パナマ経済(2019年9月報)
令和元年10月9日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019
担当:田中書記官
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主な出来事
●来年度の政府予算案が纏まり各省庁との審議がスタートした。予算規模は総額233億ドルで経済財務省が歳入歳出を厳格に見積もりした内容になっているが、省庁の希望額を大きく下回るケースが多く調整が難航している。
●パナマ運河の通航料改訂に関する閣議決定が行われた。原案では15%だった自動車船及びRORO船のネオパナマックス船に対する値上げ率が12%に引き下げられ、コンテナ船以外の通航料改訂の適用開始日を2020年4月に延期すること等の修正がなされた。
●官民パートナーシップ法が承認された。パナマ政府は同法を通じて民間投資によるインフラプロジェクトが促進されることを期待している。
1.経済全般、見通し等
(1)2020年度政府予算案来年度の政府予算案が纏まり、経済財務省と各省庁の意見交換を経て国会承認手続きに入る。予算案総額は233億ドルで、割当ては政府運営121億ドル、投資関連77億ドル、債務返済35億ドルとなっている。過去2年(2018年度238億ドル、2019年度236億ドル)と同水準だが、前政権時代に積み上がった債務の返済、財政赤字の拡大をくい止めるために、新政権は歳出の引き締め、不要不急の投資案件の見直しを行うことを発表しているが、各省庁との意見交換では政府予算案が省庁の希望額を大きく下回るケースが多く調整が難航している。経済財務省は2019年度の財政赤字が23億ドルに達し、財政責任法で定められた上限値(名目GDPの2%)を大きく超えて同4.5%に達すると予想しており、財政の健全化を喫緊の課題として予算編成にも慎重に望む方針を示している。
(2)第二四半期GDPと成長率
会計検査院発表の第二四半期の実質GDPは105億ドルで、前年比成長率は+2.9%となった。第一四半期は同106億ドル、成長率は+3.1%だったのでほぼ横ばいだが、本年度の成長率を5%前後とみていたIMFやCEPALなどの国際機関の予想を下回る水準が続いている。GDPが伸びない要因の一つとして米中貿易戦争の影響を受けてコロンフリーゾーンでの取扱い減少が減少していることが挙げられる(取扱い高は前年比▲14%)。GDPは財政責任法が定める財政赤字(名目GDPの2%まで)、公的債務残高(同40%まで)の上限値とも関わってくるため成長率の鈍化は財政の健全化にも影響を及ぼす。
(3)カジノ税の一部緩和
パナマでは2015年に年金の財源確保を目的にカジノを含む賭博に関する税金(カジノ税)が導入された。税率は売上げの5.5%だが、税導入後、観光業が停滞期に入りカジノの利用客が減少した。賭博管理委員会によれば、カジノの売り上げは税導入前の2014年4.3億ドルから、2018年は3.9億ドルに減少した。更に2019年は3.7億ドルになると予想されている。また雇用面では2014年と比較してカジノ関連の仕事で約4、000人が失業した。そこで本国会においてカジノ税の対象のうち一部を緩和、具体的にはテーブル系ギャンブル(トランプやルーレットなど)の売り上げを税対象外とする法案が提出され可決される見込み。カジノ業界では観光客の利用増を狙っており、税の除外対象をテーブル外のギャンブル(スロットマシーンなど)にも拡大するよう求めている。
2.経済指標
(1)8月の消費者物価指数会計検査院発表による8月の消費者物価指数CPIは前月比▲0.3%、前年同月比▲0.6%となった。前年同月から減った主な項目は、運送▲3.5%、通信▲1.6%、家庭用品▲1.2%、アパレル▲1.1%、娯楽▲0.7%、光熱費▲0.4%だった。一方、上がった項目は、医療+1.0%、外食+1.2%、教育+0.8%、食料飲料+0.6%、酒類+0.4%だった。
(2)1-7月の保険料の収支
パナマ保険協会APADEAが2019年1-7月の保険収支を発表した。保険料収入は9.1億ドルと前年比+5.4%となった。保険項目のうち住宅が+17.6%、事故が+8%、医療が+4.7%、、自動車が1.7%、運送が+0.6%とそれぞれ収入が前年比で増加した。一方、保険料支払いは4.2億ドルでこちらも前年比で+1.7%となった。保険関連のビジネスはGDPの2.4%を占めて約1万人の雇用を創出している。
(3)7月のトクメン国際空港利用者
会計検査院の発表によると7月のトクメン国際空港の利用者は241、965人で前年229、298人に対して+5.5%となった。地域別利用者は中米73,945人、南米70,263人、北米45,728となっている。現在、北米や欧州の航空会社とタイアップを行いパナマへの観光客誘致を積極的に行っている。また、トクメン国際空港を乗り継ぎのみで利用している客をターゲットに、乗り継ぎの合間にパナマで短期滞在してもらう試みとして,航空券の直前でのスケジュール変更を手数料なしで行うキャンペーンを11月から開始する。
3.通商、自由貿易協定、国際経済関連
