パナマ経済(2020年12月報)

令和3年1月7日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事
●第1~第3四半期GDP成長率が▲20.4%。
●2020年の失業率が、昨年の7.1%から18.5%へ悪化。労働開発省が発表した労働者職場復帰ガイドラインに対して経済界が反発。
●運河庁による2020会計年度の国庫納付額が1,824百万ドルとなった。
●会計検査院がメトロ1号線の延伸事業を承認。2023年9月完工予定。
 

1.経済全般、見通し等

(1)第1~第3四半期GDP成長率▲20.4%
会計検査院が発表した第3四半期(7月~9月)GDP成長率は▲23.6%、第1~第3四半期(1月~9月)のGDP成長率は▲20.4%となった。第1~第3四半期のセクター別成長率は建設▲52.9%、ホテルとレストラン▲51.4%、製造業▲26.2%、商業▲24.6%、ロジスティックと通信▲6.7%でマイナス成長となった一方、鉱山採掘+23.2%、政府サービス+9.2%、ヘルスケアサービス+4%でプラス成長となった。民間の経済研究所やアナリストは2020年通期のGDP成長率を▲14%台と予想している。過去にパナマのGDP成長率が大幅なマイナスを記録したのは1946年(▲14%)と1988年(▲13.4%)だった。
 
(2)外資企業誘致制度(SEM・EMMA)
2020年に多国籍企業本部制度(通称SEM)の承認が下りた多国籍企業は17社。2019年の21社から企業数は減少したが、今年承認されたSEM企業の初期投資額は、12.5百万ドルで、昨年の9百万ドルと比較して3.5百万ドル増加した。今年8月には、製造・組立て・機器保守メンテナンス・研究開発・ロジスティックの事業者の誘致を目的とした製造業誘致制度(通称EMMA)が制定された。EMMA対象となる条件のひとつが企業資産75百万ドル以上(SEMは200百万ドル以上)となっている。既にラベリングサービス等の会社がEMMA登録に関心を示していると報道されている。
 
(3)労働者職場復帰ガイドラインに対する反応
労働開発省は、パンデミックの影響で労働契約が一時停止されている従業員の職場復帰のガイドラインとして、12月15日付け政令229号を発表した。これは、2021年1月以降、産業別(第一次~第三次)に職場復帰させる従業員を毎月一定の割合で増やし、6ヶ月かけて全従業員を復帰させる計画だったが、その後、新型コロナウィルス感染者の増加をうけて、保健省が2021年1月14日までの外出規制を発表したことから、政令229号の実施は2月以降に延期された。しかし、政令229号の実施について、経済界からは自由な企業活動に対する政府の干渉であり、企業の置かれている厳しい状況が認識されていない。また職場復帰させる従業員の優先順位に触れられていないことから現場で混乱が生じると批判が出ている。
 
(4)電気料金支払い優遇措置の延長
内閣諮問委員会は、電気料金に対する特別助成金の3ヶ月間延長(2021年1月1日から3月31日まで)を発表した。助成金を使った電気料金の減額は新型コロナウィルスが拡大した2020年3月から開始され、政府は2020年に276百万ドル支出した。本助成金により、時間あたり消費量300キロワット未満の利用者は月額の支払い料金を50%、300キロワット以上1,000キロワット以下の利用者は同30%減額される。また、2021年上半期の電気料金に関して、配電各社は前年比で値下げすると発表した(EDEMETが0.2%、EDECHIが9.0%、ENSAが9.1%値下げ)。
 
(5)Cable & Wireless社からパナマ政府への配当
通信会社Cable & Wireless Panama社は、2019年と2020年第3四半期までにあげた利益の配当金としてパナマ政府(持ち分比率49%)に15.5百万ドルを分配した。同社のその他株主構成は、CWC CALA Holdings Limited社(持ち分比率49%)、Banco General S.A.社(持ち分比率2%)となっている。
 
(6)パナマ銅山Minera Panama社業績
コロン県ドノソ地区のパナマ銅山で採掘事業を行っているMinera Panama社の2019年第4四半期から2020年第3四半期までの売上は、1,169百万ドルとなった。同社はパンデミック発生後も操業を続け、売上目標を達成した。ドノソ地区で採掘される鉱物資源の売上のうち2%はパナマ政府に帰属することが法令で定められており、Minera Panama社は上記期間の帰属分として、パナマ政府に22.89百万ドル支払った。また、採掘地域の土地使用料として年間3.8万ドルをパナマ政府に納めている。パナマ銅山では3,400人が働き2020年は銅20.5万トンを産出すると見込まれている。
 
(7)水力発電のフル活用
2020年下半期は降雨に恵まれ、水力発電の発電能力をフル活用できた。11月30日には、国内消費電力1,688MWのうち90%を水力発電がカバーした。国内には50ヶ所以上の水力発電所があり、その多くがチリキ県に存在する。現在、主力となるバヤノとフォルトゥナの貯水池には十分な水量が確保されている。国内の発電能力に占める各種発電の割合は、水力46.8%、火力41.4%、風力7%、ソーラーパネル5%となっている。
 

