パナマ経済(2020年10月報)

令和2年11月13日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
主な出来事
●10月12日、約7ヶ月ぶりに商用の国際航空便が再開。これに伴い、ホテルの営業も再開された。また、10月25日をもって日曜日の外出制限が解除された。これにて、ほぼ全ての規制が解除され市民活動が活性化すると見込まれる。
●2021年の政府予算案24,192百万ドルが国会で可決された。同時に財政責任法の上限値も引上げられた。来年も厳しい財政状況が続く見通し。
●IMFによるパナマの2020年GDP成長率予想はマイナス9%だが、ラテンアメリカの中でもパナマは経済の立ち直りが早い国と位置づけられている。
●2020会計年度のパナマ運河通航実績は、全船種の総通航隻数が13,369隻で前会計年度から416隻減少した。
●10月29日、メトロ3号線事業の契約調印がメトロ公社とHPHジョイントベンチャーコンソーシアム(韓国企業)との間で行われた。
 
 

1.経済全般、見通し等

(1)2021年の政府予算24,192百万ドル
10月28日、2021年の政府予算案が国会で可決された。2021年予算は24,192.4百万ドルで、2020年予算23,322.4百万ドルから3.7%増加した。内訳は16,418.2百万ドルが運営費、7,774.2百万ドルが投資に分配される。
 
(2)銀行ローンのモラトリアムが来年6月30日まで延長
銀行監督庁の発表によれば、10月23日までに、銀行ローン807,385件(24,850百万ドル相当)に対して、パンデミックの影響によるローン条件の見直し(モラトリアム)が実施された。金額の内訳は、企業ローンが11,269百万ドル、個人ローンが13,580百万ドルとなっている。顧客がモラトリアムの適用を受ける場合は、銀行側に支払い能力がないことを明示する必要がある。本モラトリアムは2020年12月31日までの時限措置だったが、10月21日付銀行監督庁の声明にて、2021年6月30日までの延長が確定した。パンデミックの影響により労働契約が一時停止された件数は281,806件にのぼり、そのうち経済の再開に合わせて10月中に81,359件の契約が復活した。
 
(3)財政責任法の財政赤字上限値の引上げ
経済財務省は財政責任法の上限値変更に関する法案を国会に提出し、10月28日、国会で承認された。これにより、財政赤字の名目GDP比率を、2020年は現行上限値の2.75%を大幅に上回り9%~10.5%、2021年は7%~7.5%、2022年は4%、2023年は3%、2024年は2%、2025年は1.5%に変更される。パンデミックによる経済への打撃により、政府歳入のうち税収入が大幅に減少。更に保健衛生品の購入など歳出も大幅に増えており、財政赤字の拡大は避けられない状況だが、パンデミックの影響は数年間続き、パンデミック前の状況に戻るのは2023年以降となる見通し。
 
(4)9月末時点の政府債務残高36,107百万ドル
9月末時点の政府債務残高は、36,107百万ドルに達し、昨年同期比で7,462百万ドル増加した。債務の内訳は、海外向けが28,983百万ドル、国内向けが7,124百万ドル。本年末の債務残高が名目GDPに占める割合は60%に達すると予想されている。2020年1月から9月までに実施した政府債務の返済額は3,067百万ドルで、昨年同期比で376百万ドル増加した。返済額のうち、元本分が1,861百万ドル、利子分が1,205百万ドルだった。
 
(5)国道公社(ENA)が大幅減収
パンデミックの影響で市民の活動が制限されたため、国道公社(ENA)の収入が大きく減少した。高速道路利用台数は、2月935万台だったが、9月578万台まで減った。これに伴い、収入も2月の12.0百万ドルから9月は7.7百万ドルまで落ち込んだ。大幅な減収に伴い、ENAが道路建設時に発行した債権(2011年に395百万ドル、2014年に212百万ドルを発行)の返済計画を見直す必要がでてきた。政府諮問委員会はENAに対して債権者との間で返済条件の見直し交渉を承認した。
 