(1)FTA交渉現在、2018年5月に政府間で合意されたパナマ・イスラエルのFTA発効に向けて国会審議中。一方、中国とのFTA交渉については進展がない(2国間協議第6ラウンドの開催は未定)。貿易産業省副大臣からコルティソ政権下では現在交渉中の国を除き、新たなFTAは締結しないという発言あり。これまでにパナマは14の国・地域との間でFTAを発効しているが、現政権ではFTAによる輸出拡大や貿易収支の均衡は期待できないと考えている模様。実際にFTAを締結している米国やコスタリカとの間で、パナマからの輸出品目のうち大部分が検査項目を満たしていないという理由で輸出許可が下りていない状況にあり、斯様な状況を打破するために、農牧開発省では検査項目の通過拡大に向けて15万ドルの予算を使い、来年1月を目処に米国向け輸出品目の増加に向けて取組を開始した。中米カリブ海輸出協会の発表による中米の今年上半期の輸出金額は,コスタリカ77億ドル、グアテマラ66億ドル、ホンジュラス45億ドル、エルサルバドル41億ドル、ニカラグア35億ドル、パナマ5億ドルとなっている。
(2)コロンビアとの銀行口座情報等の自動的情報交換
コロンビア国税官事務所DIANは、来年3月を目処にパナマとコロンビアの間で銀行口座の個人情報等に関する自動的情報交換を開始する方向で両国が調整していると発表した。現在、パナマは日米欧とは自動的情報交換を実施している。原則としてOECDの基準に沿って全ての銀行口座情報の交換が可能だが、コロンビアとの情報交換においては一定の条件が設けられる可能性がある。コロンビア政府は自国民の国外資産、国外収入を明らかにして税金の徴収に繋げたい背景がある。一方、パナマはコロンフリーゾーンからコロンビアへ再輸出する際の関税を引き下げたいと考えており、今後交渉を通じて両者の思惑が駆け引きされると予想される。
4.パナマ運河
(1)通航料改訂に係る閣議決定3日、通航料改訂に係る閣議決定がなされた。これは、コンテナ船に対する優遇措置の強化、客船に対する通航料の計算方法の変更及びその他船舶に対する値上げを2020年1月より適用すべく、パナマ運河庁が6月14日に公表した改定案に係るものである。同閣議決定においては、同公表以降に行われたパブコメ及び公聴会にて提出された利用者からの意見が考慮され、客船に対する通航料の計算方法は従来のものが維持されること、自動車船及びRORO船のうち、改訂案にて15%とされたネオパナマックス船に対する値上げ率を12%に引き下げること及びコンテナ船以外の通航料改訂の適用開始日を2020年4月に延期すること等の修正がなされた。
(2)パナマ運河庁2020会計年度予算の成立
27日、国会にて2020会計年度におけるパナマ運河庁予算が承認された。同会計年度に適用開始される通航料改訂の影響もあり、通航料収入が前年度比7.8%増の27.2億ドルとなり、収入全体も同5.7%増の34.4億ドルが見込まれた。一方で、支出の大部分を占める職員給与及び労働者賃金は同4.8%減の7.3億ドルとなり、国庫納付額(収入全体から必要経費及び予備費を除いた額)は同5.0%増の18.2億ドルが見込まれた。
(3)新パナマ運河庁長官の就任
5日、リカウルテ・バスケス氏が新たに運河庁長官に就任した。同長官は、パナマ運河の競争力を高め、運河の運用に必要な貯水能力を確実なものとし、米中間の貿易問題の影響を最小限に抑えることで、パナマ運河拡張プロジェクトの際の融資を確実に償却していく旨発言した。
(4)パナマ運河庁による修繕ドックの整備の検討
バスケス・パナマ運河庁長官は、パナマ運河を通航する船舶に対し、船舶の修繕及びメンテナンスに係るサービスを提供するため、チリキ県プンタ・ブリカにてネオパナマックス船に対応可能な修繕ドックの整備に係るフィージビリティ・スタディを行う可能性について言及した。なお、太平洋側に唯一のパナマックス船対応の修繕ドックがあるが、現在は施設の劣化による影響で十分に機能していない状況にある。
5.インフラ関連
(1)官民パートナーシップ法の成立11日、国会にて官民パートナーシップ法が承認された。パナマ政府は同法を通じて民間投資によるインフラプロジェクトが促進されることを期待しており、ロハス大統領府投資促進担当大臣顧問は、同法を通じて実施される可能性がある15のプロジェクトリストがある旨発言し、公共交通、送電、物流等の分野を示唆した。
(2)公共調達法改正案に係る国会審議
18日、公共調達法改正案が国会に提出された。本改正案の目的の1つは、汚職やマネーロンダリング等に関与したとして有罪判決を受けた企業が、公共調達等に参加及び政府との契約をできないようにすることである。
(3)メトロ2号線延伸(第三フェーズ)事業
メトロ公社は、アンデス開発公社の無償資金協力によりメトロ2号線延伸(第三フェーズ)事業に係る調査を実施中である。同フェーズは、サン・ミゲリート駅からパイティージャ地区までの延長9.5~9.8kmの延長を有する見込みである。なお、ロイ同公社総裁は、本調査は予備的検討であり、未だ事業が開始したわけではない旨述べた。
6.経済指標は別添資料参照
- 主要経済指標(2019年9月)(Excel)
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