンソーシアム代表他、本プロジェクトが円借款によって行われることから大脇大使他日本関係者が参加した。
本事業は、円借款を通じた支援としては中南米で過去最大規模の2,810.71億円の協力を行うものであり、モノレールおよび関係システムは日立製作所と三菱商事が行う。
(2)メトロ3号線事業のトンネルへの計画変更に向けた各種調査
メトロ公社は、メトロ3号線のパナマ運河横断部について、第4架橋からトンネルへの計画変更に向けて各種調査等を進めている。
ア トンネル整備に係る環境影響評価の落札決定
2月4日、トンネル整備に係る環境影響評価について、CSA Group Panama,S.A.が297,500ドルで落札決定した。
イ トンネル整備に係る地盤調査の公示
2月3日、トンネル整備に係る地盤調査が公示された。本件は運河横断部の地盤特性について解析調査を行うものであり、参考価格は181,951ドル、入札日は3月19日とされている。
ウ トンネルの設計の公示
2月19日、トンネルの設計が公示された。本件はトンネル部の基本設計、詳細設計および建設時に条件変更が生じた場合の設計の見直しを行うものであり、参考価格は13百万ドル、入札日は4月13日とされている。
(3)メトロケーブル(ケーブルカー)のフィージビリティ調査
メトロ公社はサンミゲリート地区のメトロケーブル(ケーブルカー)のフィージビリティ調査について、5社からの入札があった。このプロジェクトはサンミゲリート地区の住民の移動を改善するためにメトロ1号線、2号線駅と接続することを目的としており本調査は同プロジェクトのフィージビリティを調査するもので参考価格は1.3百万ドル。開札の結果、el Consorcio Proyecto-Andanuyが1.17百万ドルと最も安価な入札を行っており、現在、入札内容が精査されているところ。
(4)小児病院(Hospital del Nino)新病棟建設事業の会計検査院の承認
会計検査院は、小児病院(Hospital del Nino)新病棟建設事業に係るAcciona Construccion S.A.(スペイン)との契約を承認した。この事業は443百万ドルで小児病院の建設や設備、駐車場の建設等を行うものである。
- 主要経済指標(2021年2月)(Excel)
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