2.経済指標

(1)失業率の悪化
会計検査院が発表した2020年の失業者数は371,567人、失業率は18.5%だった。これは、9月~10月に行われた調査に基づく結果。2019年の調査では、失業者数は146,111人、失業率は7.1%だった。2020年の就業者数のうち、インフォーマルセクターに従事する人数は767,162人で全就業者の52.8%を占める。2019年は、同人数と割合が716,113人、44.8%だった。これは、今年一年間でインフォーマルセクターの人数が51,049人も増加したことを示す。2021年の第1四半期は、消費需要が低迷したまま企業の雇用維持資金が不足して、失業者が更に増加すると見込まれている。
 
(2)銅価格の上昇トレンド
12月に入り、国際的な銅価格がトンあたり8千ドルを超え、今年の底値だった3月から約80%上昇した。国際市場での価格上昇の要因は中国の需要増加とドル安。銀行や投資家は2000年代初期の中国市場の爆発的な需要(資源爆食)との類似性を指摘した。銅輸出が伸びているパナマにとっては望ましい状況。
 
(3)1~11月のトクメン空港利用客数は昨年比7割減少
トクメン空港公社によると、11月のトクメン空港の利用客数は356,788人(うち、乗り継ぎ274,990人、入国41,860人、出国39,938人)で、10月154,671人と比較して130%増加した。但しパンデミック前の利用客数は1月が1.4百万人、2月が1.2百万人だったので、現在は平常時の4分の1程度。今年の1月から11月までの利用客数は4,042,670人で、昨年同期15,142,937人から73%減少している。年間の利用客数が2019年の水準に戻るのは2024年か2025年とみられる。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)パンデミックでも輸出好調
パナマは自国からの輸出品に付加価値をつけることで、パンデミックで混乱する市場でも存在感を発揮する。パナマの輸出は2年連続で上昇しており、足下は好調である。好調な品目は、バナナ、銅、牛肉、魚、砂糖である。2020年1月から10月までの輸出額は1,450百万ドル、昨年同期比で17.4%増加した。特に銅輸出は898百万ドル、昨年同期比で43.3%増加した。パナマ輸出協会(APEX)は、農産品の輸出が伸びている一因として、輸出業者がカリブ海、中南米で新規顧客を開拓し、パナマ産品の品質の高さが認められたことが要因であると分析している。パナマのオレンジ輸出業者が、カリブ海フランス領のグアドループ、マルティニーク向けに80トンのオレンジを輸出したのが一例である。また、パナマ・パシフィコを拠点にして、果物の栄養分やフレーバーの研究開発をしている米国創業のFISA社はパナマにはロジスティック面で大きなメリットがあると語った。
 
(2)永住権取得の経済的条件
政令722号により経済的な条件が整えば永住権を申請できる様になる。申請の条件は、政令実施後2年以内に30万ドル以上の不動産に投資すること(2年を過ぎると対象金額が50万ドルになる)。またはパナマ証券取引所で50万ドル以上の証券を購入すること。または75万ドル以上の定期預金口座を開設していること。投資促進協会代表は、本政策は、不動産や建設事業の分野に投資家の関心を引き寄せて経済に刺激を与える効果があると語った。
 
(3)中国向けパイナップル空輸
12月17日、アジア向けでは初めてとなるパイナップルの中国向け空輸を始めた。パイナップルは収穫後5-6日で消費市場に届くことが望ましい。空輸は船便に比べて、大幅に日数が短縮されるため品質を維持できる。輸出統計によれば、1月から9月までのパイナップルの輸出額は5.82百万ドル、582コンテナ相当だった。
 
(4)ベネズエラとの航空便停止
パナマ民間航空局によれば、2015年の航空協定にて、ベネズエラ政府との間で、パナマ/ベネズエラ間の便数を両国の航空会社が等しく運行できると合意されている。現在、パンデミックの影響で両国間の便数は減っているが、パナマはベネズエラ航空会社のフライトを週9便まで認めていた。一方、ベネズエラはパナマ航空会社(コパ航空)のフライトを週3便しか承認しなかった。12月7日には、ベネズエラ側が一方的に便数増加を申請してきたため、パナマ側は両国航空会社の便数を等しくする様に要求したが、12月12日にベネズエラが事前通知なくパナマ側の3便を却下した。このため、12月13日、パナマは対抗措置としてベネズエラとの航空便停止に踏み切った。
 
