パナマ経済(2019年8月報)

令和元年9月6日
在パナマ日本国大使館
担当:田中書記官
TEL:507-263-6155
FAX:507-263-6019

主な出来事
●パナマの最新の経済、財政状況に関して、歳入減少に伴う財政収支の悪化、公的債務残高の増加、失業率など経済指標が軒並み悪化している。政府は喫緊の課題として大規模な歳出削減目標を掲げ、各省庁と連携して実行に向けた協議を開始。
●コブレパナマ銅山で産出された銅の船積みが開始された。埋蔵量は34年分で最盛期には年間35万トンの銅輸出が見込まれている。新たな雇用創出とGDPの押し上げが期待される。
●パナマ運河は米中貿易戦争によるマイナス影響(コンテナ、バルク貨物の通航量減)を、運河拡張による米国から極東へのLNG輸送、ネオパナマックス船の通航数の増加により相殺している。
 
 

1.経済全般、見通し等

(1)コブレパナマ銅山からの銅輸出開始
コロン県ドノソ地区のコブレパナマ銅山(ミネラパナマ社)で採掘された銅がプンタ・リンコン港に運ばれ輸出が開始された。6月の産出量は6,542トン。本プロジェクトは、総額67億ドル、契約期間20年(埋蔵量は推定34年分)、雇用創出4,200人、2022年時には年間35万トンの銅輸出を見込んでいる。採掘工程を早めるために新たに人件費40万ドルが追加投資される。コンセッションの条件としてコブレパナマ銅山の売上げの2%が政府歳入となる。
 
(2)農家への未払い金の支払い
 新政権は財政健全化のために歳出削減に取り組む一方で、前政権で未払いだった農業、社会保険、教育のうち、先ずは農業分野へ39百万ドルの支払いを実施した。受給対象者は12,000人。財源は第四架橋建設予算の一部を振り替えて確保した。新政権は農家を含む1次産業、教育分野への支援を重点的に行っている。
 
(3)最低賃金の改定交渉開始
 2年毎に改定される最低賃金(2020年1月から適用)の交渉が始まった。サパタ労働開発大臣が調整役となり民間企業代表と労働組合の合意を経て決定する。但し年内に労使決着できない場合は大統領に決定権が移る(2年前の交渉では労使決着ならず大統領が決定した経緯あり)。現在、最低賃金水準(月給721ドル)で働く労働者は34万人。パナマの最低賃金は近隣国と比べて高水準だが(コスタリカは$512ドル)、賃金上昇により社会保険料の企業負担も増加するため人員のリストラに繋がるリスクもある。
 
(4)不動産売買の活性化に向けた取り組み
政府は不動産売買の活性化に向け、不動産購入にあたりリースオプション許可の検討を始めた(毎月一定額を支払い、時期が来たら購入か退去かを決められるというもの)。リースオプション導入により様々な価格帯で新たに1,500戸の住宅が売買対象となる。また政府は住宅ローン利子優遇の対象を現在の12万ドルから18万ドルの物件まで引き上げることを検討中。一方で、本優遇措置で本来政府が負担しなければならい約3億ドルが前政権からのツケで未払いになっている。足下2019年4-6月の利息は5.75%。パナマ市内の空き物件の総戸数は15,017戸。不動産価格は2014年から下落が続いている。
 

2.経済指標

(1)2019年上期財政収支
経済財務省が2019年上期(1月~6月)の財政収支を発表。昨年、建設業界で行われたストライキの影響により税収が減少した一方で、インフラ支出や政府機関の人件費が大幅に増加。このまま対策を講じない場合は、2019年通期の財政収支が▲3,225百万ドル、名目GDPに占める割合が3.8%となる見通し。これは財政責任法の上限2.0%を大きく超える水準。現在、政府は78の公共団体に歳出削減を要請しており、公共事業省3.4億ドル、社会保険庁2.7億ドル、保険省1.2億ドルの削減目標を掲げている。
 
2019年上期の財政収支(単位は百万ドル)
収入計 5,329 前年比▲7.0%
支出計 7,646 前年比+11.0%
経常支出 5,344 前年比+8.4%
資本支出 2,301 前年比+17.7%
収支 ▲2,317 前年比▲101.1%
 
(2)公的債務残高
経済財務省発表による2019年7月末時点の公的債務残高は286億ドル。昨年比で42億ドルの増加。7月に発効した長期国債20億ドルの一部は、来年1月に満期を迎える国債(11.5億ドル)の返済に充てられる。コルティソ政権期間中に返済期限を迎える債務は計109億ドル(全債務残高の38%)。
 
(3)2019年上半期の新車販売台数
2019年上半期の新車販売台数は23,520台(前年比▲7.8%)。景気の冷え込みによる需要減、銀行のローン審査の厳格化などが販売台数に影響していると考えられる。2019年通期の販売台数は4.8万台から5万台と見込まれており、2016年(66,700台)をピークに3年連続の前年割れとなる可能性が高い。
 