2.経済指標

(1)運河通航隻数、新車販売台数(1月から8月まで)
会計検査院の発表によると、1月から8月までの運河通航隻数は8,568隻(昨年同期比8.6%減少)、新車販売台数は12,466台(同60.4%減少)であった。10月に入り衛生管理を条件にほぼ全ての業種の営業再開許可が出たが、国内需要はまだ回復途上である。
 
(2)国内新規ローン契約が低調
パンデミック後、国内の新規ローン契約が低調に推移している。パナマ銀行監督庁の発表によると、1月から9月の新規ローン契約金額は10,490百万ドルで、昨年同期比で48.5%減少した。期間別の金額をみると、1月から3月が5,160百万ドル、4月から9月が5,330百万ドルとなっており、パンデミックにより経済活動が停止された影響でローン需要が大きく落ち込んだ。
 
(3)IMF発表のGDP成長率予想マイナス9%
10月にIMFが発表したパナマのGDP成長率予想は、2020年がマイナス9%、2021年がプラス4%だった。同時に、ラテンアメリカ・カリブ地域の2020年GDP成長率予想はマイナス8.1%で、パンデミック前の状況に戻るまでに約3年掛かるとの見通しを発表した。同地域の人口が世界に占める割合は、8%に過ぎないが、新型コロナウィルス感染者数は世界全体の約30%にのぼり、中南米はパンデミックによる経済的な打撃を最も受けている地域のひとつである。アレハンドロ・ウェルナーIMF西半球担当ディレクターはパナマについて、信用格付けが高く近年は財務指標も改善され、国際金融マーケットへのアクセスも良好であり、ラテンアメリカの中でも低リスク国のひとつと考えられると述べている。米国や中国の経済活動が活発になれば、パナマのロジスティックセクターとしての役割からパナマ経済の復活に繋がる。また、銅を含む資源価格が年初から上昇しており、コブレパナマからの銅輸出がパナマに恩恵をあたえるだろう、と述べた。
 
(4)Moody’sが格付け方向性をネガティブに変更
10月20日、Moody’sはパナマの格付けをBaa1(安定)からBaa1(ネガティブ)に変更した。尚、フィッチはBBBのまま2月に、S&PはBBB+のまま4月にそれぞれ方向性をネガティブに変更している。
 

3.通商,自由貿易協定,国際経済関連

(1)国際航空商用便の再開
10月12日、約7ヶ月ぶりに商用の国際航空便が再開され、先ずはコパ、エールフランス、KLMなど20ヶ国、36地点を結ぶ80便が運航を始めた。今後も徐々にパナマ発着の運航便が増える予定。商用便の再開後、20日までの8日間のトクメン空港利用者は、5.4万人(このうち約3.5万人が乗換え利用客)となった。トクメン空港では、入国時に抗原検査を実施しており、結果が陰性であれば、2週間の隔離処置は不要となる。パナマは海外からの観光客が、ホテル、レストラン、その他サービス業の主要な収入源となっており、経済復活の鍵を握っている。中南米向け航空便のハブとして機能するパナマでは、パンデミック前まで39ヶ国、94地点を結ぶ420便が運航されていた。
 

4.パナマ運河,海事関連

(1)2020会計年度パナマ運河通航実績
パナマ運河庁は、2020会計年度(2019年10月1日から2020年9月30日まで)のパナマ運河通航実績を公表した。全船種による総通航隻数は、13,369隻となり、前会計年度から416隻減少した。一方、通航船舶トン数(CP/SUAB)は、475,186,628トンで、前会計年度から5,537,383トン増加した。前会計年度から通航隻数が増加した主な船種の実績は、ばら積み船2,759隻(前会計年度比102隻増加)、ケミカル船2,067隻(同32隻増加)、LPG船1,305隻(同218隻増加)、LNG船419隻(同20隻増加)であった。一方、通航隻数が減少した主な船種の実績は、コンテナ船2,551隻(同24隻減少)、油槽船712隻(同3隻減少)、自動車船672隻(同208隻減少)、クルーズ船223隻(同19隻減少)だった。本会計年度の特徴としては、水不足により乾季の5月にはネオパナマックス船の最大喫水が45フィート(13.72メートル)に制限された。その後、雨期に入り水不足については徐々に解消されたが、水不足を巡って2月にガツン湖の水位に応じて変動する上水サーチャージが導入された。4月以降は、パナマ運河にもパンデミックの影響が鮮明に現れ、それまで1,200隻以上だった月間通航隻数が1,000隻程度まで落ち込んだ(6月が底で890隻)。
 
