
Ⅲ 運河拡張計画
1. 背景 パナマ運河庁では、増加し続けている運河の船舶通航量に対応するために、1996年より運河近代化計画に着手した。同計画は、クレブラ・カットの拡幅や閘門の照明設備の改善などで構成され、2009年までに完了する予定で、この結果、年間約3.3億トンの船舶が通航可能になると見込まれている(2006年度の通航船舶の船舶トン数実績は2.96億トン)。 しかしながら、同庁では、世界の海上貿易量の堅調な伸び、特にアジア発米国東岸向け貨物の伸びを背景に、運河の通航需要が、今後20年間、年率3%で伸び続けると予測し、運河近代化計画の実施にもかかわらず、早ければ2010年頃には、運河の通航需要が通航容量を超えてしまうと結論している。また、運河通航量で顕著な伸びを示しているコンテナ船は、船型の大型化が著しく、すでに世界の主要航路では、現在のパナマ運河を通航できないポストパナマックス船が主力として投入されている状況にある。 このため、同庁では、運河の通航需要増とコンテナ船の大型化に対応するために、現在2レーンある閘門よりも大きい閘門(「第3閘門」と呼ばれる。)の建設による運河拡張計画を決定し、2006年4月24日に正式に公表した。この拡張計画は、実施条件、国民投票日等を規定した法案が同年6月26日に閣議承認され、同年7月14日に国会承認された。同年10月22日に実施された国民投票(投票率:43.32%)でも77.81%の圧倒的多数の賛成により承認され、正式に実施されることになった。2014年の完工、供与開始に向けて、2007年9月には起工式が開催されている。 なお、本計画が実現した場合、年間で最大約6.0億トンの船舶が通航可能になる。
運河拡張計画は、①大西洋側と太平洋側に1つずつ第3閘門を建設する、②消費水量を節約するために再利用水槽を建設する、③第3閘門利用のために必要な航路を掘削・浚渫する、及び④貯水量を増量するためにガツン湖の最高水位を嵩上げし、かつガツン湖の航路を増深する、で構成され、総事業費52.5億ドル、工期は2007年から2014年が見込まれている。 同拡張計画の事業費は、運河の通航料金収入で賄われる計画で、パナマ運河庁では、一例として、2007年から20年間、年平均3.5%の通航料金値上げを実施する案(20年後の通航料金は現行料金の約2倍になる。)を示している。通航料金の値上げ幅及び期間等については、国民投票後に、運河利用者に対する公聴会を開催した上で決定される見通しである。
(1)事業費 総事業費は52.5億ドルで、内訳は、①第3閘門の建設27.3億ドル、②再利用水槽の建設6.2億ドル、③第3閘門と既存航路を接続する航路の建設8.2億ドル、④既存航路のポストパナマックス船対応のための拡幅・増深2.9億ドル、⑤貯水量アップのためのガツン湖の最高水位嵩上げ及び航路増深2.6億ドル、⑥工事期間中のインフレ考慮額(年率2%)5.3億ドルである。 なお、①と②は、デザイン&ビルド方式の1件発注(事業費規模で33.5億ドル)で、予備審査が2007年8月27日に公募され、4つの企業体が応募、同年12月には全グループが通過して、プロポーザル型の本入札に進んだ。このうち3つの企業体が2009年3月3日にプロポーザルを提出した(1つの企業体は提出せず辞退)。2009年7月15日にスペインのSacyr社を中心とするコンソーシアム(G.U.P.C)が、31.9億ドルで落札し、8月18日に同コンソーシアムに対し施工命令が公布された。
工期は2007年から2014年。現在の運河は、工事期間中も利用可能であり、第3閘門開通後も利用され続ける。
(3)資金調達 事業費は、運河の通航料金収入と23億ドルの外部資金により賄われる計画で、2008年12月には、JBIC(8億ドル)、欧州投資銀行(5億ドル)、米州開発銀行(4億ドル)、国際金融公社(3億ドル)及びアンデス開発公社(3億ドル)との間で融資契約が結ばれている。
(4)プロジェクトの概要 ①第3閘門 3段リフト式の閘門で、各閘室のサイズは、長さ427m(1,400ft)、幅55m(180ft)、水深18.3m(60ft)である。閘門のゲートは、現在の閘門で使用されているマイター・ゲートではなく、引き戸式のローリング・ゲートが採用される。また、第3閘門では、閘室内を通過する船舶が閘室壁面に衝突するのを防ぐために、現在の閘門で使用されている牽引機関車に代わり、タグボートが使用される。 通航可能な最大船舶の例として、コンテナ船の場合、12,000TEU積(長さ366m(1,200ft)、幅49m(160ft)、喫水15.2m(50ft))、他の船舶の場合、17万D/Wトン(長さ270m~280m、幅40m~45m)が示されている。
②再利用水槽 再利用水槽は、第3閘門に平行に設置される。この水槽により、消費水量の60%が再利用されるため、現閘門の消費水量より7%少ない水量で閘門の開閉が可能になる。再利用水槽は、各閘室ごとに3槽、従って各閘門に9槽設置され、各水槽のサイズは、長さ430m、幅約70m、深さ5.5mである。
③航路 (ⅰ)第3閘門と現在の航路を接続する航路 幅218m(715ft)の航路(ポストマナマックス船用の航路としては単線になる。)を、次の位置に建設する。 太平洋側:第3閘門の北側にミラフローレス湖を避けてクレブラ・カット入り口に接続する航路(延長6.2km)を建設し、南側に太平洋側の運河進入航路に接続する航路(1.8km)を建設する。 大西洋側:第3閘門の北側に大西洋側の運河進入航路に接続する航路(3.2km)を建設する。 (ⅱ)ガツン湖航路とクレブラ・カット航路の拡幅・増深 ガツン湖航路とクレブラ・カット航路を共に1.2m(4ft)増深し、喫水15.2m(50ft)の船舶に対応可能な航路にする。また、ガツン湖航路の航路幅を、直線部で280m(920ft)、曲線部で366m(1,200ft)まで拡幅する。 (ⅲ)外洋から運河への進入航路 太平洋側、大西洋側ともに、外洋から運河へ進入する航路を、航路幅225m(740ft)、水深15.5m(51ft)(干潮面から)まで拡幅・増深する。
④ガツン湖の水位引き上げ ガツン湖の水位(運河運営上の最高水位)を、現在の26.7m(87.5ft)PLDから27.1m(89ft)PLDまで0.45m(1.5ft)引き上げる(PLD:基準海洋面からの高さ)。 ガツン湖の水位の引き上げにより、運河運営に使用可能な水量が1日当たり6億2500万リットル増えるので、閘門の開閉は、年間約1,100回追加できる(1日当たり約3回の追加)。
(参考)
(イ) 運河の運航需要は、2020年に運河の通航容量を超えると予想された。 (ロ) 通航需要の増大に対応するため、21世紀初頭には運河の新しい施設の建設について検討が必要となるが、同調査時点での評価としては、15万トン級の船舶を対象とした運河の拡幅と、閘門2レーンに加え、15万トン級の船舶が通航可能な第3の閘門1レーンの追加を内容とする、運河改良案が最も実効性が高いと結論し、同案に絞って、一層の調査が行われるべきであることが勧告された。 (ハ) 他方、海面レベルで太平洋と大西洋を繋ぐ海面式運河については、同調査の需要予測や費用調査の結果、経済的及び財務的に実行可能でないことが明らかにされた。
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