3.通商、自由貿易協定、国際経済関連

(1)海外からの直接投資ランキング(中南米)
CEPAL(国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)発表の2018年の海外からの直接投資額でパナマは中南米で5位となった。主な投資案件は、ミネラパナマ社によるコブレパナマ銅山開発、DSV社によるロジスティック関連事業への投資、Millicom International Cellular社によるパナマの通信事業会社Cable Onda社の株式取得など。2018年に直接投資を受けた上位国と金額は以下。
1位ブラジル($883億ドル)、2位メキシコ($368億ドル)、3位アルゼンチン($118億ドル)、4位コロンビア($113億ドル)、5位パナマ($65億ドル)、6位ペルー($64億ドル)、7位チリ($60億ドル)。
 
(2)パナマ/コロンビア関税問題
8月6日付けでコロンビアは新法令に基づきコロンフリーゾーンからコロンビアへ再輸出される場合の関税引き上げを発表(衣料品・靴はFOB価格が20ドル以下の場合、税率が15%から37.9%へ引き上げられる。また20ドル以上のものは同10%とキロあたり3ドルが課税される)。法令は90日間の猶予期間を経て実施される。コロンビアの目的は自国産業保護だが、パナマはコロンからの再輸出が減ることを懸念している。その後、パナマのフェレル外務大臣とコロンビアのトルヒージョ外務大臣がボゴタでの会談にて本件を取り上げた他、今後も2国間で協議を継続する。
 
(3)パナマ/コスタリカ税関コントロールセンター
米州開発銀行が75百万ドルのローン融資を行い、パナマとコスタリカの国境に跨がる地域パソカノアスに税関コントロールセンターを設立する。今後、入札業者の選定に入る。パナマ税関庁は同地域での通関作業の簡略化などを通じて新たな投資を呼び込む狙い。2021年末を目指して通関ルールなどの環境整備を行う。
 

4.パナマ運河

(1)パナマ運河の利用状況(1~6月)
 会計検査院の統計によると、本年1~6月の半年間におけるパナマ運河の通航隻数は7,123隻で、前年同期比5.9%増となった。なお、通航料収入は、パナマックス船の通航分が前年同期比4.8%減となる一方で、ネオパナマックス船の通航分は13.5%増となった。
 
(2)新たな水源整備計画
 キハーノ運河庁長官は、新たな水源整備のための一案となっているインディオ川(ガトゥン湖より西に約8kmに位置)におけるダム建設計画の対象地域を既に特定している旨、発言した。また、パナマ政府が遅くとも来年1月にはプロジェクトの実施可否を決定する必要がある旨述べた。
 

5.インフラ関連

(1)パナマ運河第三架橋の完成
 2日、パナマ運河第三架橋の完成式典がコルティソ大統領出席の下で開催され、車両通行が開始した。本橋梁は、パナマ運河庁が5.9億ドルの事業費及び約6年の建設期間をもって建設したものであり、周辺14地区約4万人への裨益が見込まれる。
 
(2)官民パートナーシップ(APP)法案に係る国会審議
 官民パートナーシップ(APP)法案は、国会第一読解において承認され第二読解に送付されたが、27日、全国労働者評議会(CONATO)が翌日の国会議事堂前での同法案に対する抗議活動を一般に呼びかけたため、国会経済財政委員会は、より多くのコンセンサスを得るための関係者間会議の開催が必要であると判断し、第二読解での審議は中断された。CONATOは、同法案は公共プロジェクトの民営化に繋がり、投資家に利益をもたらすのみであるとして反対している。
 
(3)パナマ湾海岸再生プロジェクト
 パナマ市は、パナマ湾海岸再生プロジェクトを推進するため、パナマ市及びパナマ湾浄化プログラムの代表者、ヨットクラブ、フィッシングクラブ及びミラマール・ホテルら関係者と各種会議を開催した。パナマ市は、湾の海底汚泥の浄化を進めるとともに、沖合12~15kmの位置から砂を吸い上げて浜辺に埋め立てる計画を有している。今後、本プロジェクトに係る環境影響評価業務の入札が予定されており、ファブレガ・パナマ市長は、2020年にプロジェクトが完了する予定である旨述べた。
 
(4)シンタ・コステラとアマドール地区を結ぶ海上道路計画
 6日、コルティソ大統領は、シンタ・コステラ第三区間とアマドール地区を結ぶ道路建設プロジェクトが10月に入札公示される旨述べた。本道路は、延長約1kmの海上高架橋が想定され、アマドール地区の観光開発にとって重要視されている。
 
(5)コレドール・ノルテ及びコレドール・スルの接続計画
 高速道路公社(ENA)は、コレドール・ノルテ及びコレドール・スルの接続性を向上させるため、現在、同接続のためにVilla Lucre地区及びBrisas del Golf地区周辺の道路について分析しており、今年末乃至は来年はじめに両コレドールの接続計画を同公社理事会に提示する旨報告した。
 

6.経済指標は別添資料参照