(5)世界復興開発銀行による3億ドル融資
世界銀行グループの世界復興開発銀行(IBRD)がパナマに3億ドルの融資を承認した。返済期限9年、3年間のグレースピリオドが付く。これはパンデミックによる保健衛生危機と政府の財政危機に対する融資である。具体的には、教育プログラムの救済、農業セクターの競争力の改善、食品安全の改善、ジェネリック薬品の普及といった医薬品アクセスの向上、更にコロナワクチンの購入ファイナンスや分配の戦略促進を支援することが目的。
 

4.パナマ運河、海事関連

(1)運河庁による2020会計年度の国庫納付額1,824百万ドル
12月15日、パナマ運河庁理事会は、2020会計年度(2019年10月1日~2020年9月30日)における国庫納付額1,824.12百万ドルを承認した。内訳は、通航オペレーションによる収入から運営コストを差し引いた分が1,281.44百万ドル、トン数に応じたタリフ分が540.64百万ドル、国の資産を運河庁が使用した分の支払いが2.03百万ドル。アリスティデス・ロヨ・パナマ運河庁理事会議長、並びに運河担当大臣は、21年前に運河が返還されてから、運河庁は憲法に基づき国庫納付を続けてきた。パンデミックという前例のない年だったが、運河庁は一致団結して運河を開け続けることができたと語った。また、リカウルテ・バスケス運河庁長官は、9,300名の職員の危機対応力がパナマ運河を開け続け、世界にサービスを提供し続けたと語った。
 
(2)運河庁による2020会計年度の上水サーチャージ徴収額137百万ドル
運河庁は、2020年2月15日に導入された上水サーチャージ(el cargo por agua dulce)の9月末までの徴収額が137.1百万ドルに達したと発表した。運河庁が公開している上水サーチャージのシミュレーターでは60日先のガツン湖の水位予想を確認することができる。
 
(3)運河修繕維持費用350百万ドル
パナマ運河庁は、2021年の運河に関わる修繕維持費用として350百万ドルを予算に入れた。修繕維持管理のリストには、地滑り、土壌浸食、運河内進路、フローティングギア、電気系統システム、ダム、閘門、水処理プラント、水管理、アトランティック橋が含まれている。
 
(4)海事庁の反海事汚職ネットワーク加盟
海事庁は反海事汚職ネットワークMACN(Red Maritima Anticorrupcion)に加盟した。シガルイスタ商船局長は、汚職のない海事産業と市場へ、MACNのビジョンに協力すると語った。MACNは、2011年に海事産業からの汚職排除に賛同した小規模な海事企業グループによって設立された。現在の加盟企業は130社以上。12月4日時点、パナマ籍船は8,499隻、船籍シェアの16%を占めている。
 

5.インフラ関連

(1)小児病院(Hospital Del Nino)新病棟建設事業の契約
12月9日、小児病院(Hospital Del Nino)新病棟建設事業について、落札者であるアシオナ・コンストラクション社と契約が締結された。契約調印には、コルティソ大統領、カリソ副大統領兼大統領府大臣及びスクレ保健大臣が出席した。新病棟はバルボア通りの旧米国大使館跡地に建設され、本プロジェクトには小児医療センターの設備や供用後の同設備のメンテナンスも含まれている。
 
(2)クルーズターミナル建設事業の変更契約
パナマ海事庁は、アマドールのペリコ島のクルーズターミナルの建設において、Pacific Cruisesコンソーシアムとの間で契約変更を行った。これにより、契約金額は40.9百万ドルの増額により総額267百万ドルになるとともに工期は367日延伸されて2022年9月の完工予定となる。
 
(3)メトロ1号線延伸事業
会計検査院は、メトロ1号線のSan Isidro駅(現在の終点)からVilla Zaita(パナマ県北部)までの2.2kmの延伸工事契約を承認した。受注したのはOHL社(スペイン)とMota Engil社(ポルトガル)によるコンソーシアム(Consorcio Linea Panama Norte)で、工事期間33ヶ月、2023年9月完工予定。Villa Zaitaの駅にはバスターミナル、タクシー乗り場が隣接し、駅建物内に800台分の駐車場が建設される計画。ピーク時には時間あたり1万人の利用客を見込む。同事業により約1000人の雇用が生まれ、完成後はパナマ北部地域に住む30万人の交通に恩恵がもたらされる。
 
(4)サンミゲリート地区の移動手段メトロケーブルの経済評価入札
メトロ公社は、サンミゲリート地区内の移動手段としてメトロケーブルの有効性に関して経済評価を行う企業を入札で決める。メトロ公社は、経済評価の結果が、メトロケーブルプロジェクトの実現可否を決めると語った。メトロ公社は入札条件に関する説明会を開催し、建設、銀行、コンサルを含む25社が参加した。当初、入札の締め切りは11月だったが、企業からの要請を受けて、1月13日に変更された。同プロジェクトはサンミゲリート地区を南北に走る移動手段を確立して、メトロ(1号線と2号線)との接続が容易になることで、サンミゲリート地区住民の移動手段向上に寄与するものと考えられている。