(2)水管理システムプロジェクトの入札資格審査内容の修正
 11月9日、パナマ運河庁は、パナマ運河の中長期的な運営に加えてパナマ国民半数が日常生活で消費する水資源確保を目的とした「水資源管理システムプロジェクト」の入札資格審査内容の修正を発表した。これは、9月7日の公示以降、関心企業からの250を超える質疑内容を踏まえて修正されたものである。この修正により、本プロジェクトはパナマ運河流域の貯水量を最大化するための仕様に特化させたものにするとともに、本プロジェクトだけでは上記目的を達成することが困難であることから、本プロジェクトを補完するかたちで、調査、設計、建設、実装までを実施する別プロジェクトが発注される見込みである。
 この変更に伴い、申請書の提出期限も当初の11月12日から2021年1月26日に変更された。
 
(3)パンデミック下での船員交替実績
パナマ海事庁の発表によると、政府機関、海運会社、海運代理店協力の下、3月19日から10月28日までに船員11,050人の乗下船・入出国に関するオペレーションを実施した。内訳は、下船7,323名、乗船3,727名。10月12日のトクメン空港の商用便再開は、船員交替の面でも大きな恩恵を与えると期待される。
 

5.インフラ関連

(1)メトロ3号線事業の契約調印
 10月29日、メトロ3号線事業の契約調印がメトロ公社とHPHジョイントベンチャーコンソーシアム(韓国企業)との間で行われた。併せて、HPHジョイントベンチャーコンソーシアムと日立・三菱商事グループとの間で車両製作に係る下請け契約の調印も行われた。同事業は、パナマ都心部と西パナマを結ぶものであり、50万人の国民の利用が見込まれるとともに、建設にあたっては5,000人以上の雇用の創出が期待される。コルティソ大統領は、7月1日の同大統領就任一周年の演説で、同事業をコロナ後のパナマ国内の「経済復興計画」の1つにあげるとともに2021年夏(1月~3月頃)の着工を目指すと発言しており、今後、会計検査院の承認を得て着工する予定である。
 
(2)メトロ3号線事業の環境影響評価
 メトロ公社は、メトロ3号線の事業に係る環境影響評価を公示した。本件の参考価格は約27万ドルであり、申請期限は12月16日とされている。
 
(3)メトロケーブル事業の実現可能性調査
 メトロ公社は、既存のメトロ沿線駅とサンミゲリート地区を結ぶメトロケーブル(ロープウェイ)事業の実現可能性調査を公示した。本件の参考価格は約130万ドルであり、申請期限は11月27日とされている。
 
(4)第四架橋事業の再開延期
 10月28日、アレキサンダー経済財務大臣は、国会予算委員会で、2021年度予算に第四架橋事業の予算を計上しないと述べた。同経済財務大臣は、本事業の適切な再開時期は2021年度ではないと発言したものの、具体的な時期について言及はしなかった。
 
(5)小児病院(Hospital Del Nino)新病棟建設事業の再開
 10月14日、Hospital Del Ninoのガジャルド院長は、2021年1月に新病棟建設の再開を目指して、落札者のアシオナ・コンストラクションと協議を進めていると発言した。当初、本プロジェクトは6億1,400万ドルで行われる予定であったが、コロナウィルスの影響で同国予算が逼迫していることから、コスト縮減を図るため事業範囲を縮減すべく設計の見直しが行われる見込みである。